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◆2013-JUNK3

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆紅梅を啄むメジロ…(黒サガとアイオロス)


 教皇宮での仕事を終えたサガは、控えの間へ移動し、帰り支度を始めた。
 法衣用の細長いストールを肩から外し、専用のハンガーへと掛ける。
 法衣はサガの私物であるが、階級を表すストールは職場用であり、仕事を終えたら外すことになっている。世間で言う制服のようなものだ。身分や職種によって、色と文様はさまざまだ。
 教皇であったころは、祭事にも使用される最高級の装身具つきであったが、流石に今はランクが落ちた。身軽になったのはいいが、その身軽さが時折悔しくもある…と黒髪のサガは思う。
「今日はめずらしく君のほうだったね」
 同僚であり次期教皇候補であるアイオロスが、黒髪のサガへと話しかけた。
 彼は黒サガの非友好的態度にめげることもなく、もうひとりのサガへするように、いつも親しげに接する。
「あの老いぼれが、『わたし』を呼んだのでな」
 そっけなくも律儀に黒サガが返事をした。
 非友好的ではあるものの、職場では割り切って会話をするところが生真面目なサガらしかった。私生活では返事すらしないこともあるので、アイオロスからすれば職場はこちらのサガとコミニュケーションを果たす絶好の場所だ。
 ちなみに黒サガの言う『老いぼれ』とはシオンのことである。
「議題が君向きだったからなあ」
「慈善事業計画と予算の割り振りがか?」
「だからだよ。もう一人の君だと、こういった方面へは財布の紐がゆるくなるからさ。厳しめの枠組みを最初につくって、あとから必要分だけシオン様が割増すほうがいいんじゃない?」
 言いながらアイオロスは法衣を脱いでいる。普段から法衣で過ごしているサガと異なり、彼は雑兵と変わらぬ動きやすい服を好むため、仕事のあとはここで訓練着に着替えて帰るのだ。
 そのままの法衣で帰るサガは、さっさと会話を切り上げて先に去ろうとしたが、アイオロスがその袖を掴んだ。
「たまには人馬宮へ寄って「断る」
 最後まで言い切ることも許されず、返事はアイオロスの声へかぶせるように神速でなされた。
「どうして?」
「何故もくそもあるか。貴様の家に寄る理由がない」
「理由があればいいのか」
 アイオロスは首を傾げて辺りを見回し、テーブルの上にあった花瓶に目を留める。それだけでなくその花瓶を手にして、突然花を引き抜くと中の水をサガへと降りかけた。
 さすがの黒サガもこの狼藉には呆気に取られ、避ける間もなく固まっている。
「法衣も君も濡れてしまったね。よければ人馬宮に寄ってシャワーでも浴びていかない?」
「……」
 返事の変わりに鉄拳が飛んだが、流石に責める者はいないだろう。アイオロスもそれは予測していたのか、片手をあげてそれを受け止める。びしりと重い拳の音が部屋に響いた。
 緊迫した空気は一瞬のことで、すぐに黒サガは拳をおさめる。このままでは千日戦争になるだけとの判断だ。彼は無駄も好まない。
 アイオロスが、表情だけは子犬のようにねだる。
「理由まで作ったのに、来てくれないのか?」
「シャワーは双魚宮で借りる」
 黒サガは忌々しそうに水を吸った法衣を脱ぎ捨てている。
 そのサガへ、アイオロスは自らの脱いだ法衣を手渡し、にこりと笑った。
 黒サガはアイオロスの顔とその法衣を交互に見てから、黙ってその法衣の袖に手を通す。
 着替え終わったサガの肩へ、片付けられていたストールをアイオロスが掛けた。
「双魚宮のあとでいいから、人馬宮にも寄って行くといい。もうひとりの君の着替えが置いてあるし、その法衣を置いてってもらえれば丁度いいし…君に渡したい書類もあるし」
 仕事だよ?とアイオロスは付け足した。
「……気が向いたらな」
 くるりと背を向けたサガへ、アイオロスはひらりと手を振った。

2013/3/6…梅の花が蜜を吸う許可をあげてないのに、勝手に啄むメジロのイメージ
◆うそだよ…(アイオロスとサガとカノン)


