JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆ハロウィンの来訪者…(子双子)
「お前はどうして、そのような酷いことをするのだ!」
双児宮にサガの声が響きわたった。
とはいえ、この声が外へ漏れることはない。空間の歪んだ迷宮で周囲をとり囲まれているからだ。
サガが非難を向けている相手は、双子の弟カノン。
カノンのほうは、肩をすくめて説教お断りの態度を隠していない。
「べつに酷くないだろ。ハロウィンてそういう日だろ」
「脅かすために小宇宙まで使って、恐ろしい幻覚を見せるなどやりすぎだ。子供たちは泣いていたし、大人まで恐怖に震えていたではないか」
街には仮装した人間が溢れている。もちろんギリシアではなく、アイルランドなどケルト文化圏エリアでのことだ。聖域から離れすぎず、しかし目の届きにくい距離、そして仮装。顔を隠したカノンが遊び歩くには格好の条件といえよう。そして実際に双児宮を抜け出したカノンは、喧騒にまぎれ、あちこちで狼藉を働いたのであった。
異次元迷宮や幻覚を駆使したカノンの悪戯は、新たな都市伝説を作り出すほどのレベルである。気づいたサガが記憶を改変して回らなければ、重度のトラウマを生みまくったことは間違いない。
しかし、カノンは馬耳東風とばかり聞き流し、プイと頬を膨らませたのだ。
「だってオレのとこに来てくれるお化けなんていないし、それなら自分で楽しんだ方がいい」
「カノン…」
そんな風に言われると、サガも負い目があるぶん強く言いにくくなる。
カノンは双子座の影として、サガの弟であることは秘されている。よって公に私生活を楽しむことも許されてはいない。彼の悪行は、そんな鬱屈を発散するための八つ当たりでもあるのだ。
サガとて黄金聖闘士の立場があり、私生活を遊びに費やしたり、まして異教のイベントを楽しめるような身上ではないのだが、カノンにはそのようなことは判らないのだろう。
しばらく黙っていたサガは、何かを決意したように顔を上げた。
「わかった。きっとお化けがお前のところにも尋ねてくるから、待っていなさい。さすがに双児宮へは女神の結界で悪霊も踏み込めぬので、修行小屋のほうで」
予想外のことを兄が言い出したので、カノンは少しだけ興味をひかれたようだ。
「ふうん?何かわからんが、いいだろう。待ってるぞ」
黄金聖衣を着て何処かへと去っていった兄を見送り、カノンは鼻で笑っていた。
(おそらくサガがお化けの仮装をしてくるんだろうが…真面目なアイツが一体どんな格好でやってくるのやら。半端な仮装をせいぜい嘲ってやろうではないか)
それでも、兄が自分のために動くというのは嬉しくて、小屋に行く足取りは軽くなっていた。ちなみに修行小屋の周りにも結界は張られている。聖域の外れとはいえ、姿を見られぬよう用心にこしたことはない。
いっときほどしただろうか。小屋の中で待つカノンの耳にノックの音が届く。それとともに、邪悪な気配が小屋を取り囲んだ。
(へえ、雰囲気から整えてきたか。そういえばアイツは完璧性だった。ヘボい仮装を笑ってやるつもりでいたが、サガは細部までこだわりそうだぞ。一体どんな格好で来たんだか…)
そんなことを思いながら扉を開けたカノンの前にいたのは、見たこともない異界の怪物であった。
頭のない蜘蛛のような身体、その背中に長い触手をもつイソギンチャクがくっついている。それぞれの触手の先端には鋭い爪が揺らめいて獲物を狙っていた。この場合の獲物というのはカノンにほかならない。
「ちょ、え、おい!」
慌てているカノンにむかって、その触手が伸ばされてきた。どうみても捕まったらアウトだ。
聖闘士の反射神経で何とかくぐり抜け、とりあえず逃げようとするも、小屋を囲む迷宮が自分に対しても発動していることに気づき青ざめる。空間が閉じていて、逃げ場がない。
(サガの仕業か!何を考えているのだヤツは!)
