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◆2012-JUNK6

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆ハバネロ…(星矢と黒サガとロス)


 会話を交わしていたサガが、ふと言葉を止めた。その様子に首を傾げかけたアイオロスも、すぐその理由に気づく。双児宮にペガサスの小宇宙が近づいている。
 双児宮には侵入者避けの結界迷宮が張り巡らされているのだが、星矢は気にも留めずに足を踏み入れてきた。その様子から、日ごろサガが通してくれることが当たり前になっているのだろうと、アイオロスは気づく。
「最近、よく遊びに来るようだね」
「ああ、彼は女神の信頼も篤い。指名での警護役も増えたので、聖域滞在も頻繁になって、そのついでに立ち寄ってくれるのだ」
 そういう事を聞いたんじゃないんだけどなあと、アイオロスは内心で少しだけ零した。その間にも、星矢が元気な挨拶とともに部屋へ駆け込んできた。
「サガ、いる?」
 応えるように振り返ったサガの髪が、一瞬でさあっと闇色へと変わった。星矢へ向き直ったときには、完全に人格変異を終了している。通称黒サガと呼ばれる闇のサガだ。目の前のサガの変化にアイオロスはぎょっとしたが、星矢は何の動揺もなく黒サガへ笑顔を向けた。そして隣のアイオロスに気づくとぺこりと頭を下げる。
「アイオロスも居たんだ、こんにちは!」
「ああ、こんにちは」
「サガに渡すものがあって立ち寄っただけなんだ、すぐ女神神殿に行くから安心してくれ」
 他意があるのかないのか判らない台詞とともに、がさごそと紙袋から何かを取り出している。
「これ!前にサガに話したことあったよな。凄く辛いって」
 星矢が手にしたのは、ハバネロを原料につくられたというスナック菓子。
「例の駄菓子か」
「サガは辛党だって言ってたからさ、いけるかなと思って」
 よければアイオロスも食べてねと、菓子を黒サガへ押し付けた星矢は、本当に慌しくそのまま上宮へと登って行ってしまった。にっこり片手を振って見送っている黒サガへ、アイオロスもにっこりと告げる。
「よければ俺にも分けてくれる?」
「断る」
 いつもどおり、こちらのサガはアイオロスに対してにべも無い。
「ケチ。っていうか、何で君なの」
 何で、というのは、何故黒サガのほうで対応したのかという問いだ。しかし、サガのほうが不思議そうに首を傾げる。
「わたしが呼ばれたからだが」
「…いつ」
「今だ。わたしの方を呼んだのを、お前も聞いていたろう」
「……」
 アイオロスは黙り込んだ。星矢はサガの名を呼んだだけだったが、それだけで互いに通じているというのか。
「大体君は甘党じゃなかったのかい?」
「アレはな。わたしは辛い方を好む」
 すると、やはり星矢の用件はこちらのサガにあったのだ。ならば闇のサガの出現に慌てていなかった様子にも納得がいく。最初から彼に会うつもりで呼んだのだから。
 名を呼ぶだけでこちらのサガを引き出せる後輩を、アイオロスは一瞬羨んだ。
 しかし羨むだけで終わらせる気は無い。
 用事は済んだとばかり黒髪から銀髪へ戻りつつあるサガへ、アイオロスはぼそりと伝える。
「君が断っても、この菓子、俺も貰うからね」
 人格移行しかけていたサガの様子が、ぴたりと止まる。
「断るといったはずだが」
「星矢は俺にも食べてくれと言っていたし」
「それほどこの菓子を食いたいか!光速で日本へ飛んで購入してくればよかろう!」
「君と一緒にそれを食べたいの。もうひとりの君ならきっと分けてくれると思うけど」
 確かに彼がいつものサガへと戻れば、常識に従ってアイオロスへと菓子を分けるだろう。それに思い当たった黒サガは、唸りつつ人格変異を止める。
「駄菓子ごときにそこまでするか、貴様」
「ああ、俺にも分けてくれるまでは手段は選ばないよ」

