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◆2010-JUNK6

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆クリスマスイブ…(海界カノン)

「シードラゴン。聖域から何か届いているぞ」
 リュムナデスが包装紙とリボンに包まれた箱を持って、仕事場のカノンを訪れた。
 机に積みあがった決裁書類に埋もれていたカノンが、その声を聞いて顔を上げる。海界にいる自分へ物を届けるようなことをする人間は数名しか思い浮かばない。案の定差出人にはサガとある。
「一体なんだ」
 わざわざ送り届けなくても、仕事が終われば双児宮へ戻るのだから、そこで渡せば良いような気がするのだが。ガサガサと音を立てて包装紙を剥ぎ取り、開けてみるとそこには大きめのケーキとメモが入っていた。メモにはこんなことが書かれている。
『仕事お疲れ様。デスマスクがケーキを作ってくれたので仕事の合間にでも食べてくれ』
「……」
 海闘士の弟の職場へケーキを送りつける聖闘士の兄。ある意味平和の象徴かもしれないが、もう少しけじめというものを考えた方が良いのではないだろうか。
 無言でそのメモに目を通していたカノンは、しかし末尾に書かれている添え書きを読んで、何ともいえない表情になった。
『カノンと海将軍の皆さん用』
「……」
 そういえば、今夜はクリスマスイブであることを思い出す。海神の僕である海闘士には関係のないイベントであるものの、ポセイドンは冬至に恩恵をもたらす神でもあり、その役割はドイツでのHold Nickarをまたぎキリスト教を通じてThe Sailor Nickarという名で聖ニコラスに引き継がれている。
 そう考えると、あながち海界がこの日に無縁というわけでもない。サガのことだ、その辺りも踏まえて、差し入れをしたのだろう。
 …差し入れやイベントにかこつけて、カノンと他の海将軍たちの交流を図らせようとする意図が、思いっきり見えているプレゼントではあるが。
「ったく、過保護なんだよ」
 呆れ混じりに呟いた横で、「ほんとだな」と同意したカーサを小突いておく。

 気恥ずかしさを抑えながら配ったケーキは概ね好評で(ソレントですら厭味を言わなかった)、和やかな同僚に囲まれたカノンは、明日のクリスマスだけでも兄のもとへ帰ろうと決意した。


2010/12/24
◆年末大掃除…(双子+雑兵)

 海界仕事で帰りが遅くなり、朝はゆっくり布団のなかで過ごそうと思っていたカノンは、宮に侵入するいくつもの気配を感じて仕方なく寝台からおりた。同じ辺りにサガの気配も感じるので、たとえ敵であろうが問題ないと思われるが、幼い頃から潜み暮らしていたカノンは他人の気配に敏感で、とても落ち着いて眠っていられないのだ。
 銀盥に汲んである水で顔を洗い、入り口の方へと顔を出すと、そこには髪の黒い兄と幾人かの雑兵たちがいた。彼らは一様に箒や雑巾を持ち、黒サガの指示を仰いでいる。
 おそらく宮の掃除をさせるつもりなのだろう。というかそれ以外考えられない。
 それにしても、とカノンはその様子を眺めた。
(雑用をさせられるってのに、何でそんなに嬉しそうなんだお前らは)
 雑兵たちの顔はいずれもやる気に満ち、明るく輝いている。
 作業手順の説明が終わると、雑兵たちはそれぞれの分担場所へと散っていった。掃除をする領域には迷宮の力が働かぬよう、黒サガが調整をしてやっている。
「おはよう…何だあいつらは?」
 カノンが声をかけると、黒サガは自身も掃除をするためか、髪をアップにしながら答えた。
「この広い宮内をわたしとお前だけで掃除するのは面倒ゆえ、彼らへ手伝うよう申し付けたのだ」
「ああ、それは判る。しかし随分と協力的な連中だな?」
 さきほどの彼らの嬉しそうな顔を思い出し、カノンは首をひねる。
「礼を出すからではないか?昼食は双児宮で用意すると言ってある。雑兵にとって黄金聖闘士用の食事は馳走だろう」
 階級社会である聖域において、身分の差は各所に現れる。食事や待遇などもその1つだ。その代わり、いざ戦闘となれば最も危険な場所へ先陣を切って飛び込むのが上位聖闘士の役目となるのだ。
「その程度であの喜びようか…?」
 しかし、カノンは何となく納得がいかない。どうもそういう喜びようではなかった気がするのだ。しいていえば熱狂的なファンがアイドルを目の前にして舞い上がっているような。
「ああっ!」
 突然叫んだカノンを、黒サガが『なんだ』という目で見る。
「あいつら見たことがあると思ったら、いつものお前のファンだろ」
「ファンかは知らんが、よく見る顔ぶれだな」
「お前、風呂場とか自分の部屋も掃除させるとか言ってないだろうな」
「何か問題が?捨てるもののなかで欲しい物があれば持ち帰って良いとも伝えてある。わたしには必要のない物でも、雑兵にとっては貴重であったりするものもあるからな」
 すなわち、2〜3回着用したものの趣味にあわなかった高位聖闘士用の稽古服の古着であるとか、皮のナックルであるとか、風呂用小物などだ。要らぬ品々を下位のものへ譲り渡すこと自体は、リサイクルの面からも推奨されるべきことだろう。
 しかし、カノンは遠い目で兄へ注意を促した。
「…お前、連中に拾った髪の毛とか持って帰られないように注意しろよ」
「彼らはそんなことはしない」
「まあ、そこまでしないかもしれないが…お前罪作りなのかサービスがいいのか…」
「何を言っているのかよく判らん」
 複雑な顔をしているカノンを置いて、黒サガは布巾を片手にさっそく柱を磨き始めた。


2010/12/28
◆年末大掃除2…(双子+雑兵)

 兄のファンだからということを差し置いても、雑兵たちは双児宮の掃除を頑張っているようだった。
(そういえば昼食をここで出すと言っていたな)
 カノンは先ほどのやり取りを思い出す。出すといっても黒サガが作るわけはないので、従者に用意させるつもりなのだろう。
「…作ってやるか」
 倉庫にある食材を計算しながら、カノンは台所へと向かった。雑兵たちが来てくれたお陰で、カノンの掃除分担が減り、そのくらいの時間が取れるのだ。サガへ自分が昼食を用意する旨の伝言を小宇宙通信で送り、下ごしらえの必要なものに手を付ける。
 しかし、ジャガイモを剥き終わったあたりで、妙に雑兵たちの数が増えているような気がして、カノンは手を止めて小宇宙のカウントをしてみた。やはり増えている。
 首を捻りながら食材の計算のし直しをしていると、サガから連絡が入った。
(人数が増えた)
(ああ、それは判っている。しかしお前も好かれたものだな)
(いや…増えたのはおまえのせいというか…昼食をお前が作ることを話したら、どこで聞きつけたのかお前のファンが集まってきてな)
(……)
 何だそれは、とカノンはまた遠い目になったが、掃除の人手が増えるのはいいことだ。

 カノンの手料理がずらりと卓上に並ぶ頃には、双児宮は今までにないほど磨き上げられ、塵ひとつなく白亜に輝く状態となったが、黒サガファンとカノンファンの雑兵が入り乱れる昼食会はとても濃い空間だった。
(二人で掃除をしたほうが、これほど疲れんぞ…)
 カノンは雑兵たちのパワーに圧倒されながら、こっそり心の中で呟いた。


2010/12/29
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