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◆2009-JUNK5

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆優しさの才能不足…(黒サガ→カノン)


 弟を可愛がるにはどうしたら良いのだろうか。
 たまにはカノンに優しくしようと唐突に思い立った黒サガは、それを実行しようとして、方法を思いつかぬことに気づく。
 そもそも、誰かに優しくするという行為が、どういう状態を指すのかも良く判らない。何をどうすれば『優しい』事になるのだろう。
 とりあえず黒サガは、弟思いだと評判のフェニックスを捕まえて聞いてみる事にした。プラスの感情に疎い彼ではあるが、元偽教皇だけあって、ものごとを解決するための手順とツールを考えることには長けている。

 さっそく異次元経由で攫われたフェニックスは、気ままな放浪を邪魔された事に不服と不信の目を向けながらも、相手がサガとみると話だけは聞く姿勢を見せた。
「用件は何だ」
「フェニックスよ、お前はアンドロメダをどのように可愛がっている」
 黒サガとしては精一杯丁寧に聞いたと言うのに、次の瞬間もうフェニックスは居なかった。どうでもいい用件であったので逃げたのだろう。
 追いかけて捕まえる事は出来たが、数時間をそのために費やすのも勿体無い。それに何となくだが、質問を聞いた一瞬の顔つきで判断するに、フェニックスも黒サガの同類らしき予感がする。回答者には適していなさそうだ。

 黒サガは、効率よく次の兄弟候補を頭に浮かべた。
 直ぐに思い浮かぶのは射手座と獅子座の兄弟、そして冥界の双子神。
 自分で思い浮かべたくせに、黒サガは少しドンヨリした。
(双子神に聞くのは論外として、サジタリアスに弟の可愛がり方を聞くのは、如何なものか)
 これは自分だけでなく、もう一人のわたしも引き気味に感じるはずだ…と黒サガは考える。
 第一、大手を振って仲良くやってきたあの輝かしい兄弟のやり方を真似たところで、カノンが喜ぶとは思えない。
 アイオロスとアイオリアに強いた13年間の苦境を、善なるサガは深く悔いているが、黒サガは正直なところスッとしていた。アイオリアの中で、アイオロスへの微妙な感情が芽生えた件に関しては特に。
 胸のうちに去来する独白に気づいたのか、白サガが起き出してきて説教を始めた。
(お前はまだそんな事を)
 黒サガがプラスの感情に疎いように、もう一人のサガはマイナスの感情に疎い。それゆえに、彼らの間で意見が噛みあうことはなかなか無い。
 しかし、今日は異なる視点の持ち主として、黒サガは白サガにも頼ることにした。
「お前なら、カノンをどうやって可愛がる?」
 そう問うと、白サガは妙な間を置いて口篭ってしまった。
 黒サガは”役たたずめ”という意識を向ける。
「何だ、お前にも判らんのか」
(…カノンは、可愛がる対象ではなかろう)
「何故だ」
(双子だし、もういい歳なのだし…)
「お前の歯切れが悪いときは、正直にものを言っていないときだ」
 黒サガが指摘すると、白サガは完全に沈黙してしまう。それきり答えが返ってこないので、面倒くさくなった黒サガは、直接カノンに聞いてみる事に決めた。

「カノン、お前はどんな風に優しくされたい?」
 フェニックスの時のように逃げ出されぬよう、カノンの両手を拘束してから黒サガが尋ねると、カノンは何故か青ざめて、今日はこのあとも仕事があるからだの、まだ心の準備がなんとかとか謝りだした。心なしか震えている。
 それは、強引な兄の言動のせいで多大なる誤解が生まれたせいであったけれども、心の機敏に疎い黒サガは気づく由もない。
「遠慮せずとも良い」
 笑みを浮かべながら噛み付くかのごとく、更に顔を近づける。
 カノンの不安は倍増した。


 カノンは結局黒サガに泣いて謝った。
 黒サガはまったく納得がいかず、心の中で首を捻り続けるのだった。

2009/7/1
◆アロハ…(双子とアロハシャツ)


