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◆2008-JUNK8

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆扱い下手…(黒サガ+リア+年中組)

「何故逃げる、アイオリア」
「当たり前だ!幻朧魔皇拳を撃とうとしているだろう!」
「撃たなくてもお前は逃げるではないか。ならば技をかけて大人しくさせてやる」
「勝手な事を言うな!」
 微妙な間合いで対峙しているのは黒サガとアイオリアだった。
 流石に1度食らったことのある技を、黄金聖闘士であるアイオリアがむざと受けるわけがない(そもそも1度目とて、シャカとの千日戦争中に横から食らった不意打ちだ)
 ただでさえ暑い夏のさなか、暑苦しい攻防を繰広げている二人の周囲から、神官や雑兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
 短気なアイオリアが反撃しないでいるのは、私闘禁止の聖域ルールに従っている事もあるが、ひとえに白サガへの義理立てだ。サガの主人格である白サガに対して、未だ過去のわだかまりはあるものの、実力性格ともに認め、先輩としては尊敬しているのだ。
 しかし黒い人格のときのサガは、アイオリアにとって天災そのものだ。
「また俺に人をあやめさせるつもりか!」
「安心しろ、ただの幻魔拳だ。直ぐに解ける」
「どこに安心の要素がある!何をさせるつもりなのだ」
「言ったであろう、大人しくさせるだけだと」
「信用できんっ。そもそも俺を大人しくさせてどうする気だ」
 アイオリアの中での黒サガの信用度は甚だしく低い。
 黒サガはそれでも聞かれた事には律儀に答えている。
「脱がせて夜に私の傍らへおく」
「…は?」
 返事の意味が判らず、アイオリアが怪訝な表情になった。
「今の返答の仕方、ミロに似ていたぞアイオリア」
「そんな事はどうでもいい、今のはどういう意味だ」
 問い返したアイオリアに対し、黒サガは『そんな事も判らんのか』という顔をしている。
「お前はO型だろう、アイオリア」
「ああ」
「O型はAB型よりも蚊に好かれやすいと聞く」
「それがどうした」
「お前が横にいれば、蚊はお前の方へ行くだろう」
「………」
「脱ぐのは上半身だけで許してやろう」
「ライトニングプラズマ!!」

 プツリとキレたアイオリアの繰り出す光速拳を、同じく光速で黒サガが避けたり防御したりしているのを見て、止めに来た年中三人組のうち二人は遠い目になった。
「あれはコミニュケーションだと思うのだが、お前はどう見る蟹」
「オレもそう思うぜ。はた迷惑だがな。それとオレを蟹と呼ぶのはやめろ」
 呑気に話すアフロディーテとデスマスクの横で、一人シュラがはらはらしている。
「お前達、千日戦争になる前に止めるぞ!」
「ほっときゃいいじゃん」
「デスマスク!」
 睨まれたデスマスクが肩を竦める。
「じゃあお前が止めてこいよ、シュラ。あの二人の間に割って入るのは、まぎれもなくお前が一番適役だ」
 言われるまでもないと飛び出して行ったシュラを見送り、残った二人はのんびり見学モードへと入った。
「さて、どうなるかね」
「お前は人が悪いな蟹」
「黒サガもアイオリアもシュラには弱い。適役だってのは嘘じゃないぜ」
「シュラが二人から突き上げられることになるのは、目に見えているが」
「そこは甲斐性の見せどころって事さ。黒猫と子猫をどう手なづけるのか、お手並み拝見といこうじゃないか」
「…やはり楽しんでいるだろう」
「アフロディーテ、お前こそ」
 そんな会話をされているとも知らず、アフロディーテとデスマスクの見守るなか、予測どおりシュラはアイオリアと黒サガの両方から絡まれ始めたのだった。


2008/8/17
◆美醜…(星矢vサガ+魚でティータイム)

