HOME - TEXT - CP&EVENT - 約束の彼方31〜35

◆約束の彼方
※ ロストキャンバスでの前聖戦双子関連SSよせ鍋。設定はバラバラです。
  連載と同時進行で書いていたため、元ストーリーと繋がらない勝手なパラレル多め。
  星矢とのクロスオーバーが混じったりもしますので、苦手な方はご注意下さい。
31.ブレーキ=弟必須の兄 / 32.相思相(兄弟)愛 / 33.代価 / 34.変換 / 35.節分
◆ブレーキ=弟必須の兄…LC&無印双子同居設定

 仕事から帰ったカノンは、リビングでノートパソコンのキーボードを軽やかに打っているアスプロスを見て目を瞠った。
 アスプロスとデフテロスは、時空のねじれによって過去から現代へ飛ばされてきた前聖戦の双子座聖闘士で、数日前に突如現れて以降、双児宮預かりとなっている。18世紀のヨーロッパと現代の生活水準にはかなりの差があるものの、聖域内で生活する分には大差ないだろうということで、彼らには基本的な生活規則や諸施設の場所などしか説明をしていない。細かいことは日を置いて、現代に多少慣れてから案内をするつもりだったのだ。それがいきなり最先端機器を使いこなしていようとは。
 アスプロスが顔を上げ、あっけにとられているカノンを見た。
「何を突っ立っている?」
 我に返ったカノンは慌てて帰参の挨拶をして、アスプロスへ問うた。
「そ…その機械はどうしたのだ」
 パーソナルコンピュータという名称を使わなかったのは、その単語がアスプロスに理解できぬかもしれぬという気遣いからなのだが、アスプロスは鼻で笑った。
「便利そうだったので、購入してきた」
「金は?」
「カードだ。支度金代わりに聖域名義のものを渡されている。現代に籍がなくともこの形式ならば現金を持たずに済み、しかも金を自由に動かせるという。便利なシステムだな」
「し、しかし、その機械の使い方を知っているのか」
「使用説明書がついていたが?子供でも使えるように作られているのに、使用方法で悩むはずも無い。インターネットとやらの仕組みは、隣宮のキャンサーに聞いたしな」
 ネットと聞いて画面を覗き込んでみると、確かにアスプロスの使っているノートパソコンの画面には、有名検索サイトの頁が開かれている。
「…聖域にはISDNしか通っていないはず…それも十二宮以上で線が引かれているのは教皇宮くらいで、この双児宮には電話線すら来ていないのだが…」
 驚きのあまり、気遣いも忘れて現代用語をそのままに呟いたカノンは、そこでハッと息を呑んだ。
「空間を繋いでいるのか!」
 カノンも持つジェミニの空間把握の能力により、双児宮の一部の空間に手が加えられていることに気づいたのだ。アスプロスは何でもないことのように肯定する。
「ああ、ようはパケットをプロトコルに則って基地局とやらへ届ければよいのだろう?余っていた海外支局の無線LAN回線を1つ借りて、空間を繋げている」
「……」
 テーブルの上には、デスマスク所有と思われるインターネットの専門書がおかれている。カノンは内心舌を巻いた。そういえばこの男は、スターヒルに秘匿されている秘儀や知識の数々を、忍び込んで盗み見た程度で物にしたという。それだけではなく、18世紀において相対性理論をも理解する才を持っていたそうだ。頭の巡りがいいという言葉では追いつかない。天才といっても過言ではない。
 たった数日で、アスプロスは現代に馴染み、知識と文化を吸収している。
 黙ってしまったカノンに、アスプロスは肩をすくめた。
「馬鹿にしているのか、お前の兄もこの程度のことはこなすだろう?」
「サガは…それはサガなら出来るかもしれないが」
 神のようなと讃えられたサガならば、確かに初見であれ何でもそつなくこなす。1を見て10を知る黄金聖闘士のなかでもサガは飛びぬけている。しかし、そんなレベルの化物はサガくらいだとカノンは思っていたのだ。
「フン、正規の双子座の守護者を侮らないでもらおう」
 ちなみに、アスプロスは現代双子座の正規の主をサガとみなしている。「兄だから」というそれだけの理由でだが。弟はあくまで「二番目」らしい。
 話しながらもアスプロスの指はキーを打ち続けている。なんとなしに覗いていたカノンは、言葉を詰まらせた。
「ちょ…っと待て。お前、聖域のカードで一体何を申し込んでいる」
「マカオのホテルだが」
「何のために!しかも五つ星ホテルのスイートルームだと!?」
「この特別行政区はカジノが盛んなのだろう?デフテロスと楽しんでこようかと」
「そんな事のために公費を使うな!」
「安心しろ、これは資金獲得も兼ねている。今後の生活費を稼いだうえで、今まで支給された分は倍にして返す。聖域に養われるのは不本意なのでな」
「……聖闘士の能力を、金儲けに使うつもりか」
「何事も臨機応変であろう」
 カノンをして眩暈を起こしそうになる唯我独尊ぷりである。
 突っ込むのも面倒なので、カノンは今の話を聞かなかったことに決め、このあと帰ってくるであろうデフテロスがアスプロスの暴挙を止めることが出来るどうかを、こっそりデスマスクあたりと賭けでもしようと考えた。

