JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆うさぎ年…(謹賀新年挨拶で星矢&双子)
「あけましておめでとうございます!」
年明け早々、元気な挨拶とともに星矢が十二宮を駆け上ってくるのは、新年恒例の行事のようなものだ。もちろん他の聖闘士たちも女神へ挨拶にくるのだが、それはもう少し後のこととなる。
双児宮を覗き込んだ星矢は、既に表敬用の法衣に着替えているサガを見つけて、嬉しそうに近づいた。
「今年も宜しくお願いします…って、カノンは?」
「あけましておめでとう。カノンは食事の支度をしている。お前も食べてゆくか?」
「ありがとう、すっごく美味しいものが作られていそうだけど、先に沙織さんに挨拶しときたいから」
サガは頷いた。確かに女神への挨拶が先だ。
「では、良ければ帰りに寄って行きなさい。普段であれば女神が何かお前に用意するだろうが、今日はさすがに女神もお忙しいだろう」
聖域では神である女神が新年にすべき行事やしきたりが山のようにあり、星矢のように挨拶に訪れるものも多い。星矢もそれは判っていて素直に頷いた。
「じゃあ今は簡単にウサギ式挨拶だけで」
「今年はどのような挨拶なのだ?」
「かがんで?」
サガが大人しくかがみこむと、星矢はそっとサガの顔を両手でつつみ、自分の顔を近づけて鼻と鼻を触れ合わせた。サガは目を細めて微笑む。
「確かにウサギ式だな…今年は予測できたぞ。カノンはお前がうさぎ跳びで十二宮を上ってくるのではなどと言っていたが」
「ちぇ、でもこっから先はウサギと関係ないかも」
星矢はそのままチュと軽くサガの唇へと口付ける。
目を丸くしているサガを残し、星矢は「お土産もあるから後でまた!」と片手を振って階段を駆け上っていった。
2011/1/3
◆うさぎ年プラス…(上記の続きで双子)
ほんわかとその背を見送ったサガの横で、海鮮スープの鍋を両手に持ったカノンが、半分遠い目で兄に突っ込む。
「お前…朝からガキに秋波送ってるんじゃねーよ」
「そんなことはしていない」
「そんなにデレデレした顔でどうだかな」
言いながらもカノンはてきぱきと食卓を整えていく。品数はそれほど多くなくても、手の込んだ祝い膳が混じっていて、新年らしい華やかさをテーブルの上に醸しだしている。
サガは食器並べを手伝いながら、きっぱりと反駁した。
「星矢はわたしの恩人だ。感謝の念を持つのは当然だろう」
「ほお…では聞くが」
カノンはゆっくりと言葉を選ぶ。
「あの小僧がお前にデートを申し込んできたらどうする」
一瞬の間が空いたあと、サガは真っ赤になって口をぱくぱくさせた。
「そ、そのようなことがあるわけあるまい。星矢がわたしのような者に」
「だから仮にだよ…っていうか、それが恩人への反応か?」
じと目で冷静に突っ込まれて、サガもしばし言葉に詰まる。
しかし、サガもすぐに言い返した。
「そうは言うが、ではお前もアテナにデートを申し込まれたらどうする」
今度はカノンが絶句したあと、珍しくうろたえる。
「そ、そんなことあるわけないだろう。アテナは神だぞ」
「ほら、お前とて反応に困るだろう。アテナはお前にとって大恩ある相手。条件は同じはず」
「くっ…」
確かに自分の身に置き換えてみると、どうにも照れて落ち着かなくなる仮定である。カノンは乱暴に椅子に座り、鍋からスープ皿へと中身をよそいだした。食欲をそそる匂いが部屋へと満ちていく。
同じように(しかし優雅に)椅子へ腰をおろしたサガへ、カノンがぼそりと呟いた。
「もしオレがお前にデートを申し込んだらどうする?」
静かな時が流れたあと、サガは神のような笑顔を見せた。
「そういえば、お前とどこかへ出かけることなど久しくなかったな」
「先ほどと違って、随分余裕のある反応ではないか」
多少拗ねた声色交じりでカノンが揶揄すると、サガはカノンからスープ皿を受け取り、落ち着いた動作で匙を手にする。