 その心を、とまでは言葉にせず、アイオロスはサガへ片手を差し出した。


2012/7/21
◆ハバネロ2…(白サガとアイオロス)


「……」
 サガは黙ってテーブルを見下ろした。
 卓上にあるのは、空になったジャンクフード(とサガには思える)の空き袋。それを食べたのは目の前に座る射手座の主と、もう一人の自分。
 ちょっと入れ替わっている間に、二人で星矢の土産の菓子を食べていたらしい。
 アイオロスはサガの無言を人格交代後の調整時間と思っているようで、ソファーに背をあずけたまま、サガから話しかけてくれるのを待っている。
(確かにわたしは甘党だけれども、星矢の土産なのだ。アレも少しくらいわたしに気遣って残してくれていても良いではないか。しかも、いつの間に親しくなったのか、アイオロスには分けたのか。いや、アイオロスは客分ゆえに分けるのは当然かもしれないが、あんなに彼のことを嫌っていたくせに)
 珍しくサガはむっとしたのだ。もう奥底へ引っ込んでしまったもう一人の自分に。
(いや、嫌っているというのは違うな。アレは…アイオロスを認めているがゆえに、勝手な理屈で反発している。それを思えば、アレと彼が親しむのは喜ばしいことかもしれぬが)
 …なのに、何故腹が立つのだろう。

「ええと、サガ?」
 アイオロスが遠慮がちに話しかけてきたので、サガは慌てて顔を上げる。
 さすがに無言が長く、心配したようだ。
「お前は辛党か?」
「え、俺?」
 サガの突然の問いにアイオロスは目を丸くした。ニ〜三度目をしばたかせたあと少し首をかしげ、にっこり笑う。
「そうだな、どちらも好きだけれど、どちらかといえば甘党かも」
「そうか。ちょうどデスマスクの持って来てくれた蜂蜜菓子がある。持ってくるので一緒に食べよう」
「喜んで」

 アイオロスが甘党と言ってくれたことに、どこかほっとしながら、サガは菓子と茶を用意しに台所へ向かった。


2012/7/24
◆海水浴…(双子と星矢と瞬で)


「サガ、サガ、海に行きたい!」
 そう言いながら、すっかり準備万端の装いで飛び込んできたのは、青銅聖闘士の後輩・ペガサスの星矢だ。その後ろから遠慮がちに瞬がついてくる。
「星矢、サガにも予定があるのだから、急には難しいのでは」
「無理だったら諦めるけど、今日はお休みだよな?」
 突然の闖入者を、リビングで珈琲を飲んでいたカノンは『うるせえぞ』という目で睨み、朝食後の皿を片付けていたサガは目を丸くした。
「先ほど、カミュたちが海水浴へ行くからと、ここ双児宮を通り抜けていったばかりだ。今から追いかければ、一緒に行けるのではないか?」
 二人分の食器を棚の中へしまい、振り返ったサガは優しく答える。
 水瓶座のカミュがめずらしく氷河と一緒に夏の海へ行くと言うので、微笑ましく見送ったのがほんの数分前のこと。途中でアイザックとも合流予定だという。師弟水入らずではあるが、星矢と瞬であれば皆喜ぶだろう。
「ホントは一緒に行くつもりだったんです。氷河も一緒に行こうと言ってくれていましたし、泳ぐのにうってつけの、とても綺麗ないい場所があるって」
 瞬が申し訳なさそうに言い、カノンの方へもぺこりと頭を下げる。
「では、どうして?」
「だって、よく聞いたら『シベリアの海も夏は流氷が減って水がぬるむ』だの『アザラシを捕まえてバーベキューにしよう』とか言ってるんだぜ!俺たちの思ってる海水浴と違う!」
「…ああ、それは違うかもしれないな」
 星矢の言い分を、多少遠い目でサガは聞いた。シベリアも夏はそれなりに暑いのだが、カミュたちが暮らすあたりは永久凍土のエリアだ。星矢と瞬が海水浴を楽しむには厳しい気候だろう。
 横から瞬も言葉を添える。
「その、カノンならいい場所を知っているのではないかなと…」
「ふむ、そうだな」
 サガは頷いた。海将軍だからと言わないのは瞬の配慮に違いない。
 弟が後輩たちに頼られているのは、内容がなんであれ、少し嬉しい。
「カノン、どうだ?」
 振り向くと、ちゃんと話は聞いていたのか、カノンはぶっきらぼうながらエーゲ海の無人島の名前を挙げた。海将軍としてのカノンが所持する拠点のひとつで、砂浜も岩場もあるという。
「じゃあ早く行こう!」
「お二人と一緒に海に行けるなんて嬉しいです」
 子犬のようにサガへじゃれつく星矢と、控えめな喜びを表現している瞬は、まだまだ子供だ。聖戦時には黄金聖闘士をも上回る力を発揮するようにはとても見えない。
 『一緒に行くとはまだ言ってねえ』と言いかけたカノンの頭を小突き、サガは水筒とバスケットを探すために戸棚を開いた。