 女神が旅行土産にと黄金聖闘士達へよこしたのは、アロハシャツだった。
 双子へ渡されたのは、色もデザインも全く同じ、水色のトロピカル模様のもの。
 サガは感涙にむせいでいたが、カノンはせめて色くらい変えてくれればいいのになと、こっそり胸のうちで呟いている。
 だが、初夏を迎えるギリシアの気候に、アロハは有難い。早速間違えぬよう名前をタグの裏に書いている兄に先んじて、カノンはアロハを着て街へと出かけた。

 用事を済ませてから聖域へ戻ってくると、途中で何人かの雑兵にすれ違った。
 聖域への元敵対者であり、現海将軍筆頭でもあるためか、常日頃のカノンに対する雑兵や神官の態度は遠慮がちなもので、出会っても遠巻きに頭を下げられるか、良くて「こんにちはジェミニ様」と声をかけられる程度である。
 もっとも、サガのほうも話を聞けば似たり寄ったりの状況らしく、ようするに双子座はまとめて厄介者扱いなのかもしれない。
 それは、自分たちの過去の行いを考えれば仕方の無いことだった。せめて無用な軋轢は避けようと、カノンはサガを真似て穏やかに歩く。
 しかし、今日の雑兵たちの反応はいつもと違っていた。

「おかえりなさい、カノン様」
「そのアロハシャツ、似合っておりますね」

 カノンは驚いた。一瞬立ち止まって真顔になるほどに。
 未だかつて、聖域でこれほどフレンドリーに寄って来られたためしは無い。サガに化けているときは別だが。いや、今とてサガの立ち振る舞いを真似ていたのだ。にもかかわらず名を呼ばれた。
(気が緩んでいて、サガの擬態が疎かだったのだろうか)
 それでも、擬態を看破されたことへの危惧より、嬉しさのほうが先立った。カノン個人に対する彼らの態度の緩やかさが、孤独なぞ気にも留めぬ彼の心をも和ませたのだ。
(…アテナの下さったアロハシャツが、親近感を呼んでくれたのかもしれんな)
 カノンは鼻歌を歌いながら、十二宮の階段を登っていった。


 一方、すれ違った側の雑兵たちは、興奮気味に話していた。
「俺にもサガ様とカノン様の区別がついたぞ!」
「ああ、今までは区別が付かぬだけに、挨拶もしにくかったが…」
「『ジェミニ様』などという言い方で誤魔化していたものな」
「立ち振る舞いが違うときには判別もつくが、カノン様がサガ様の真似をしているときは、お手上げだったからなあ」
 雑兵側は、双子たちが思うほど過去の罪を気にしていない。
 むしろ聖戦時の活躍に憧れ(または胸を痛め)るという純朴さだ。
「サガ様もカノン様も、毎日あの服を着てくださればいいのに」
「ああ、アロハが全然似合わない方がサガ様だな」
「同じ顔なのに、どうしてカノン様はあれ程似合うのだろう

 こうして雑兵たちの間では、暫しアロハシャツが魔法のアイテムとして囁かれる事になる。
 しかし、同じサガでも黒サガ率が上がるとアロハシャツに馴染みだすことが判明し、再び雑兵たちは混乱する羽目になるのだった。

2009/7/2
◆紫外線…(ロスとエピG経由リア+サガ)