2010/12/17


◆相思相(兄弟)愛…双子同居シリーズ

 まだ陽の気配もない早朝、デフテロスはぱちりと目を覚ました。
 朝食をつくるのはデフテロスの分担だ。そのため、兄よりも早起きしてパン生地をこね、生地をねかせている間に水を汲みにゆく。途中で果物やハーブを採ることもあれば、街で卵を入手することもある(鶏小屋から勝手に貰ってお金を置いてくるというやり方だが)。戻ってきたらパンを焼いて、兄が顔を洗うための乾布と水盆の用意する。もちろん兄の目覚めに合わせてハーブティーを淹れることも忘れない。結構忙しいのだ。
 だが、そうした朝の支度を開始する前に、隣に眠るアスプロスの寝顔をじっと見る。デフテロスにとって、この時間が何よりの至福だった。アスプロスも目を覚ませば離れていってしまうので(それが普通だが)、密着した状態で思う存分兄の顔を眺めていられるのは、このときくらいなのだ。
 兄は小さく寝息を立てながら枕に頭を預けている。眠っているときは昔のように安らかな表情だった。挑発的で上から目線の瞳(もっともデフテロスは、そんな風にはちっとも思っていなかった)も閉ざされている。
 だが、今日は凝視しすぎたのだろうか。アスプロスもぱちりと目を開けた。
「…どうした?デフテロス」
 寝起きの、少し甘ったるいような半睡の声。
 この声を聞くのは、生涯自分だけでありたい。そんな衝動に駆られたデフテロスは、思わず兄に尋ねた。
「嫁(俺)が欲しくはないか」
 突然の問いにアスプロスは目を丸くしたものの、すぐに答が返った。
「いらん(お前がいるから)」
 括弧内の心の声は、互いに届くはずも無い。
 返事を聞いてちょっとがっかりしている弟の反応をみた兄は、デフテロスが家事や自分から解放されたいがための問いだと思い込み、『明日は自分が朝食を作ろう』などと見当違いの思いやりを発揮している。
 今日も双子は擦れ違い両思いのまま、兄弟としての一線を越えることなく一日を過ごすのだった。

2010/12/22


◆代価…教官とアスプロス

「どうか弟へ薬を下さい」
 アスプロスは必死に教官へ頭を下げた。デフテロスが熱病で倒れたのだ。
 聖域は医学的にも進んでおり、世俗では呪いだの厄だのと言われるような病でも、それが細菌やウイルスによるものだということは既に理解されている。デフテロスのそれも、高熱が引きさえすれば治る類のものだが、候補生たちの居住環境は劣悪だ。ましてや、デフテロスは凶星として、公式には存在しない者とされている。食べ物とて充分ではなく、布団はぼろきれを二人で分けているような状況だ。
 病が長引けば丈夫なデフテロスでさえ簡単に死んでしまうことをアスプロスは理解していた。
 なにより、『凶星』が弱っているのをいいことに、始末をしようとする者が出ることを怖れた。
 教官は鼻で笑い、冷たく言い放った。
「そのまま死んでしまえばいい」
「教官!」
「お前は『弟に手を出すな』と言った。だから絶対に手を出さん」
「そんな…!」
「この機に乗じて殺さないだけ有難いと思え」
 アスプロスの拳が、白くなるほど強く握られている。
「それではせめて薬師を紹介してください」
「聖域で凶星を助けるような薬師はおらん。禁忌の子供に薬を出せば罰せられるであろうし、凶星なんぞに関わった日には、助かるはずの自分の患者がその穢れで死ぬかもしれん」
「…デフテロスは凶星なんかじゃない」
 まだ聖闘士候補生でしかないアスプロスには、拳を震わせて反論するのが精一杯だった。
 そんなアスプロスを見下ろした教官は、口元をゆがめてにやりとまた笑った。
「ふん、そこまで言うのであれば、薬を調達してやらんこともない」
「え?」
 反射的に顔を上げたアスプロスへ、教官は下卑た視線を絡ませる。
「ただし、当然その代価は払ってもらうぞ」
 ぱっとアスプロスの顔に安堵の色が流れる。
「どんなに高価でも、きっとお金を貯めて必ず払う!だからデフテロスに薬を」
「お前のような子供に金など期待しておらん。それよりも」