2012/8/15
◆海水浴2…(双子と星矢と瞬で)


 見渡す限りに広がる海原と白い砂浜のまぶしさに、サガは目を細めた。
 一緒に来た星矢や瞬は、準備運動もそこそこに駆け出して、既に海へ足をつけている。
 カノンが水辺から少しだけ離れた木陰にシートを敷いたので、サガは昼食の入ったバスケットやタオルをそこへ置いた。
「ガキどもは元気だなあ」
「まだ若いからな」
「おいサガ。その言い方、年寄り臭いぞ」
 自分の言い草を棚に上げ、呆れたようにカノンが言うのでサガは笑った。
 いかにも『面倒臭いが付き合ってやっているのだ』という表情のカノンだが、本当に面倒であったならさっさと逃げて、この場にはいないであろうことをサガは良く知っている。
「若いおまえも早く泳いでくればいい」
 そう返してサガはシートへ腰を下ろした。日陰ではあるが、好天の浜辺だ。日焼けするだろうなと内心でひとりごちる。
「おまえは泳がないのか?」
「ああ、水着を持ってきていない」
「やっぱりな。おまえが水着を持ってるわけないと思った」
 返答を予測していたのか、カノンは頷く。
 サガとしては、訓練用の水着でも聖域の倉庫から貰ってこようと軽く思っていたのだ。
 聖闘士候補生たちは海での戦闘も学ぶ。カノンの前では言いにくいが、主に海界との戦闘を想定してのものだ。泳ぎや潜水の修行も当然ある。その際に使われる水着を購入させて欲しいと頼んだサガへ、しかし、倉庫番の返事は「水着などありません」という、すげないひとことであった。
 いざ戦闘となれば、わざわざ水着に着替えられるわけでもない。よって、水場の訓練もすべて通常訓練着で行われるとのことらしい。
 考えてみれば、聖域は現代水着などない時代から同じ修行法でやってきているのである。別口で海水浴に出かけたカミュや氷河たちも、水着を持って行ったようには見えなかった。
 競技とは違うので、泳ぎの効率などは考えなくて良いのかもしれないが、どうりで訓練中の水難事故が多いはずだとサガは頭を抱える。
 改善せねばとの決意は横に置き、そんなわけで水着は入手できなかったのだ。
 カノンが肩をすくめて兄へ言った。
「少し待ってろ。この島の詰め所に予備の海パンがあったはず」
「詰め所?」
「ここは海闘士の拠点の1つだと言ったろ。海界は旧態依然とした聖域よりも合理的なんだぜ」
「……ありがとう」
 それは13年前におまえが手を入れて、一から新しく稼動させたからだろうと思いつつも、言葉には出さないでおく。何もないところからたった十数年で、聖域とやりあえるほど組織をまとめあげるのは並大抵の苦労ではなかったろうが、今は厭味を言う場面でも褒める場面でもない。
 過去の感慨を押さえ込むサガに対して、カノンはドライだ。
「礼は言わなくていい。もう一人のおまえが出てきたとき、あいつは水着なくても平気で海に入りそうだからな。一種の保険だ」
「……」
「おまえも脱ぐなよ?」
「……」
 言い返せないでいるうちに、カノンは詰め所とやらへテレポートしてしまった。
 サガは視線を海に戻す。きらきらと波が光を反射させている。
