JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆海デート…(黒サガ&アイオロス)
「あれっ?」
アイオロスは振り返って頓狂な声を上げた。
カノンが留守の朝方を狙い、双児宮に押しかけて半ば強引にサガの手を掴んだままテレポートしたものの、転移先で落ち着いてみれば、いつのまにか手の先にいたのは黒髪のサガ。
黒サガは、常のごとく挑戦的な瞳でアイオロスを睨んでいる。
「このような人気のない場所へ連れ出すということは、ようやく雌雄を決する気になったのだな」
ここは南海の孤島。白い砂浜が湾をつくり、海はエメラルドのごとく煌いている。誰もいない空間に、立つのはアイオロスと黒サガだけ。
デートのつもりで連れ出したサガの変容にもめげないのが、アイオロスの大人物たる所以だ。黒サガ相手にも予定を変更することなく話しかける。
「ええと…この美しい風景を見て、何か思うところはない?」
「海だな」
「ああ」
「水泳勝負ということか」
「……ええと」
「拳を使わなければ、私闘禁止の掟に触れぬ。そういうことであろう」
「………。むこうの小島まで遠泳競争しよっか」
「受けてたつぞ、サジタリアス」
しかし、恋愛の機敏に無縁の黒サガはその上をいった。
その後、遠泳勝負には勝ったものの(サガは長い髪のぶん水の抵抗が多かった)、そのことは一層黒サガの競争心を煽ることとなる。
「髪を切ってくるゆえ、また明日もう1度勝負しろ」
そんな事を言い出した黒サガに、アイオロスは一生懸命思いとどまるよう説得せねばならなくなるのだった。
2009/7/13
◆リベンジ…(白サガ&アイオロス海デート続き)
早朝、空の白み始めたころに人馬宮を訪れたのは、珍しくも白サガと呼ばれる方のサガだった。
アイオロスの目の前に現れるのは、大抵の場合人格統合されたサガもしくは黒サガであったので、希少な機会とアイオロスは素直に喜んだ。
しかし、サガの方はいつものような柔和な面持ちではない。
どこか鋭い視線に本気が伺える。
サガはおもむろに口を開いた。
「アレの代わりに、私と再戦願おうか」
「ええっ?」
そう言われてアイオロスは昨日の出来事を思い出した。
ひょんなことから南の孤島で黒サガと遠泳勝負をする羽目になり、自分が勝利したことを。
勝敗をわける原因となった長髪を黒サガが切ると言い出して、それを止めるのにとても苦労したのだった。
サガは基本的に負けず嫌いだ。それはどのサガであれ変わらない。
黒サガの時にはそれが闘争心や野心となって表れ、白サガの時には向上心や克己心となって表れるだけだ。
半身のこととはいえ、己が負けたことで白サガのスイッチも入ってしまったのだろう。
「でも、その髪では平等な競争にならないから、遠泳勝負は無しにしようって、昨日話したよね」
「身体の条件など言訳にならぬ。しかし、アレとお前が既に話をつけた内容を蒸し返すつもりはない。遠泳以外の水勝負で決着をつけさせてもらう。無論、髪がハンデとならぬものでな」
「…たとえば」
「潜水ではどうだ」
アイオロスは考え込んだ。
種目がどうあれ負けるつもりは無いが、潜水を競うというのはとても危険な事なのである。そしてサガは本気だ。限界を超えても、勝つまでは水面に上がろうとしない彼の姿が目に浮かぶようだ。第三の判定者もなく、医者がいるわけでもない南の島での勝負は、安全面に問題がありすぎる。サガもそれくらい判っているだろうに。
(昔からサガは、勝負事になると無茶をするところがあった)
アイオロスは苦笑する。
しかし、アイオロスも判っていなかった。サガがそこまで勝敗にこだわるのは、アイオロスに対してだけだという事を。
少し考えた後、アイオロスは頷いた。