 ギリシアの夏は日差しが強い。
 アイオロスは石段に腰を下ろし、照りつける太陽に瞳を細めた。
 向こうからアイオリアとサガが歩いてくる。組み手でもしたのだろう、二人とも軽く汗をにじませている。
 サガの銀髪もアイオリアの金髪も、太陽を反射して輝くようだ。
「紫外線、強そうだなあ」
 それに見とれつつ、思わずアイオロスは呟いた。
 零した言葉が届いたのか、アイオリアがにこりと笑う。
「何を言っているんだ兄さん、当然紫外線はカットしているよ」
「西ヨーロッパで日差し対策は常識だろう、アイオロス」
 サガの声が続く。アイオロスは目をぱちりとさせた。
「まさかお前たち、紫外線カットの化粧品などを使っているのか?」
 サガはともかく、アイオリアがそのような類のものに興味を持つとは思えない(ちなみに、アイオロスはサガの性格に対して、やや誤解がある)。
 意外さが声にも滲んだようで、アイオリアが呆れたように答えた。
「兄さん、小宇宙で遮断しているに決まっているだろう」
「…は?」
「アイオリアの言うとおりだ。遮断しすぎもカルシウムの減少を招くゆえ、適宜にな」
「…ちょっと待て、小宇宙でどうやって」
 アイオロスの目が点になる。
 しかし、サガとアイオリアの二人は、アイオロスが何を驚いているのか判らずに首を捻った。
「放射能を遮断するより簡単だぞ、兄さん」
「ああ、確かアイオリアは原発テロの現場に派遣された事があったな…聖闘士になりそこねた男が外界に迷惑をかけたゆえ、私が抹殺の命を下したのだった。あの頃のお前は、まだ髪を赤く染めていた」
「サ、サガ、それは兄さんに言わないでくれ!」
「良いではないか。アイオロスもお前の昔の話は聞きたいと思うぞ、なあアイオロス?」
「……………」
 問いかけられるも、アイオロスは遠い目のままで。
(確かに常よりも、サガとアイオリアの身体を濃い目の小宇宙が包んでいるなとは思っていたが)
 額を片手で押さえた射手座を、サガが「貧血か?」と心配そうに覗き込む。
(アテナよ、俺が死んでいる間に、何だか弟と友人が人外になってしまった気がします)
 アイオロスは大丈夫だと笑い返しつつ、それでも彼らからの愛情が変わらぬ事に感謝した。

2009/7/7
◆闇の向こうに光の雨が降る…(カーサ×サガ)


 海界での空は海面にあたる。それなりに深度があるはずの海の底で、水の層を透かして太陽の光が揺らめくのは、異界だからとしか言いようがない。
 薄く色づいた青の光が、やわらかく白の神殿を染める。
 南氷洋の主カーサは、その神殿の下で溜息をついた。
「何か、悩み事でも?」
 玲瓏たる声で尋ねたのは、溜息の元凶である双子座のサガ。
 声だけでなく、見目かたちも神の造形と評される美しい男。
 かつて海界と対立していた聖域の黄金聖闘士であるにも関わらず、平気で海将軍神殿へ乗り込んでくる神経の太さは、その清楚な面持ちからは一見うかがい知る事が出来ない。
(アンタのせいだよ)
 心の声を口にする事はせず、カーサはもう1度溜息をつく。
 この美貌の聖闘士は、海将軍筆頭・カノンの双子の兄だ。カノンはかつて海神ポセイドンを謀り、サガは女神へ刃を向けたという。兄弟揃って、迷惑な性格をしていたのだ。
 いや、過去形にするのは正しくないかもしれない。
 少なくとも自分に関しては。
「何でもない」
「本当に?」
 サガはふわりとカーサの顔を覗き込む。近くで見ても文句の付けようのない端整な顔だ。だが、いくら整った顔立ちであっても、カーサは興味がなかった。その入れ物の方には。

 カーサは他人の心を暴くリュムナデスだ。
 敵の心をあさり、もっとも愛する人間の姿を写し取る。そして、もっとも効果的に相手を無防備とする言葉を探す。
 だから、興味があるのは外面ではなく、その中身。
 数えきれぬほど多くの人間の精神を覗いてきたカーサをもってしても、サガは特異な人間だった。

