JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆聖衣授与…(双子+教皇もしも)
「仁・智・勇を兼ね備えたカノン、これからはお前に双子座を任せることにする」
跪かせたサガとカノンを前にして、教皇シオンが厳かに告げる。
「は?わ…わたしがですか…」
思いもよらなかったという顔でカノンが顔を上げた。それでも教皇の前では、一人称を『オレ』ではなく『わたし』と整えるくらいには落ち着きを保っている。
隣ではサガが静かに切り出した
「仁はともかく、カノンこそ次期双子座にふさわしい立派な聖闘士だとわたしも思っていました。カノンに協力を惜しまず女神のため正義のために、このサガこれからも一命をかけて尽くしましょう…などと言うと思うか!」
静かだったのは最初だけで、途中からサガの髪は黒く化した。よほど衝撃だったのか、黒のサガが体裁を整えることもせず、表のサガを押しのけて無理やり出てきたのだ。
「仁・智・勇ならば決してカノンに勝りこそすれ、劣るとは思っておらぬ。どういうつもりだ妖怪ジジイ」
「おいサガ、今のお前に言われたくないぞ。しかしオレも聞きたい。何でオレが今さら表に出なきゃならないんだ。聖闘士になると自分のために力を使えないんだろ?面倒くせえ」
兄が隠していた闇をあらわにしたのを見て、カノンも態度を変えた。この頃のカノンは悪を自称し、やんちゃ盛りの時代である。黄金聖闘士となって生活素行に制限がかかるよりは、影の存在であれ自由に出来る方がよほどマシだと本気で考えている。
シオンはそんな二人に一括した。
「貴様らがそんなだからだ!カノンよ、お前を放っておけば好き勝手に小悪事をして過ごすだろう。それゆえサガに裏からしっかりと監督させる。お前は光の下で伸びるタイプだ。そしてまたサガよ。お前は人前に出しておくと内に闇を秘めてしまい、碌なことをせぬ予感がする。それゆえ、おぬしのなかの光も闇も、おぬし自身がきちんと制御出来るようになるまで、人目を気にせずにすむ立場で修練を積んでもらう。ついでに次期教皇としての修練もな」
双子は顔を見合わせ、同時にシオンへ尋ねる。
「「それが我等のためになると?」」
「私の見立てではな」
いつの間にかサガの髪は元に戻りつつあった。次期教皇の座を示されているのならば、一時影の立場であろうと構わぬと、黒サガも納得をしたようだ。
「カノンが光の下に立てるのならば」
「サガが教皇になれるのなら」
頭を下げた双子へ、シオンは内心で(この双子はまだまだ手が掛かりそうだ)と、こっそりため息をついた。
2007/9/8 また過去ブログ発掘シリーズ…
◆魔法少女化計画…(女神+黄金)
「みなさん、魔法少女になりませんか?」
目の前に跪いた12人の黄金聖闘士へ、女神は慈愛そのものの笑顔で微笑んだ。
「は?」
と、まっさきに返したのはミロだ。不敬な語調だが、咎めるものは誰もいない。むしろ、無言ながら同調する空気が流れている。
重い沈黙を破るように、シュラが尋ねた。
「畏れながら、魔法少女というのは何だろうか」
「魔法を使う少女のことです」
意味合いとしては理解できるが、皆が聞きたいのはそういうことではない。
「我らは魔法など使えませんが」
「ええ、私もですよ。ですが一般市民から見れば、あなた方の力はほとんど魔法に見えるでしょう。問題ありません」
何が問題ないのか全く判らないという目で、12人は女神を見ている。
「俺たち男ですが」
アイオリアが冷静に正論を述べた。
しかし、女神はにこやかにアイオリアの心を砕いた。
「大丈夫です。皆さんには女性となってもらいます」
無言であった空間に、押し殺した呻きや、「げっ」というあからさまな不服の声が漏れたのも仕方あるまい。
サガがおそるおそる抗議の声を上げた。
「女神、たとえ女性になったとしても、わたしは28歳なのです」
抗議ポイントはそこかよ!という皆の目がサガに集まったが、サガは真剣だった。魔法を使う28歳の女性は、魔法少女ではなく魔女だろう。
しかし、女神はその抗議をもいなす。
「安心してください。皆さんにはきちんと設定に沿った年齢になってもらいます」
「設定…?」