「いいだろう。その代わり、無理をしてどちらかが溺れたときには、もう片方が口移しの人工呼吸で助けること」
アイオロスは真面目に言ったのに、潜水勝負は中止になった。
2009/7/14
◆再リベンジ…(双子とアイオロスでリベンジ続き)
水泳勝負に負けたままのサガは、まだアイオロスに対して静かな闘争心を燃やしていた。そんなサガの横で、カノンが行儀悪くソファーへ横になりながら雑誌をめくっている。
サガはカノンへ話しかけた。
「アイオロスに遠泳で負けたのだ」
「ふんふん」
「体力的にはむしろ私に分があると思うのに」
「ふんふん」
「彼より筋肉が重くて水に沈む分、余計に力を使うという事だろうか。体重も私のほうがあるしな…」
「ふんふん」
「水競技で彼に挑みたいのだが、何が良いだろうか…聞いているのかカノン」
「ふんふん、シンクロナイズドスイミングとかでいいんじゃね?」
「誰と何をシンクロナイズするのだ。第一それでは芸術点で私のほうが有利になってしまう」
「何が有利だ。そもそも誰が判定するんだよ」
「そのあたりの聖闘士に頼んで」
「やめろよどんな拷問セクハラだよ。誰も見たくないだろそれ」
「失礼な。私の裸は芸術だともう一人の私も言っていたぞ」
「しかも裸でやるつもりだったのかよ!」
ようやく雑誌から顔をあげたカノンを、サガがむっとした顔で見下ろしている。おそらく構って欲しくてわざと突っ込み待ち発言をしていたのだろう。サガにしては珍しい誘い受だ。
「お前がシンクロナイズドスイミングでやれと言ったのだ」
「…悪かったよ、真面目に聞かなくて」
カノンは身体を起こした。それによって空いた面積へ、サガも腰を下ろす。
「サガ。水泳でもお前は勝てると思うぞ」
「しかし髪が…」
「そんなものは三つ編にでもすればいいのさ。少なくともオレなら勝てる」
「そうか?」
「海将軍筆頭を舐めないでもらおうか。水泳は得意分野だ。遠泳のコツは波のクセを掴み、その力を利用すること。訓練すればお前も伸びる」
「カノン…」
「まあ試しにオレがアイオロスと勝負するから、それ見て参考にしろ」
その後カノンは本当にアイオロスへ勝負を挑み、勝利を得た。
アイオロスはさして悔しそうでもなく、さっぱりしたものだ。
「オレがサガに勝って、カノンがオレに勝ったってことは、カノンが1番上ってことだね」
しかし、その何気ない一言によって、サガの競争魂はカノンに向けられることになる。
サガの視線がカノンにだけ向けられるのは、アイオロスも悔しい。
二人から毎日のように勝負を持ちかけられることになったカノンは、もうアイオロスとサガの勝負事に口を挟むのは止めようと決意した。
2009/7/15
◆送られた塩…(双子+星矢+14歳アイオロス)
目の前でサガが星矢の顔の泥を拭いてやっている。
星矢は顔だけでなく、服も埃で汚れていた。何故かと言うと俺がみっちりと稽古をつけたからだ。
サジタリアスの聖衣を纏うことのある彼を、同じ射手座である俺が鍛えるのは当然で、それは先達としての義務とも言えるだろう。
もっとも、ペガサスの聖衣は神聖衣へ進化することが可能なので、今さら黄金聖衣は必要ではないかもしれないが。
稽古を終えたあと、人馬宮へ戻ろうとした俺に、星矢は双児宮へ寄っていこうと提案した。星矢とサガは仲が良いのだ。
サガは己の野望を星矢によって阻まれたにも関わらず、何の遺恨もなく星矢へ愛情を向ける。もう一人のサガの時ですらそうらしい。星矢も屈託なくそれに応える。とても微笑ましい関係だと思う。
今もサガは、それはそれは嬉しそうに星矢の面倒をみている。彼が年下の者へ優しい事を差し引いても、これほど愛情全開の視線を受ける事が出来るのは、星矢くらいしか思い浮かばない。他の者に対しての愛情の発露は、何らかの自制心・遠慮・体裁などのフィルターを通すのがサガの常だというのに。
