JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆双子コミニュケーション…(いちゃいちゃ双子)
13年前に決別して以降、双子の兄とまともに会話をするようになったのは聖戦後のことだ。ずっと海界で海将軍なんぞやっていたオレは地上に住処などなく(海闘士が陸で活動するための拠点はある)、再び聖域でサガと共同生活する羽目になっている。
再会後のサガは、どうもコミニュケーション過多なところがある気がしてならない。接触面積が大きいというか、兄弟ってこんなにベタベタするもんだったっけ?
というか、サガはむしろ他人との触れ合いとか、何気に避けるタイプだった記憶があるんだが。
今もサガが隣に座って本を読んでいる。狭いソファーだというのにわざわざオレの隣に座る意味はあるんだろうか。
「あまりくっつくな、暑苦しい」
思わずそう言ったら、サガはきょとんとして、それから意外なことに素直に『すまない』と言って離れた。
「13年間、誰とも触れ合う機会が無かったので、どうも距離の加減を忘れているようだ」
「……」
そんなの、オレもだっての。
オレは海底神殿での暮らしを思い出して苦笑した。
「…もう少し涼しくなったらくっついていいぞ。ここには碌な暖房もないしな」
「そうか」
サガが笑う。秋の訪れは近い。
2008/10/3
◆暗転…(サガが欲しいカノンを誘惑するタナトス)
「お前の知らぬサガの顔を、見せてやろう」
口角をゆるりと歪めてタナトスが哂った。
カノンは黙ったまま唇を噛みしめる。ふざけるなと一喝して席を蹴ればいいだけなのに、それが出来ない。
「双子座の片割れよ、お前の魂と身体を依代として俺に貸せ」
そうすれば、サガは決して我らを拒めまいとタナトスは言う。
「この俺に…神に対してすら抗うあの男の精神を、崩してみたい。お前も本当はそう思うだろう?」
カノンは海皇・アテナというオリンポス十二神のうちニ神の守護を受けている上、双子座ポルックスの不死の宿星を持つという類まれなる人間だった。それゆえ本来は死の神が付け入る隙はない。
しかし、タナトスはカノンの唯一とも言える弱点を理解していた。
「お前にはサガを変える力がある。そして俺には自殺者の魂を縛る力がある」
タナトスはカノンに対して手を差し伸べた。
「お前の身体と心を使い、望むとおりにサガを手に入れてやる。悪い契約ではないと思うが」
カノンはじっとその手を見つめた。
答えはもう決まっているような気がした。
2008/11/09
◆死人がえり…(カノンとゾンビなサガ)
兄さんがチラリとこちらを見て、オレと目が合うと慌てて視線を逸らした。
そして自分を恥じるように拳を握り締めている。
隠そうとしても、オレにはサガが何を感じているのか手に取るようにわかる。
サガは飢えているのだ。オレを食べたくて仕方がないのだ。
オレの肉を食み、脳髄を啜り、吸い尽くしたくてたまらないのだ。
サガは飛びぬけて意思の力が強いので、そんな本能を必死に抑えている。
死人である兄さんを勝手に冥界から連れ出してみたものの、そんなに簡単に生死の境を反故にすることは出来なくて、地上についてみたらサガはゾンビと呼ばれる存在になっていた。
見た目は変わらないので、オレは気にしない。
サガになら食われてもいいと思う。いやむしろ積極的に食われたい。
サガがオレの肉を咀嚼して内臓へ顔を突っ込むのを想像すると、それだけで至福を感じる。
しかし、それを許したらオレもゾンビとなってしまう。
サガは別の生者を求め、オレもサガ以外の人間を襲おうとするだろう。
そんなのはごめんだ。サガはオレだけを見て、それを恥じていればいいのだ。
だから、食われてやるわけにはいかない。
「サガ、味見だけならいいんだぜ?」
そう言ってやると、サガはそろりとオレに手を伸ばし、すまなそうに舌を頬へと這わせる。味わうようにゆっくりと。
このままでもいいんじゃないかとオレは思う。
2008/11/16
◆性質に難有り…(双子座貸し出し)
サガは情の深い男ですが、愛情の発露の仕方がちょっぴり歪んでいるので、受け止める側は結構大変です。なにしろサガの想いが深いほど、相手の命の危険が高くなるのです。
