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◆2010-JUNK4

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆秘訣…(女神+黄金)

「アテナ、お暑くはございませんか」
 気遣うように尋ねたアイオロスの視線の先には、聖誕祭の式典のため、女神の聖衣を着用している沙織がいた。9月とはいえ、地球規模の猛暑である今年はまだまだ暑い。ほぼ全身を覆う聖衣の内側は、さぞかし蒸れるだろう。
 沙織はにっこり微笑み、はにかむように応えた。
「大丈夫ですよ。確かに少し暑いですけれど、同じように聖衣の被覆面積の多いサガが、暑さを和らげる着用方法を教えてくれたのです…その、少々はしたないかもしれませんが」
 いまは祭事の合間の小休憩で、そのとき周囲には教皇候補のアイオロスだけでなく、十二星座を司る黄金聖闘士たちが集まっていた。それぞれ次の行事の準備をこなしたり、久しぶりの顔合わせによる雑談を楽しんだりして時間を過ごしている。
 しかし彼らは一様にビクリと動きを止めた。聞くつもりはなくとも黄金聖闘士の聴覚は、近くの音を拾ってしまう。通常は音が意味を成す前に聞き流してしまうのだが、女神の発言は流すに流せないものがあった。
 アイオロスとて平静を装おうとしているものの、成功しているとは言いがたい。
 デスマスクが何かを期待した目で(怖いもの知らずにも)真っ先に声をあげた。
「サガの秘訣ってことは、まさか、その聖衣のし…いってえ!」
 『聖衣の下は』と続けられるべき言葉は、光速で頭に突き立てられたアフロディーテの薔薇により阻止された。更に薔薇を投げ続ける魚座の聖闘士を止めるものは誰もいない。
 何事もなかったかのように、アイオロスが咳払いをしながらサガを睨み、アテナへと一応の釘をさした。
「その秘訣は我々には少々刺激が過ぎますゆえ」
 沙織はきょとんとアイオロスを見つめ返している。
「戦闘や式典以外の場所では、兜を被らないでおく…というだけなのですけれど…やっぱり駄目だったかしら」

 沙織がそういった途端、部屋のなかは『……だよなー』という微妙な空気に包まれた。


2010/9/9 誤解を受けるサガシリーズその1
◆大好きな場所…(女神+シオン&ロス)

「明日、サガと出かけてこようと思います」
 女神がにこにこと報告した。次期教皇アイオロスは微笑んだものの、現教皇シオンはやや渋い顔だ。
「念のため護衛をつけたほうが宜しいのでは?アテナ」
 改心したとはいえ、サガは赤子の沙織に短剣を向けたことのある反逆者だ。万が一ということもある。
 アテナもそれは判っていたが、首を横に振った。
「私は彼を信じていますし、彼の人となりを知るために行くのですから、二人だけの方が良いと思うのです」
 どうやら外出はサガとの親睦目的であるらしい。
 アイオロスが口を挟んだ。
「それで、どちらへお出かけに?」
「ふふ、相手の事をよく理解するには、相手の好きなものと嫌いなものを知るといいって言うでしょう?だから今回のお出かけ先は、サガの意向を汲みました」
「「サガの意向?」」
 シオンとアイオロスの声が重なる。
「そう!サガが大好きで、彼の寛げる場所ですよ」
 アイオロスとシオンは顔を見合わせ、それから口々にアテナへ進言した。
「あやつの愚弟のおる海底神殿へ行くのであれば、やはり護衛が必要であろうかと」
「二人きりで温泉って、まさか混浴ですか」
 女神はにこにこ黙って二人の言葉を聞いたあと、ぼそりと返した。
「行くのはロドリオ村の慰問にです」
 しばし三者のあいだに流れた無言の空間の中で、何となく二人のサガ像を理解したアテナだった。


2010/9/11 誤解を受けるサガシリーズその2
◆夏のおわり…(双子神)

