JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆神の体液…(ラダカノ&タナサガ前提で三巨頭会話)
冥府の片隅で三巨頭が珍しくも真剣な顔で顔をつき合わせている。
互いにそれ程仲が良いとはいえない三人であったが、聖戦後はほぼ壊滅した自軍の建て直しと界の復興の為に、協力せざるをえない場面が増えたのだ。
「今までは敗北を喫しつつも、拮抗していた冥界軍と女神軍の戦力バランスが、随分と崩れているように思う」
アイアコスが吐き出すと、残りの顔ぶれもそれに頷く。
「特に神聖衣とやらの存在は脅威ですね。神をも倒すほどの闘衣というのは反則的ですよ」
「冥衣も強化を望めないだろうか。その、神の血で」
ミーノスとアイアコスが言うも、隣でラダマンティスが首を振った。
「無理だろうな。ハーデス様は己の肉体を愛しておられる。かつてペガサスに付けられた傷ひとつを理由に、エリシオンへ閉じ篭ったお方だぞ。そんなお方が我らの為に身体を傷つけ血を与えてくださると思うか」
「そうなんだよなあ…」
アイアコスが溜息を付いた。ミーノスも表情は変えぬものの、方法が判っていながら得られぬ戦力を前にして、内心穏やかでないに違いなかった。ミーノスは神の道でその差異を見せ付けられている。戦う前から闘衣の差で決着がついてしまうのではたまらない。
すると、隣から穏やかな提案がなされた。
「ハーデスの血は無理でも、従属神の体液あたりならば如何か」
「なるほど、ハーデス様の血では恐れ多いが、あの連中ならば…っうお!?何故貴様がここに居るのだサガ!」
真横にいたラダマンティスが重鎮らしからぬ驚きを見せ、それを隠すように聖域の将へと突っ込む。ここは冥府の最深部である。ハデな黄金聖衣を着用した聖闘士が、簡単に侵入できて良い場所ではないのだ。
一方サガは、翼竜がイライラするほどの長閑な口調で答えた。
「エリシオンへ向かう途中なのだが、通り道である冥界の現場責任者…お前たちにも、挨拶をしておくべきかと思ってな」
聖域の黄金聖闘士の主格である彼は、何故か冥界の神であるタナトスと交流が深い。同盟が結ばれたとはいえ、勝手に冥府を行き来する者たちの存在はラダマンティスの頭痛の種だ。
頭を抱える翼竜の横で、ガルーダとグリフォンが何だという顔をした。
「サガの方だったのか」
「てっきりカノンかと思ったので黙っていましたよ」
ラダマンティスは思わず同僚二人にも突っ込む。
「気づいていたのなら言え!カノンであろうが良いわけなかろう!」
しかし、同僚二人は冷ややかな視線を返した。
「そいつ、当たり前のようにお前の隣に行ったからさ」
「カノンは貴方の城にも足繁く通っているのでしょう?今更咎めるのもヤボかと思いまして」
名目は真面目な三巨頭会議であったにもかかわらず、話題のせいで口調が次第に日常用へと戻ってきてしまっている。もう一つの頭痛の種に話題が移行しそうになり、ラダマンティスは咳払いをすると無理やり話を元へ戻した。
「た、確かに体液でも神のものであれば効果はありそうだ。しかし、あのようなもので代用などと、貴様は冥闘士を愚弄するつもりか」
サガとタナトスの関係を知っているだけに、サガの提案はラダマンティスにとっては破廉恥な言い分にしか聞こえない。流石にアイアコスとミーノスも渋い顔をした。
「戦で手段は選ぶなと思うが…オレも嫌だ」
「まあ、殆どの兵士は嫌がるのではないですか?小宇宙とはいわば『やる気』のようなもの。冥衣のパワーがアップしても士気が下がっては、使いこなせず無用の長物になりかねません」
ラダマンティスが、珍しく意見の一致をみた同僚に同意する。
「全くだ。せめてハーデス様のものなら考えるが」
「「えええっ!?」」
しかし、同僚の方はラダマンティスの意見に賛同しなかった。
「お前、カノンに言いつけてやろうか」
「貴方にそういう趣味があったとは」
「か、カノンは関係ないだろう!それに趣味などではない!選択を迫られればの話だ!」
すっかり会議ではなくなっている。
喧々囂々とやりあっている三巨頭を前にして、サガは黄金聖衣をキラキラさせながら首を傾げて見せた。
「タナトスの涙が、何故それほどまでに嫌われるのだ?」