 波際で遊んでいた星矢と瞬が、本格的に泳ぐため服を脱ぎにサガのところへ戻ってきた。
「あれっ?カノンは?」
「カノンがいませんね」
 二人はすぐにカノンの不在に気づいて、きょろきょろ辺りを見回している。
「今、海闘士の拠点とやらへ水着をとりに行っている。すぐに戻る」
「そうなんだ、海闘士の拠点って見てみたかったな」
「だめだよ星矢、聖闘士に見せてくれるわけないよ」
 子供らしい会話にサガは和む。
「わたしたちを入れてくれるような場所だ。そう重要な拠点でもないのだろう」
「それも、そうですね」
「海将軍の連中ともそのうち一緒に泳ぎたいよな。なかなか会えないけど」
「そういえば、おまえたち、水泳は得意なのか?」
 ふと尋ねると、星矢は胸をはった。
「魔鈴さんに数え切れないほど海へ突き落とされたからな。荒海の岩場も泳ぎぬけられないと陸へ戻れないし。というか本当に死んじまうし」
「僕はアンドロメダ聖衣の取得条件がサクリファイスでしたから、自然と潜水は鍛えられました」
 ちなみにサクリファイスとは、波間の岩にアンドロメダの鎖で縛られ、その岩が満潮で沈む前に小宇宙で脱出するという聖衣取得最終試験である。試験前の模擬ではただの鎖で代用するであろうものの、成功するまでは幾度と無く海に沈んだに違いない。
(聖域への水着導入は必要ないのだろうか…)
 遠い目で青銅の話を聞いていたサガは、星矢によって服を脱がされ始めたことに気づいて慌てる。
「ま、まて。話を聞いていなかったのか。カノンがいま水着を取りにいっていると」
「いいじゃん、カノンが戻ってから履けば。早く泳ごうぜ!」
「星矢!サガが困ってるよ」
 隣では瞬が恐縮したように諌めながらも、仲の良いじゃれあいと見て本気で止める気はないようだ。
 最後の一線を争っての28歳と13歳の攻防は、戻ってきたカノンが二人の頭に拳骨を落とすまで続いた。

2012/8/17
◆独特な表現…(双子でプチΩパロあり)


「なあサガ。おまえ、あの小僧のことどう思ってんだ」
 カノンはサガに尋ねた。前から気になっていたことだ。
 あの小僧というのはペガサス星矢のことである。そこは双子同士、名前をださなくとも通じる。
 己の野望を阻止した青銅聖闘士を、サガはことのほか可愛がっている。
 好意を持っているのは見ていてわかるが、その好意が一体どこまでのものか、カノンは真正面から尋ねたのだ。このくらい直接尋ねないと、博愛かつ愛情音痴なサガには通じないという判断もある。
 サガは弟の問いを受け、しばし考え込んだ。
(そうだな…彼はわたしの希望そのものだ。真っ直ぐな小宇宙で、わたしを助けてくれた。いや、恩だけではない。今も彼の笑顔はわたしの心を温かくする。光輝く女神と同じように)
 胸に手をあて、己の気持ちを確かめたサガは、溢れ零れる想いをそのままカノンに伝える。
「星矢は女神のようだと思う」
「……」
 しかしカノンは微妙な半眼になったあと、呆れたようにサガの肩をぽんぽんと叩いて、長い長いため息を零した。

2012/8/19
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