 カノンが外出から戻ってくると、双児宮内に兄以外の気配がした。
 黄金聖闘士クラスであれば、小宇宙だけでその相手が誰なのかわかる。今日の客人は、どうやら射手座のアイオロスだ。サガへ会いに来たのだろう。
 昔からよく双児宮へ立ち寄る男だったが、サガの謀略で1度殺されたというのに、同じように訪ねてくるというのが豪胆というか、底がしれない。またサガの方も何を考えているのか、控えめながらに迎え入れる。カノンはなんとなく面白くない。
 中庭の方から彼らの会話が聞こえてきて、盗み聞きするつもりは全くなかったが、自室へ戻ろうとしていたカノンの足が止まる。
「サガ、可愛いね」
 アイオロスの声だ。カノンの眉間にしわが寄った。
(おいサガは188cm28歳の男だぞ。どの面下げて男にそんな台詞を吐けるんだ)
 自分が兄を天使のようだと形容したことは棚上げである。
「今のは、ウソだろう、アイオロス」
「うん、ウソだ」
 カノンは二人の会話にぞわぞわしつつも、ぷちりと切れた。
(おい、褒めておいて取り消すとか、お前はサガを試してんのか?それとも恋人トークってやつか?お前らいつの間にか付き合ってるのか?)
 思わずサガとアイオロスの元へ足音荒く近づいたカノンだった。
 双児宮は左右に宮の分かれた構造になっていて、中ほどに庭が作られている。カノンの足音で鳥が飛び立ち、庭を眺めていた二人がカノンのほうを振り返った。
「おかえり、カノン」
「お邪魔している」
 何事もなかったかのように挨拶をしてくるのが、またカノンにとっては腹立たしい。
「何が可愛いのだ、おまえの目は節穴か!」
 指をつきつけると、アイオロスは不思議そうに首を傾げた。
 隣でサガもきょとんとしている。
「カノンは可愛いと思わないのか、小鳥」
「え?」
 アイオロスの横からサガも口をはさむ。
「おまえが乱暴に近づくから、逃げて行ってしまったではないか、ウソが」
「…もしかして、鳥を見てたのか」
「そうだが、おまえは何を言っているのだ」
 アイオロスとサガの返事を聞き、カノンの脳内鳥類図鑑が猛スピードでめくられる。確かにそんな名前の鳥がいたような気がする。
 何も言えなくて固まってしまったカノンに、アイオロスが
「何だかわからないけど、カノンもそそっかしいところがあって可愛いな」
 などと言うものだから、言い返せないカノンは真っ赤になるしかない。
 そんなカノンとアイオロスを見たサガが、内心でやはり何かを勘違いして妬いたものだから、事態は余計ややこしくなっていったのであった。

2013/2/5 鳥のウソの名前の由来は、口笛を意味する古語「うそ」から来ているそうです。

◆耐久性…(サガと鋼鉄聖衣)


 サガが珍しく落ち込んでいる。
 アイオロスの知るサガは、たとえ気の沈んでいることがあっても、それを表面に上らせることなく、むしろ周囲へは笑顔をみせる男だ。それだけに、目に見えるほどの落ち込みようは、いったい何があったのか気になるというものだ。
「どうしたの、サガ?」
「実は麻森博士に頼まれて、鋼鉄聖衣の性能テストに協力したのだ…」
「ああ、グラード財団がバックアップしているアレね」
 鋼鉄聖衣というのは、正式な聖衣ではない。人間が科学的につくりあげたものである。本物の聖衣はすべてを合わせても88しかないため、それを取得できる人間も限られており、戦力は少数精鋭とならざるを得ない。負担も集中してしまう。
 その聖闘士たちの負担を少しでも減らし、雑兵たちにも戦える武具を与えるための計画、それが聖衣を模した鋼鉄聖衣の量産化なのだ。
 サガは常々『人は神を越えられないのかもしれない。しかし、弱いからこそ知恵を絞り努力していく姿勢が尊いのだ』との題目をかかげ、その計画に協力をしていた。きれいごとだけでなく、負い目もある。何故なら、鋼鉄聖衣の研究そのものは、サガの乱によって始まったようなものだからだ。
 かつて、沙織は偽女神として扱われ、青銅聖闘士や一部セインティアの力しか頼ることができなかった。彼女の戦力となることを期待して、城戸光政の資金によってたちあげられたのがこの計画だ。
 アイオロスとしては(この技術が流出して他の軍事産業に転用されたら困るなあ)とか、(グラード財団と聖域は別組織・別会計ってことになってるけど、世間はそう見ないから、莫大な軍用開発費って周囲の警戒や反感を招くんだよねえ)とか、いろいろ思わないでもないのだが、サガとしては協力するしかない立場なのである。
 サガが虚ろな視線で言葉をつむいでいく。
「耐久性を測ると言うので…光速拳にもならないマッハ拳で加減して叩いたら、紙屑みたいに壊れてしまって」
「それはサガのせいじゃないだろう。もともと耐久性のテストなんて壊すことが前提なのだし」
「しかし、一体30億円くらいするのだ…」
「………戦闘機より安いよ」
 聖域の年間予算では考えられない規模の金額であった。そのお金で何人の雑兵にボーナスを出せるかと考えたらアイオロスも落ち込んだ。

