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◆2010-JUNK5

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆鏡と暮らす男…(双子+アイオロス+シュラ)

 アイオロスの足並みは心持ち早い。もともと歩くのが早い人ではあったが、行く先が双児宮というせいもあるだろう。隣を歩くオレの足も自然と速まる。射手座と山羊座が道をゆくとなれば、阻むものもいない。神官も雑兵もみな道を譲る。
 そうして到着した双児宮は、人の居る気配がなかった。
 空間を操る技の得意な双子座であるから、無人に思わせるのもお手の物なのかもしれない。気にせずオレとアイオロスは中へと足を踏み入れる。
 どこか澱んでいるような気がするのだが、我ら黄金聖闘士12人が蘇生したのだ。守護者が暮らすようになれば、また空気も流れ出すだろう。案の定、奥の間に人の姿が見える。
「サガ」
 隣で先にアイオロスが声をかけた。
 しかし、帰ってきたのはそっけない返事。
「兄さんはいない、いや、居ないと言うのは正確ではないかな」
 あまり生気の無い目つきで彼は振り向いた。
 胸には銀細工のほどこされた、まるいお盆のようなものを抱えている。
「カノンなのか?」
 オレが尋ねると、カノンはそのお盆をオレたちの前に差し出して見せた。それは鏡だった。
「サガはこの中に入ってしまった。もう一人の自分を閉じ込めるのだと言って」
 鏡の中を覗き込んでも、自分の顔しか映らない。
「普通の鏡ではないか」
「お前たちには会いたくないのだろう。オレが覗き込むときは、いつでも姿を見せてくれる」
 カノンは鏡を自分に向け、その鏡に笑いかけた。
「ほら、ちゃんといる」
 双子座は次元を操作する事の出来る技を持つ。しかし、鏡の中に入ることが出来るとは思わない。

 聖戦後に蘇生されたのは各星座につきひとりだけ。
 だから、オレたちは片割れを失った双子座を案じてここへ来たのだ。

 カノンは兄の不在に耐えられず、鏡の中にサガを作り出したのだろうか。
 その後もオレとカノンはたわいもない会話を交わしたが、カノンは早く鏡のなかの兄と二人だけになりたがっているように見えたので、早々に双児宮を辞することにした。

 しかし、カノンは蘇生できなかったとアテナはおっしゃっていたはず。
 アテナでもお間違いになることがあるのだろうか。
 アイオロスは空を睨んだまま、ずっと黙っている。
 振り返ると、鏡を抱きかかえたカノンの髪が、暗がりに煤けて闇色へと変わったように見えた。


2010/9/27 K様から頂いたコメントと押し絵と旅する男ネタから発生した拙宅バージョン。K様に無理やり押し付けさせて頂きました(>▽<)
◆秘宝館…(ロスサガ+星矢)