三巨頭の会話がぴたりと止まる。確かにサガは体液としか言っていなかったが。
サガは立ち上がると、にこりと言い放った。
「まあ、タナトスがお前たちの為に涙を流す事など、血を流す以上にありえなさそうだがな」
立ち去っていくサガの背中に、ラダマンティスの怒声が響く。
「お、お前…統合サガだな!」
振り向いたサガは、それこそ神のごとく悠然と微笑んだ。
2009/4/28 神の体液をその身に受けたら、人間も何かに進化しないですかね。
◆拒絶…(憎悪を飼う双子)
「お前の悩みなんて、どうせ見た事もない女神だの、地上の人々のことだの、キレイな宝箱と変わらぬお飾りだろ」
そう言ってやったら、サガは眼をパチリと瞬かせ、それから
「そんなことはない」
と、何時ものようにおっとりとも聞こえる声で答えた。
ああ、こいつには日がな両手回数分も人類を心の中で滅亡させているオレの内面なんて、理解できやしないのだと思う。心の中で殺した人間の数に比べたら、実際に手をかけた奴の数なんてささいなものだ。
オレの怒りには理由なんてない。だから和らげる方法も判らない。八つ当たりをする以外に、この憎しみを宥める手段を持たない。人は死ねばいい。世界は滅べばいい。オレは世界を呪っている。サガだけがこの世に残ればいい。
するとサガは眼を伏せた。
「私もお前と変わらない。私は…代わりに心で幾度も神を殺している」
声にならない後半の呟きは、オレの耳に届く事はなかった。
2009/4/29
◆キラキラ混合…(LCネタでテンマ&星矢会話)
今生の黄金聖闘士自慢ということで、星矢がテンマへ説明を始めたのは双子座についてだった。
「サガがどういう人かっていうと…二重人格でキラキラしてる」
「何だそれ。派手に裏表のある奴ってことか?」
「いや、ホントに二つの人格を持ってんの。清らかな人格の時は、いるだけでその場がキラキラしてくるんだ。んと、天使の後ろに点描が飛ぶ感じ」
「…点描?」
星矢はそれほど説明上手ではないので、表現も漫画的なのだが、テンマの時代には漫画などない。頭に浮かべたのは、アローンに聞いたことのある絵画的点描手法である。
それでも言いたい事は大まかに把握し、それに対して射手座で対抗した。
「天使といえば、オレの時代の射手座シジフォスも凄いんだぞ。居るだけで舞い散る羽の幻覚が見えてくる」
「幻覚攻撃か?」
「いや、技じゃなくて素なんだ。しかもな、レグルスが…あ、レグルスってオレの時代のしし座なんだけど、初めてシジフォスに逢ったとき、その目の前で服の上から射手座聖衣を着たらしいんだよ」
今度は星矢が首を傾げる。
「服の上に聖衣を着用するのは普通だろ」
「服といっても外套なんだぞ!しかも、羽だけ着用、服の背中に破れなしでだ。どうやって着用したのか、射手座聖衣の構造を知った後では余計わからないんだ」
「へえ…サガが全裸で聖衣を着用するのとは真逆なのかあ」
「げっ、聖衣を全裸で!?」
互いに散々説明しあった後、二人は暫し黙った後、ぼそりと呟いた。
「なあテンマ、その二人を並べたら凄くないか?」
「オレも思った…辺り一面舞い散る羽とキラキラで別世界に…」
そんなわけで、噂の張本人たちの与り知らぬところで、お見合い計画が実行されることになるのだった。
2009/5/7
◆無防備な背中…(双子)
着衣を脱ぎ、上半身裸になってベッドへうつぶせになったオレの背中側から、兄のサガが静かに声をかけてくる。
「カノン、本当に良いのか?」
「今更聞くな。やるならさっさとやれ」
そう言ってやったのに、まだサガは躊躇しているようだ。
「だが、お前は初めてなのだろう。私も恥ずかしながら、このような事はしたことがない。もしも痛かったら、直ぐに止めるので…」
「うだうだ言うな。オレが良いと言ってんだから早くやれ」
きっぱり急かすと、サガはようやくオレの肌に指を這わせ始めた。
背にかかる髪を払い、サガの指先が肩甲骨の下端をゆっくりと探る。
くすぐったくて捩りたくなる身体を、意志の力で抑えた。
「この箇所を東洋では膈兪というらしい」
サガが指先に力を込め、思わず声を漏らしたオレは、慌てて口を押さえる。サガは笑った。
「この程度で声を上げているようでは、この先持たぬのではないか?」
「…っ」
