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◆2012-JUNK7

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆歴史編纂…(黒サガとロス)


 聖戦が終わり、戦後処理が一段落付くと、一連の騒乱を記録として残す作業が必要となってくる。
 サンクチュアリにおいて編纂を行うのはふつう教皇だが、教皇が亡くなっていた場合にはその補佐もしくは黄金聖闘士など、戦の全体を知るものが行う。
 当事者たちが死んでいることの多い聖戦その他のことがらを、情報少なく客観的に記すことはなかなか難しい。大まかな戦況情報については、永劫の存在であるアテナが口述してくれるし、また聖衣には着用者の記憶が積み重なるけれども、それだけでは穴だらけなのだ。
 だからこそ女神の聖衣のありかを知らせるのに、シオンは死後とても苦労したわけで。
 とにかく、そういったデータを細やかに集めて、戦った者たちの想いを汲み上げるのは、ほんらい生者の努めだろう。

 次期教皇としてアイオロスがその任を負ったのは当然だが、サガがその補佐としてつけられたのには皆が目を丸くした。シオンいわく「13年ものあいだ教皇をしていた者が1番詳しかろう」との理由である。しかし、サガは僭主であったのだ。しかもアイオロスを殺害して。
 その人間を編纂に関わらせるという判断は、シオンらしくもあるが、聖闘士たちの度肝をぬかせたものだ。


「あれ、君が手伝ってくれるんだ?」
 集められた資料に目を通していたアイオロスは、やってきたサガの髪が黒いことに目を細め、それからにこりと笑った。
「どうせなら、反体制側の主張も存分にしておこうと思ってな」
 どかりと乱暴に椅子に腰を下ろしたサガは、真向かいのアイオロスを睨む。
 編纂対象はサガが反乱を起こした手前あたりからなのだ。
「もちろん君の言い分も聞くよ。その上で総合的に判断するけど」
「フン」
「あと、悪いけど君が反乱起こした事件名は、聖域での認知度を鑑みて『サガの乱』で記すことになるからね。君の名を出したくないから『双子座の乱』で書こうかなと思ったんだけど、黄金聖闘士の地位を前面に押し出して表記するのは、体制的に好ましくないんだってさ」
「勝手にするがいい」
「でもさ、『サガの乱』て一文字付け足すと、『サガの乱れ』になるんだよ。なんかときめく感じだよね」

 その途端、黒のサガが執務机をシオンばりにちゃぶ台返ししたため、部屋には資料が舞い散る羽目になった。ちなみに入り口付近では、資料を届けに来たシュラが胃をシクシクと痛めていたのだった。

2012/8/20
◆夢界散策…(双子神)


「眠りの世界にある魂は、冥界にある魂と違って、随分と生々しいな」
 タナトスが物珍しそうに辺りを見回している。
 ここは夢界。ヒュプノスの司る世界だ。暇をもてあましたタナトスが興味半分で連れてきてもらっているのだが、死界とは大きく異なる世界の構成法則にまだ慣れぬようだ。
 ここでは総てが曖昧で、感情は原始的に働く。物事は論理的な法則なく変異する。
 タナトスを案内しているヒュプノスは楽しそうに笑った。
「それはそうだろう。ここにある魂たちは生きているのだからな。目覚めれば生の世界に戻る」
「人間どもは、このような夢をみているのか」
「夢を見るのは人間だけではない。神や動物、植物もまた眠りにつく。お前の夢もあるぞ」
「……勝手に見るな」
「ふふ、わかった。覗かぬように心がけよう」
 ヒュプノスは機嫌がいい。タナトスがヒュプノスの管轄界を訪れたいなどと言うのは、初めてのことなのだ。
「向こうにお前好みの領域がある。晴れぬ恨みを夢の中で発散する者たちによる、惨殺や流血のエリアだ」
「ほう」
「ただ、そこに集う魂たちの恨みや憎しみが深いぶん、より生々しい命に触れることになるが」
 ヒュプノスは死の神である半身を見た。どんな形であれ強い想いは命の発露だ。血や暴力を好むとはいえ、生の対極を司るタナトスが不快とせぬか気にやんだのだ。
 しかしタナトスはその心配を笑い飛ばした。
「構わぬ。気に入った想いがあれば、その願い、叶えてやっても良いしな」
 該当の夢主が恨む相手へ、死を与えても良いと言うことだ。塵芥と蔑む人間の望みを叶えてやってもよいなどと、言いだすことも大変珍しい。
 ヒュプノスは微笑んだ。正直、己は血や暴力を好まない。けれどもタナトスが喜ぶのなら、たまには目を瞑ろうではないか。
「では、ゆこうかタナトス」
「ああ」
 タナトスを先導するようにして、ヒュプノスは夢の浮橋を渡り始めた。

2012/8/22
◆自家冷房…(双子の日常)


