連載と同時進行で書いていたため、元ストーリーと繋がらない勝手なパラレル多め。
星矢とのクロスオーバーが混じったりもしますので、苦手な方はご注意下さい。
21.双子鬼 / 22.相身互い / 23.まるぱん / 24.温度調整 / 25.ほかには何も
◆双子鬼…双子同居シリーズ
カノン島で暮らす生活は基本的に自給自足であるとはいえ、生活必需品の全てを二人で賄うのは流石に不可能だ。聖域やその近辺の村まで行けば大抵のものは手に入るが、ちょっとした野菜や穀物程度なら、島唯一の小さな村へ足を運ぶのが常道だろう。
しかし、アスプロスは村へ下りる事を少し迷っていた。
その村でデフテロスは鬼扱いされているらしいのだ。ではデフテロスはどうやって買物をしているのかと、前に聞いたことがある。
「お前はいつも卵を村から貰ってきていたな…?」
「ああ、だが俺が行くと鬼が来たと皆逃げてしまうので、金だけ置いて必要分取っている。最近は俺を怖がって鶏が卵を産まなくなってしまったとかで、扉に魔よけの札を貼っている家まである」
「よく判らん。お前のような可愛い鬼などいないと思うのだが」
「…アスプロス」
見つめあうキックオフ状態(※年代限定比喩)は何時もの事だ。
アスプロスは、デフテロスが可愛いのは兄の前でだけだということを良く判っていなかった。
とにかく、その時の会話を思い出してアスプロスは唸る。
(同じ顔の俺もやはり鬼扱いされるのではなかろうか…いや俺のことはともかく、弟への誤解は解きたい。ここで暮らしてゆくのならば尚更)
それは生活の便のためというより、デフテロスへの対応を改めて欲しいと願う兄としての純粋な願いだった。差別と畏怖、形は違えど、昔と同じように人々から忌まれ遠ざけられる弟を見たくないのだ。
正直、アスプロスは村人に腹を立てても居た。
(大体、デフテロスが過去に何度も噴火をセブンセンシズで鎮めてきたからこそ、あの村は無事なのだ。感謝されこそすれ、疎まれる理由などないではないか?)
デフテロスが村を助けたのは修行と住まい確保の都合であって、実際には「役に立たない弱者はこの世から消えるものだ」という割とシビアな主義であることも兄はよく判っていない。
兄は兄で弟に対してぶ厚い色眼鏡をかけていた。
考え込んでいると、デフテロスが心配そうに覗き込んできた。
「どうしたのだアスプロス、何か悩みでもあるのか」
「いやその…ふもとの村人たちのことだが、お前への誤解を何とかしようと思って」
忌憚なく伝えたものの、デフテロスは首を横に振った。
「いや、俺は今のままで良い」
「しかし」
「鬼と思わせておけば、恐れて此処には誰も近付かぬだろう。俺は兄さんとの生活を誰にも邪魔されたくはない」
「デフテロス…」
つい先日修行を志して再チャレンジを目論み、前回以上の勢いで追い払われた白銀聖闘士一同も、まさかそんな理由でだとは思いもしていないだろう。
(デフテロスの気持ちは嬉しいが、やはりこのままではいけない)
アスプロスは弟を説得して、一緒に村へ降りてみる事にした。
その結果、アスプロスの前では鬼が大人しいと理解した村人は、必要以上に二人をくっつけようとしたため、デフテロスは喜んだものの、家内安全+安産のお守りを貰ったアスプロスの方は何となく納得の行かぬまま山へ帰ったのだった。
2010/2/9
◆相身互い…双子同居シリーズ
デフテロスは考え込んでいた。兄とともに生活を始めて同じ布団で眠るようになり、幸せ絶頂であるはずなのに、このところ寝苦しい夜が続いているのだ。
物理的に暑苦しいというわけではない。一組しかない布団は粗末で夜は冷え、互いの体温が丁度よい防寒対策になっている。ふと触れる兄の肌は戦士にしてはなめらかできめ細かく、間近での呼吸がときおり感じられてくすぐったい。
ここまで考えて、デフテロスは自分の心拍数があがっている事に気づいた。顔が火照り、何故かとても落ち着かない。
(これは一体どういうことだ)
眉間にしわを寄せていると、突然後ろから声がかかった。
「どうしたのだ、デフテロス」
アスプロスの声だ。びくりと振り返ると、アスプロスが真っ直ぐに、しかし心配そうな顔をしてこちらを見つめている。自分が兄を背後から見ることには慣れているが、いざ自分が視線を向けられると落ち着かない。そして強く真摯な瞳…わけもわからず胸が苦しくなり、目を逸らす。
逸らしてからはっとした。
(これは、アスプロスが話してくれた状態では…!)
