連載と同時進行で書いていたため、元ストーリーと繋がらない勝手なパラレル多め。
星矢とのクロスオーバーが混じったりもしますので、苦手な方はご注意下さい。
36.人造ダイヤ / 37.どちらが強い? / 38.目で見える世界 / 39.めだまやき / 40.横断歩道
◆人造ダイヤ…空中元素固定能力を発揮する兄
眉間にしわを寄せ、小宇宙の調整に集中していたアスプロスは、実験の成功に目を細めて力を抜いた。
それとともに人為的に作られた高圧空間が消え、あとには小さな光る粒が残る。
人工ダイヤモンドだ。
粒子や空間を操り、元素を固定することの出来るアスプロスにとって、人造宝石の作成はそれほど難しいことではない。この時代、まだ知られていなかった人工ダイヤモンドの作成方法も、聖域内では理論的に解明されている。とくに作成が禁止されていなかったのは、実行するのに黄金聖闘士レベルの能力と教皇レベルの知識が必要なためで、実現可能な者がいるなどとは考えられてもいなかったからだ。
アスプロスのこの行為がバレたなら、聖闘士の力を悪用したとして、ただちに粛清が掛かるだろうが、かつて教皇を殺害しようとした身からすると今更そのような罰則など怖くはないし、バレるようなヘマをするつもりもない。
アスプロスはその粒を拾い上げた。
光に反射して七色の煌きをみせるそれは、天然石と比べても遜色はなかった。あとはこれを加工して遠方で売りつければ、数年は生活費に不自由しないはずだ。
さっそく出かけようとして、ふとデフテロスの顔が脳裏に浮かぶ。
(怒るだろうか。あいつは真面目だからな)
大金を入手できたとして、それをデフテロスに隠さねばならないのでは意味がない。二人で生活していくための費用にする目的なのだから。
昔のアスプロスであれば『知ったことか』と捨て置いただろうが、今のアスプロスにデフテロスの意思を無碍にすることは出来ない。常日頃、表面上はデフテロスへも俺様な態度を崩さない彼ではあるが、デフテロスを悲しませるのは避けたかった。
暫し悩んだアスプロスは、結局出かけることはせず、小屋へ戻ると寝台へごろりと転がった。
その夜、デフテロスが戻ってくると、テーブルの上には小さな宝石が転がり、こちらに背を向けて不貞寝をしているアスプロスが見えた。
「どうしたのだ?」
声をかけると、背中越しにアスプロスの返事が返る。
「試しに作ってみた。お前にやろう」
宝石を作ったところで、それで儲けるわけでなければ罪とはならない。
兄の背中から何とはなしに状況を読み取ったデフテロスは、真っ直ぐに兄の横たわる寝台へと向かい、縁へ腰を下ろした。
「こういうのは兄さんのほうが似合うと思うが…ありがとう」
高価な贈り物よりも、おそらく自分を尊重してくれたのであろう気持ちが嬉しくて、デフテロスはそっと兄の頭を抱きしめた。
2011/5/15
◆どちらが強い?…LC双子+レグルス
「デフテロスとアスプロスってどっちが強いんだ?」
獅子座のレグルスが、くるくる瞳を輝かせながらアスプロスに尋ねた。双子座の過去の経緯を知るものならば、空気を読んで絶対にしないであろう質問だが、そこはエアブレイカーなレグルスである。
ただ、全く悪意のないことは判っているので、アスプロスはレグルス相手には細かいことを気にしない。それどころか、どこか人を超えてしまった力を持つ天才同士、馬は合うのであった。
「俺の方が強いが…あれは常に俺に勝つ」
「そうなの?じゃあ凄い強いんじゃないか」
「ああ、最強の星を持つこの俺を殺せるくらいにはな」
二人の会話を隣で聞いているデフテロスの心臓が、キリキリ痛んでいたのは言うまでもない。
2010/5/13
アスぷ的には褒めてるつもりなのです。◆目で見える世界…アスプロス+レグルス
「なるほど、たいしたものだ」
アスプロスは素直に感嘆した。
まだ少年のレグルスが、自分の動きを視線で追っていたかと思うと、すぐさまトレースしてみせたからだ。
ふるって見せたのは、光速拳を使った衝撃波で地面を削るという一種の陽動技だが、いくら黄金聖闘士であるとはいえ、簡単に出来るものではない。
(血筋か?)