「もう少し早くサガとアフロディーテに出会えていたらなあ」

 星矢が茶請けの菓子を摘みながらそんなことを言い出したので、名前を出された二人は顔を見合わせた。
 場所は双魚宮。黄金聖闘士二人の優雅なティータイム中に、通りすがった星矢がちゃっかり参加しているという形だ。
「サガについて君がそう思うのは判るが、私もか?」
 魚座の主が尋ねると、星矢は真面目な顔をして頷く。
「ああ、だってアフロディーテも綺麗じゃん?」
 なんだそれは、という顔になったアフロディーテに構わず星矢は勝手に話し続ける。
「白銀聖闘士にミスティってのがいてさ。俺、そいつと戦ったことがあるんだけど『女神以外に自分の美に勝る存在はあるまい』とか言ってたんだぜ!確かに顔は良かったけど…」
 もぐもぐと口の中にあった菓子を飲み込んでから続ける。
「あのときにサガとアフロディーテを知っていたら、お前よりもっと美人がいるって言い返してやったのに!」
 隣でサガの目が遠くなった。口にものを入れながら話すのは止めなさいと注意するのも忘れているようだ。
 星矢の頭にぷすりと薔薇が刺さる。
「痛ってえ!何するんだよ!」
「前から思っていたが、どうも君は敵をまず顔で判断しているだろう」
 頭を庇うように両手で押さえた星矢へ、アフロディーテは知らんふりでティーカップを傾けている。
「だって俺、綺麗な顔の奴は心も綺麗だと思うもん」
 星矢の方も、この程度の攻撃で口をつぐむほどやわではない。
「何となくだけど、心のあり方って絶対に顔に出る。卑しい奴はいくら顔の形が整ってたって、やっぱり卑しい顔なんだ」
 アフロディーテがチラリと星矢を見て、肩を竦めた。口には何も出さないが『そこは同意してやる』という意思表示だった。
「だから俺、サガとアフロディーテは綺麗だと思うよ」
 しかし星矢が続けた言葉によって、直ぐに呆れ半分の表情が加味される。
「臆面もなくそう言う事を本人の前でいうから、君はタラシの卵などと言われるのだ…サガもそこでよろめかないように」
「わ、私はよろめいてなど…」
 会話を横で聞いていたサガが、いきなり声をかけられて言葉を詰まらせた。
 星矢は輝かんばかりの笑顔でサガを見る。
「俺、サガは身体も綺麗だと思う。アフロディーテの全裸は見たことないから判らないけど」

 十二宮での戦い(での自分の全裸行動)を思い出してサガは深く落ち込み、星矢の頭にはもう1本薔薇が増えた。

2008/8/23
◆オモチャ…(エピGなアイオロスと双子)

「私に相手をさせたいのならば、力づくで来るのだな」
 と睨んだサガに対して
「えっ、サガって強姦が好みなのか?」
 と下らなすぎる混ぜっ返しで答えた次期教皇候補は、本気でアホなのではないかと思う。
 そらみろ、サガのギャラクシアンエクスプロージョンが炸裂した。
 オレの兄であるサガは、決して怒りっぽい方ではない。むしろ温和だ。
 それがアイオロスに対してだけは容赦がなくなる。
 黒い方だけでなく、白い方までがだ。
 余程相性が悪いのだろうと言いたいところだが、あれはアイオロスが悪い。
 いつもサガを怒らせては楽しんでいるようなところがある。
 今日も散々サガに必殺技を繰り出させたあげく、にこやかに『じゃあまた明日』と手を振って帰っていく。何しにきたんだ。
 爽やかに帰っていった射手座と対照的に、サガの目は据わっている。
「明日は絶対に叩きのめす」
 ぼそ、と呟いた声は確実に周囲の温度を下げた。
 横にはサガの技できれいに開いた壁の穴の数々。
 勘弁してくれと思いつつも、オレは思う。
 聖戦後、サガがほとんどアイオロスに贖罪意識を向けないでいられるのは、奴のお陰ではないだろうかと。
 サガは落ち込む間などなく、毎日元気にアイオロスを撃退している。
 アイオロスと対峙しているときのサガは、生き生きとしている。
 それは、感謝しても良いことなのかもしれない。

