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◆2009-JUNK7

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆こころの区分…(統合サガとカノンと14歳ロス)


「サガ、君は俺のことをどう思っている?」
 アイオロスの瞳は怖いくらいに真っ直ぐで、それはどこか星矢を思い浮かばせた。どうと突然聞かれても困るものがあるが、真摯な問いには真剣に答えるべきであると思う。
 それゆえ、わたしは今のわたしの思うところを述べる事にした。
「昔からの敵」
 今のわたしは精神を統合させていて、割合でいえば黒のこころ80%、白のこころ20%といった混ざり具合だ。 黒白などという区分が正しいのかはよく判らないが、元々こころに正確な名称を付ける事など出来ないのだし、暫定的にニ人格を区分けしてそう呼んでいる。
 こころの配分によって物事の判断結果が変わることもあるので、精神を統合させたときには今まで以上に客観的な視点で事象を捉えるよう心がけている、つもりなのだが…それが却って良くないのか、時折失敗する。
 今も失敗したようだ。アイオロスの真っ直ぐな瞳が揺らいだかと思うと、その瞳が潤んだ。泣かせてしまったのだろうか。
 しかし、アイオロスはぐいと拳で目元をこすると、笑顔を作った。
「ごめん、なんか、汗が目に入ったみたいで」
 笑顔になったのではない。明らかに笑顔を作ったのだ。
 それ位は、わたしとて判る。
 何やら視線を感じてそちらに目をやると、部屋の隅で雑誌をめくっていたカノンが、こちらを呆れた目で見ている。少し咎めるような感情も伝わってくる。
(お前な、子供をあまり苛めんな)
 小宇宙通信など使わずとも、わたしとカノンは視線だけで意思を通じ合う事が出来るのだ。
(苛めてなどいない。黄金聖闘士の14歳は子供ではない。それに、アイオロスが、この程度で揺らぐとは思わなかったから)
(…お前、さすがに酷いぞ、それ)
 カノンはさらに呆れたようだ。
 酷かったろうか。言われるとそうかもしれない。わたしの知るアイオロスは誰よりも毅然とした聖闘士の鑑のような男だった。その男が、傷つくほどの内容だったということか。ならば、わたしの言葉は酷かったのだろう。
 少し胸が痛んだ。
 わたしはまだ、統合した精神状態に慣れていなくて、悪意も善意も混ざった思考(わたし以外の人間はそれが普通らしい)というものを、1つずつ学んでいるような状況だ。
 その拙さは何の言訳にもならないし、彼とは確かに対立するばかりの過去であったけれども、嫌いなわけではないのだ。それは伝えておきたい。
 わたしはアイオロスを見た。
「アイオロス、お前は何時でもわたしの前に立ちふさがった。しかし、それはお前だから出来たのだ」
 まだ赤みの残る目元のまま、アイオロスも私を見る。
「わたしに対峙出来るものなど、お前しかいなかった。わたしが最悪の事態を招く事を、お前が止めてくれたのだ。だから、お前が敵で良かったと思う。わたしはお前が」
「…敵じゃない」
 アイオロスが言葉をさえぎった。
「友達だからだよ、サガ」
 訴えるような、また泣きそうな眼差しで、ぎゅっと拳を握っている。
「………」

 もしかしたら、カノンが正しいのだろうか。13年前は、誰もわたしたちの事を子供だなどと思わなかったし、実際そのように扱われもしなかったけれども、14歳というのは、実はまだ子供なのだろうか。あれほど大人びてみえたアイオロスでさえ。
 こんなに簡単にアイオロスがわたしの言葉で揺らぐのも、彼が年相応のこころを持っているからなのかもしれない。そして、いろんな事が重なって、彼に大人の振りをする余裕が無いからかもしれない。
 考えてみれば聖戦後蘇ったものの、アイオロス以外の黄金聖闘士は、彼の弟までも全員が大人となってしまっていて、なのにアイオロスは教皇候補で英雄で、彼らを従えねばならぬ立場なのだ。
 それはとてもプレッシャーである気がする。
 わたしはもう少し、彼に優しくしてもいいのではないか。胸のなかで、急速に黒のこころが領域を減らした。

 とりあえず、目の前のアイオロスを浮上させねばならない。
「…アイオロス。このあと、遊園地にでもいかないか」
 思いきって決意を言葉にしたというのに、部屋の隅でカノンが脱力した。
 アイオロスもびっくりしたような顔で目をぱちりとさせた。
「ひょっとしてそれ、俺を元気付けようとしているのか?」
「ああ。前に同じ事を言ったら、星矢は喜んだぞ」
「しかも、星矢と同列の子供扱いしようとしてるのか?」
 アイオロスの声に微妙な感情が混ざる。また失敗したのだろうか。
(子供なのはお前だサガ)
 カノンのこころが伝わってきた。
 ちょっと心配になって、アイオロスに確認をとってみる。
「…もう少し、別の場所がいいだろうか」
「いいや、行ってみたい。行った事がないし」
 さいわいアイオロスは即答し、ひと呼吸ぶんの間をおいて柔らかな声が続く。
「次期教皇を遊園地に誘ってくれるのなんて、君くらいだよ、サガ」
 作り物ではない笑顔が、ようやくアイオロスの顔に浮かんでいた。

