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◆2009-JUNK3

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆天照…(女神+サガ)


 ハーデスの惑星直列技「グレイテスト エクリップス」のせいで太陽が隠れてしまい、アテナは対抗策を考えていた。
「完全発動前に解除してくれるようハーデスに頼んではみますが、駄目でしたら太陽神の方に働きかけてみようかと思います」
 そのアテナの前で膝をつき、礼をとりながらサガが尋ねる。
「なるほど、太陽神も自分の領域を侵食する此度の永久日食は不快な筈。良い手かと思います。しかし、何故このサガを呼ばれたのでしょうか」
 使者としてではないだろうとサガは判断している。
 アテナの兄であり、十二神の中でも実力ある太陽神に対して願い事をするのであれば、女神自らの足を運ばねばならないだろう。
 女神はにこりと微笑んだ。
「隠れた太陽を呼び出す儀式に力を貸して欲しいのです」
「私が…ですか?」
「貴方の身体は神の芸術品と評判です」
 己の半分の年齢にも達しない少女神にそのような事を言われて、サガは顔をわずかに赤らめた。
「この非常時に戯れをおっしゃるのはお止め下さい」
「戯れではありません。日本では隠れた太陽神を引っ張り出すには、裸で踊ると決まっているのです。全裸であれば、貴方に適うものはいないとアイオロスも言っておりました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「場所は天岩戸にあたる兄の神殿前で良いと思います」
「・・・・・・・・・・お手向かいして宜しいですか?」

 ハーデス討伐前に第二次サガの乱が起こりそうだったので、シオンは「神殿から出てきた太陽神も、裸で踊っているのが男性であったら怒ると思います」という人間的正論でアテナを諌めておいた。

2009/3/9
◆試算書…(教皇と補佐と教皇の弟)


「この来期予算の試算書は何だ」
 アイオロスが渡した書類の束をパラパラとめくり、1分もせずにそれを机に放り投げたのは黒サガだった。
「やっぱ数字の精密さが足りないかな」
 のんびりと笑顔を崩さずにアイオロスが尋ねたのに比べ、
「教皇に無礼だろう、口を慎め!」
 と怒鳴ったアイオリアの表情には怒りの色が浮かぶ。

 アイオリアは、たまたま勅命の報告に教皇宮へあがってきたのだが、補佐役のはずのサガの髪が黒いのを見ると、兄をひとり残すのが心配だとばかり、執務室に居座っているのだ。

 黒サガはちらりとアイオリアを一瞥しただけで、アイオロスに目を向ける。
「教皇の仕事は経理ではない。数字の精密さは事務方に任せればいい。私が言いたいのは、この特別会計の中身だ」
「うん、実はもう少し治療施設とヒーラーを増やそうと思ってね。新しい予算を組んでみた」

 聖域では、修行の最中に重傷を負い、志半ばに戦士としての道を断たれる者も多い。
 小宇宙を扱うということ自体がとても危険である上、それを目覚めさせるために、生死ギリギリの負荷を心身へかけるような過酷な訓練が日常茶飯事であるからだ。
 近代的な医療施設と小宇宙による治療の両面から、修行者をサポートし、脱落者や死者を減らして戦力の安定を図ろうというのがアイオロスの狙いだ。
 黒サガは口をつぐみ、書類にペンを走らせ始めた。
 数箇所へバツマークとアンダーラインを入れ、その隣になにやら書き込む。そして、書き終わるとその書類をアイオロスに向かって投げつけた。
 アイオロスは難なく片手でパシリと受け止め、その箇所に目を通していく。

「医療・精密機器を購入するのならば、城戸財閥系に交渉すれば3割は安くなる筈だ。もっと言えば税金対策と称して現金で寄付させろ」
「城戸家を利用する気満々だね。俺は多少遠慮してたのに」
「使える物は使えるうちに使え。それから、ヒーラーを育成する対象が聖闘士候補生というのは非効率的だ。闘士は戦闘に特化させ、治癒は神官や闘士脱落者などの非戦闘員から募集し、小宇宙を使えるように育成したほうがいい」
「まあ確かに、聖闘士になる者が小宇宙に目覚めれば、そっちは教えずとも勝手に治癒能力上がるよね。それより、非戦闘員を勘定に含むというのなら、こういうのはどうかな…」
 喧々諤々と議論をする二人を、アイオリアが複雑そうな目で見つめる。
 黒サガがふいに立ち上がった。
「2時間休憩を取ってくる。その間にさっさと手直しをしておけ」
 傍若無人な言いようにアイオリアがまた怒鳴りかけたのを、アイオロスが手で制してサガへと言い返す。
「1時間で作り直すから、君もそんなに休まないで直ぐ戻ってきてくれ。今日は他にも書類が溜まっているんだ」
「人遣いの荒い教皇だな」
「あ、教皇と呼んでくれたね」
 にこりとアイオロスは手を振るも、黒サガの返事は言葉ではなく、激しい勢いで閉められた部屋の扉であった。