「ならば、いつものように頼む」
 万人を魅了する微笑もくせものだ。サガは二重人格者であるが、笑顔の裏に悪意が隠されているような、そんな単純な構造であれば恐ろしくは無い。
 大抵の場合、サガは光と闇で構成されている。今のサガは光だ。
「アンタ、いつも当たり前のようにモノを頼むなあ」
「だが、いつも聞き入れてくれるだろう?」
 サガの両手がカーサの頬を包む。彼は聖域で元教皇でもあったという(『偽の』ではあるが)。己の口から吐かれた言葉が、他人によって実行されることに慣れすぎているのではあるまいか。
 ふう、とカーサは姿を変える。
 そこに現れたのは、サガと瓜二つの似姿。
 しかしサガではない。彼の弟のカノンのほうだ。
 リュムナデスの術によって、サガの心から映し出されたカノンは、中身までもカノンそのままに呆れの表情をみせる。
「兄さん、こんなことはもう止めたらどうだ」
「何故?」
 サガはカノンの手を引く。ソファーへと弟を座らせ、自分はその隣へと腰を下ろす。肩を寄せ合う。
 手を重ねるが何をするでもない、ただそれだけの時間。
 だが、カノンは顔をゆがめた。
「本物に頼めよ、こういうことは」
「カーサ。折角100%同じに化けているのに、何故素の言葉で話す」
 まるで、カーサの方が悪いかのように拗ねるから性質が悪い。
 カノンの肩へ、サガは頭を乗せた。
「しかし、アンタがこうしたいのは俺ではなく、カノンだろう」
 カノンの顔がカノンの声で、兄を諭す。
「何を馬鹿な」
 サガはくすりと笑った。その妙に生活感のない明るさが、空っぽの冷蔵庫を思い起こさせる。
「カノンは血を分けた弟だぞ。弟に想いを寄せることなど、あるわけなかろう」
「じゃあ何で、俺をカノンに化けさせるのだ」
「カノンを裏切りたくない」
 言っている事が、支離滅裂だ。
 黙っってしまった弟に代わり、訥々と兄は話し続ける。
「弟を裏切らずに、他人を愛そうと思ったら、こうするしかないではないか」
「……」
「カノンは言うのだ。他人を愛する事を覚えろと」
「……」
「私にはお前しかいないのだよ、カーサ」
 それは確かに、サガの望みを叶えようと思ったならば、世界広しといえども、他人を写し取るリュムナデスを相手にする以外ないだろうとは思うが。

 光であり、善でありながら、闇を体現するサガは化け物だ。
 降りかかった火の粉を被る羽目になっているカーサは、この後のサガとの半日を思い、また溜息を付いた。

2009/7/10
◆猥談…(カノンと仲良くしたいサガ)


 サガの手により双児宮へ突然TVとDVD一式が運び込まれたと思ったら、「カノン、ちょっとそこへ座りなさい」などと真剣な顔で言われた上、『大自然の映像集・海の生態(3)』なんぞを放映され始めた日には、一体オレはどう対応すれば良いのだろうか。
 サガは食い入るように画面を見ている。視線の先にはタツノオトシゴが育児嚢で卵を保護する様子が映されていた。
「…雄が輸卵管を体内に差し込まれて受精するというというのも、考えてみるとなかなか凄い事だな」
 待った挙句、ようやく発せられた言葉がこんな内容だったので、オレはとりあえず兄の頭の心配をすることにした。
「サガ、暑さで脳をやられたか」
「何を唐突に失礼な」
「唐突なのはお前だ。何だこれは」
「いや、その…」
 もごもごと歯切れ悪く言いよどんだのち、意を決したのかサガが顔を上げてこちらを見た。
「た、たまには、お前と猥談でもして、親睦を深めようと思って」
 呆れて絶句しかけたのを、何とか踏みとどまる。
「目的は分かった。しかし、それで何故この状況だ」
「交尾映像でもあれば猥談も可能かと思って…お前はシードラゴンだしな…」
「アホかーーーー!!!」

 直球すぎるが、それ以外の言葉が出てこない。
 どこから突っ込めばいいのだ。

「し、しかし、アレが…黒の私が、お前が乗ってきそうな話題は猥談あたりが無難だろうと…」
「そこにも突っ込みたいが、オレが海龍だからタツノオトシゴの産卵映像って何だ!」
「関連はあるだろう」
「微塵も無いわ!むしろ魚類の交尾で猥談が出来ると思ってるお前が凄いわ!海龍がタツノオトシゴで猥談出来るのなら、双子座のお前は双子がやってれば興奮するのかよ!」
「え」

 サガがいきなり黙るものだから、不自然な沈黙が流れた。
 しかも何か赤くなって視線を逸らした。ちょっと待て、今のは単なるツッコミで、意味など考えもしていなかったのだが、お前がそんな反応をすると妙な空気が流れるだろう!

 サガは黙ったまま、何も言わないで映像に視線を戻した。
 画面は珊瑚の産卵へと移り変わっている。
 兄の無言をどう受け止めてよいのか判らず、オレは仕方なく隣で一緒に、退屈だけれども美しいその画面を眺め続けた。

2009/7/21
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