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◆2012-JUNK10

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆各国カレー1…(双子とアイアコスと蟹にシャカ)


 カノンが外出から帰ってくると、双児宮の門柱をくぐったあたりからカレー臭が漂ってきた。中を覗き込めば、通路を兼ねた広間にはテーブルセットが置かれ、サガとシャカにデスマスク、そしてアイアコスという不思議なメンバーが揃っている。
 テーブルの上には皿が並んでいた。そして置かれている数種のカレー鍋。
「おい、何だこれは」
 挨拶も忘れてカノンが問いただすと、サガが「おかえり」と言ってから説明を始めた。
「凄いだろう?各国カレーの試食会だ。とりあえず彼らの出身地であるインド、ネパール、イタリアンが揃っている」
 確かに凄いとカノンは思ったものの、それはカレーではなくこの状況についてであった。
「一体何があってこのような状況に」
「アイアコスがネパールカレーの話をしてくれたのだよ。そうしたらシャカがインドカレーとの違いを教えてくれてね。食べ比べをすることになったのだが、折角なのでそれぞれが自分の国のカレーを作って持ち寄ったのだ」
 説明を受けつつも、一体いつどこで、何故そんな会話がなされたのか、皆目検討のつかないカノンである。
 カノンと同じようにサガの人脈もなかなか広いのだけれども、そのなかでもサガと親しく交流のある面々は一見クセのある人物が多い。言い換えれば、サガの過去の前歴…女神への反逆者であった過去など気にしない者たちなのだ。
「さっさと着替えてこいよ。お前も分もあるぞ」
 声をかけてきたのはアイアコスだ。カノンとも面識がある。三巨頭のなかでは、さばさばとして付き合いやすい性格をしている。いつのまにサガと仲良くなったのか知らなかったが、それは食べながらでも聞けばいいだろう。
 しかしそこでカノンははたと気づいた。慌ててデスマスクに小声で確認をする。
「おい。サガにカレーを作らせてないだろうな」
 サガの料理の腕前は壊滅的だ。いや料理は彼なりに手順どおり作るのだが、余計な調味料をアレンジしたり、愛情と言う名の小宇宙を篭めすぎるために、サガの知らないところで料理が変質する。
「落ち着け。テーブルの上にギリシアカレーはねえだろ。俺がいるのにサガに料理なんてさせねえよ」
「そ、そうか。サガの手料理が無いなら安心して食えるな」
「…カノン、聞こえているのだが」
 最後の台詞だけ耳に届いたのか、サガが少しむくれている。
 しかし、皆はまだ知らないのだった。シャカの手料理もなかなか壊滅的であることを。

 各国カレー品評会の結果、次回はシャカにも手作りをさせず、イギリスカレーとポルトガルカレーを追加しようという話になった。

2012/8/29 つまり次回はラダとカーサ強制参加の巻

◆各国カレー2…(カノンとラダとアイアコスとシャカ。会話に参加してませんがサガと蟹もいる)


