JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆冬…(死神+サガ)
タナトス「まったく人間どもの世界は寒いな!何故冬などあるのだ!」
サガ「ハーデスがペルセフォネを嫁にとったからではないだろうか?」
タナトス「…」
2010/4/17
◆壊れたオルゴール…(擦れ違い双子)
蘇生されて文字通り生まれ変わったあとは、夢のような生活だった。
同じように生き返った兄のサガとともに聖域を出て家を探し、そこで二人暮しを始める。質素ながらも地に足のついた生活。サガは優しかった。オレが頼めば何でも言う事を聞いてくれた。兄弟としては許されない禁忌の領域の秘め事まで。失われた13年間を取り戻すかのように、オレはサガを貪った。
「お前が望むのなら」
サガはいつも微笑んでいた。
しかし、ほどなくしてオレは気づいた。サガは「お前が望むのなら」と言いはしても、「わたしが望むから」とは言わないのだ。絶対に。
その事に気づいた時、オレは少しだけ傷ついた。「お前の望みは何だ?」と尋ねた事もある。サガの返事は決まって「これ以上望む事など何もない」だった。
ある日、アイオロスが家を訪ねてきた。新居の住所は誰にも話していなかったというのに、どこから情報を得たのだろう。
「ね、サガ。たまには俺とも遊びに行こうよ」
出された珈琲を飲みながら、そんな事を言っている。
「お前が望むのなら」
サガがアイオロスへもそう返したのを聞いたとき、オレはサガが壊れていることに気が付いた。
外出から戻ったサガをつれて、オレは家を出た。次の住まいは海界にしよう。誰も尋ねてこれないような、深い深い海の底で、ひっそりと二人だけで暮らそう。オレの提案にもサガは微笑んで頷いた。
それからは、静かな生活が始まった。毎日が穏やかに過ぎていく。サガは珊瑚の野原がいたくお気に入りで、毎朝の散策コースになっている。食事の担当はオレで、掃除や洗濯の担当はサガだ。サガの狂気は一向に治る様相はなかったけれども、医師に見せるつもりもなかった。誇り高いサガが、内面を他人にさらけ出すような治療など、望むはずもあるまいと思ったからだ。
サガを抱き寄せて、ついばむように口付けると、ゆっくりとだがサガは応えてくれる。一方通行の愛情でも構わない。少なくともサガはオレだけのものだ。
「愛している」
ある朝そう言うと、サガは突然微笑むのをやめた。そしてじっとオレを見た。
「初めて聞いた」
「そうだったか?」
オレはサガの変化に少し驚きながらも、言われて見るとそうかもしれないと考えた。言葉などなくとも通じているだろうと思っていたし、狂ったサガに伝えても通じないだろうとも思っていたような気がする。
「では、今までの生活は、わたしへの罰ではなかったのか」
「サガ」
熱い塊が腹の奥からせりあがり、喉を焦がし言葉を失わせる。
それが怒りだと気づいたのは、少したってからだ。
「カノン、わたしはお前がずっと憎んでいるのだと思っていた」
サガはそう言って窓の外の空を見上げた。
それなら、本当に憎んで、とことん壊してやろうか。
悲鳴に似たその想いは、いつの間にか零れ落ちた涙とともに、家の床へと染みこんだ。
2010/7/1 でもサガは幸せだと思ってる
◆家事分担…(カノンとアフロディーテ)
「貴方は、ちゃんと家のことを手伝っているのか?」
アフロディーテに問われたカノンは、それがどうしたという顔で返した。
「きちんと半分ずつ担当している」
「ほう、全て兄任せではないとは意外だが、どのような分担なのだ?」
実はカノンは家事全般についてサガと同等以上のスキルがあるのだが、まだカノンを良く知らぬアフロディーテが多少の色眼鏡をもっているのは仕方がない。何せ、双児宮を尋ねると、紅茶の用意などをして客を出迎えるのは必ずサガのほうなのだ。来訪時に動く様子のないカノンを見知っているアフロディーテは、すっかりカノンを手伝わぬ居候状態だと思い込んでいた。
「料理を作るのがオレで片付けるのがサガ、風呂を沸かすのがオレで風呂掃除がサガ、掃除洗濯がサガでゴミ出しがオレ…」
「ちょっと待ってもらおう。何だその世間の夫が『家事を手伝っていると言いつつ楽な分担しかしていない』という典型的な状況は」
「失礼な、よく聞け、これが一番効率的なのだ」
「共働きかつ収入は同等の貴方たちが、どうそれで効率的なのか聞きたいものだが」