「サガやアイオロスは中三、シュラ・アフロディーテ・デスマスクは中二、残りの皆さんは中一の少女になって頂きますので」
最初は「なりませんか?」という勧誘であったはずなのに、いつのまにか強制実行が決定となっているようだった。その場の皆は青ざめる。
そんななか、さすがに肝の据わった童虎が、やんわりと尋ねた。
「そもそも何故、魔法少女になる必要があるのかの?」
「そうですね、そこから説明すべきでした」
一応理由があったのかと、黄金聖闘士一同は耳を傾ける。
「地上のどこかで大事があったとき、聖闘士をそのままの素性で派遣すると不都合な場合が多々あるのはご存じですね?」
皆は頷いた。たとえ必要であるとはいえ、宗教、政治、民族その他の理由で、アテナの信徒である聖闘士の入地を拒否されたり、問題の起こることがままある。その調整で時間をとられたり、現地の人間が危険に晒されたりするのは珍しい事ではない。
「しかし、魔法少女であれば、特定宗派とはみなされないでしょうし、正体が聖闘士であるとは思われないはずです」
思われたく無いです…と12人全員が胸の中で零している。
「しかし、それならば女性聖闘士がその役目を負えばよいのではないですか」
ムウが問う。
「駄目です。彼女達は顔を見せることが出来ません。仮面をつけた女戦士など、すぐに女性聖闘士だとバレてしまいます。その点、性別を変えておけば、万が一怪しまれても知らぬ存ぜぬで通せますからね」
「………」
皆の無言ながら不服の小宇宙が大きくなり、サガの髪が黒くなろうとしたそのとき、不穏な空気を破ったのはデスマスクの鶴の一声だった。
「へえ、悪くねえな。魔法少女とやらになったら、真っ先に女子更衣室に入らせてもらいましょうかねえ。男の夢っすよね。ああ、トイレも女性用に入れってことですよね。まさかその状態で女神も男性用に入れとは言わねえよな?」
魔法少女化計画は、改善課題があるとして一旦白紙に戻されることになる。珍しく皆に感謝されたデスマスクは一同から酒を奢ってもらえることになった。
2011/8/18
◆視線の先…(ロスとカノンでサガ話題)
小高い丘の上に腰を下ろしたアイオロスは、ぼんやりと闘技場を見下ろしていた。青々と茂る草のにおいが、夏を感じさせる。
「何をしているんだ」
突然話しかけられて振り返る。
「カノン」
「お、間違えなかったな」
「サガの振りをしたりせず、カノンとして目の前に立つのなら間違えるわけがない。それにサガはあそこにいる」
視線で闘技場を指し示すと、その先には星矢へ稽古をつけているサガがいた。
星矢に甘いサガも、指導のときはとても厳しい。だが、星矢は土埃まみれになりながらも楽しそうだった。それを見つめるサガの目も信頼に満ちている。理想的な先輩と後輩の図だ。
「あれがお前の腑抜けてる原因か」
「腑抜けてなど」
カノンへ反論しかけて口ごもる。考え込んでいたのは確かだ。
「サガがあの小僧を好きなのは仕方ねえよ」
サガと同じ顔の双子座が、子供をあやすように言う。ともに修行してきたサガのことは、蘇生後に年齢差がうまれたとて同期と思えるのだけれども、突然振って沸いたサガの弟は、出会ったときから年上で(もしかしたら過去もサガの振りをした彼に会っているのかもしれないが、自分には分からない)、どうもやりにくい。
それでも素直に話してしまうのは、やはりサガと同じ顔だからかもしれなかった。
「あんな風に、まっすぐな好意だけで傍にいられる星矢が羨ましい」
ぽつりと零すと、カノンは笑って肩をすくめた。
「ざまあみろ」
「あ、ひどいな」
「お前だって、13年前のオレにそう思われてたんだぜ?」
アイオロスは驚いてカノンの顔を見る。
「そうなのか」
「ああ、そうだ。オレはお前の隣にいるサガを見てるだけしかできなかった。サガとオレが双子だとバレるような真似は許されなかったからな。しかし、お前は違うだろう」
なのに、行動もせずに悩むなんて贅沢だとカノンは続ける。
「あの小僧はサガに愛されてるが、ライバルだとは見られていない。あいつにそう思われているのは、お前とオレくらいのものだろうよ。…今はまだ」
「何故、そんなことを私に」
首をかしげたアイオロスへ、フンと鼻をならしたカノンがデコぴんを食らわせた。