 彼が笑うと、わたしのこころにも光が増える気がする。
 わたしは彼を、本当はどう思っているのだろう。

2009/8/10
◆天上の光…(13年過去捏造双子パラレル)


 13年間の権力は、本物の女神の帰還により、あっけなく崩れ去った。
 力による聖域支配は完璧だったと思う。何せオレとサガが揃っていたのだから。女神とその配下の青銅どもの強さが反則的すぎるのだ。市井に育っても神は神ということか。しかも常勝の女神だ。どうしてその強さを13年前に見せなかったのだ。
 教皇宮は火に包まれている。フェニックスとの戦いの時に揮われた炎が、垂幕にでも飛び火したのだろう。あんな小僧に負けたのは納得がいかないが、それも正義の小宇宙と女神の加護とやらの差なのかもしれない。
 けふ、と血を吐いてオレは倒れたまま天井を見上げた。黒い煙が壁を伝って上へ昇っていく。パチパチと何かの爆ぜる音がする。おそらく、この部屋も長くない。
「カノン」
 ふいに涼風のような、この場に相応しくない柔らかな声がした。
 何とか首を捻って横を見れば、重厚な教皇の法衣を身に纏ったままのサガが、オレを見下ろしている。
「女神は本当は強いのだな」
 そう言いながらも、浮かぶ表情に悔しさはさほど見られない。おっとりと微笑む姿は昔のままで、女神よりもよほど神様のようだとオレは思う。
「…何を…している、逃げろ」
 オレはもう助からない。だがサガは。
 双子座がその名のとおり双子であると知るものは聖域にいない。密かに入れ替わる事によって、オレ達はこの聖域を表と裏から掌握してきたのだ。オレが反逆者ジェミニとして死ねば、少なくともサガは追われない。永久に聖域から自由になれるはずだ。
 サガは屈み込むとオレの手を握った。
「わたしたちは、ずっと一緒だろう?」
 その瞬間にオレを包んだ幸福と、生まれて初めての後悔は、どちらが大きかったのか。
 光の道を歩んでいたサガを、オレは強引に闇へと引きずり込んだ。悪を囁き、誘惑し、あらゆる手段を使って振り向かせた。二人でシオンを殺し、アイオロスを排除し、そして…
 そして聖闘士としてのサガは13年前に死んだ。

 これで良かったのだろうか。
 サガには別の道があったのではないだろうか。
 オレがサガと二人で征く道は、他になかったのか。
「カノン、わたしは後悔していない」
 心を読んだかのように、サガが笑う。サガが笑うほどに胸が痛む。
 この痛みは天罰なのか。女神よ。
 柱が崩れ、火の粉が互いの身体へかかる。サガの法衣も燃え始めた。炎に長い髪をまかせているサガは、この上もなく美しかった。

 オレはサガの手を握り返した。何であれ、たとえ神であろうと、繋いだこの手を解くことは出来ないのだ。それだけは確かだ。
 たった1つの勝利を胸に、オレはサガの名を呼んだ。

2009/8/17

◆沈黙…(ロスリア兄弟)


「あのとき『死んで償え』と、兄さんの魂は俺を叱ったんだよな」
 他愛もない会話のさなか、アイオリアがふと零した。
「本当に死んでしまえと思っていたわけではないぞ」
 アイオロスが返す。言葉に出さずとも伝わっているだろうけれども、出しておいた方が良い形もある。
「分かってる」
 アイオリアは組んでいる指をもぞもぞと動かした。
 そして小さな声で付け足す。
「サガは本当に死んで償った。あの時兄さんの言葉を思い出した」
「……」
「兄さんとサガは似ている」
 アイオロスは黙った。
 否定も肯定もしない兄をみて、アイオリアもまたそれ以上の言葉を呑み込み、沈黙を味わう。
(俺は大切な人が罪を犯したとき、兄さんのように死のけじめを求める事が出来るだろうか)
 考えても、まだ答えは出なかった。

2009/8/19

◆水槽の闘魚…(ロスとサガが魚の世界)


