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◆2008-JUNK11

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆化学反応…(サガご飯を食う蟹と弟)

 向かい合わせに二人で座るデスマスクとカノンの前には、それぞれスープ皿が置かれている。中にはよそいたての野菜スープが、温かそうに湯気をたてていた。
 デスマスクが呟いた。
「思うにサガは、一生懸命やりすぎるんじゃねえの?」
「一生懸命なのは良いことだろう」
「無意識に渾身の小宇宙を篭めすぎて、食材が化学反応を起こすのではないかと思っているんだが…」
「人の兄の料理に文句つけるなら食うな」
 そう言ってカノンはスプーンをスープ皿に突っ込んでいる。
 普通にそれを口へ運んだカノンの男気に、デスマスクは感心した。
「毎日食ってるのか、サガの料理」
「毎日ではないな。オレが作ることもあるし、従者が用意する事もある。サガも忙しいし、こうして手作りで朝食を揃えてくれる日というのは、なかなか貴重なのだ」
「だから尚更サガが一生懸命やりすぎるわけだな」
「黙って食えよ」
 そんなやりとりをしていると、サガが台所の方から焼きたてのパン(らしき焦げたもの)を小皿に積み上げて持ってきた。テーブルへそれを置くと、神妙な顔でカノンに尋ねている。
「味はどうだろうか」
「まあまあだ」
 そっけなく答える双子の弟へ、それでもサガは嬉しそうに『お代わりもあるぞ』などと告げている。
 デスマスクは自分も一口スープを啜り、痺れた舌先でカノンの愛の深さを実感することになった。


2008/12/15
サガが自分の作ったものを味見する時は、自分の小宇宙を通しているので普通の味に感じてしまい気づかない…という裏設定付き。
◆趣味の相違…(タナサガデート)

「久方ぶりのデートだというのに、何が不満なのだ」
 珍しく己の決定へ難色を示すサガをみて、タナトスは首を傾げた。
 地上で映画を見ると言い出したタナトスへ、サガは喜んでついてき筈だ。それなのに、タイトルを聞くと突然態度が変わったのだ。映画館はもう目の前であるにも関わらず。
 サガは本質的に神を神とも思わぬところがあるが、白サガと呼ばれるサガの半魂はその性質を心の奥に押し篭め、決してタナトスの意思に逆らうような発言はしない(女神と地上の平和関連以外でという限定付きで)。
 そのため、タナトスとしては理由が判らず、サガへ意向を問い質してみたというわけだ。
「デ…デートだからだ!何故2時間も、ただ人が死んでいくだけのスプラッタ映画を見なければならないのだ!」
 サガの言い分は尤もであったが、タナトスには通じない。
「人間の文化などどれも低俗だが、見てみると結構面白いものだぞ。死に方にもバリエーションがあって」
 死の神タナトスにとって、死は単なる現象だ。今まで数多の人間の命を消してきたものの、それは命の終焉にすぎず、それを娯楽に絡めたB級映画での派手な血飛沫や言動が新鮮であった。
 しかしサガの方も引かなかった。
 目に付いた本屋へタナトスの手を引いて飛び込み、なにやらそこで絵本の棚を漁っていると思ったら、探し出したのは『自殺うさぎの本』。それはうさぎが様々な自殺バリエーションを実行するシュールな海外絵本だった。
「今日はこれで我慢してくれ」
「………」
「映画の選択肢は、スリラーまでなら妥協する」
「………」
 恐怖映画とスリラーは全くジャンルが違うのだが、サガにあまり区別はついていない。仕方なくタナトスはサガの購入した絵本を小脇に、鑑賞する映画を変更することとなった。
 けれども、スリラーはスリラーで派手な暴力シーンが多く、意外とタナトスは満足したのだった。


2008/12/17
◆足縛る鎖…(カノン→サガ)

 隣で眠るサガを見た。
 布団の中でもぞもぞと手を動かすと、すぐにサガの手を探り当てる事が出来た。
 この手を掴んでサガを叩き起こして、聖域を出ようと誘ったら聞き入れてくれるだろうか。
 いいや、サガは困った顔をするだけだろう。
 そして聞き返すのだ。
「何故?」と。
 それは『何故聖域を出るのか』ではなく『何故その気もないのに私を試すのだ』という意味なのだ。
 サガはオレのことを良く判っている。だから知っているのだ。
 サガが聖域を出ない理由を、オレも理解してしまったことを。
 13年前にサガが捨てられなかったのは、聖域ではなく、責任と義務なのだ。
 強者として黄金聖闘士として、地上を守る務めを投げ出す事は、サガには出来なかったのだ。
 逆にいま、もしもサガが「全てを捨てて私と逃げよう」と囁いても、それをオレは受け入れる事が出来ない。己のしでかしたことや、己のすべき事を鑑みれば、それはどうしたって出来ないのだ。
 サガを捕まえていると思っていた聖域の鎖は、オレの足にも巻きついていた。
 鎖は大地へと繋がり、人は大地を踏みしめる。他人との関わりの中で生きていく。
 それが人の世界で暮らすという事だ。
 その事を、昔のオレは理解できなかった。