「お前が気に食わないからに決まってるだろう」
デコぴんは結構痛くて、額を押さえている間に、カノンはまたふらりと去って行ってしまった。
「…贅沢、なのかな?」
アイオロスは闘技場を見下ろし、それから二人を目指して丘を下りはじめた。
2011/8/21 14歳復活ロスにはわりと当たりの柔らかいカノンです
◆妖精の禁域…(双子)
白い砂浜へ、穏やかな波が打ち寄せては、水の跡を残していく。
カノンは裸足で波打ち際へと立った。
「波で濡れたこの場所は、海の領域でも地上の領域でもないんだぜ」
弟の言葉に誘われるように、サガも恐る恐る素足になって浜辺に立つ。
波が大きな時には、押し寄せた海水はカノンとサガのくるぶしまで飲み込み、また引き上げていく。
「この波の跡をずっと行けば、俺は逃げることが出来るかな」
青い空を見上げながら、カノンはそんなことを言う。
海辺は妖精から逃げる時に使われる常套路だが、神にはどうだろう。
サガはカノンの手を握った。
「お前がどちらを選んでも、わたしはこの手を離さない」
「それ、捕まる相手がお前になっただけじゃないか」
苦笑しながらも、カノンは手を振り解かなかった。
2011/8/28
◆石の褥 (シオン+サガ)
「サガ!これは一体どういうことだ!」
シオンが扉を壊す勢いで入ってきたと思ったら、いきなり怒鳴りつけられて、サガは執務の手を止め、何事かとそちらを向いた。
「いかがなされましたか」
「どうもこうもあるか。女神は硬い石の寝台で、敷布もなくお休みになっていらっしゃるそうではないか」
「…は?まさか。確かに造りは石でございますが、寝具はございますでしょう」
「そのまさかよ。おいたわしくも女神は今まで、石の寝台に素のまま直接お休みになられていたらしい」
流石にサガは唖然とした。
女性の寝所のことゆえ、手入れや支度は女神神殿付きの従者に任せていた。そのため、そのような状態とは気づきもしなかったのだ。
「女神はそのようなことを一言も」
「そういう物だと思い込んでいたらしい。神が小宇宙で身を包み込んで休めば、堅固な結界となるだけでなく、緩衝材のごとく柔らかく肉体を守るゆえ、石の寝台でも問題なかったと…」
「従者たちは」
「下働きの者たちも、神ゆえにそのようなものだと思い込んでおった。しかしアテナは神であっても人間として降臨なさっておられる。13歳の少女を石の上に寝かせるなど、とんでもないことよ」
考えてみれば、本来発生するであろう寝具回りの品々の決裁を、サガは目にした事がない。自分が死んでいる間にすべて速やかに整ったのであろう(そして本来は当然そうあるべきはずだった)と、気にも留めていなかったことが悔やまれる。
慌てているサガをみて、シオンも苦虫を噛み潰したような顔になりながら口撃を緩めた。
「引継ぎの断絶のせい…であろうな」
口調の厳しさは弱まったものの、サガの身はいっそう小さくなった。
その引継ぎの断絶の原因はサガにあるからだ。
シオンの時代、女神はまだ降臨していなかった。それゆえに、女神用の寝具・衣服の類もまた女神神殿に置いていなかった。当然のことだ。赤子の女神が降臨して初めて、身の回りのものを整え始めようとしていたのだ。
そこへサガの乱である。
女神がアイオロスによって連れ去られたあと、黒サガは女神用の生活用品一式を全て始末してしまった。
本来であれば、「女神がいるように見せかける」ため、それらを用意し続ける手もあったのだが、黒サガが無駄を嫌ったこと、存在しない人間にあわせて生活用品を取替えることは無理があることから(使われなかった新品の廃棄も怪しまれる原因となる)、それならばいっそ偶像の神のように、ヒトから超越した存在なのだと周知してしまえ…と情報操作がなされたのだ。
そしてサガが自決し、聖域へ乗り込んできた女神は、そのまま生活臭の全く無い女神神殿で過ごすこととなった。気を回せる女性聖闘士は白銀以下のため、十二宮より上のことは分からなかったというのも遠因となっている。
申し訳なさから身を竦ませているサガを見て、シオンはため息をつきながらも、聖域御用達の羽根布団職人の連絡先をメモにしてサガへと手渡してやった。
2011/9/9