すれ違った過去の心境を語ってくれたアスプロスが、昔はデフテロスの視線が疎ましかったのだと打ち明けてくれた事がある。
(オレは兄さんの視線が疎ましいのか…?無意識下では兄さんと一緒に寝たくなくて拒否反応を起こしているのか…?)
自分が兄を疎んじているかもしれないということが、デフテロスにはショックだった。
黙ってしまったデフテロスに、アスプロスが眉を潜めて首を傾げる。
何か返事をせねばと気は焦っている。しかし、そんな事を兄には言えない。絶対にいえない。自分が情けなく、悲しくなる。アスプロスもかつてはそうだったのだろうか。
(心が落ち着くまで、別場所で眠ったほうがいいのかもしれない)
デフテロスの理性はそう判断を下そうとした。
しかし、瞬時に感情が『いやだ』と叫ぶ。目にじわりと涙が浮かんだ。
驚いてアスプロスが駆け寄ってくる。
「このところあまり寝て居なさそうだったから、心配していたのだ。今日の食事はオレが作るから、お前は少し横になって仮眠を取れ。眠らぬと情緒不安定になるものだからな」
頬を撫でたアスプロスの手の感触は温かく、そしてやはり胸が騒いだ。
アスプロスが夕飯用の狩りに出かけたあと、デフテロスは寝台に寝転がり天井を見上げた。なるほど一人だと平穏なもので、すぐに睡魔が下りてくる。しかし、かわりに何とも言えない物足りなさが生まれていた。
眠りに身を任せながら、やはりアスプロスと一緒がいいと結論付けてデフテロスは布団を被った。
2010/2/17
◆まるぱん…双子同居シリーズ
アスプロスは手元のパンを手にとり、しげしげと眺めた。
毎朝デフテロスが用意する丸パンは球状で、その言葉の通り本当に丸いのだ。
基本的には聖域で食していたものとなんら変わらぬ材料であるはずなのだが、全方面にこんがりとキツネ色に焼けたそれは、火の通りが均一のためか、中はふっくらと柔らかくとても美味い。
「これはお前が焼いたのか?」
デフテロスに尋ねると、弟はこくりと頷いた。
「そういえばどこで調理をしているのだろう。パン用の竈はないようだが…」
粗末な修行用の小屋に、きちんとした台所など付いているわけもなく。
火を必要とするものは、外で薪を燃やして調理しているのだが、そういえばデフテロスは火をおこした様子もない。
はっとアスプロスは気づいた。
「これも溶岩竈か!」
「ああ、パン生地を丸めて…溶岩洞窟の上のほうで浮かせていると焼ける」
小宇宙で溶岩を球として浮かせることのできるデフテロスにとっては、パン生地を浮かせる事など造作もないのだ。
「なるほど、お前特製パンというわけだな。とても美味い」
にこりと微笑んでぱくりとパンを齧ると、デフテロスは嬉しそうに返事をした。
「兄さんがそれを好きなら、今度は出来るだけ巨大サイズで…」
アスプロスが慌てて普通サイズを希望したのは言うまでもない。
2010/2/21
◆温度調整…双子同居シリーズ
火山島であるカノン島には、地熱により温泉が幾つも沸いている。
その中でも暮らしている小屋に近く、人目につかぬ場所を探し出して、アスプロスとデフテロスは自分たち用の入浴施設を作った。
施設といっても、着替えの服を置くための棚や仕切りといった程度の簡単な空間しかない。かろうじて屋根は付いているが、壁は三面しかないため、雨はしのげるものの吹きさらしである。掘っ立て小屋とも呼べぬ代物だ。それでも、二人だけで使うには充分だった。聖域での集団入浴を思えば、専用の露天風呂があるというのは、贅沢なことでもある。
特にデフテロスにとっては幸せだった。影の存在として扱われてきた彼は、皆と同じように浴場を使うことなど許されなかった。誰もいない時間を見計らい、修行場の水場を使うか、泉で汚れを洗い流すしかなかったのだ。
それに比べて、アスプロスの方は他の者たちと一緒に修行をしていたので、付き合い上彼らとともに修行後の汗を流しに浴場へ行く事もある。自分ではない誰かに肌を見せている兄を思うと、邪な想いなど当時なかったとはいえ、取り残されたような気になり、デフテロスが寂しがっていたのは確かだ。
アスプロスが黄金聖闘士となり、双児宮に住めるようになってからは、宮付きの簡易沐浴場を使えるようになった。環境は劇的に改善したが、それでもこのように堂々と外でアスプロスとともに湯を使えることなど夢のまた夢で、デフテロスは今日も兄と温泉に浸かりながら幸福を噛み締めている。
「デフテロス」
岩に寄りかかるようにして湯船に寝転がり、空を見上げていたアスプロスが、ふいに弟を見た。
