JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆平和な相克…(双子)
テーブルに並べられた朝食を前にして、サガが額を押さえ、なにやら眉間にしわを寄せている。
台所から戻ったカノンはそれに気づき、ギリシア珈琲の入ったカップをテーブルの上へ追加しながら、兄へ気遣いの声をかけた。
「どうしたのだサガ、気分でも悪いのか」
「なんでもない…いや、隠すような事でもないか。
もう一人の私が、朝からワインを飲みたいとウルサイのだ」
「いいじゃないか、ワインくらい」
以前であれば、弟にであれ内面をさらけ出すような真似はしなかったサガだが、聖戦後は諸々の反省からか、抱え込んで思いを隠すような事は少なくなった。カノンとしては話しやすくなり、とても助かっている。
「しかし、仕事前なのだぞ」
どうやらサガはカノンと話しつつ、内面でもう一人の己と揉めているらしい。
「そんな朝三暮四もどきで争うより、たまには飲みたい時に飲めばいいだろう」
心配するような内容でもなかったと、カノンは席に着き朝食へと手を伸ばす。
「サガが言っているのは冷蔵庫に入っているハーフボトルだろう?
あれ位なら割って飲めば酔って仕事に障るほどでもあるまい。仕事は昼からなのだし」
そう言うと、サガは額から手を離してカノンを見つめた。
「しかしそうすると、仕事後に飲むものがなくなる」
「しょうがないだろ、飲んだのだから」
「アレは、仕事後には冷蔵庫にあるお前のビールを奪えばいいと言っている」
「ふざけんな!」
カノンがサガの分の珈琲カップをぐいと押し出す。
「朝はこれで我慢しろ」
サガはカップとカノンの顔を交互に見ていたが、やがてニコリと笑うと「そうしよう」と答えた。
2008/9/18
◆対処法…(しつけカノンと黒猫的サガ解決策)
「起きろ、カノン」
まだ早朝だというのに、オレを起こすサガの声が上から降ってくる。
「仕事で遅かったのだ、もう少し寝かせろ…」
海界での任務でほぼ朝帰りとなったオレは、数刻前に眠りに付いたばかりだ。それを知っている筈なのに兄は容赦ない。随分な仕打ちだと思って薄目をあけると、そこに見えたのは黒髪のほうのサガだった。どうりで。
「お前が起きぬと朝の支度をするものがいない」
しかもこんな事を言っている。
「自分で考えてなんとかしろ」
オレはもう1度布団を被った。
黒くなったサガは偽教皇時代を経て、朝食や身の回りの事を誰かがやってくれる事に慣れすぎている。少しは生活能力をつけさせねばならんと判断したオレは、心を鬼にして黒サガを無視した。
被った布団ごしに戸惑うような黒サガの気配を感じたが、暫くすると「そうか」という声がして、その気配は部屋を出て行った。それだけでなくどうやら双児宮自体を出て行ったらしい。食材でも買いに行ったのだろう。
ま、もう少ししたら台所へ様子を見に行ってやってもいい。
アイツがどんな物を作ろうとするか興味もある。ド下手かもしれんが、オレの分まで作るくらいの配慮は見せて欲しいもんだ。
…なんて事を思っていたら、直ぐにサガが双児宮に戻ってきた。
それも知らない気配を連れて。
この、小宇宙を隠す事も出来ない弱っちい存在感は雑兵に違いない。
オレは慌てて布団から飛び起きた。
寝衣から着替える間も惜しんで入り口の方へ行くと、予測どおりまだ若そうな雑兵と黒サガがいて、雑兵はニコニコとオレに頭を下げてから台所の方へ入って行った。
「……オイ…オレにどういう事か説明しろ」
思わず半眼でサガを睨む。
「自分で考えて何とかしろと言ったではないか」
対して黒サガはオレの不満に全く気づいていないらしい。
言われたとおりに、しかし自分に都合よく判断したようだ。
「それゆえ、道を歩いていた者に頼んだ。お前達がいつも煩いので、精一杯丁寧に言ったのだぞ」
「…ちなみにどう頼んだのだ」
「私の為に食事を作ってくれないか」
「………」
「喜んで作ってくれるそうだから、連れてきた」
「何だそのプロポーズのような言い回しは!!!!」
どうりで雑兵が嬉しそうだったわけだ。
その後の食卓には妙に豪華な朝食と、見た事もない雑兵が一緒に並び、オレはどう黒サガに説教したものか考えながら溜息をついた。
2008/9/27
◆二兎を追う狩人…(シュラ黒←ロス・二人狙い)