全く言い分を信じていないアフロディーテに、カノンは肩をすくめた。この後輩がサガびいきであることは、短い付き合いでも直ぐに知れた。おそらくカノンがサガに負担をかけているのではないかと老婆心を出しているのだろう。
カノンは諭すように説明した。
「まず、料理をサガに任せる事をどう思う」
「う…それは…」
「風呂はサガのほうが長風呂だし良く使う。オレが先に入って、後からゆっくり浸かったサガが最後に湯を抜いて洗うことになっているのだ」
「な、なるほど」
「オレは海界勤務の遠距離通勤だから朝が早い。それゆえ、出仕がてらゴミ出しを行う。十二宮勤務で余裕のあるサガが洗濯掃除をする。何かおかしいか」
「………おかしくないな」
「だろう」
しかし、とアフロディーテは食い下がった。
「ならば何故、来客時にサガしか動かないのか」
「別にそういうわけではないが…ただ、サガの淹れた紅茶だけは美味いのだ」
今度こそ納得してアフロディーテも矛を収める。
「皆は貴方の紅茶も飲んでみたいのではないかな。特にあの冥界の男など」
「…何故そこでラダマンティスが出てくるのだ」
一瞬詰まりながらも、カノンは気まずそうに視線を逸らした。
(ああ、この人はやはり時折、少しだけサガに似ている)
アフロディーテは複雑な気分で、サガと同じその横顔を見つめた。
2010/7/4
◆キトン1丁…(黒サガと世話焼きシュラ)
シュラが双児宮を訪れると、黒サガがソファーへと横たわりながらぶどうを摘んでいるところだった。上半身には何も着用されていない。キトンを腰へと巻き付けているだけだ。その造形美ゆえに優美な印象を受けるが、世間的に言えば、トランクス1枚でTVを見ているようなものである。
「貴方はカノンがいないと、すぐ脱ぎますね…」
思わず零すと、サガが眉間にしわを寄せ、むっとした表情となった。
「いつもではない、風呂上りだからだ」
「この日中の暑いさなかに風呂ですか」
「暑いからこそ風呂に入ってさっぱりしたのだ」
「もう一人の貴方なら、風呂上りでも身だしなみには気を遣いますよ」
シュラは黒サガの手元のぶどうを見て、もう一度溜息を付いた。
「貴方の事です、どうせそれが食事代わりなのでしょう?」
「……」
黙ってしまったところを見ると図星のようだ。暑さで食欲があまりないのと、食事を作るのが面倒なのと両方だろう。カノンやデスマスクがいれば食事面での世話はみてくれるが、いないときの黒サガは自分でほぼ何もしない。
「体調管理も聖闘士の仕事のひとつですよ」
「小姑か貴様。摂生はアレの仕事だ」
どうやらサガの人格の中で、余人には計り知れぬ役割分担があるらしい。シュラは肩を竦めた。
「それより、何をしにきた」
黒サガが横たわったままソファーから見上げると、シュラは屈んで視線を合わせた。
「外食の誘いです。美味しいタベルナを見つけたので、夕方になったらご一緒にと思って」
「随分早めの誘いだな」
「貴方の予約を確保するのは、早いに越したことはないですから…それまでここに居ても?」
黒サガは目をぱちりと瞬かせ、それから悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「お前もわたしと同じ格好になるのならば」
「は?」
「視界に着込んだ暑苦しい男がいるのは耐えられん」
「…今度来る時は、手土産にカミュの氷柱を持ってきます」
そんなわけで、日中に双児宮通行の許可を求めて居住区まで来た者たちは、ほぼ裸の二人の姿を見ることになった。
彼らのほとんどは気まずげに黙りこみ、そして何か大きな勘違いをして通り抜けていくことになるのだった。
2010/7/14 世間的には裸体の男が目の前に居る方が暑苦しいと思います。
◆相似…(双子のみわけかた)
「私ならば、どちらがサガなのか皆にも判るように出来ますよ」
さらりと言うムウを皆は半信半疑の目で見た。
衣服まで揃えて兄のフリをしたカノンは、サガと並ぶと本当に瓜二つで、とても違いが判るようには思えない。
(しかしムウだからなあ)
何か判別手段があるのかもしれない。ムウは根拠のないことを断言したりはしない。
「どうやるんだ?」
誰よりも判別方法に興味のあるだろうアイオロスが、少し期待を込めた顔で尋ねると、ムウはおもむろに皆へ言い放った。
「シオン様を殺して教皇になりかわったサガはどちらだと思いますか」
とたんに片方が暗雲を背負い、ずーんと地の底まで落ち込んだのを見て、皆はその人物…サガへ同情の目を向けた。
2010/8/4