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◆JUNK8

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。
たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆念写…(仲良し双子)

 カノンが兄の部屋に入ったとき、ふと卓上を見ると写真が飾ってあった。
 一体誰の写真を置いているのだという好奇心から手にとって確認してみると、それは幼少の自分とサガの二人が、双児宮を背後に並んで笑っているものだった。

 自分は聖域ではその存在を秘めていたため、このような記録媒体に姿を残した覚えは無い。ましてサガと二人で写真を撮った覚えなどない。
「何だこれは?」
 不思議に思っていると、サガがそれに気づいて恥ずかしそうに言い訳をした。
「それは私の作った写真…念写だ。お前の存在が明らかとなった今ならば問題ないだろうと思って、蘇生後に撮ってみたのだ」

 思い出を形としても取って置きたくてというサガの言葉を聞き、カノンは内心照れたものの、表面上は素っ気無く写真立てを元の位置へ戻した。
 そして、早速自分もその念写とやらを試してみようと自室へと戻ったのだった。

 数日後、今度は黒サガがカノンの部屋を訪れた。
 黒サガが居心地の良い寝場所を求めて勝手に弟の部屋に立ち入るのはいつもの事で、ノックをしても返事は待たない横暴さの事を、カノンは既に諦めていた。
 今日も干したての弟の布団の上に転がった黒サガは、枕の下に違和感を覚えて手を差し込んだ。出てきたのは1冊のミニアルバム。
「ほう、枕の下にあるのはオカズとやらと相場が決まっているらしいが」
「てめえ、人のプライバシーを何だと思っているんだ!」
 カノンが慌ててそれを取り上げようとするものの、黒サガは巧みに避けつつそのアルバムを開いた。
「………」
「………」
「…何故このような健全な写真ばかりなのだ。却って恥ずかしいのだが」
「ど、どうでも良いだろ」
「このような写真ならば、念写である必要はないのではないか?」
「サガには内緒にしたかったんだよ!普通に撮ったら絶対気づくからなアイツは」

 サガの笑顔ばかりを念写したポラロイド写真集を、黒サガは遠い目で黙って伏せた。

<〜オマケ〜>
「そういえば、私の写真はないのか」
「えっ、お前の方がそういう事を気にするとは意外なんだが」
「サガではない私の写真など、必要ないということか」
「ひがむなよ。そうじゃなくて…その、言うと怒りそうだしなあ」
「怒らぬから言ってみるがいい」
「お前の方の笑顔って、馬鹿笑いか何かを企んでいそうな邪悪笑いしか想像できなくてさ。そういうのばっかり念写するのはちょっと」

怒らないと言ったのに、カノンは思いっきり黒サガに枕で殴られたのだった。


2007/4/20

◆弟…(ロスサガ弟自慢)

「生き返ったら、小さかったあのアイオリアが随分立派になっていて驚いたよ」

 人馬宮でサガと酒を酌み交わしつつ、射手座のアイオロスは楽しそうに話し始めた。
「ああ、彼は私のせいで随分と苦労をして育ったが…真っ直ぐないい青年になった」
 サガもすまなそうな顔を見せながら、それに相槌をうつ。
 そんなサガの憂いを吹き飛ばすかのように、人馬宮の主は笑った。
「リアのやつ、昔は負けん気が強すぎるところもあったからな。少し苦労して自分を押さえ気味にするくらいで丁度いいのさ」
「いや、アイオリアの負った苦労は少しなどというものではないぞ」
 苦労の原因であるサガは流石にフォローを入れる。
 それでもアイオロスは悠然と流した。
「気にしすぎるな。あいつは苦労が大きければ大きいほど、それを糧にして大きくなる奴だ。何せ、この俺の自慢の弟だからな」
 片目をつむって茶目っ気たっぷりに言うアイオロスに、サガもようやく微笑んだ。
 そして負けずに言い返す。

「私の弟も、なかなか立派になっていた。随分遠回りをしたが、ずっとお前に私の自慢の弟を紹介したかったのだ…私に似て罪科持ちだが…カノンも結構いい男だと思うのだ」
 最後が遠慮がちになるところがサガらしい。

 アイオロスは気がついた。ジェミニが双子であることを隠していた過去において、サガは弟の話をしたくてもする事が出来なかったということを。

 あのころの自分がアイオリアの話をするときに、微笑みながらも黙って聞いていたサガを思い出して、アイオロスはサガの杯に酒を注いだ。
「君の弟さん…カノンと言ったっけ?彼の話をもっと聞きたいな」

 サガは嬉しそうに顔を輝かせると、幼い頃のカノンの話を尽きることなく話し始めた。


2007/4/21

◆夢…(エリシオンでのえせロスサガ)

咲き乱れる花の香りが、風に乗ってやわらかく鼻腔をくすぐる。
サガは目の前の樹からザクロを摘み取った。
弾けた果実からは甘い匂いがして花の香りに混ざった。

こんなところに果実がなっているのを発見して、サガは嬉しくなった。
(アイオロスにも、この場所を教えよう)
手を伸ばし、鮮やかに赤く熟したものを選んでもう1つ摘み取る。アイオロスの分だ。

会いたいと思うころ、アイオロスはサガのところへ遊びに来る。
そのタイミングの良さが嬉しくて、手厚く彼をもてなすのが常だ。
アイオロスは遊びに来て何をするわけでもないが、じっくりとサガの話を聞いてくれる。
この頃の彼は、以前よりも落ち着きを見せて大人になった気がする。