 目の前の闘魚は、今までアイオロスが見たことのあるどんな魚よりも綺麗でした。ふわりと広げられた尾びれが細やかにさざめき、美しくも鋭い眼光で睨まれたときには、世界が彼だけで埋まってしまったかのように感じました。その闘魚の動きは優美な刃のようで無駄が無く、いやがおうにも視線を惹き付けます。直後に容赦ない攻撃を受けて、ようやくその動きが威嚇であったと思い出したくらいなのでした。
 慌てて距離をとりながら、アイオロスはその闘魚に尋ねました。
「ねえ、君の名前は?」
「わたしの領域を荒らすお前が先に名乗るべきだろう、侵入者よ」
「荒らすつもりはないんだけど。俺はね、アイオロスという」
「わたしの名はサガ。お前の意図が何であれ、わたしの目に映るかぎり、わたしはお前を排除しなければならない」
 闘魚はとてもテリトリー意識の強い魚です。会話可能な範囲にいるということはすなわち、攻撃対象とされることを意味するのです。しかし、二匹のいる水槽はあまり広いサイズではありません。つまり、アイオロスは観賞用に…サガと闘わせるために新しく水槽へ追加された魚なのでした。
 けれどもアイオロスはあまり闘いたくはありません。彼はベタであるサガと同じゴクラクギョ亜科ではありますが、もう少し平和な属の魚だったのです。
「仲良く出来ないのかなあ」
「何を馬鹿な事を」
「だって二匹しかいないのなら、闘うより友達になった方が楽しいだろ」
 サガにとっては、見敵必殺が正義であり本能です。そのように生まれ付いているのです。アイオロスの言っている事がさっぱり理解出来ません。
「友達というのは何だ?」
 そんなサガの様子をみたアイオロスは、丁寧に説明をしようとして考え込みました。しかし、いざ教えようとしてみると上手い言葉が浮かばないのです。
「そう言われてみると、友達って何だろうなあ」
「ふざけているのか」
「いや、説明しようと思うと意外と難しいんだよ」
 アイオロスはサガの攻撃を躱しつつ答えます。アイオロスはなかなか素早い魚で、そう簡単にはやられない自信もあったのですが、サガは綺麗なだけではなく、とても強くスピードもある魚のようでした。直ぐに回り込んでニ撃目を加えてきます。
 薄青色から濃紺へと変わる鮮やかなグラデーションの尾びれを目一杯広げ、一心にフレアリングをするサガの姿は、大輪の花が咲いたかのようでした。
「何故、お前は攻撃をしてこない」
 サガは怪訝そうに(それでも攻撃の手を休めずに)聞きました。
「だってやり返したら、君が怪我をしてしまう」
「当たり前だ。そうして、どちらかが沈むまでわたしたちは闘うのだ」
「どうして?」
 逆に聞き返されて、サガは一瞬詰まりましたが、直ぐに言い返します。
「お前がわたしの目に映るからだ」
 堂々巡りです。

 しかし、逃げもせず立ち向かいもしない相手というのは、サガにとって初めてでした。テリトリーを侵すつもりがないという言い分は、どうやら本当のように思えます。しかし、この水槽空間が二匹の居住を許すだけの広さがない以上、闘魚としては攻撃するしか出来ないのです。
 敵意のない相手へ一方的に攻撃をしかけるのは、何となく嫌な感じがしました。そして、そう感じるのも初めてのことでした。
 サガは実は基本的に優しい魚です。けれども、闘魚としての性質は彼に攻撃の続行を命じました。闘魚へ闘うなということは、息をするなというのと同じ事であり、生物が本能を消す事は不可能です。目の前でぼろぼろになっていくアイオロスを見て、そろそろ止めたいと思っても、それはサガには出来なかったのです。
「そんなに傷ついて、もう友達とやらになるのは無理だろう」
 思わず零したサガでしたが、それでもアイオロスはマイペースでした。
「そんなことないさ」
「だが、傷つけたわたしを憎いだろう」
「これはサガのせいじゃないよ」
 アイオロスは微笑みます。
「闘うように生まれついたのは君のせいじゃないし、ここにこうして二匹でいることも君のせいじゃない。全部神さまが決めたこと。この限りある水槽という世界を作った神さまの」
 サガはびっくりして少しだけ攻撃の手を休めました。
 この水槽で生まれ育ったサガには、世界はこうあるのが当たり前のことで、神がどういう意図で世界を作ったのかなどということは、考えた事もなかったのです。
「でもね、俺は別に神さまに逆らおうとか思っていない。ただ、君が綺麗だから攻撃できないだけ」
「綺麗?」
「ねえ、友達になろうよ」
 アイオロスのヒレはもうほとんど破れていました。
 サガは考えました。友達がどういうモノかはまだ良く判らなかったのですが、もしかしたら、その友達とやらになれば、攻撃をしなくても居られるのかもしれない。そうすれば、もっと色んな話を聞けるかもしれないのです。
「どうすれば、」
 しかし、サガの言葉はそこで途切れました。
 アイオロスは柔らかに微笑んだあと、目の前で静かに沈んでしまったのです。