 仕事で日本の熱海へ行く事になったアイオロスとサガは、年甲斐もなく浮き立っていた。サガの上機嫌は現地の温泉に起因し、アイオロスの上機嫌はサガとの出張それ自体によるものだ。
 日本で生活することの多い沙織のサポートとして何名かの神官が送り込まれることになり、黄金聖闘士二人がその引率兼護衛として選ばれたのだ。城戸家のあまり使われていない別荘の1つが日本拠点の1つとして聖域に借り上げられていて、神官たちはそこを使うこととなる。
 そんな内容の出張なので、名目は引率ではあるが、実質的に全く不要の二人であった(地理は実務に長けた神官たちのほうが詳しく、黄金聖闘士の護衛の必要な地位でもない)。
 要はシオン公認の慰労旅行だ。ぶっちゃけると、将来の教皇と教皇補佐の信頼関係を、公私共に深める為の策ともいう。
 サガとアイオロスは、さっそく事務官たちの用意してくれた地元の資料を眺めていた。
 ふと、サガがとある観光施設名称に目を留めて呟く。
「日本の歴史資料に触れるのも良いかもしれないな」
「あ、どこか行きたい所がある?」
 アイオロスも覗き込んだ。そこには秘宝館の名が記されている。
「神代より続く聖域の神具や秘宝に比べれば歴史は浅いかも知れぬが、日本の秘宝を見ておくのも良い見聞になるのではないだろうか」
「そうだね、観光客に開放しているということは、一般人に見せても大丈夫なお宝なんだろうけど、逆にそれってお客を呼べる美術的価値もしくは資料的価値が高いものってことだよね」
 盛り上がっているところへ、遊びに来ていた星矢が微妙な顔で口を挟んだ。
「…そこ、未成年は入れないよ」
 アイオロスとサガが振り返り、首を傾げる。
「大丈夫だ、アイオロスのパスポートは27歳になっている。実際には14歳だが『死んでいなかった』ことにして当時の戸籍をそのまま利用したのだ」
「確かに蘇生された私の肉体は未成年かもしれないが、この身長で中身が成年なら…まあ日本の法律も許してくれるのではないだろうか」
「それにしても、成年にしか秘宝を開放しないというのは、宗教的な意味合いか、宝物を公開する上での保全やセキュリティ的な意味合いか?」
 星矢は遠い目で二人に答えた。

「道徳的な意味合いだと思うよ」


2010/09/29
◆残照のよすが…(白黒サガ)

 聖戦が終わり、一度死んでリセットされたせいなのか時効なのか、アテナの盾で払われていたわたしは、再び蘇生したサガの中に還っていた。
 サガはもうわたしを追い出そうとはしなかった。わたしが何かを目論んでも、アテナが阻止するであろうと信じているのだ。忌々しい。
 ただ、全てが明るみに出たうえ、アテナが他の神々の侵略を退けた今となっては、わたしの野望も意味がない。サガはわたしを連れたまま、聖域を出た。
 ひっそりとした森の奥に小屋を見つけ、隠者のように暮らす事を選んだサガ。アテナには許されているのだから、お前ほどの力があれば、黄金聖闘士として世に栄光を知らしめる事も可能だろうと囁いたが、興味がないという。
「黄金聖闘士として聖域に戻れば、教皇であるアイオロスに傅く事になるが?」
 どこか楽しそうに言うサガの言葉を聞いて、それは嫌だと納得する。
 カノンも生きていて、海界へと渡ったらしい。風の噂では、冥界のワイバーンと友人になったとか。物好きなことだ。
 その話をするとき、サガはとても嬉しそうだ。深い穴の底から太陽を見上げるような、そんな顔をしている。
弟に会いたいのなら、呼びつければいいではないか。
 そういうと、きまってサガは首を振る。
「いいのだ、わたしにはお前がいる」
 そう言って、淡い笑みを浮かべた片割れは、笑んだまま遠くの空を見た。
 そういえば、かつての部下であった者たちにも、この場所を教えようとしない。毎日一人で起きて、自分が食すだけの野草を摘んだり、魚を釣ったりするだけで、夜には一人で寝る。

 お前にはわたしだけがいればいい。かつて何度もわたしはそう言った。
 あれほど望んだ『わたし』を手に入れたはずなのに、しかし、何かが足りない気がする。一体何が足りないのだろうか。これは望んだとおりの『サガ』ではないか?
 何度考えてもわたしには判らなかった。


2010/11/4
◆職場BGM…(冥界)