俺相手のときとは大違いだ。内心でこっそりと溜息をつく。
分かっている、サガが星矢に優しいのは後輩だからだ。そして誰よりも星矢が頑張る者だからだ。ほうっておけないのだ。俺に構わないのは、同輩かつ対等と認めてくれているからであり、俺もサガに面倒をみられたいわけではない。
しかし、しかしだ。甘やかされずとも、俺とて優しくはされたいのだ。
星矢は13歳、俺は14歳。星矢と俺の何が違うのだろう。
1つしか違わぬはずの年齢を思い出してまた落ち込む。
聖戦後に蘇生されて最年少黄金聖闘士となり、仲間たちとの年齢が逆転して気づいた事がある。かつては年長という立場で封じられてきた我侭な感情を、俺も人並みに持っていたということを。
だからといって、感情をそのままに露わとして許されるわけはない。俺が教皇候補であるという立場は変わらない。
俺はひたすら我慢する。想いがいつか褪せ、重力に負けて散りゆくまで。
ぼんやり頬杖をついて、テーブルの向こうの二人を見ていたら、ふいに冷たいものが頭から降ってきた。びっくりして顔をあげる。視界に映ったのは、グラスを両手に持ったカノンだった。
「うっかり手が滑ったすまんな」
あきらかに棒読みなセリフだ。
黄金聖闘士である俺が、カノンの接近に気づかず、水をかけられるまで放心していたという状況は褒められたものではない。それほどまでに内面に浸っていた己を反省する。それにしてもこれは一体どういう状況なのだろう。わざと水をかけられるような事をした覚えは無い。カノンも嫌がらせでそう言う事をする性格ではない。もっとしっかりしろとハッパをかけられたのだろうか。
カノンは口で謝罪しただけで、まだ水の入っているほうのグラスを星矢の側のテーブルへ置きに行った。代わりにサガが慌てて乾布を持って俺の方へ来る。
「弟が粗相をしてすまない、大丈夫か?」
乾布を濡れてしまった服に当てながら、心配そうに聞かれた。
「いや、これくらい何ということもない」
「しかし…」
実際大した被害でもないのだが。
サガは俺の顔をみて目をパチリとさせ、それから少し笑った。
「よく見れば、お前の顔も泥だらけだな」
程よく水で湿った布が、俺の顔にも押し当てられる。先ほど星矢がされていたように。
間近で見るサガの睫毛はとても長く、それが瞬くさまはとても綺麗だ。
こしこしと顔を拭かれながら、俺はふとカノンを見た。カノンはこちらに背を向け、サガと入れ違いに星矢と話をしている。カノンはもしかして、こうなる事を予測して水を零したのだろうか。
「すまないな」
サガが目を伏せて、もう1度謝った。
その言葉は何故か俺だけではなく、カノンにも向けられているような気がした。
2009/7/25
◆柔らかな支配…(海神とカノン)
ジュリアンの身体を借りたポセイドンが、ソファーで寛ぐカノンの髪に手を伸ばす。指先にほどよく絡めて遊び、そのまま圧し掛かろうとしたところで、カノンの腕がその行為を制した。
「それはジュリアンの身体だ」
「このポセイドンの身体でもあるぞ」
海神の反論にも、その拒絶が緩むことはない。
ポセイドンは諦めて隣へと腰を下ろし、ジュリアンの仕草そのままに、カノンの顔を覗き込む。
神が人に降りるとき、神のあり方はその降りた人間の魂にとても左右される。ジュリアンに宿ったポセイドンはジュリアン的なポセイドンであり、沙織として顕現したアテナは、沙織的なアテナなのだ。
ポセイドンは首を傾げる。
「ならば、ジュリアンもお前の事を好きであればよいのか?」
カノンは黙って眉をひそめている。
彼を振り返らせる事が出来るのは、今はまだ双子の兄のサガだけなのだ。
「シードラゴンたるお前は、このポセイドンのもののはずだろうに」
むくれている海神の頭を、黙ったままのカノンの手がひっそりと撫でる。
2009/7/31