 水槽にはまた平穏が訪れました。
 けれども、サガはもう安らかに暮らすことは出来ませんでした。闘うことが本能である魚がひとりになったとき、敵意を向ける相手は、もう自分自身しかなかったのです。
 血まみれになるまで水槽のガラスに身体を打ちつけたサガは、最後に『神様、どうして』とだけ呟きました。

2009/8/24
◆黄金三角形…(ロスシュラサガで三角関係かつ総両想い)


「では、教皇として双子座のサガへ魔獣討伐を命ずる」
「は」
「封印が綻んだ原因調査も頼む。鎮められるようであれば再封印だけで構わない。あれは地元住人たちにとっては、神獣でもあるからな」
「御意に」
「片付いたなら、直接俺の私室のほうへ報告に来てくれ」
「判った、アイオロス」

 公私の会話を使い分けつつも、サガは常に即答した。
 最後の台詞など報告の名を借りた逢引要求だというのに、咎める事もしない。アイオロスが命ずれば、必ずサガは受け入れるのだ。
 ただし、必要以上の会話はない。
 サガの方から話しかけることは、殆どないと言って良い。

 黄金聖衣を身に纏い、マントを優雅に捌いて教皇の間を出て行ったサガの背中を見送り、アイオロスは溜息とも付かぬ息を吐く。
「なあ、どう思うシュラ?」
「オレに振らないで下さい」
 隣へ控えていた山羊座が、話しかけられて冷たい視線を返す。それでもきちんと律儀に答えるのが、彼の真面目さだ。
「どうしたら、サガは俺に心を開いてくれるのだろう」
「サガは充分貴方に対して親和的に見えますが」
「だけど、壁がある」
 既に着慣れたものとなった教皇の法衣姿で、アイオロスは再度息をついた。
「シュラはこんなに素直で可愛いのになあ」
「戯言は止めて下さい。それに、サガは素直なひとだ」
「俺以外にはね」
「しかし、この状況を作ったのは貴方だろう」
「そうなんだけどね…」


 聖戦後に再開を果たした黄金聖闘士たちは、アイオロスを教皇と掲げ、聖域再建の道を歩んでいる。しかし、双子座だけは聖衣を辞して去ろうとした。
 その彼を引きとめたのは射手座の一言だった。
『今度は俺が君の命を貰い受けたい』
 それは、13年前に命を奪われたアイオロスによる痛烈な宣告。
 振り向いたサガは目を丸くして、じっとアイオロスを見つめた。そして目を閉ざし…次に目を開いたときにはもう感情の色は見えなかった。
『13年だ』
 サガは言った。
『13年分、お前にわたしの命を預ける』
 それ以来、サガはアイオロスの言葉に決して逆らわない。


「誓約の13年のうちに、彼の感情を変えてしまえば良いと思っているんだけど…」
 はあ、と何度目になるか判らない息をアイオロスは零す。
 愚痴めいた台詞をぶつぶつ零す姿は、とても配下の聖闘士たちに見せられたものではないが、そんな姿を見せるのはシュラの前でくらいだ。わきまえた上で、気心の知れた相手へ甘える事くらいならば、堅物のシュラも大目に見る。
「あの人は貴方のことが好きだと思うが」
「それは知ってる」
「………」
「でもサガが自覚ないんじゃ意味がない」
 きっぱりとアイオロスは言い切った。
「もっと、俺なしではいられないくらい、切羽詰って欲しいんだよね」
「………」
 今度はシュラが盛大に溜息を付く。心の中でだが。生き返ったアイオロスは、13年前の落ち着きが嘘のように奔放だ。彼は彼で、死んでいる間に色々と思うところがあったのかもしれない。
「なあシュラ、今度サガの前で俺とイチャついてみないか?」
「オレを巻き込まないで下さい」
「教皇命令でも?」
「それを実行したら、黒い方のあの人が黙ってはいませんよ」
 溜息を胸中に収める事はやめ、シュラはアイオロスの前でわざとらしいくらい大仰に息を吐いた。
 しかし、その時の黒サガの反応を見てみたいと思ってしまうのは、自分もアイオロスに影響されているのかもしれないとシュラは思う。サガはどちらに妬くのだろう。

「いいなあ、君はサガに愛されてて」
「貴方は本当に英雄だな」

 皮肉とも愛情ともとれぬ応酬をしながら、望んだ平和を今日も噛み締める。多少歪んでいようが、これが聖戦の成果だというのなら、結構なことだと二人は思うのだ。

2009/8/25

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