「あちい…」
 思わず零したカノンの呟きに、サガが振り向いた。
 ここ数日、ギリシアでは猛暑日が続いている。標高のたかい双児宮ですら30度を越えるのだ。宮のなかはもう少し温度が下がるものの、冷房施設などない昔ながらの建物である。カノンはもう朝から1リットルほど水を飲んでいる。熱中症対策にはなっているものの、そろそろお腹が水でだぼだぼだ。
 海界では愚痴や弱みなど全く見せぬ彼も、兄の前では素を見せる。
 サガは、どこか困ったようなあの独特の微笑を浮かべながら、弟に提案をした。
「では、なんとか涼しくしよう」
「頼む」
「では…」
 しかし、おもむろにサガの取り出したものが怪談と書かれた本だったので、カノンは心底がっかりした。
「おまえな、そういう精神論でホントに涼しくなると思ってんのかよ」
「わたしは温かくなるが、お前は冷えるかと思って」
 読み始めるでもなくサガが本の間から取り出したのは、1通の手紙。
 何とはなしにその動作を見ていたカノンだったが、ふと手紙の中身に思い当たり、慌ててソファーから飛び起きた。サガは構わずその中身を音読しはじめる。
「『兄さん、どうして判ってくれないのだ。兄さんの力とオレの力をあわせれば、聖域制覇のみならず、世界征服とて…』」
「ちょ、返せ!!!」
 それは遠い遠い昔、すれ違いがちだった双子の兄へむけて、カノンが書いた置手紙。
 本へ挟んでおいたのが、そのまま残っていたようだ。
「書斎の整理をしているときに、偶然見つけてな…」
「おまえ、ひとの黒歴史をネタにするな!」
 顔を赤くして手紙を取り上げようと手を伸ばすカノンと、からかうように逃げるサガ。

 結果的に、カノンの体温も部屋の温度もサガのせいでかなり上昇したため、サガのおごりで村のタベルナ(冷房付き)へ涼みに行くことになった。

2012/8/23
◆朝の不意打ち…(カノンと黒いほう)


 遅めの起床後、カノンはシャワーを浴びてからリビングを訪れた。そこで、居ないはずの先客が目に入り足が止まる。サガだ。兄がゆったりとソファーへ背をあずけ、新聞へ目を通している。肩からこぼれおちる髪の色は黒。カノンは目を瞬かせた。
「おいサガ、おまえ今日は下級聖闘士へ稽古をつけてやる日ではなかったのか?」
 カノンは休日だが、サガはそうではない。本来、この時間に兄が双児宮にいるわけがないのだ。
「訓練なら先ほどからしてやっている」
 新聞から顔も上げずサガが返事をした。カノンは首をかしげかけるも、直ぐに納得する。サガの小宇宙を辿ると双子座聖衣に繋がっている。遠隔操作だ。
「ああ、なるほど。ジェミニに相手させてんのか」
「聖衣相手ならば、軽々しく生身の人間相手に使えぬような威力の大きな必殺技を出せる。より実践的な訓練が可能だ」
「…でも相手が必殺技を出したら、お前そのまま返すだろ。加減してやれよ」
「わかっている。威力は削ぐ」
 サガは攻守ともに万能だ。高い攻撃技だけでなく、相手の技を跳ね返したり逸らしたりする技も持っている。大きな技を出す者ほど放ったあとの硬直時間は長いわけで、そんな状態のところへカウンターを食らったら無事には済まないだろう。
 カノンは珈琲を淹れ、自分とサガの前へ置いた。
「今日暑いからな。それらしい理由をつけているが、外に出たくなかったんだろ」
 にやりと笑いながら話しかけると、サガはようやく新聞から顔をあげる。
「お前が今日休みであったから、わたしもここに居ようと思って」
 淡々と事実だけを告げるかの表情と声色であったが、不意打ちをくらったカノンは赤くなって顔を逸らした。

2012/8/17
◆朝の不意打ち2…(カノンと黒いほう)


 サガの発言による動揺が過ぎ去ると、今度は兄だけ涼しい顔をしているのが何となく悔しいカノンであった。それに、気に掛かることもある。
 まだ新聞を読んでいる兄へ近づき、その新聞を取り上げる。
 何だ、という顔で見上げてきた黒髪の兄へカノンは尋ねた。
「訓練中だといったな?」
「ああ」
「ならば、きちんと集中してやれ。ながら訓練というのも相手に失礼だろ」
 まずはひとことクギを差す。いくらサガにとって実力的にちょろい相手であろうとも、相手の側からすれば滅多にない黄金聖闘士との真剣訓練なのだ。片手間は失礼というものだろう。
 するとサガは首を傾げてからカノンに答えた。
「訓練は、あれがきちんと対応している」
「サガが?」
 カノンは髪の色問わず兄を『サガ』と呼ぶので判りにくいが、黒サガのいう『あれ』は、俗に言う白サガのことだ。黒のサガはぼふりとソファーへ背をあずける。
「今日の雑兵への稽古は、あれが脳内で担当している。お前の言うとおり『ながら訓練』は失礼だし、何より新聞を読みながら相手に怪我もさせぬよう遠隔操作を行うのは、流石にわたしでも無理だ。戦闘では何が起こるか判らぬゆえな」
 いや、1度にニ人格がそれぞれ別のことをしてる時点で相当器用なのでは…というカノンの突っ込みは心の中に収められた。
「じゃあ、オレがいま兄さんをくすぐったり悪戯しても、もう一人の兄さんがやってる訓練には影響でないわけ?」
 しかし、そう尋ねると黒サガは怒ったような顔をした。
「身体が同じなのだ。影響出るに決まっておろう」
「そっか、じゃあ止めておく」
 笑いながら隣へ腰を下ろしたカノンの頬を、黒髪のサガは柔らかくつねった。

2012/8/27
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