2013/2/28
◆ミルクティー…(サガの混ぜ方)


カノン「ミルクティーを作るときに、ミルクを先にいれたほうが美味しいか、紅茶を先にいれたほうが美味しいかという論争があってな」
白サガ「ああ、聞いたことがある」
カノン「ラダマンティスによると、英国王立化学協会が『ミルクを先に入れた方が美味しい』と発表したことで、ミルクに軍配が上がったのだそうだ」
白サガ「彼は無骨な軍人タイプかと思っていたが、よくそのような話を知っていたな」
カノン「一応イギリス人だからな。で、お前らもそうではないかと思うわけだ」
白サガ「何の話だ」
カノン「お前と黒いの、ここのところ喧嘩をしているだろう?お前がミルクで黒いほうが紅茶だと思えば、お前があいつを受け入れてやった方が、美味くおさまるのではないかなと」
白サガ「上手くではなく美味くというのが気になるが…仲直りは善処してみよう」

2013/3/1 
◆後継者…(13年前双子IF)


 やむを得なかったのだ。
 カノンが教皇と女神の殺害を示唆した。反逆罪により死を宣告されても仕方のない言動だ。死を免ぜられても、最低限スニオン岬での幽閉が必要となる。しかし、あの水牢は…ただ死までの日程が延びただけで、改心の可能性がなければ、それは死刑と変わらないのではないだろうか。
 わたしはカノンへ幻朧魔皇拳を放った。そうするしかなかった。禁断の魔拳だが、強制的に正義を植え付けることで、カノンの命は助かるし、わたしが教皇となった暁には、カノンが双子座の聖闘士として、光の道をゆける。そう思ったのだ。
 しかし、わたしは内なる闇に負けた。わたしの中の闇はシオン様を殺害し、教皇になりかわってしまった。そのことを知ったカノンは、逆賊のわたしに拳を向ける。当然だ、その正義感を植え付けたのは、わたしなのだから。
 カノンの手刀に胸を貫かれ、わたしは死ぬ。それは構わない。
 しかし、そのことによってカノンの魔拳は解けてしまう。どうしよう。
 仰向けに崩れ落ちたわたしの視界に、顔をゆがめたカノンの表情がかすれゆく。もう解け始めているのだ。
「…カノン」
 最後のちからで弟の名を呼ぶ。カノンは私を見下ろし、人形のように呟いた。
「兄さん、お前の未練も憎しみも、オレが受け継ごう。おまえはいつも言っていた。『もしも自分が倒れた時には、お前が代わりに』と。今がそのときなのだな?お前の呪いが成就するときなのだな」
 呟いたあとは目を閉ざしてしまい、わたしの視線と、弟の視線はもう交わらなかった。
 何が間違っていたのだろうか。カノンをわたしにしたい訳ではなかったのに。
「オレが教皇となり、女神を殺し、この聖域を支配してやる」
 意識が途切れて冥府へ下る前、最後に聞こえたのは呪詛のようなひとことだった。


2013/3/2 サガを汚したくないカノンが、兄の罪も全部引き受けて「教皇を殺したのは自分・それを止めようとしたサガを殺したのも自分」てことにして聖域を出てくパターンも有りですか。
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