 杳馬の落とした闇の一滴と聖域の闇、どちらが濃いのかは神のみぞ知る。

2010/12/22


◆変換…LC18巻を水瓶座の師弟風に

アス「フッ、あいかわらずブラコンの抜けんヤツよ。幻朧魔皇拳をかけてスターヒルから落してやってもまだぬけんとは…」
デフ「な、なぜ…貴様との約束は、何も持たない俺にとって、たったひとつの心の拠りどころでありやすらぎだったのだ!それをなぜ!」
アス「だまれ、死んだ人間にいつまでも情を残しているお前の唯一の惰弱な点をたちきってやったのだ。それが悔しいと思うのならかかってこいデフテロス」
デフ「くっ、いくら兄である貴様でも許せない、ギャラクシアンエクスプロージョン!」
パアン!
デフ「うっ、爆発を止めた!」
アス「甘いぞデフテロス、GEは俺がおまえに授けたもの。それにこの程度の半端な拳ではこの先通用しない。ならばいっそ兄である俺が引導を渡してやる!」

2009/11/20


◆節分…18世紀聖域で無理矢理

「鬼を払う…だと?」
 アスプロスの瞳がすうっと細められ、空色の瞳はコキュートスを思わせる蒼氷色へと変わった。常の者であれば、その視線だけで凍りつきそうなところなのだが、会話をしているレグルスはそれを流せる数少ない人間のひとりだ。
「テンマから聞いたんだ!セツブンというのは東洋の行事で、豆を撒いて鬼を追い払うんだって。ギリシアにも似たような風習があったよね。だから、十二宮でも撒いてみようと思って」
 小さな麻袋を開き、中から炒り豆を取り出してみせると、アスプロスは首を振った。
「ほお…だが双児宮には必要ない」
「どうして」
「この双児宮で豆を撒きたければ、せめてお前も鬼と呼ばれてみろ」
「言ってることが全然理解出来ないぞ」
 二人が言い合っていると、騒ぎが聞こえたのか、奥の間からデフテロスが顔を出した。レグルスはデフテロスにも訴える。
「聞いてくれデフテロス。アスプロスが豆を撒かせてくれないんだ」
「撒けばよかろう」
 即答をもらい、笑顔を向けたレグルスであったが、デフテロスの言葉はまだ続けられた。
「ただし、簡単に逃走する鬼ばかりだと思うな」
「ええっ?」
「異次元に飛ばされる覚悟があるのならば、撒くがいい」
 双子の反応にハテナマークを浮かべていたレグルスであったが、「あ」と気づいて声を上げる。
「そっか、二人とも鬼兄弟だから?」
 何の遠慮もなく感心したように言うレグルスへ、アスプロスが一瞬目を丸くしてから噴出し、いつもの穏やかさを取り戻した顔で肩をすくめる。
「俺はともかく、デフテロスが鬼だとは思っておらん。本物の鬼は、教皇宮に住んでいる奴や、かつてデフテロスを虐げた連中だろうよ」
「俺も兄さんが鬼だとは思っていない」
 デフテロスが隣から口を挟む。
 レグルスは二人の顔を交互にみてから、にこりと豆を皮袋に戻して口を閉じた。
「鬼はいないのか。なら豆は要らないな…鬼が来ても二人がいれば、それこそ逃げていきそうだし。あ、でも今日は豆を年齢分食べるといいんだって!」

 レグルスが置いていった炒り豆は52粒で、双子は顔を見合わせ、それからほろ苦い笑みを浮かべた。

2011/1/30

豆は25粒+27粒。それぞれが死んだ歳の数です。

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