「お前と出かけることは『仮定』の話ではないからだ。しかし出来ればそれは日を改めてのこととして、今日くらいはゆっくりお前と双児宮で過ごしたい…このスープ、美味いな」
口にした手料理の味を褒めると、カノンは赤くなった顔を誤魔化すように、ぶっきらぼうに出汁の説明を始めた。
2010/1/6
◆しろいうさぎとくろいうさぎ…(サガ+女神)
「しろいうさぎとくろいうさぎ…という絵本を知っていますか?」
新年の挨拶でアテナ神殿を訪れた白サガへ、沙織はにこにこと話しかけた。
突然の話題にサガは心のなかで首を捻ったが、アテナが日本育ちであることと、例年の星矢の年賀訪問によって得ていた十二支の知識により、おそらく卯年に関係があることなのだろうと予測を立てる。
沙織の尋ねた絵本は有名だ。しかしサガはそれを教養としてでなく、かつてロドリオ村や聖域の幼い子供たちに読み聞かせた物語や絵本の1つとして記憶にとどめていた。
「はい、確か白いうさぎと黒いうさぎが結婚するお話であったかと」
「サガも知っているのですね。わたしはあの絵本が大好きなの。だから今年の年賀状はその絵本をモチーフにして手作りしてみたのです」
胸の前で手を合わせ、ぱあっと嬉しそうに話す沙織は、年相応の少女のようにみえてサガも微笑む。
沙織は優雅な手つきで葉書をとりだし、サガへと手渡した。
「直接渡してごめんなさいね。郵便で出しても、双児宮には届かないと思いますし、そもそも年賀状の概念が浸透しておりませんから、元旦の朝に届かないのではないかと心配で」
「いいえ、御身みずからお渡し下さることのほうが…」
言いかけてサガの手が止まった。受け取った葉書の内容が目に入ったからだ。
葉書はインクジェット用のもので、言葉どおり沙織が自ら印刷したものなのだろう。裏面には写真がプリントされていた。
うさ耳を生やした白いドレスの沙織と、対照的な黒サガとのツーショット写真が。
「………恐れながらアテナ。これは一体」
心なしか1段階低くトーンの落ちた声で、そっとサガが尋ねる。しかしアテナはそれに気づかぬまま、楽しそうに説明を始めた。
「これは以前、わたしと黒髪の方のあなたとでイメージ戦略を展開するためにうさ耳を付けたときの写真です。先日もう一人のあなたに、この写真を使っていいか確認したら『好きにしろ』と言ってくれたので、加工させてもらいました。良く撮れているでしょう?」
「…ええ……まあ…よくアレがカメラを向けることを許しましたね」
穏やかに返事をしているようで、写真を持つ手がふるふると震えている。
「カメラで写したのではありません」
「ビデオですか?」
「念写です。あの時のことは鮮明に覚えていますから、映像化するのは簡単でした」
「…それはよろしゅうございました」
「でしょう?なのにシオンったらイロモノ葉書呼ばわりしたのよ!」
「……そうですか」
どんどん棒読み気味になるサガである。そして彼もシオンの言い分が正しいと思っていた。うさ耳姿の女神のほうは素晴らしく可愛らしいが、自分のほうはイロモノだろう。
見えない耳をしょんぼり垂らしているサガを見て、さすがに沙織もサガの様子がおかしいことに気づいたようだ。
「サガ、もしかして迷惑でした?」
「いいえ、そのようなことは」
「ごめんなさい。わたしはサガと恋人うさぎ役で写るのが嬉しくて、つい浮かれてしまったのですけれど…」
「!!!!!」
思いもよらぬ好意を受けて、サガが固まる。
おそらく沙織に他意などなく、他愛のない好意ゆえの発言であろうとサガも思うものの、そうなると同じ自分の一面であるとはいえ、黒サガが黒うさぎ役として沙織の隣に並び立つことにたいして少し妬けた。
ただ、そこは腐っても白サガであった。彼は高鳴る胸を隠しながらも馬鹿正直にその気持ちを吐露した。
「いつか機会があったなら、わたしも一緒に写りたいものです」
沙織は目を丸くしてサガを見つめ返す。それから少し顔を赤くして下を向いた。
「そうですよね。わたしったら彼ばかり写真にして…いつかと言わず、今すぐもう1枚作ります。念写ですもの、簡単ですので少し待ってくださいね」