どうしたものか思考をフル回転させていると、そのサガの小宇宙が届いてきた。
『頑張るのだカノン。それはわたしでも捕まえるのに手こずった強いモンスターだ、気を抜くとやられるぞ』
「オレを殺す気か!」
『大丈夫。お菓子を渡しなさい』
「持ってねえよ!ていうか持ってても無駄だろこれ!」
黄金聖衣着用の本気のサガが手こずった怪物を、装備なしの自分がなんとかできるとは思えない。攻撃をかいくぐりつつ技を放ってみたものの、サガの作り出した迷宮結界が効力を弱めているせいか、あまり効いているようにはみえない。
『お菓子を渡せばおとなしくなるよう幻朧魔皇拳を撃ってある。ハロウィンを楽しみたいようなことを言っていたのに、なぜお菓子を持っていないのだ』
「菓子の有無で生死を危ぶむような想定はしてねえ!」
『仕方がない、これを使え』
とても弟の生死を心配しているとは思えぬ声とともに、黄金聖衣が目の前に現れる。
一も二もなくそれを着用したカノンは、アナザーディメンションで何とか怪物を異次元へと送り返したのだった。
荒く息をつくカノンのとなりへ、修行服のサガが近づいてきた。聖衣など着ていなくとも、黄金聖闘士にみえるのはやっぱりサガのほうだとカノンは思う。
「楽しめたか?」
「ふざけんな、こんなのハロウィンじゃねえよ」
慣れぬ黄金聖衣着用で、かなり体力を消耗していたカノンではあったが、それでも弱った素振りはみせなかった。正規の守護者である兄への意地でもあった。
「そうか…わたしもハロウィンというものをしたことがないので、少し違うような気もしたが…」
サガの方がいくぶん元気のない顔をしている。弟を喜ばせてやれなかったことを悔しく思っているのだが、今のが嫌がらせではなく、本気のサプライズっぽかったことにカノンは声もなかった。
が、私生活での兄の天然っぷりは今に始まったことではないと気を取り直す。
「あのな、こういうのはお前がお化けになって脅かしにくるものだろ」
「そうなのか?」
首をかしげたサガの髪先が、少し黒ずんだようにみえたのは気のせいか。
「では、わたしが死んだ時には、必ず化けてお前のところへ来ることにする」
「そういう意味じゃねえよ!」
未来で果たされることになる約束を、知らずしてサガが口にしたのだということを、その時はまだ両名ともに知るよしもない。
殴りつけようかと思ったカノンの前へ、サガは両手でキャンディボックスを差し出した。
「楽しませてやれなくて、すまない」
「これ、どうしたんだ」
「町で買ってきたのだ」
「……」
聖域に暮らすものにとって、嗜好品はすなわち贅沢品だ。サガが黄金聖闘士であるからこそ、このように外で入手できる品なのだ。
落ち込んだかのようなサガの顔をみていたら、なんだかバカバカしくなり、カノンは拳をおさめてそれを受け取る。
「これ、一緒に食おうぜ」
「カノン、怒っていないのか?」
「訓練にはなったからいいさ」
文句を言いながら小屋へ入ったカノンのあとを、サガがついて行く。
「良かった、さきほど黄金聖衣を渡すより、これを渡したほうが早いかとは思ったのだが…」
「ああっ!ほんとだよ、思ったのならそうしろよ!!!」
「お前のために用意した菓子を、お前があの化物にやってしまうのは、何となく嫌だったのだ」
「…バーカ」
カノンはさっそく飴玉をひとつ取り出して口に放り込む。
人工的に色づけられた真っ赤な飴は、甘いものに慣れぬ舌をひどく痺れさせた。
2012/10/31
◆パラドクス…(カノンとサガで11/4のΩ視聴会話)
「カノン、今日は後輩の活躍する日だな」
「ああ、Ω見るために日本への出張を引き受けたんだものな。さっそくTV見てみようぜ」
「地球滅亡まであと10時間57分か…大まかな火時計と違ってやけに正確だ」
「金牛宮からの開始のようだぞ。あれが主人公か」
「ふふ、どの時代もペガサスは友思いらしい…む、ハービンジャーとやらは面白いことをする」
「光速拳で時空をゆがめて、必殺技で飛ばした敵を別場所へ送ったのか。へえ、物理攻撃をそんな風にアレンジするなんて、こいつセンスあるじゃん。じゃあアルデバランにも時空を曲げる素養があるってことか。アナザーディメンションにこれで対抗されたら、どうなるんだろう」