 アイオリアは我慢できず不満を零した。
「あのように反抗的な態度を許していいのか!」
 アイオロスはといえば、弟にもニコニコと分け隔てなく笑顔を向ける。
「サガはああ見えて、序列のけじめにはうるさい男だよ」
「兄さんはサガに甘すぎるから、そんな」
「それじゃあ今、お前に対しても『職場では教皇と呼びなさい』と言わないといけないのかな」
 痛いところをつかれてアイオリアが口篭る。
 アイオリアが怒ったのは、教皇が蔑ろにされたからというよりも、兄が蔑ろにされた気がしたためだ。その私情を大義名分でくるんだ事は、彼自身が一番良く判っていた。
 アイオロスは、弟の頭へぽんと軽く手を置いた。
「サガもね、他人がいるところではああじゃないんだ。公の場では見かけだけでも俺を立ててくれる。ぞんざいになるのは気心の知れた仲間の前でだけで…お前がいてもあの口調だったってことは、お前の事をサガは身内扱いしたってことだよ」
「そんなこと…」
「それに、サガは俺の発案や命令の粗には突っ込むけれど、あれで決して反対はしないんだ」
 どちらのサガもね、と付け加え、アイオロスは弟にウインクする。
アイオリアは暫し黙り、ぼそりと呟いた。
「…書類の処理、俺も手伝うから」
「助かるよ」
 任命されたばかりの新教皇は、遠慮なく未決済の書類の束を弟へ手渡した。

2009/3/20
◆ゴダイヴァ婦人…(ロスとカノンでサガ話)


「こんにちは、サガに会いに来たのだけれど、通してくれないか」
 双児宮の入り口に立ちはだかるカノンへ、アイオロスは直球で頼み込んだ。
「この道は通行止めだ、他を当たれ」
 カノンはにべも無い。どこかの漫画で聞いたような台詞で切り捨てられる。
「通行止めって…じゃあどうすればサガに会えるんだ?」
「日を改めろ。ピーピング・トムになりたいのか」
 理由もなく妨害されているわけではないらしい。今は駄目だということだ。
 カノンの言葉を反芻したアイオロスは、目を丸くした。
「もしかして、今サガはゴダイヴァ夫人状態ってこと?」
 要約すると『サガは全裸で歩き回ってるの?』となる。
「ああ、覗くと神罰で目が潰れるかも知れんぞ」
「前聖戦の射手座は目を潰して小宇宙を高めたそうだよ。最後に見るのがサガの全裸ってのも夢があるようなないような…」
 しぶい顔でいるカノンに冗談は通じず、アイオロスはタンコブを一つ増やす羽目になった。

2009/3/24

◆春風…(黒サガv星矢)


 爽やかな春風とともに、星矢が双児宮へと飛び込んできた。窓辺で静かに読書をしていた黒髪のサガが、ゆっくりと顔を上げる。最近では、サガの方もこの元気な後輩のペースに慣れてきて、騒がしい乱入も日常風景の一環として受け入れるようになっている。
「何事だ」
 彼が一言だけで用件を聞くと、星矢の方はニコニコと笑顔を返した。
「いい天気だから、花見に行こう」
 サガは目をぱちりとさせた。ギリシアに花見の習慣は無い。
「花見というのは、花を見るのか?」
「うん、そうだよ。アーモンドの花が綺麗なとこを見つけたんだ」
 そう言う星矢の片手には編み籠が握られて、中には簡単な軽食が詰められている。それを見てまたサガは尋ねた。
「日本では、野外で食事をするという言い回しを花見と言うのか」
 用を足す事を花摘と言い換える隠語例などを思い出しての問いであったが、星矢は首を振った。
「いいや、食事はオマケだよ」
 星矢は待ちきれないようにサガの手をひっぱった。その性急さに呆れたような顔をしながら、サガの方も読みかけの本を閉じてテーブルへと置く。
「花をただ見るだけに、食事まで用意して外へ出かけるとは、ヒマなことだ」
「花をただ見るだけだったら、そうかもしれないけど」
 そしてサガを立ち上がらせることに成功した星矢は、有無を言わせずそのまま外へと誘う。強引に黒サガの手を引いて十二宮の階段を下りていく星矢の姿は、すれ違う者たちの目を引いた。
 星矢は屈託無く主張する。
「花を見るだけなら、外でご飯を食べるだけなら、一人で出かけても変わらないけどさ。俺がしたいのは、誰かと一緒に花を見て、誰かと一緒に綺麗だなと思い、誰かと一緒にものを食べて仲良くなる、そういう日本式お花見!」
 サガはますます良く判らない顔をしている。
「それは、デートというものではないか?」
「ええっ、全然違う!日本の花見は大勢でやるものだから!…あれ?でも、二人で行くとそれっぽいのかなあ…」
 思わぬ言葉を聞いたというような星矢の反応を見て、サガは手を引かれながらフっと笑った。
「そうか。私はデートでも構わぬと思ったのだが」
「え?」
 思わず立ち止まった星矢とサガの間を、一陣の春風が吹き抜けて行く。
 今度はサガの方が、黙ったまま星矢の手を引いて歩き出した。