「何だろう兄さん」
「その…いれてもいいか?」
咄嗟にデフテロスの脳裏に浮かんだことと言えば1つしかない。
真っ赤になりつつも反射的に頷くと、アスプロスは起き上がってデフテロスの隣へ座った。跳ね上がる心臓を押さえながら、デフテロスは温泉の中で兄の手を握る。アスプロスはにこりと笑ってデフテロスの手を握り返した。
「良かった、今日は火山活動が活発なせいか、少し湯が熱くてな」
目をぱちりとさせたデフテロスの前で、アスプロスは念動力と次元操作を駆使して、川から引き込んだ水を温泉へ足しはじめている。
「……」
無言になったデフテロスが無意識に小宇宙を燃やしたため、集まったマグマがアスプロスの冷やした温度を上回り帳消しにしていく。気づいたアスプロスに呆れられても、温泉とデフテロスの顔の火照りは冷える事がなかった。
2010/3/2
◆ほかには何も…新旧双子クロスオーバー
カノンからしてみると、どう見てもアスプロスのデフテロスに対する態度は、でか過ぎるのだった。
身の回りの世話や家事をさせるのは序の口で、下手をすると弟を模造品扱い、踏みつけにしている場面にいきあたったこともある。
それでも、デフテロスの方は嫌がっているように見えない。むしろ幸せそうにアスプロスへ近寄っていく。
その事がまたカノンを苛立たせる。
「お前、それでいいのか?」
納得がゆかず、思わず強い語調でデフテロスへ尋ねると、デフテロスは『それがどうした』という眼差しで答えた。大概の場合、彼の視線成分はアスプロスへ向ける以外、ほぼ無関心で構成されている。同じ黄金聖闘士相手には多少マシになるが、それでも彼の世界はアスプロスで出来ていた。
「俺はアスプロスが聖闘士として正道を歩もうとしてくれるだけで嬉しい。他には何も望まん」
本気で言っていることは、その表情で一目瞭然であった。
「星を背負って生まれたものが聖闘士として勤めを果たすのは当然だろう。それだけで満足とは、どれだけ兄への期待値が低いのだデフテロス」
「そうか?」
カノンへ向けられた視線は、ただただ真っ直ぐで。
カノンは口を噤む。当然と言ったものの、その当然の事が、かつての自分には出来なかったことを思い出したからだ。
(そうだ、サガも今のこいつと同じように、正しく聖闘士であること、ただそれだけしか俺に望みはしなかった)
そんなサガに対して、13年前の自分は女神を殺せだの教皇を殺せだの共に世界を支配しようだの、一体どれだけを望み、唆したのだろうか。
サガが内なる闇と戦っていたのを知りながら、自分と同じ悪へと引き寄せる為に偽善者と決め付けた言動を思い返すと、今さらながら恥ずかしくなる。
しかしカノンは首を振った。過去を恥じて内に篭るのはカノンの性に合わない。それに、かつてサガの言葉の真意を理解せず、増長していた自分だからこそ言えることもある。
「兄を思うのならば、あまり甘やかすな」
真面目な進言に、やはりアッサリとデフテロスは返した。
「甘やかされているのは俺のほうだ」
「は?」
思わぬ返答に戸惑うカノンへ、デフテロスは目を輝かせながら力説してきた。
「あれはアスプロスが俺に甘えさせてくれているのだ。それに、二人だけのときの兄さ…アスプロスの可愛さと美しさときたら、眩しいくらいなのだぞ」
「………それは本気で言っているのか」
「何故、冗談を言う必要があるのだ」
宇宙語を聞いているような気がして頭を抱えているカノンを尻目に、デフテロスは兄を見つけてその傍へ駆けて行く。遠い目で見送ったカノンの横へ、いつの間にか笑いながらサガが立っていた。
「何がおかしい」
思わず突っかかると、サガは微笑みながら目を細めた。
「『兄を思うのならば、あまり甘やかすな』…他人へはそのように言うわりに、お前はわたしを甘やかしているなと思って」
「ちょっとまて、オレは甘やかした覚えなどない」
「そうか?」
ふわりと穏やかに笑うサガの笑顔をみているうちに、『あれはアスプロスが俺に甘えさせてくれているのだ』と言ったデフテロスの言葉が理解できるような気がして、その事がまた何となく悔しくて、カノンは眉を顰める。
サガはまるで独り言のように、そっと呟いた。
「自覚がなくともお前は優しい。今もデフテロスが虐げられていないか心配したのだろう?13年前のわたしは自分のことに手一杯で、その優しさに気づく事が出来なかった」
許せ、と伝わる小宇宙にどう応えて良いのか判らず、ますますカノンは仏頂面で眉を顰めた。
2010/3/5