 まあ、買い被りかもしれないがなと思いながら、オレは壊された壁の修復に取りかかった。


2008/9/4 エピGのロスには、サガも多分容赦ない予感…
◆認識…(アイオロスと壊れサガ)

 サガの部屋は、いつも整えられて塵一つ落ちていない。
 心が壊れてしまっても、そんなところは変わらないのだなと俺は感心する。
 部屋に入ってしまってから、俺は横手で形だけのノックをした。サガがようやく来訪者に気づいて振り返る。
 昔のサガであれば、こんな至近距離になるまで他人に気づかないなんて、ありえなかったのに。
「アイオリア」
 サガが嬉しそうに俺の弟の名を口にした。
 俺と弟は確かに似ているけれど、双子のサガとカノンとは違い、識別できないほど似通っているわけじゃない。
 単に、サガの中で俺という存在が消されてしまっているだけだ。
 サガは座っていた椅子から立ち上がると、おぼつかない手つきで来客へ茶を出そうとしている。選んだ紅茶は、アイオリアが好むものだった。
 俺は黙ってそれを見ていた。
 サガがどこか調子の外れた声で、歌うように呟く。
「まだ、私を殺さないのか?」
 それは、ごく当たり前の挨拶のように、サガの唇から紡がれる。
「私はお前の大切な兄を殺してしまった。だから、お前には私を殺す権利があるのだよ」
 そうしてサガは、俺には決して見せることのなかった柔らかな親愛の笑みで、今日も『アイオリア』を見る。


2008/9/10
◆V1速度…(ロス←サガ)

 子供の頃、アイオロスと飛行場を見に行った事がある。
 子供といっても私たちは黄金聖闘士だ。聖域では既に任務を与えられ、一人前の戦士として扱われていた。
 その飛行場へ赴いたのも任務帰りだったように思う。
 アイオロスは少年の例に洩れず、飛行機という人工の乗り物を好んだ。
 そして私は、彼と一緒の時間が長引く事を期待した。
 利害の一致した私たちは、ほんの少しだけ二人で手をとり合い、滑走路の見える場所へと寄り道をした。
 アイオロスは飛行機についていろいろ話してくれた。
「離陸には、臨界速度というのがあるんだ」
 走り始めた飛行機を金網ごしに眺めながら、彼は目を細めた。
「その速度になってしまったら、もう飛び立つしかない。そこでブレーキをかけてもタイヤがもたないし、滑走路も足りない。大きな飛行機ほど、やり直しが利かない」
「では、射手座の方が便利だな。どこからでも自由に飛びたてるし」
 そう答えたら、アイオロスは目を丸くして、それから爆笑した。どうも返事のピントがずれていたみたいなのだが、よく判らない。
 私は本気でそう思ったのに。
 飛行機の臨界速度の事をV1速度と呼ぶのだということも、その時に教わったのだった。
 私はアイオロスの教えてくれた言葉をずっと覚えている。


「そう、そしてアイオロスはこうも言った。臨界速度に達していれば、必ず飛べるのだと」
 もう一人の邪悪な私がニタリと笑う。
「邪魔な教皇は始末した。心配の種であったカノンも消えた。女神殺害には失敗したが、アイオロスの排除と女神の放逐には成功した。なあ、ここまでお膳立てをしてやったのだ」
 まくし立てながら、闇の哄笑は次第に大きくなっていく。
「やりなおしは利かない。もうお前は諦めて高みへと飛び立つしかあるまい!この世界を支配する頂点へと!」


 私達はアイオロスの言葉を忘れない。
 だから、どんなに現実の表層を飾り立てても、奥底では思うのだ。

 飛びたてたのはアイオロスだけで、私達は離陸に失敗したのではないかと。


2008/9/14
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