2009/4/5
◆羹に懲りない…(ロスvサガで星矢vサガ)


「イシュケンベ(臓物のスープ)の美味しい店を見つけたんだ!」
 今日も屈託の無い星矢が、双児宮の居住区エリアへ飛び込んでくると、ソファに座っていたサガの隣へすぐさま腰を下ろし、そんな事を言い出した。もちろん、一緒に行こうという誘いだ。星矢はいつも、サガが断る事など念頭に無いように誘う。そして事実、サガは星矢の誘いを断った事などない。
 しかし、今日は先客がいた。アイオロスだ。
 サガの向かいのソファへ座り、珈琲を飲んでいたアイオロスが「コホン」と咳払いをする。勢いだけで飛び込んできた星矢も直ぐにそれに気づき、慌てて身体の向きを変え、アイオロスへも元気良く挨拶をした。
「なあ、アイオロスも一緒に行かないか?…ええと、忙しくなければだけど」
 一応都合を尋ねたのは、教皇候補であるアイオロスの忙しさを知っているからであった。13年間のブランクを埋めて教皇となるために、彼は日頃かなりの修養時間で繁殺されている。
「大丈夫、そのくらいの時間は捻出できる。午後はサガの処で過ごす予定だったしね」
 後半に若干微妙なニュアンスが含まれていたが、子供の星矢と鈍感なサガでは、それを気づく由もない。むしろ二人とも、単純にアイオロスの参加を喜んだ。
 星矢もサガも、互いへの好意とは別に、アイオロスに対しても尊敬と好意の感情を持っているのだった。
「じゃあ決まりな!」
 と喜ぶ星矢を横に、サガが珍しく躊躇する顔をしている。
「しかし…カノンがいない」
 どこか戸惑うように紡がれたサガの言葉に、残りの二名は首をかしげた。
「カノンは今日、海界勤務の日だったじゃん?居ないのは俺も残念だけど、今度また一緒に行こうよ」
「彼がいないと、何か不都合が?」
 不思議そうに返す星矢とアイオロスへ、サガは逆に問いかけた。
「カノンが居なかったら、熱いスープを誰が冷ましてくれるのだ」
「………」
「………一体、君は教皇時代スープをどうやって飲んでいたの?」
 星矢は黙り、アイオロスは呆れた声をあげる。
「あの頃はシオン様に化けていたゆえ、老人食しか出てこなかった。熱いものは身体に良くないと、冷ました物が供されたしな」
「それでは、君は皆がどのように熱いものを食っていると思っているのだ」
「兄弟がさましてやるに決まっているではないか。お前とて小さいアイオリアの面倒を見ていたとき、そうしていた」
「では、兄弟が居ないものは」
「それは自然に冷めるのを待つしかないだろう」
「………」
「折角、星矢が誘ってくれたところへ行くのだ。どうせならば、出来立てのものを食したい」
「…ちなみに、俺達のスープはどうやって冷ますのだと思う?」
「お前たちは別に、猫舌ではなかろう」

 意思の疎通があるような無いような会話の横で、黙っていた星矢が解決策のつもりの提案を持ち出した。
「じゃあ、俺がカノンの代わりに冷ましてやるよ」
「本当か?」
「ああ!」

 星矢に悪気はなかったが、アイオロスは立ち上がると、無言の笑顔で後輩の髪をわしゃわしゃかき回し始めた。そしてそれは三人で街へ出かけるまで続けられたのだった。

2009/4/19
owleyesさんから頂いたコメントの「『鍋焼きうどんはカノンに冷ましてもらうものだ』と素で思い込んでいた双子」が元ネタなのです(>▽<)
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