 各自の出身地もしくは修行地のカレーを自作し、試食しあうという大変マニアックかつ私的な三界極一部交流カレーパーティー。
 元々はシャカ(インド)・アイアコス(ネパール)・デスマスク(イタリア)・サガ(食事専門)というメンバーであったが、本日はカノンとラダマンティスの二人がカレーを作成することになっている。なっているというか、この二人以外の多数決によって勝手に決められたのだ。
 そもそもラダマンティスはカノンに呼び出され、彼へ会いに双児宮へ来ただけだと言うのに、門柱をくぐってみれば、謎のメンバーが試食会の準備をしていたのだった。
「おいアイアコス、何故お前が聖域にいるのだ」
「俺はこいつらと交流あるのでな。お前のカレー俺も食ってみたいし。でもってバレンタインに自慢したいし」
 何を言っているのかラダマンティスにはさっぱり判らなかったが、アイアコスの後ろでカノンが片手を挙げて挨拶したあと、その手をそのまま拝む形に変えるのが見えた。
(カノン、一体これはどういうことだ)
 小宇宙通信で問うと、カノンは形だけすまなそうに応える。
(カレーといえばイギリス式は外せない。となるとお前だ。お前でもカレーくらいは作れるだろう?そしてオレもお前の手料理を食ってみたかったという訳だ)
(何が『という訳だ』なのかさっぱり判らないぞ)
(奴らは自分の国のカレーを作って交流会を行っているんだが、それに巻き込まれてな。オレも作らされる事になったから、ついでにお前も巻き込もうと思って)
(………)
 カノンに悪気はない。ないどころか、ラダマンティスに信頼を置いているがゆえの扱いだから性質が悪い。それを判っていて受け入れてしまうラダマンティスにも問題はあったが、今はさておく。
 そんなわけで強制参加である。
「イギリスカレーを作ればいいのだな?というとビーフカレーか」
「オレは海界カレーということでシーフードカレーだ。材料は聖域の食糧倉庫のをお前も使って良いぞ」
 雑兵を呼びつけ、持ってこさせようとしている二人にシャカから声が掛かった。
「待ちたまえ、聞いていないのかね」
「「何をだ?」」
 カノンとラダマンティスが見事にハモる。
 そのことを気にも留めず、シャカは続けた。
「カノンよ、君は前回の会に参加しているので気づいていると思っていたのだが…私やアイアコスが食せるカレーというのが前提となる。つまり精進カレーであり、聖牛崇拝の地の者に牛はもってのほかだ」
 横からアイアコスが『別にオレは冥王様に鞍替えしてるからヘーキだぞ』と口を挟んだが、ラダマンティスとカノンは顔を見合わせた。

「牛を使わずにビーフカレーを作れと…?」
「精進用のシーフードカレーって具はなんだ…海草?」

 いきなり無茶ぶりを要求される二人であった。
 結局『大豆は畑の牛肉と呼ばれている。さらにミルクを使えばビーフカレーにはならずとも、牛関係カレーにはなる』というラダマンティスによる無茶ぶり返しと、カノンによるひじきカレーでパーティーは開かれることになる。
 正直、闇鍋的なカレーであったため、シャカ以外には不評であった。

 ラダマンティスとカノンがこっそり、まともなビーフカレーとシーフードカレーをお互いのためだけに作ったのはまた別の日の話である。

2013/1/30 年をまたいでますが続き物なのでこちらに
◆マナー教室…(星矢・双子・アイオロスで蟹ごはん)


 双児宮では、サガ主催による食事マナー教室の真っ最中であった。
 星矢は学校へ通っていない。そのため、通常であれば一般教養として教えられる機会に恵まれず(魔鈴が知識としては一応教えてはいたが)、そのことを知ったサガが実際の食事をともなう講義を提案したのだ。
 ちなみに、コース料理担当はデスマスクである。
 とはいえ、それは星矢を食事に呼ぶための名目上の建前であり、そのためサガの態度はかなり砕けたものであった。先輩と後輩としての立場と呼ぶにも、ずっと近しい。
「ついているぞ、星矢」
 となりに座ったサガが、星矢の頬についたソースを指ですくい、ぺろりと舐め取る。ここからして、マナー教室という建前もあったものではない。注意をうけたと思った星矢が、一層ナイフとフォークへ真剣に意識をむけるのをよそに、コース進行を監督していたデスマスクは深くため息をつき、カノンも当然ながら突っ込みをいれた。
「おい、行儀悪いぞサガ」
「堅いことを…双児宮内なのだし、少しくらいいいだろう」
 普段とまるで逆である。
 カノンの眉間に皺がよる。そういう表情をすると、彼は本当にサガに似ていた。カノンは無言で中指を皿のソースに絡め、それを唐突に隣のアイオロスの頬へなすりつけた。そう、アイオロスも同じく未来の教皇としてマナー教室に参加させられていたのだ。
 突然の狼藉にアイオロスがびっくりしていると、カノンはナプキンで親しげにそれを拭く。意味が判らず首をひねっているアイオロスを置いてけぼりにして、サガの眉がぴくりと上がった。
 カノンはしれっとサガに言い返す。
「な?見てる方はむっと来るだろ?」
「…う、うむ…」
 なるほどそうきたかと内心で感心するアイオロスであった。
(うーん、どう突っ込もうかなあ、喜んでいいのかなあ)
 サガが妬いてくれたっぽいことは喜んでいいのかもしれない。本人の自覚はないようだが。
「こういうことをしていいのは兄弟間だけなんだから、自重しろよ、サガ」
 続けられたカノンの言葉に対して、やっぱり突っ込もうと決意したアイオロスであったが、デスマスクの手にした銀盆がカノンの頭上へ落ちるのが先だった。
「おまえら、人の作った食事で遊ぶな。丁寧に味わって食え。サガもちゃんと小僧にマナーを教えろ。遊びなら帰るぞ」
 食事の場で一番偉いのは、時々デスマスクであったりする。
 サガもカノンも素直に謝り、星矢とアイオロスはあらためてデスマスクの食事を褒めた。