「異次元と同空間の差はあるが、面白い可能性だと思う。今度アルデバランと手合わせがてら試してみよう。おや、一人双児宮に飛んだようだ。双児宮から次元の干渉が感じられるのところをみると、次代の双子座が引き寄せたのだろうな。あれが紫龍の息子か」
「龍峰ねえ。ちっこいし病弱そうだし、聖闘士がこんなんで大丈夫なのかよ…な、なにいっ、なんだこの双児宮内部!」
「…ただ迷宮を作るだけでは芸が無いと思ったのかも知れぬ」
「この色彩やばいメルヘン空間がか!うわ、リスがしゃべった!リスに案内させるとか!他の小動物もジェミニを褒め称え出してるし!しかもどっかで聞いたフレーズだし!誰にでも愛される心優しい愛の聖闘士とか(サガの方をみる)」
「…一緒にしないでくれ…これは幻覚作成者が言わせている自画自賛だろう(ちょっと居たたまれなくなっている)」
「胸のでかい女がでてきた」
「カノン、後輩の第一感想がそれか。他に思うところがいろいろあるだろう。ヘッドパーツのバケツがイヤーマフになっているとか」
「つっこみが追い切れねえんだよ。というかお前の第一感想こそソレか。女黄金聖闘士なのは知っていたけど、改めてこうしてみると新鮮だな。顔は好みだが、何で仮面をつけていないんだ」
「その説明を始めたぞ。ふむふむ、素顔を見られたら殺すか愛するしかない…だから愛してあげる……お、押し売りか(汗)」
「斬新だぜ…大体何歳なんだこの女。紫龍の息子は確か13歳くらいだろ。あ、押し倒してる」
「紫龍に憧れてラブレター書いたこともある、か。自分で愛の聖闘士というだけあって、積極的な女性のようだ」
「マルスを大いなる愛の人とか言ってるぞ。この女のなかの愛の定義って凄いな。オレは嫌いじゃないが。どうでもいいが、頬へのキスで相手を吹っ飛ばす技の仕組みを知りてえ」
「技なのだろうか…技なのだろうな(汗)紫龍の息子は降伏の勧めを蹴ったか。うむ、聖闘士として当然だが、病弱の身で黄金聖闘士へ戦いを挑むのは果敢なことよ」
「全部あっさり避けられてるけどな。しかも次の技の予想までされてる。残存体力の関係で最短かつ最後に廬山昇龍覇を撃つことも」
「予想は簡単だが、龍峰の技をどう返すかが問題であって…まあ青銅の技など黄金からしてみれば、避けるまでもない威力ではあるが。さて、私たちの後輩はどうするかな」
『でもわたしの方が上手いもの。廬山昇龍覇!』
(パラドクスの台詞で、飲んでいた紅茶を噴出すサガとカノン)
『愛する人の技ですもの、あなたの何百倍も練習したわ』
「……」
「……」
「カノンよ」
「なんだサガ」
「技の継承方法というのは、色々と可能性が広いな。師弟関係となって学ばせることしか思い浮かばなかったわたしは、まだまだ頭が固いようだ」
「いろいろ凄いぜ次世代。まさか廬山昇龍覇を放つジェミニが見れるとは。しかもピンクの」
「この娘は幼少のころから未来をみる力があったようだな。そのせいで両親に気味悪がられ愛されなかったのか…死を予知して外出を止めたのに聞き入れられず、両親とともに車の事故で死にかけ、紫龍に助けられたこの娘は、赤の他人である紫龍から無私の愛情を受けて、愛情というものへの概念がおかしくなってしまったのだ。多少気の毒ではある」
「まあな…それで紫龍めざして聖闘士になったのか。名前も過去も全て捨ててパラドクスという名前でもって。いやでも修行中も仮面してねえぞ。それって…ま、まさか全部『愛してあげる』のスタンスで来たってのか!?」
「ただでさえ愛情の概念がおかしくなっていたところへ、聖域で女聖闘士の掟である『愛するか殺すか』を教えられたことによって、余計に愛というものへの認識が狂ってしまったのだろう。そう考えると聖域にも責任の一因はあるように思う」
「確かにな…それに、この女がたとえ仮面を外して紫龍に迫っても、紫龍は盲目ゆえ顔を見ることができないんだよな。春麗もいるし、愛情を注がれたり、愛情を受け取ってもらったことがないってことか…少し気持ちはわかるような」
「…わたしは、お前を弟として愛していたぞ」
「…すまん」