一発で探り当てられたツボへの刺激が、意外と気持ちよかったなどと言うのも癪で、オレは枕に顔を埋める。
「カノン…されてみてもしも悦かったら、次は私にもしてくれないか」
する前からもう、した後の話なんぞしやがってコイツは全く。
デリカシーがないというか何というか。サガはこういう奴なのだ。
脳内で文句を言っているオレの心情など斟酌もせず、サガは背中のツボへ童虎から貰ったお灸のもぐさを置き、線香でその先端に火をつけた。
2009/6/3 いつものワンパターンオチで
◆誤届…(ロスサガ+ラダマンティス)
「アイオロス。茶を出すどころか頼みごとをしてすまないが、カノンにこれを渡しておいて貰えないだろうか?」
双児宮に押しかけた俺へ、サガがすまなそうに1冊の本を渡してきた。
急な任務が入ったとのことで、今から出かけねばならないのだという。
サガと二人で過ごすアテが外れたのはちょっと残念だけれども、教皇の勅命とあらば仕方が無い。
なんでもこの本は、カノンへ頼み込んで海界の書庫から借りて貰ったものだそうだ。汚れぬよう紙の袋に入れられている。
「俺に渡していいの?」
「ああ、別に機密関係のものではないのでな」
そういったものであれば、最初から聖域への貸し出し許可が下りないぞとサガは言う。
貸し出し期限は1週間。本を借りたのは1週間前。そんなわけで、どうしても今日中に返さねばならないのだと、双子座の主は困った顔で俺に頭を下げた。
内容は海界側で書かれた聖戦の歴史らしい。別の視点で書かれた戦史は海界の立場を理解するのに役立ち、また聖域側では失われてしまった記録などの補填としても参考になるそうだ。
話す合間にもサガは黄金聖衣を身に纏っていて、本当に急いでいるように見える。基本的に全てを自分でこなし、他人を頼るということをしない彼が、俺に物を頼むということも珍しい。
休暇中で断る理由もない俺は、その本を預かるとサガを見送った。
海界へ向かう前に、俺は町へ寄り道することにした。
ポセイドンの領域と地上を結ぶポイントは世界各地に点在しているが、ギリシアにはスニオン岬を筆頭に、数多くのゲートがある。その中でも海に近くて、行き来の便がよいテサロニキは俺のお気に入りだ。
街中で適当に食料を買い求め、足りなくなっていた生活用品なども購入する。黄金聖闘士ともなれば、自分の自由になるお金も多少はある。
ついでにサガへ日持ちのするお菓子でも土産に買おうかな…などと考えていると、通りの向こうに見知った顔が歩いていくのを見つけた。一人は冥界の重鎮ラダマンティスであり、もう一人はラフな格好をしたカノンだ。
彼らは気が合うのか、別陣営でありながら私的に交流が多いと聞く。
まさか、こんなところでカノン達に出会えるとは思わなかったが、海界へ行く手間が省けたのは都合がいい。
オレは早速二人に声をかけた。二人とも驚いたように目を丸くしている。
「デートの邪魔をして悪いな。カノンへサガからの預かり物があるんだ。渡したらすぐ行くから」
そう言って本を手渡すと、何故かラダマンティスは妙な顔をして、そのまま後ろを向いてしまった。よく見ると肩が震えている。笑っているのだろうか。
カノンの方は赤くなっている。ぐいと本をこちらへ押し付け、それだけでなく軽く握った拳でパコと俺の頭を突然叩いた。
「お前は…教皇候補が黄金聖闘士の見分けもつかぬと冥闘士の前で晒した挙句、公務に就いている者へデートだのなんだの…」
「は?」
「は?ではない。私はサガだ!」
「ええっ、出かけるときには聖衣だっただろう!」
「街中の移動には目立ちすぎるので着替えたのだ。此度は冥界との共同調査ゆえ、ラダマンティス殿と対応に当たっている…待たせてすまんな」
サガはそう言ってラダマンティスを振り返った。ラダマンティスは「構わん」と言ったものの、まだ口元が笑っている。しまった、いらぬ恥をかいた。落ち着いて見れば俺だってちゃんと判別出来るのに。
(キスマークでも目印に付けさせてくれれば間違わないんだけど)
こっそり胸中で呟いたら、それを読み取ったのか、サガの笑みが光り輝くようなものへと変わった。こういう笑顔を見せるときのサガは大層危険なのだ。
俺は慌てて別れを告げ、本物のカノンの待つ海界へと逃げた。
2009/6/11