珍しく大胆に心を表したサガもまた赤くなっている。
沙織はその場でアテナとしての神威を発揮し、もう1枚写真のついた葉書をさっそく空から作り出した。
「黒いほうの貴方と同じにするために、貴方の頭にも耳を生やした姿で念写してみたのですけれど…どうでしょう」
ドキドキしながらサガが受け取った年賀状には、うさ耳を生やした白サガと黒サガのツーショット写真が綺麗にプリントされていた。
2010/1/1 女神とのツーショットを期待していた白サガちょっとがっかり
◆劣化ダンシング・ヴァニティ…(スターヒルの惨劇エンドレス)
スターヒルと呼ばれる山嶺へ登るためには、ほぼ垂直の岩肌の傾斜を乗り越えて行かねばならない。そのことが天然の防御壁となり、この聖地を守っている。
だが、わたしの前では何の障害にもならない。老いた教皇ですら登頂が可能なのに、黄金聖闘士のなかで最も力のあるわたしが登れぬはずはない。
空気は薄く、ぼんやりと霞のかかったような空が見える。どこかで見たような景色だが、そもそも聖域はどこも似たような、代わり映えのない風景なのだ。
人も景色も歴史も繰り返し、女神が降臨すれば聖戦がはじまる。その度に人が大量に死ぬ。にもかかわらず、先だって降臨した女神は赤子であった。こんなことで大丈夫なのか。教皇も老い、その後継者として選ばれたのは、わたしではなく射手座のアイオロス。彼は素晴らしい聖闘士だが、わたしとて負けているとは思わない。どうしてわたしではなく彼なのだ。
心のなかで『こんなことをすべきではない』と、強く諌める声がする。同時に『なぜ選ばれなかったのか知りたいだろう?』と唆す声もある。わたしのなかではいつでも相反する声が争っているが、いつでも正しいと思う声に従ってきた。それでも今回だけは、わたしも知りたい。聞く権利くらいあるはずだ。
「なぜ私が次期教皇ではではないのですか」
しかし事態は思わぬ方向へ向かった。教皇が、わたしのなかの闇を見抜いていたのだ。
そのことを指摘された途端、わたしは闇の意思を抑えきれなくなり、手刀で教皇の胸を貫いた。教皇は反撃する素振りすらなくその場に崩れ落ちる。
どうしたらいいのだ。わたしは呆然とした。こんなことをしたかったわけではない。いやこうなってしまった以上、それはただの言い訳か。取り返しのつかぬ凶害を行いながら、わたしは笑っていた。笑いながら教皇の法衣を剥ぎ取り、それを己のものであるかのように身に纏った。風が強く吹いている。
それ以来ジェミニの聖闘士は消え、わたしが教皇として聖域を治めることになった。
わたしのなかの闇は赤子の女神をも排除しようとしたが、アイオロスが現れて女神を庇い、共に逃げたため凶刃を逃れた。彼こそが本当の勇者であったことを、はからずもわたしは理解することになる。
結局彼は汚名を着せられたまま殺され、聖域は女神も真の教皇も不在のままに時が過ぎていく。聖域は何も変わらない。神聖なるアテナは神殿の奥で美しく成長しておられるという事になっているし、教皇の地位にはわたしがいる。
教皇となったわたしには、当然のことながら教皇としての勤めも課せられる。聖戦の迫る昨今において、星見はその中でも重要な職務のひとつだ。スターヒルと呼ばれる山嶺へ登るためには、切り立った岩肌を乗り越えて行かねばならないが、この聖域で最も力のあるわたしが登れぬはずがない。
空気は薄く、天上は近いはずであるのに、どこか靄のかかった星空が見える。何度も星を占ううちに、すっかり見慣れた景色となってしまった。夜空には凶星がまたたき、聖戦の近いことを知らせている。戦をひかえ聖域には殆どの聖闘士が集まってきた。黄金聖闘士もそうだ。聖域の召集に応じぬライブラやアリエス以外の十二星座も埋まりつつある。
ふと人の気配がして振り向いた。教皇以外立ち入りを許されぬこの地に、禁を犯して誰か登ってきたのだ。いや、その男をわたしは知っていた。彼は先日突然やってきてカノンを名乗り、それだけれはなく双子座の地位を要求したのだ。