「む、双子座らしい技も使い始めた。因果の外で無限の未来のなかから二つを見せ、選択肢をせまる技か。片方はマルスに主人公たちが敗れ地上は荒地となり、龍峰は五感を失って、嘆く春麗の腕の中で死にいたる世界」
「もう片方はマルスが勝利し、火星へ移住した人たちが争いなく平和に暮らせる上、パラドクスのとりなしのお陰で紫龍も五感を取り戻せて息子と幸せに暮らせる世界…平和な世界にするために降伏してこちらの世界を選べと迫るわけだな。えげつねえ技だが、相手の精神もくじくという方法としては面白い」
「これは悩むだろう。偽りの幻覚とはいえ」
「未来を読む力のある娘の見せた世界だぜ?それを偽りと断じるか」
「ふ…お前とて判っているだろう。女神を見捨てた世界で、敵に降伏した息子ととともに、あのドラゴンが笑顔で暮らすと思うか?」
「そりゃそうか。ま、あの幻覚じゃ未来を信じる若者には効きが薄いかもしれんな。案の定、自分達は別の未来を掴むと龍峰に反発されて技を破られたじゃねえか。一撃を食らっちまうし」
「景気良くすっとんだものだ。あの女性も双子座としてはまだまだ修行が足りぬ」
「そういうお前もペガサスにすっとばされたことあったろ」
「あれはペガサスだから仕方がない」
「お前ほんとペガサスには甘いよな…って、おい、女の髪の色と人格が変わった!」
「こちらは『憎しみのジェミニ(自称)』か」
「愛と憎しみの二重人格…サガ、良かったな。正統派の後輩が出来て」
「お前の後輩でもあるのだぞ」
「あ、『女の顔に攻撃するクズが!』ってガスガス攻撃しだした。何かもうひとりのお前に似てる。気に入ったわ」
「わ、わたしはこんな風か!?」
「ああ、アニメの悪のお前はあんな感じ」
「(しくしくしくしく)」
「でも、憎しみの人格っていいながら、自分が花を踏んでいる事に気づいたら、その花を直してやったぞ…優しいんだろうか」
「逆に愛の人格を主張していたほうは、春麗を『あの女』呼ばわりであった…パラドクスの名のとおり、一筋縄ではない女性のようだ」
「春麗といえば、遠く中国からまた息子の危機の気配を察知していたぞ何者だ」
「彼女もいろいろ才能を秘めた女性だと思う」
「これは来週も見るしかないな、なあサガ、来週は有給とって遊びにこようぜ日本に」
「子供向けアニメを見るために黄金聖闘士が有給か?」
「でも続き気になるだろ」
「……まあ」
「ついでに日本観光するのはどうだ?この時期紅葉が美しいらしいし、たまには兄弟水入らずでさ」
「デートか」
「何かいったか?」
「いや、なんでもない」
2012/11/4 Ωでの双子座聖闘士パラドクスちゃん可愛いよ!
◆パラドクス2…(アスプロスとデフテロスで11/4のΩ視聴会話)
「ふ、女が黄金聖闘士になる日がこようとは、時代は変わるものだなデフテロス」
「女であろうが、力こそ全てだアスプロス」
「この女、仮面をつけておらぬようだが」
「付けたくないのなら付けなくても良かろう。ドラゴンの前でだけかもしれぬし」
「そういえばお前は仮面嫌いであった…いや、力ある者だからこそ、その自由が恐ろしいのだ。黄金聖闘士の域にあるものが、愛するか殺すかを自在に選択するということは、相手の生死を自由に決めることができるということだ。殺すことを選んだ時点で、白銀以下の者はまず殺されるしかないのだからな。あの掟は聖域にとって諸刃の剣でもある」
「ふん、おとなしく殺されるような根性のない者はそれまでよ」
「…お前は『この世に必要のないものは死ぬだけだ』などと言っていたな」
「アテナであれば『この世に必要のない者などおりません』となるのだろうがな」
「それにしても、双子座が廬山昇龍覇を使うとは」
「それは判る気がする」
「そうか?」
「愛する者の最高の技…オレも何百回となく練習したものよ。しかし、ギャラクシアンエクスプロージョンはアスプロスが必死の修行のもとで得た兄用の奥義!普段は封印をせねば」
「…いや、デフテロス。双子座のお前が双子座の奥義を何百回練習しようが、何の問題もないのだが」
「『愛する者』には訂正をいれないのだな?」
「…減らず口を叩くと、またその口を仮面で塞ぐぞ」
「出来るものなら、やってみるがいい」
2012/11/5
◆好きなひとの技…(まだ引っ張るΩネタ)