そんな事を知らないタナトスが「双子座の聖闘士を忠誠心ごと俺に貸せ」などと女神に図々しく言い出しました。
女神は余裕です。タナトスではサガを扱えないことをよーく判っているからです。
内心では『顔を洗って出直していらっしゃい』と思いつつも、それを正直に言うと角が立つので一応やんわりと諌めました。
「誰を選ぶのかは彼らが決めることですよ」
勿論、そんな忠告を聞くようなタナトスではありません。
「神の前で人間に自由意志などあるものか」
と言って勝手にサガへ意識操作を施し、連れ帰ってしまいました。
周囲で見ていた黄金聖闘士たちは大慌ててです。すぐ彼を取り戻すよう女神に進言しましたが、女神は何故か取り合いません。
「2〜3日様子を見ましょうか」
と、のんびりしているのです。それだけでなく、教皇シオンや一番怒りそうなアイオロスまで
「そうですな」
「夕方には送り返されてくるんじゃないですかね」
などと呑気な事を言っています。
全然納得のいかない黄金聖闘士たちでしたが、女神と教皇と教皇候補が揃ってそう言うのでは仕方がありません。何か目算があるのだろうとしぶしぶ引き下がりました。
ところが本当にタナトスが、夕方にはサガを連れて戻ってきたのです。
「アテナ、お前のところの双子座はどういう性格をしているのだ!」
「あら、おかえりなさいタナトス」
女神の挨拶と同時に、アイオロスが来客用のお茶請けセットを持ってこさせました。予測されていただけあって準備万端です。
「隙を見れば俺を神殺しの短剣で刺そうとするわ、悪態をつくわ、今までの方が余程従順であったぞ」
「それは彼に愛されている証拠ですわ。良かったですね」
ニッコリと微笑む女神の顔には『いい気味です』の文字が浮かんで見えました。
「とにかく、あのような面倒な玩具はいらん!」
「では元通りにして返してください」
そんなわけで聖闘士レンタルは半日で終了です。
「勿体無い事を言うなあ。サガはじゃれているだけなのに」
手を付けられることなく余った茶菓子をつまみ、アイオロスが不満げに呟いています。
「そうよね。認めた相手だからこそ試そうとするのよね、サガは」
女神も頷いています。
「あの試練を乗り越えると本当の信頼を得られるのじゃが…しかし、確かに物騒ではある」
実際に殺されたことのあるシオンは、少しだけタナトスの肩を持ちました。
傍で聞いていたほかの黄金聖闘士たちは、やはり今ひとつ納得できず
(サガより貴方達のほうが物騒なのでは?)
そんな感想を持っていたのでした。
2008/11/19
◆君死にたもうことなかれ…(決壊)
君死にたもうことなかれ
東洋の詩人がそんな事を書いたらしい。
そのような当たり前の感情を正しく述べることの出来る女子供が、弱きものが羨ましい。
何故なら私は戦う者で、兵士を戦いへ送り出す者でもある。
戦争が始まらずとも、私は人殺しだ。
私にはそのような願いを口にする権利がない。
私はつい先ほど、弟を水牢に閉じ込めた。
そうしなければ、弟はこの聖域にあだを成したろう。
改心すればよし、そうでなければ弟は海に沈む。
私のたった一人の弟が。
「わたしはすべての人々に神のように慕われている…そんなわたしが なぜ次期教皇ではないのですか…」
掟を冒してまで禁区スターヒルへと登り、シオン様へと問うた。
私は全てを捨てても、正しき道を歩もうとしてきたつもりだ。
それでも まだ私には徳が、資格が足りないのだろうか。
シオン様はおっしゃった。
「おまえの魂にはとてつもない悪魔が住んでいるような気がしてならんのだ」
断罪の言葉に、眩暈がする。
私の光はどこにあるのだろう。
(ははは!弟を海に沈めてまで貫こうとしたお前の正義は、認められなかった!)
耳元で嘲笑する声がする。この声はカノンか、それとも。
君死にたもうことなかれ
そう願いながら、私は愛する者たちに手をかける。
(さあ、完璧であったお前の世界に、綻びが出来たぞ)
私の中の闇がシオン様を殺めて聖地に血を流す光景を、私はどこか遠くからぼんやりと見ていた。
2008/12/13