JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆水入らず…(タナサガ前提で双子神会話)
「随分と人間に懐かれたものだな」
タナトスの離宮を訪れていたサガが帰っていくと、ヒュプノスが入れ替わりに現れて、感心したような呆れたような呟きを零した。
死の神であるタナトスは、人に好かれるということがあまり無い。また、タナトス側もその残虐な性格と人間軽視の思想から気に入らぬ者をすぐに殺してしまうため、ヒトとの関係が長続きするということがない。そもそもタナトスが飽きもせず人間ごとき(しかも聖闘士)の相手を続けているという事が珍しい。
「フン、あれを懐いたと言うか」
タナトスは鼻で笑った。自害した過去を持つサガは、確かに死の神に惹かれて時折冥府へとやってくる。それは好くというよりも、強制的な負への引力だ。因果に縛られていると言っても良い。それほど自殺した魂は傷つき捻じ曲げられる。たとえ死の選択にどのような理由があろうとも。
サガは自分でそれを判っていて、それでいてその因果に抗わないのだ。聖戦後の彼は、自身の幸福に対して全く執着がなかった。それどころかタナトスによって身体や魂を痛めつけられる事を望んでいるようにも見えた。そのこと自体が最大の歪みと言えるかもしれない。
「それでも、もしもお前があの双子座の聖闘士へ愛を囁けば、あの男は靡くだろう」
それもまたある程度真実だった。因果の枷があるとはいえ、サガはどうでも良い相手に付き合ったりはしない。相手がたとえ神であってもだ。
ヒュプノスはじっとタナトスを見た。タナトスは肩を竦める。
「馬鹿を言うな。下らぬ暇つぶしでラグナロクを引き起こすつもりなどないわ」
神は基本的に嘘をつけないし、約束を破ることも出来ない。禁忌を破った神は凋落する。嘘と知った上で心の篭らぬ愛を口にした時、神力は枯渇してゆく。そしてそれは他の神々や、神の支配する世界にも影響を及ぼす。タナトスはそのような愚を、たかが遊び道具相手に犯す気は毛頭無かった。
「愛はなくとも、気に入ってはいるのだろう。あまり人間をいたぶるな」
なおも言い募りクギをさした半神へ、タナトスは煩いとばかりに神酒を取り出した。
「説教などいらん。それにヒュプノスよ…そう言いながらも、お前は楽しそうではないか」
「何故、そう思うのだ」
「お前の機嫌も読めぬ俺だと思うか。何か嬉しいことでもあったか」
己の感じた直観を事実として譲らないタナトスに対し、敵わぬとばかりヒュプノスは苦笑した。
「何でもない…お前の短気に付き合えるあの人間に感心していただけだ」
「お前の嫌味と説教に付き合える俺のことも感心して構わんぞ」
たわいも無い応酬が続いていく。このたわいもない会話は神の産まれた創世期から変わらず、そして今後も永劫に宇宙が果てるまで続いていくのだ。
(人の子よ、神の無限の愛を受け止めるのは、神にしか出来ぬ)
ヒュプノスはタナトスからの杯を飲み干しながら、そう考えた。
2008/5/27 金→銀×サガぽく。
◆学習能力…(双子神会話)
「タナトスよ、人間を軽視するなといつも言っているだろう」
「軽視などしておらん、オレも前回の聖戦で学んでいる」
「ほう。それにしては言動が改まったように思えぬが…」
「ヒュプノス、前聖戦までオレは人間を塵あくた程度にも思っていなかった」
「ああ」
「だが流石に命持つものは厄介だった。それゆえ蛆虫扱いに昇格させることとした」
「………昇格なのか?」
「無機物が生物になったのだぞ?破格の扱いであろう」
「…………」
2008/6/4
◆境界線…(サガ独白)
私は幼い頃から、自分が何者なのか判らなかった。
何故って、私の中の黒い影はいつも私に話しかけてきたし、カノンは当たり前のように私の心へ言葉を使わずに入り込んできていたし、小宇宙の使い方なんて知らなかった頃は周囲の人間の思考を無意識に拾ってしまっていたりもしたし(後にそれはテレパシーと呼ばれる超常能力と知った)、その中でいったいどれが自分のこころであるのか、判別なんか出来なかったのだ。
私の頭の中は、私と私でない者の境界線が無かった。
そのうちにだんだんと世界には他人というものが存在するのだと判って来て、同じ顔のカノンですら私とは別人なのだと知ったけれど、相変わらず黒い影は「私もサガなのだ」と言う。どうしてもあの存在とは考え方が相容れないように思うのだが、それでもアレは私だというのだろうか。私は自分という自我に自信が持てない。
そのうちに聖域に見出されて、私とカノンは双子座の候補生となった。指針のない私にとって、女神の教えは判りやすかった。自分の価値観を基準に出来ぬのならば、女神を基準にすれば良いのではないかと、その時に思った。
しかし、そのようにしていたら、いつの間にか私は神のようだと称されるようになっていた。神と人との境界線も、割合といい加減なのだろうか。私の影は「お前が神になってしまえ」と囁く。
私は何を基準に私を決めたら良いのだろうか。
2008/6/6
◆大団円…(ロスとサガで二度目の教皇競争)
「現状の俺では、まだ皆の上に立つ資格があるとは思えない」
蘇生後に教皇即位の儀を示唆されたアイオロスは、きっぱりと拒否した。
そして、彼を取り囲む黄金聖闘士たちと前教皇シオンをぐるりと見回す。