サガの拳が一閃したかと思うと、闘技場の片隅に置かれた大岩が小石と化して崩れ落ちる。彼の放った技の衝撃によって砕かれたのだ。
周囲の雑兵たちからは感嘆の声がこぼれたが、拳を見つめるサガの表情は浮かぬままだ。
「まだ大分早いか…」
肩を落としている兄の横で、呆れの色を隠さないのがカノンだ。
「な、判ったろ?お前には無理だって」
サガの鍛錬につき合わされているのだろうが、それにしてもどうでもよさそうな態度である。
「いや、もう少し頑張れば」
「拳速をハイパーソニックにも落とせてねえじゃないか。まずは1秒間に100発程度の音速から始めてみろよ」
「こう…か?」
心もとない返事と共に、砕かれていた小石の山が砂礫となった。二回目の挑戦の結果だ。
だが、カノンの指摘はきびしい。
「何だそのきっかり0.01秒間隔パンチは!メトロノームか!ランダムに放たなければ、すぐに読まれて避けられちまうだろ!」
「まずは1秒に100発の感覚を計ってみたのだ。しかし、思った以上に遅い…。なあ、カノンよ。考えてみれば光速で撃ってもいい気がするのだが。むしろ光速拳が完成形の気がする」
「駄目だ。まずは基本の形をしっかり身体に叩き込めというのは、お前がいつも言うことだぞ。あと力の篭め具合がピンポイントすぎて、パンチというより生ぬるいスカーレットニードル乱打ぽくなってる」
やる気はなくてもカノンは黄金聖闘士であった。雑兵では目で追う事もできぬサガの拳を正確に捉えている。サガの修練アドバイザーとしては最適の人間だ。
「時間の余裕があるぶん、つい、破壊点を絞りたくなってしまうのだ」
「もっと大雑把でいいと思うぞ。変なところで融通きかないなお前は」
「…そもそも100発放つのならば、確実に1発当てて倒せば良いのではと思ってしまう」
「おまえ、ライトニングプラズマ撃ってるアイオリアに同じこと言えんのか?だいたい、お前は一撃にパワーをこめるタイプなんだよ。ちまちま連発する性格じゃないんだから、変な癖がつく前に諦めろって」
カノンの指摘にもサガは頷かない。
「わたしとて星矢の流星拳を放ってみたい」
「それは判ってるよ!お前パラドクスに変な感心をしていたからな!どうせ実戦で使わないんだから、もう今のやつでいいだろ。お前のそのテキトー拳でも、そのへんの一般ブロンズの必殺技より強そうだしさ」
青空の下、響く双子の言い合いの横から、アイオリアがそっとたしなめる。
「なあ、真面目な雑兵たちのモチベーションが下がるので、お遊びは他所でやってくれないか」
カノンはもっともだと同意し、サガは顔を赤らめた。
2012/11/8 でもサガは小器用に流星拳もこなしそうですよね。
◆好きなひとの技2…(聖域で流行った)
黄金聖闘士のサガですら影響をうけたのに、一般の雑兵たちが流されないわけがなかった。そんなわけで、いま聖域では好きな相手の必殺技を習得するのが流行っている。
当然シオンは渋い顔だ。
「たわけが。未熟者は一心にまず自分の技を磨け。パラドクスは黄金の位まで小宇宙を研鑽し、自分の技を開発した上で、趣味でドラゴンの技を覚えているのだぞ。そもそも聖闘士はその技とて星座の加護を受けている。いたずらに目を移したところで…」
童虎がまあまあと旧友を宥める。
「好きこそ物の上手なれというではないか。あの浮ついた空気は一喝せねばならんと思うが、他者の使う技を知るというのは、己の技を見つめ返すのに役立つこともあるでの。紫龍もシュラから技を受け継いで腕を磨いたのじゃぞ」
「技を受け継ぐということは、心も受け継ぐことなのだと、理解と覚悟を得てのものならば良いが」
盛大にため息をついているシオンを、童虎は気晴らしに闘技場へ連れ出した。自分とシオンによる昔ながらの手合わせを皆へ見せ、引き締めをはかる目的もある。
天は高く、風がほどよく肌をなでる。絶好の修行日和だ。
そこへ、幾人かの訓練生と聖闘士が駆け寄ってきた。顔を見合わせる童虎とシオンへ、彼らは顔を輝かせながら訴えてくる。
「シオン様のあの『うろたえるなコゾー』を私たちにもお教え下さい!」
さっそくその顔ぶれは、要求通り青空に舞うこととなった。
そのとなりで童虎は苦笑しつつ、しかしその表情は楽しげであった。
2012/11/10