「俺が教皇になったら、サガがその地位でやりたかった事を、代わりに全部やってあげる。だから俺の補佐にならない?」
そう言ってニコニコと見つめるアイオロスへ、黒サガは負けずに笑顔で返したが、その視線は鋭い刃のようだった。
「傀儡政治の誘いとは面白い事を言う」
「いや実権を渡すつもりはないけど」
「『私』が執行せぬ権力に何の意味がある」
「世界平和の実現なんて、誰が実行しても同じだと思うけど」
黒サガは目を細めた。
「私が世界の平和を望んでいると思うのか?」
「ああ」
アイオロスは少しも迷わずに答える。
「サガはそういう男だよ。だから右腕に欲しい」
「他を当たれ。女神の命ならばまだしも、貴様に従う気は無い」
黒サガの返事も早かった。
ここのところ、毎日のように双児宮へやってきては、手を変え品を変え黒サガを誘うアイオロスだったが、戦果は今ひとつだ。現状はその掛け合い自体を楽しんでいるところもあり、断られても全く気にしていないものの、少し戦法を変えてみようかと次期教皇は目算した。
「他を当たれ、ね…じゃあ誰が適任だと思う?シュラとかどうだろう」
山羊座の名が出た一瞬、黒サガが表情を硬くしたのをアイオロスは見逃さなかった。
「シュラを、貰ってもいい?」
「私に答える権限はない。それはあの男が決める事だ」
にべもなく切り捨てるも、その声には僅かな戸惑いが混じる。
(ぶっちゃけ、二人とも補佐に欲しいんだけどね。さて、どう攻略したものか)
落とし甲斐のある獲物を目の前にして、射手座の主は楽しそうに相手の急所へ狙いを定めた。
2008/10/16
◆小宇宙…(サガと星矢でシェスタタイム)
「私がもしも、世を統べる神であったなら」
サガは自分の膝を枕にして転がっている星矢へ話しかけた。
「やはり人間を滅ぼそうとするかもしれない」
「それは、ハーデスの言うように、人間が堕落しているから?」
膝元まで流れ落ちるサガの髪を指で絡めながら、星矢は話に付き合う。
「滅ぼす建前としては、そのように言うかもしれないが」
話しつつ彼が後輩へと向ける目つきはとても優しく、穏やかなものだ。
サガがこのように接触を許し、内面を語る相手はごく限られている。
「人の持つ小宇宙を恐れて、そうすると思う」
「サガだったらそんなことしない」
かつて反逆者として大罪を犯し、聖域に君臨していたサガを星矢は打ち倒した。しかし現在そんなことは何でもなかったかのように、星矢はサガへ接する。
傍から見れば、先輩へと甘える後輩という図式に見えているかもしれないが、実質その構図に甘えているのは元罪人のサガであり、その事を理解しているサガは、誰よりも星矢に対して優しく接した。
「有難う」
星矢の応えに対して、外面だけではない神のような笑顔を見せる。
「星矢、お前は象と蟻が純粋に力で戦った場合、どちらが勝つと思う?」
「そんなのは象に決まっているだろ」
きょとんと見上げる後輩の額にかかっていた髪を、サガは指先で整えてやる。
「本来であればそうだ。生物が持つ力の差は、覆らないのがこの世の理であり、弱肉強食の仕組み」
だが、とサガはいう。
「小宇宙はその順列を叩き壊す。どれだけ物理的な差があろうと、命を燃やす事によって種の強弱を埋めてしまう力だ。この力によって人は神に迫る」
「確かに、人間が神を倒せるのは、小宇宙のお陰だもんなあ」
「そして、その小宇宙を引き出すのは、人の愛」
サガは星矢の額へ軽く口づけを落とした。
「私が神であれば、人の愛を恐ろしいと思うだろう」
「そうかな。サガはこの世に怖いものなんてないように見える」
星矢は目を丸くしたものの、直ぐに笑い返した。
2008/10/23
◆統合…(統合観察するカノン)
「んっ…」
サガの艶やかな黒髪が、目の前で灰銀へと変化していく。
かつて聖と闇に分かれていたサガの人格は、それぞれ互いへの許容を覚え、ときおり人格の統合を果たす。
諍うばかりであったニ人格が、自身による己の肯定という内面の平安を得たとき、その顔には至福の色が浮かび、統合の瞬間には恍惚とみえるほどの表情を見せる。
となりでその様子を眺めていたカノンは何となく赤面した。
合一しているのが精神だというだけで、それは性愛に似ていた。
統合を終え、弟の視線に気づいたサガが振り返る。
「どうかしたのか」
「いや…別に」
お前無駄にエロいんだよ。とは言えず、カノンは口ごもった。
2008/10/28