子供のときのようにじゃれあえないのは少し寂しいが、もうそのような年齢でもないことは自分で判っているので仕方が無い。人はいつまでも子供では居られないのだ。

サガが離宮へと戻ると、丁度向こうから彼が歩いてくる姿が見えた。
果実を片手に抱え、サガは手を振る。向こうも気づいたようで、その顔に笑みが浮かぶ。
傍へきた彼に、サガは採ってきたばかりの柘榴を手渡した。

「見てくれ、美味しそうだろう。向こうの林の中にたくさん実っている場所があるのだ」
「よく見つけたな」
「綺麗な場所で…お前にも見せたい、アイオロス」


射手座の名を呼ばれ、嬉しそうに笑うサガに手を引かれても、ヒュプノスはその間違いを訂正しなかった。
安らぎを与えるのは眠りの神の仕事であったし、神の力をもってしても黄金聖闘士クラスの精神力を持つ人間に、望まない夢を見せることは出来ないのだから。

エリシオンで心を眠らせるサガに、ヒュプノスは今日も唯一人の夢を与え続けた。


2007/4/29
◆カノン…(双子の名前の意味こじつけその1)

「カノン!」

 いつもの兄の呼びかけに対して、双子の弟の目がほんの僅かに宙をさまよった。
 それは誰にも気づかれぬ程度の微妙な間であったが、半身であるサガはそれに気づいてカノンの顔を覗き込んだ。
「どうした?惚けたような顔をして」
「いや、何でもねえよ…そういや昔はこの名前が嫌いだったと思ってな」
 サガは首をかしげた。サガの方は、規範を表わすカノンの名の響きを子供の頃から好きだったからだ。異国の叙事史を意味する自分の名よりも、弟の名のほうが聖域や女神の聖闘士に相応しいとずっと思っていた。なので率直に言った。
「何故だ?私はお前の名前が好きだぞ」
 真顔で言う兄にカノンは笑った。
「昔はな…アンタという旋律を模倣して追唱するだけの人間だということを、名前でまで定められているようで嫌だったんだ」
 サガは目を丸くして何か言おうとした。しかしカノンはそんな兄に顔を寄せると、ちゅと頬へ口付けてからかうように告げる。
「昔はと言ったろう。今はサガを追うのも気に入っているし…嫌なら兄さんの方がオレを追うようにさせればいいんだしな」
 口を開きかけていたサガは言葉を失い、二三度唇を震わせてから何とか返事を返す。
「ば、馬鹿なことをいうな」
 カノンはそ知らぬ顔で兄へ畳み掛けていく。
「名前以上に、オレの中身を好きになってくれないか、サガ」


 赤くなりながらも逃げようとしない兄を見て、カノンは自分の誑かしの腕について自信を深めたのだった。


2007/4/30
◆平和…(サガを語るカノンと蟹)

 聖戦後のサガは教皇補佐として女神に仕えることになった。
 毎日十二宮を通って最上宮へと登庁し、代わりに双児宮を守るのは弟のカノンということになっている。そちらは海将軍との兼業だ。
 カノンは、宮の外を歩くのも他者の視線が厳しいのではないかと兄を心配したが、サガは笑って取り合わなかった。どうもそれは口先だけではないようで、カノンが見る限り兄は毎日とても楽しそうだ。

「安心したというか意外と言うか」
 昼食時にぽろりと零すと、隣でニョッキを突付いていたデスマスクはその過保護ぶりをゲラゲラ笑った。カノンは軽く睨んだものの、ちゃっかり巨蟹宮に食事をタカリに来ている事を考えて自分を抑える。
 巨蟹宮の主はフォークの先をカノンに向けてからかうように言った。
「相変わらず心配性だな。そういうお前さんは海界でどーしてるんだよ。毎回頭下げてまわってんの?」
「まさか」
 双子座でもあり、海龍でもあるカノンは肩をすくめた。
「謝罪は最初に一度まとめて頭を下げた。そこから後は行動で示すしかないし、偽とはいえオレが海将軍を勤める間は、個々に毎回ぺこぺこしていては士気や統率に関わる。すまないとは思うが、締めるべきところは締めさせてもらう」
 ある程度は割り切らないと、将軍職は勤まらない。それはデスマスクも判っているようで、カノンの言葉に頷いた。
「ま、軍を率いる上でそれはしょーがないわな…で、サガも同じだとは思わないのか」
「黄金聖闘士は将軍というよりも守護者だ。それも今のサガは聖職の補佐だ」
 切り替えしてきた相手にシステムの違いをあげて反論したものの、デスマスクはニヤリとカノンに視線を合わせる。
「サガがな、こんな事を言ってたぜ」
 耳を傾ける双子座の弟に、ややトーンを落とした声で続ける。
「騙すことしか出来なかった長い年月を思えば、直接なじられて直接謝罪出来る今が幸せだってさ」

 カノンは黙り込んだ。
「サガがああいう馬鹿だから、俺達も13年間苦労したわけだけどな」
 文句を言いつつもデスマスクは誇らしげだった。
「弟のお前が心配するのは判るが、サガはそんなにヤワじゃねえよ…むしろ逆にお前が聖域に馴染めるかどうかスゲエ心配してた」
 そうして席を立つと、デザートにイタリアンジェラードの苺味を持って戻ってくる。
「これ、お前の好物なんだって?カノンが食事をたかりに来たら出してやってくれって頼まれててさ…いやあ、いい保護者…でなくって、お兄さんを持って幸せだねえ」
 笑いをこらえている事を隠そうともせず、デザートの器を差し出すデスマスクにカノンは赤くなった。

「サ、サガのやつ…子供かオレは!」
 怒鳴りつつ、自棄食いのようにジェラードをかきこむカノンを横目に、デスマスクもスプーンを手に取る。
(平和なのも悪くねえか)
と、らしくもなく考えながら。


2007/5/2
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