わたしは動揺したが、カノンはスニオン岬の水牢で死んだはずだから、わたしの弟であるはずがない。彼は跪きながらも慇懃無礼にわたしに問う。
「なぜオレが次期双子座ではないのですか」
そう、わたしは彼の要求を退けた。双子座聖衣はわたしのものだから譲るわけにはいかないし、もしも万が一彼がカノンだとしても、カノンは悪だ。お前の中には闇があると指摘をすると、彼はわたしの仮面に手をかけようと襲い掛かってきた。双子座だけでなく教皇の地位まで狙っていたのに違いない。
彼の行動を予測していたわたしは、躊躇せず彼に幻朧魔皇拳を放った。心のなかで『こんなことをすべきではない』と、強く諌める声がする。だが、実力ある相手を無闇に殺すことはない。願いが叶ったと思い込ませ、意思を奪って働かせればいい。聖戦において、有能な戦士はひとりでも多い方がいいのだ。
彼は魔拳のちからで教皇になったと思い込むだろう。全ての聖闘士を率いて、聖域を治める毎日を夢見るだろう。教皇となって執務をおこない、聖戦にそなえるだろう。
夢に冒された世界の中で、スターヒルへ登って見上げる星空は、彼にどんな未来を占わせるだろうか。
近づくと、彼の瞳の中に何故と迫るわたしが見えた。
2011/1/25
◆頼れる弟…(黒サガに頼られるカノン)
そろそろ就寝しようかと、読んでいた本をカノンが閉じたところへ、サガが部屋へと入ってきた。おざなりのノックしかせず、是の返事をする前にもう扉を開けているところからして、確かめるまでも無く黒髪のサガのほうだ。
黒サガはそのまま寝台へと進み、所作だけは優雅に腰を下ろした。
「今日はここで寝かせてはくれぬか」
いつになく殊勝な言い回しで、しかし真っ直ぐにカノンを見つめてくる。
「構わんが、どうしたのだ急に」
「何かあったときは、一人で背負い込まず、自分を頼れとおまえが言っていたのを思い出してな…」
サガは自分の力をたのむあまり、いつも全てを抱えもうとする。ときには荷を分け合える弟がいることを思い出せと、夕飯の時に伝えたばかりだ。
「サガ…」
まさか、こちらのサガが自分の話を聞き入れてくれようとは思っておらず、カノンの語尾は僅かに緩む。何であれ、兄が自分をあてにしてくれたというのは嬉しい。
「聞いてよければ、一体何があったのだ」
仕事や人付き合いでこちらのサガがへこたれるとは思いにくい。叛逆時代の陰口を叩かれても、そよ風と受け流すのが彼だ。その兄が、夜半に弟の部屋を尋ねるほど窮する可能性は低い。
もしかしたら、カノンと仲良くしたいという目的のために、建前を蓑にして訪れてくれたのかもしれない…などという、淡い期待が生まれ、カノンの心はわずかだが浮き立つ。
闇のサガはそんなカノンの変化に気づいたのか、じっと見つめていた視線をふいと逸らした。
「…やはり帰る」
立ち上がったサガの腕を、カノンの手が慌てて追いかけ掴んだ。
「なんだよ、ここまで来ておいて」
「いや…やはり自分で片をつけるべきことなのかもしれん」
「だから、何があったのだ」
掴んだまま離そうとしないカノンの手を見て、サガはふ、と小さく息を零し、言葉すくなに応えを返した。
「黒い虫が出た」
しばしの無言のあと、カノンが怒鳴る。
「自分でなんとかしろ!!」
「どうにも素早くて、タンスの裏へ入ってしまったのだ。その後はどこへ消えたか…」
「小宇宙で察知しろよ!」
「超感覚で直接あれに触れろというのか!素手で触るようなものではないか」
「守護宮に侵入されたのはお前の落ち度だろう」
「それを言われると言い返せぬ。それゆえお前を頼ったのだ」
「掃除担当はお前だろ!いつもはどうしているんだよ!」
「もう一人のわたしは、『すまないな』などと言いながら丸めた雑誌で叩き、雑誌ごと捨てている」
「……」
時々、ロビーに置き捨ててあるカノンのグラビア誌が消えているのはそのせいか。
「今日だけだぞ」
そう言って乱暴に手を離すと、サガは満更嘘でもなさそうに『わたしは良い弟を持った』と笑った。
2011/2/9