 ある日、いつものようにラダマンティスがカイーナ城に着くと、広間のほうから竪琴の音色が聞こえて来た。
「何だあれは」
 通りすがったシルフィードへ尋ねると、
「音楽があったほうが仕事の効率が上がると…職場のBGMとして…」
 と、どこか歯切れが悪い。
「オルフェかファラオでも来ているのか?たとえパンドラ様であっても演奏会なら他所でやって頂こう。このカイーナにBGMなど不要!」
 風流を介さないラダマンティスにとっては、音楽など雑音と大差ない。綺麗な音色であることは理解しても、仕事場で流されたところで眠くなるばかりなのだ。
 バタンと勢いよく広間の扉をあけて踏み込むと、そこには演奏の手を止めたタナトスがいた。
「……」
 その場に固まったラダマンティスを、演奏の邪魔とばかりタナトスがぎろりと睨む。
「たまには冥界軍の福利厚生に協力してやろうと思ってな。このオレが人間に曲を聞かせるなど千年に1度もないのだぞ。歓喜してひれ伏せ」
 どこか得意そうに(そして当然偉そうに)告げる死の神に対して、ラダマンティスは黙り込む。内心では怒鳴りつけたくとも、双子神相手では流石にそうもいかない。
「恐れながら…それはタナトス様の発案でございますか」
 半眼になりながらも、何故タナトスが突然気まぐれを起こしたのか聞いてみる。すると、意外な返答がなされた。
「いや、双子座の提案だ。アレが冥闘士たちとの交流を勧めるのでな」
「………聖域の?」
「他にどの双子座がいる」
 ラダマンティスはそっとこめかみを押さえた。おそらく発案者はカノンだろう。カノンはラダマンティスの仕事ぶりに対して普段は何も言わないが、時折『働きすぎだ』という視線を向けてくる。純粋に冥界の職場環境を良くする心遣いをしたに違いない。そしてカノンはサガに相談し、サガがタナトスに話を持って行ったというわけだ。
 心配は嬉しいが、どうなんだろうかこの状態は。

「意外と悪くないと思うんですけど」
「冷たい音色だが、仕事中には却ってそれが良いな」
 そんな部下たちの会話を他所に、ラダマンティスは耳栓を持って自分の執務室へ一人閉じ篭った。


2010/11/11
◆非完璧旅行…(双子)

「カノン、明日は女神のお供で日本へ行くのだが…明後日がオフなのだ。確かお前も明後日は空いているだろう?」
 朝の食卓で、サガはカノンへ紅茶をいれてやりながら尋ねた。
「ああ」
 バターのたっぷり塗られたトーストを齧りながら、カノンが簡潔に応える。
「良ければ一緒に、日本観光しないか?」
「日本観光といっても幅広いぞ。お前の趣味に合わせると辛気臭い場所になりそうだが、どこへ行くのだ」
「実はまだ決めていない」
「珍しいな」
 食べる手を止め、カノンはサガを見た。
「カノンの希望も聞こうと思って…それに、目的のある観光であれば、日本出身の星矢たちに案内を頼む」
「それも珍しいな、お前があの小僧を誘わないとは。オレは日本には詳しくないぞ?」
 カノンがそう言うと、サガは緩やかに微笑んだ。
「毎回、年下の青銅に頼るわけにもいかんしな…それに、今回は日本に着いてから行き先を決めるくらいでも良いと思っている」
「一体どうしたのだ。お前はどこへ行くにしても、事前の下調べと計画は欠かさなかったろう」
 カノンはすっかり食事を忘れて目を丸くしている。
 几帳面な兄が突然このような事を言い出したのは、また何かストレスでも溜まって、気分転換目的のヤケ旅行なのだろうかと、内心心配もしていた。
「ちゃんと、ガイドブックは持っていくぞ?」
「それだけか?」
「十分だろう…お前がいるしな」
 カノンの心配をよそに、サガはにこにこと楽しそうだ。
「オレは日本に詳しくないと言ったろう。オレが居ても迷うときは迷うと思うが」
「そのときは二人で迷って、二人で行先を見つければいい。わたしはお前と、そういう旅をしたい」

 カノンは目を丸くして、それからぼそりと『なら海界へ休暇を2日ほど余分に申請しておく』と、赤くなった顔をごまかすように横を向きながら応えた。


2010/12/11

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