2012/9/12
◆裁定の場所…(双子とムウ)


 ムウは公正な男であった。ライブラの童虎も役目がら善悪を判定するが、それは厳しくシビアであり、時に導きや断罪まで伴う。それに対し、ムウのそれは相手の心情を慮ったものだ。優しさ、と呼んで良いだろう。
 しかし、そのせいで、聖戦後にはいらぬ揉め事まで持ち込まれることになっている。
「なあムウ、絶対サガのが悪いよな!」
「わたしはカノンの行いのほうに問題があると思うのだが、ムウはどう思うだろうか」
 ムウの裁定をあてにした双子が、白羊宮へやってくるのである。
「…シオン様に聞いてみてはいかがですか」
「あのジジイに聞いても『やかましい』と吹っ飛ばされるだけだ」
「その、シオン様の手を煩わせるのは…お前なら良いというわけではないのだが、その」
 サガがすまなそうに手土産の果物と菓子を貴鬼へ渡している。
 気遣いの意味合いだけでなく、一種の『将を射んとすれば馬』に違いない。
「二人ともお茶を飲んだら帰って下さいね」
 毎回けんもほろろに対応しているはずなのだが、一杯目のお茶がなくなる頃には、結局双子の話を聞く羽目になっているのだ。そしてそのうちにアルデバランがやってきたり、噂のシオンが立ち寄ったり、白羊宮は賑やかになっていく。人が集まると、ここは十二宮の入り口だ。雑兵や神官が差し入れを持ってきたりもする。
 貴鬼はとても嬉しそうだ。
(まったく、聖域では静かに落ち着いて修復仕事もできませんよ)
 それでも、仕事以外には誰の訪問もなかった過去のジャミールを思うと、悪くないなとの想いが胸中を掠めるのだった。


2012/9/22
◆秋の花見…(双子と星矢)


 星矢がアテナ神殿からの帰りに双児宮へ立ち寄ると、丁度サガとカノンが花見から帰ってきたところであった。聞くと自然のコスモス畑を見に行って来たらしい。
 空になったバスケットを持っているところからして、食事もシェスタも外で済ませてきたのだろう。
「へへっ、カノンは俺と同じで『花より団子』だろ!」
 星矢が軽口をたたくと、意外なことにサガから訂正が入った。
「いや、どちらかといえば、わたしのほうが食べている」
「そうなのか?」
 驚いた星矢がサガを見ると、照れたようにサガが微笑んでいた。
「カノンがお弁当を作ってくれるのでね。花見も楽しいが、わたしはそのお弁当をいただいていると、幸せだなと感じる」
 この場にデスマスクあたりがいたならば、ごちそうさんと流したことだろう。
 星矢は素直にそれを受け止め、意外そうにへえと返事をした。
 カノンがにやりと後輩の頭へ手を置く。
「オレは花派だぜ?」
「ええっ?」
 頭上の手のひらを引き剥がそうと抵抗しつつ、ますます意外さから星矢は目を丸くしている。
「自分の作った弁当より、花を見てるほうがいいからな」
「ふーん、それもそっか」
「花の蜜は別だがな」
「あ、なるほど!花の蜜を舐めれば花と団子が両立するんだな!」
 これまたデスマスクあたりがいれば、ノロケの一環と流したに違いない。
 しかし、カノンが何を花に喩えたのか気づかぬ少年は、その純粋さゆえに、サガがわずかに顔を赤くしたことも気づかぬままであった。

2012/10/1
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