レグルスは前獅子座イリアスの遺児だという。射手座のシジフォスは、そのイリアスの弟である。これだけ揃うと、努力を超えた才能というものがあると言うほかない。
「目を凝らすと、相手の動きが掴めるんだ」
褒められたレグルスが、嬉しそうに笑う。
「でも、シジフォスは目に頼るなって。アスミタみたいになれってことかな」
無邪気に首を傾げている様子は、何も知らぬ者が見れば、ただの子供にしか見えないだろう。
アスプロスは微笑んだ。判りやすい相手は好きだ。レグルスの視線は一挙足動を全て仔細に捉えるが、捉えるのは動作だけのこと。こちらの内面を読まれることはないし、逆にレグルスの心情は隠されていない。
「レグルス。闘士を相手にするのならば、物理的な動きだけではなく、小宇宙も読まなければ」
珍しく示唆したのは、レグルスを気に入ったからである。
「小宇宙だって見える」
「そうか?では、これはどうだ」
アスプロスがレグルスに向かって腕を一閃すると、レグルスの周囲の空間がゆがんだ。見える景色は捻じ曲がり、平衡感覚は失われる。
「お前の周囲の光を曲げた。目に入ってくる情報が正しくないとなったら、どうする?」
突然の異変に驚いているレグルスは、それでも目を凝らした。
「ゆがみなら追える。どう歪んでいるかわかれば、歪ませている力の元を辿れば…こうして!」
ねじれた空間の隙間から、空間に干渉しているアスプロスの小宇宙を正確に読み取り、驚いたことにその小宇宙を遡って、直接アスプロスに攻撃をしかけてきた。
むろん、まだそれは先輩のアスプロスに届くものではなく、易々と左拳で押さえ込むことが出来る。だが、レグルスが肉眼を超えた力をも解析できることは明白であった。
「…やるな」
アスプロスが他人を褒めることなど滅多にない。それだけ、アスプロスの基準は高いのだ。
けれども、レグルスはむーと頬を膨らませている。
「そんなこといって、余裕で受け止めたくせに」
空間のゆがみが消え、周囲にいつもどおりの景色が浮かぶと、アスプロスは子獅子へと近づいてその頭をくしゃくしゃと片手でかき回した。
「ふふ、まだお前は成長過程にある。技の威力に身体が追いつけば、俺といい勝負になろう」
「絶対追い越すからな!」
元気一杯の獅子座の守護者は、アスプロスからみれば、まだまだ幼い。
(目で見たものを、全て捉える、か)
ふいに、デフテロスの強烈な視線を思い出して、アスプロスは無意識に身を震わせる。あの視線は、レグルスとは違う。だが、何が違うのだろう?
目を凝らしても読めぬ心があることを、その時のレグルスとアスプロスはまだ気づくことはなかった。
2011/6/16
◆めだまやき…双子同居シリーズ
デフテロスがフライパンをじっと見つめている。
調理しているのは目玉焼きだ。
ちなみに、今までは村まで卵を買いに降りていたのだが(それも、農家の鶏小屋の卵を貰って、お金をこっそりその場へ置いてくるというようなやり方だ)、アスプロスが鶏を何羽か調達してきたので、手軽に卵の入手が可能となったのだ。
修行に専念していた聖戦までの2年間は、ほかの事に気を回す余裕など無く、いつ死ぬかわからぬ身であることも相まって、家畜を買うことなど考え付きもしなかった。しかし、兄と二人で生活を始めた今ならば、なるほどアスプロスの言うとおり、もう少し利便性を考えたほうが良さそうだと思う。
アスプロスが買ってきた鶏の卵でつくる、最初の目玉焼きがこのフライパンの中の卵というわけだ。
それだけならば、いつものように焼けばいいだけなのだが、デフテロスはこの卵に自分の気持ちを込めようと考えた。
(俺は口下手だ。ならば、わかりやすく目に見える形に例えれば良い)
そんなわけで、デフテロスは念動力と小宇宙を駆使し、黄身の部分をハート型に整えた目玉焼きを作成しているのだった。白身より凝固温度の低い黄身を、火力調節機能などない昔ながらの直火で調理しつつ、圧力で黄身が破けてしまわぬよう気を配りながら焼くのはなかなか大変なのだが、デフテロスの料理の腕前がそれをカバーした。
さっそく出来上がった黄身部分がハート型の目玉焼きを兄の前に出すと、兄はデフテロスの顔と目玉焼きを交互に見てなにやら考え込んでいる。
デフテロスが内心ドキドキしながら反応を待っていると、アスプロスがフッと笑って立ち上がった。
「俺にも卵を1つ寄越せ」
真新しい卵を手渡されたアスプロスは、同じようにフライパンを手にした。
そして小宇宙を燃やし始める。
デフテロスのように料理の腕がないアスプロスは、次元操作によって熱を異次元へと逃すという無駄な高技術をつかい、焦がさず目玉焼きを作って見せた。
出来上がった目玉焼きを覗き込んでみれば、黄身部分が星型になっている。
「デフテロスよ、面白い挑戦だがまだまだだな」
思考回路が斜め上に行きがちなアスプロスは、今回も独自解釈で、その目玉焼きを自分への挑戦と受け止めたらしい。
「…味は俺のもののほうが上だと思う」
思わずぼそりと零しされたデフテロスの返事に、アスプロスが詰まる。
食べる者のことを考えて作られた、デフテロスの目玉焼きの方が美味しいことは、食べる前からアスプロスにも予測できたからだ。
「ならば引き分けか」
アスプロスはそう言ってテーブルに戻り、ハート型の目玉焼きをむしゃむしゃ食べ始めている。
デフテロスもテーブルに座り、兄の作った目玉焼きを味わって食べ始めた。
2011/7/17
◆横断歩道…パラレル
思いのほか長かった赤信号が青へと変わり、デフテロスは横断歩道に足を踏み出した。
車がこなくても、赤信号のときに道路を渡ったりしない。
彼は破天荒な男であったが、規律を守る男でもあった。
のしのしと、しかし荒い動作に反して音なく密やかに歩いていく。
後ろから付いてきたアスミタが尋ねた。
「黒い部分だけ選んで歩いているのは、そういう遊びなのかね」
デフテロスは立ち止まって足元を見る。どうやら同僚によって、初めて自分の癖に気づいたらしい。
「…なんとなく、白いラインは踏みにくい」
「ほお」
アスミタはそれ以上何を言うでもなく、デフテロスは再び前を向いて歩き始めた。
2011/9/7