 それでも、サガと二人だけの世界へ行きたいと思う事がある。
 そんな時にはここが終着点だったのだと思う事にしている。

 もしも、オレ達が俗社会で神だの聖闘士だの知らずに暮らしていたら。
 世間は必ずオレとサガを引き離そうとしただろう。
 オレがサガを手に入れようとすることなど、道徳とやらが絶対に許さない。
 外にいたら外にいたで「世界を捨て二人だけの聖域へ行きたい」と願っていたに違いないのだ。

 互い以外に繋がる鎖があるということへの不満はあるが、聖域がサガを捕まえておいてくれるのならば、オレはその心を手に入れる事に専念しよう。
 サガはここから逃げる事が出来ないのだから。


2008/12/28
◆朝食2…(シュラ+黒&誤解するカノン)

「おはようございます」
 まだ陽も明けきらぬ時間に麿羯宮へ押しかけてきたカノンへ、シュラは丁寧な挨拶をした。年上であるカノンに対して、基本的にはサガやアイオロスに対するのと同等の礼儀で接しているシュラだ。
 随分早い時刻の来訪だとは思いつつ、外泊した兄を迎えに来たのだろうなと予測をつける。そしてその予測は外れることなく、カノンの第一声は『サガはどこにいる』なのであった。
「奥の部屋にいるが…」
 答えるや否や、カノンは教えられた部屋へ踏み込んでいった。
 止める間もない。
 別に止める必要などないのだが、奥の部屋ではサガがまだ眠っている筈だ。安眠を妨げられたときの彼の不機嫌を知っているシュラとしては、少しだけカノンが心配になったのだ。
 そんな心配をよそに、カノンは部屋の中を覗くと何もせず凄い勢いで戻ってきた。
 顔面を蒼白にして。
 それだけでなく、殴りかからんばかりの気配でシュラの襟元を掴みあげてきた。
「おい、何でサガがお前の寝台で裸で寝てるんだ」
 シュラにしてみれば、黒サガが寝床を占有したうえ、寝着への着替えも面倒とばかりそのまま服を脱いで眠ってしまうのはいつもの事である。何故と言われても答えようが無い。
「いつもの事だぞ」
 正直に言うと、カノンの顔色がさらに白くなった。
 カノンはシュラの襟元から手を離し、今度は静かに尋ねた。
「いつから寝てるんだ」
 それは正確には「お前はいつからサガと寝てるんだ」の略であったが、シュラにとっては想像の外にある内容であったため、「サガはいつからあんな風に麿羯宮で寝てるんだ」と自動的に脳内変換されている。
「大分前からだが、堂々と寝に来るようになったのは聖戦後だ」
「…そうか」
 カノンにしてみれば、1つしかない麿羯宮のベッドを、守護者であるシュラが使用出来ていないという事のほうが想像の外である。サガとシュラの行為の翌朝に自分が闖入したのかという、躊躇といたたまれなさが相まって、怒りの勢いが多少削がれている。
「…言いたくなければ答えなくてもいいが、どっちが上なんだ」
 そんな即物的な問いも、カノンからすればどうしても聞いておきたい一点であった。サガから求めたのか、シュラから求めたのか、それによって心の痛みの方向性が変わる。
 だが、勿論そんなカノンの心のうちをシュラが理解するはずも無い。
 シュラは勘違いしたまま、立場の話であろうと推測し、それゆえ思うところをきっぱりと述べた。
「サガが上にきまっている」
 同じ黄金聖闘士という地位に戻ってはいるものの、同輩という一言では括れない特別な存在がサガだった。シュラにとって彼は元教皇であって、元偽教皇ではない。
 シュラの気迫にカノンが目を見開き、それから溜息をついた。
 何だか非常に落ち込んでいるように見えた。
「…久しぶりに海界から双児宮に戻ってきてみれば、サガは留守で…従者に行き先を聞けばお前の所だという。オレなんかよりお前と寝るほうが大事なのだな、サガは」
 見るからにしゅんと萎れている。そんなカノンを見て、シュラは首を傾げた。
「いや、サガはいつも一人で寝ているが…?」
 未だにカノンの言うところの『寝る』の意味を勘違いしたままではあるものの、その言葉でカノンが固まった。
「さっきお前、サガのが上だと言っていなかったか」
「当たり前だ。俺の方が後輩なのだし。先ほどから一体何だと言うのだ」
「………いや、何でもない」
 己の勘違いに気づいたカノンが、蒼白だった顔を今度は赤くして口ごもっている。
 ふと気づくと奥の部屋の方から、いつの間に起きたのか黒サガが何か呆れたような顔でこちらを見ていたので、シュラは彼にも丁寧な挨拶をした。
 黒サガは黙って近寄ってくると、カノンとシュラの頭を撫でたので、シュラはますます訳のわからぬまま、一緒に朝食を摂るようサガとその弟を誘った。


2008/12/31

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