 地上から黄泉比良坂へと降り立ったタナトスは、軽く手をあげ、ローブの袖を振った。すると袖口から億万とも思えるセミたちが飛び立ってゆき、雲霞のごとく空を覆ってゆく。
 その羽音だけでも大音量だというのに、セミたちは一斉に鳴き始め、虫の響きが不毛の大地を揺るがした。物理的にではなく、セミの命が音を発しているのだ。
 タナトスが鬱陶しそうにもう1度手を振ると、大音声はぴたりと止み、セミの群れは黄泉比良坂にあいた暗渠の穴へと飛び込んでいく。穴は冥界へと繋がっている。
 飛びこんだ虫たちは地の底へ到達する前に形を失い、ただの影となって四散していった。
「仕事は終わったか」
 いつのまに来ていたのか、ヒュプノスが後ろから声をかけた。
「ああ、この時期になると、あれらを迎えに地上へ赴かねばならぬ。面倒なことだ」
 ぶすりとした顔でタナトスが答える。
「セミは不死と再生の象徴だからな、死を司るお前としては苦手であろう」
「フン、不死はどうということもない。我ら神々とて不死ではないか。相容れぬのは再生のほうだ」
「そういうものか。しかし命というのは輪廻を介し、押しなべて再生するものだろう」
「忌々しいことにな。ハーデス様が地上を支配なさっていたら、命のサイクルなど破壊されていたものを」
「聖戦に負けたことを、今さら言っても始まらぬ」
 苦笑するヒュプノスへ、タナトスは片手を差し出した。掌の上には虫籠が現れ、中を覗くと1匹のコオロギが入っている。ヒュプノスは虫籠を受け取り、首をかしげた。
「これは?」
「秋の音を肴に、お前と美味い神酒でも酌み交わしたいと思ってな…この秋、地上で最初に死んだコオロギだ」
 コオロギは羽を震わせ、灰色の世界にコロコロという音色が響く。
 珍しく驚いた顔をしているヒュプノスをよそに、タナトスはさっさとエリシオンへ向けて歩き始めていた。
 その背を慌てて追いながら、ヒュプノスは笑みを浮かべ、聞こえぬよう小さく小さく呟く。
「コオロギは死の前兆を告げるというからな…お前の先触れとなる音色ならば大事にしよう」

双子神の思惑など関係なく、コオロギは命の歌を奏で続けている。


2010/9/14
◆静粛に…(ルネ+カシモド)

 カシモドが目を開けると、そこは不自然なほどに静かな大広間だった。
 高い天井、磨かれた大理石の間に、カシモドだけがぽつんと一人立っている。
 きょろきょろ周囲を見回してみても、ここがどこだか判らない。どうやってこの場所へ来たのかも覚えていないのだ。
「これよりお前の処遇を伝える」
 突然、壇上のほうから声がした。感情の篭らぬ事務的な声だ。
見上げると、まだ若く髪の長い青年が、大きな記録書を広げてこちらを見ている。
「しょ、処遇とは?」
「お前は生前にいくつか罪を犯している。よって、その罪に応じた地獄へ行く事となる」
「地獄!」
 はっきりとカシモドは思い出した。そうだ、自分は死んだのだった。
「お待ちください、確かにわたしは罪を犯しています。しかし、死んだら罪は清められると教皇様が」
「教皇?」
 羽ペンで書類に何かを書き付けながら、その青年は鼻で笑った。
「ああ、偽りの教皇の偽りの言葉を信じるなど愚かな。安心せよ、あの業深き者に比べればお前の罪は軽い。針の山程度で済むだろう」
「にせ…教皇?」
「大体、罪を犯しておいてただで済むはずがあるまい。お前たちはハーデス様の名の下に、永久にこの世界で償い続けるのだ」
「そんな…そんな!あの方が嘘をついているなど…!」
 しかし、目の前の青年は、カシモドの動揺など全く気にも留める様子はない。
「それでは次の罪人」
 バルロンのルネが告げると、カシモドの姿は消えて、また新たなる亡者が大広間へと落ちてきた。


2010/9/18
◆選択の儀…(ロスサガ13年前パロ)

「あらたなる聖戦のときが差し迫っている。そこで私はそろそろお前たちの身を固めさせたいと思う。全員への触れはまた後日にいたすが…」
 老教皇シオンの玉座の前には、跪くサガとアイオロスがいる。黄金聖闘士のなかでも最年長の二人は目覚しい頭角をみせ、聖域の両翼と呼ばれていた。
「仁・智・勇を兼ね備えたアイオロス、これよりお前にサガの身を任せることにする」
 突然の見合い席状態になった教皇の間で、アイオロスは驚き顔を上げた。
「は?わ、わたしがですか…」
 一方サガは黙ったまま下を向いている。
 教皇は玉座に座ったまま話を続けた。仲人にしては態度がでかいが、教皇なので仕方が無い。
「黄金聖闘士は十二人とはいえまだ幼い者が多い。白銀聖闘士、青銅聖闘士しかりだ。だが遅くとも十年ののちには必ず聖戦が起こる。その時の為にお前たちは夫婦となり、二人で協力して立派にアテナを成長させ、聖闘士たちを育ててもらいたい…サガよ」
「はっ」
 シオンはサガには労わるような声をかけた。
「聞いたとおりだ。アイオロスに力を貸して、これからも聖域のためにつくしてくれ。よいな」
「はい、アイオロスこそ我が夫に相応しい立派な聖闘士だとわたしも思っておりました。このサガ、アイオロスに協力を惜しまず、正義とアテナのために一命をかけて尽くしましょう」
 穏やかに微笑むサガの笑顔の裏で、黒サガが『わたしが双子座になったのは男の嫁になるためではない!』とかんかんに怒っていたのは、余人の知らぬところであった。


2010/9/20
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