「謙遜しているわけでも、卑下しているわけでもない。ただ、13年分遅れている俺が、かつて指名を受けたからという理由だけで継げるほど、教皇の地位は甘いものではないと思っているのだ。今の俺は一番年下であり、皆より経験値も低い。死んでいた間の世界情勢にも疎い。無論それを言い訳にする気などないし、必ず追いつき全員に教皇に相応しい男として認めさせてみせる。しかし」
一息ついてアイオロスは続けた。
「それまでは、俺よりも相応しい者が聖域を治めるべきだ」
話を聞いたシオンが肩を竦める。
「ふん、それでお主は誰を推すのだ?」
「サガを」
英雄と呼ばれる少年は、間髪いれずかつて自分を貶めた相手の名を挙げた。
場にざわめきが走るなか、指名された青年…統合状態でこの場に赴いていたサガは、フッと笑った。
「私に教皇の権力を与えたら、今度こそ二度とお前にその座を返さぬかもしれんぞ?」
「その力があるのならば、それでもいいさ」
返すアイオロスも不敵な笑顔で、だが楽しそうに付け加える。
「俺はサガに負けるつもりはないけど」
チリ…、と小さな火花がとぶ。それは険悪なものではなく、暖かな信頼と正常なる競争心の証だった。
会話を交わしている二人から、少し離れた場所でデスマスクがこそりと呟く。
「あいつら、皆の前でイチャついてる自覚ねーんだろーな…」
ムウが隣で同意しつつ、二人の肩を持った。
「あれくらいなら良いじゃないですか?それに、自覚あってやらかす方が困りますよ」
「それもそうだ」
「今日はサガの人格が混ざっていて良かったですね。白いあの人や黒いあの人でしたら、きっと凄い愁嘆場や修羅場に…」
「わははは、それは逆に見てえ」
「「…そこ、聞こえているぞ!!」」
小声で話すも隠すつもりの無い蟹と羊の会話は、しっかり本人達の耳に届いていて、サガとアイオロスは揃って後輩を睨みつけたのだった。
2008/6/10
◆ねずみの国…(ロスサガ)
サガとフランスのねずみーらんどで会う約束をとりつけたアイオロス(14歳)は、ギリシア人には珍しく約束の定刻10分前に、テーマパークの象徴ともいえる城前で相手を待っていた。
13年間分世間に疎い英雄は「一般社会の世間的な感覚に馴染みたい」「市井を知るのも上に立つものの努め」「現世情の説明役としてサガが同行すること」という強引な主張のままに、公費でデート兼リゾート休暇を勝ち取っていたのだ。
しかし、肝心のサガの方がまだ到着していない。
「遅いなあサガ…」
大らかなアイオロスが心配したのは時間のことではない。真面目なサガが時間に遅れるような事態が発生したのかという危惧によるものだ。
サガはアイオロスから視察(という名の職権乱用)の話を聞いたとき、怒りはしなかったものの、そのような理由で執務を休むことを善しとせず、神官議会に出たあとに付き合うと言っていた。
しかしどのような経緯であれ、交わした約束に遅れたりしないのが彼だ。
不安になりはじめたアイオロスの脳裏に、タイミングよく小宇宙通信が届いてくる。
(すまん、アイオロス。会議が今終わったのだ。直接そちらへ向かう!)
どうやら職務が長引いただけだったようだ。
アイオロスはほっとしたものの、直ぐに『いやまて』と思い直す。
(ちょ、サガ、直接って!?)
慌てて返す心話は間に合わず、目の前に瞬間移動でサガが現われた。
「待たせてしまったな」
「サ、サガ、その格好…」
「格好がどうかしたか?」
「何で法衣のままなのだ!」
「着替える時間がなかったのだ。待ち合わせに遅れるなど論外だからな」
このような大勢の人前へのテレポ使用についてだとか、国境超えでの入国手続きはどうしたのだとか、ねずみーらんどへの入国手続きもどうしたのだとか、突っ込みたいところは山ほどあったが、まず何とかしなければならないのは、サガの服装だとアイオロスは遠い目になった。
「別に問題ないだろう?ロドリオ村へもよくこの格好で出かけていたが、何か言われた事はないぞ。それに今日は私的ながら視察と聞いた。ならば法衣で充分だろう」
「いやいやいや!」
そう言っている間にも、ただでさえ目立つ容姿のサガの周りに人が集まってきている。
彼らは明らかに、中世の時代から抜け出たような異国の法衣姿のサガを、何かの新しいアトラクションのスタッフだと勘違いしていた。
皆がカメラのシャッターを切り始めると、サガが流石に気づいて周囲を見渡している。
「アイオロス、何か皆が写真を撮ってくれているようだが」
「撮ってくれているのではなく、それは…って、ああああああ!」
人を惹きつける才能を無駄に持つサガが、皆に応えるべくにこりと微笑んだ。
ただでさえ神のごとしと喩えられた容姿とスマイルが一般人を直撃する。小宇宙など感じることの出来ぬ観光客も、周囲がまるできらきらと輝きだしたかのような錯覚を覚え、サガを取り囲む人の輪は何倍にも増した。
園内での予期せぬ騒動を制止すべきスタッフたちも、あまりの神スマイル効果に見惚れてしまい、研修生を連れてきては「あれを手本とするように」「無理っすよ!」などという会話を交わしている。
何故か拝みだした老人夫婦が出るに到り、アイオロスは慌ててサガの手を引いてねずみの国から逃げ出した。
「どうしたアイオロス、視察はしないのか」
突然園外へ連れ出されたサガは、まだ判っていなさそうな顔をしている。
「世俗を学んだ方がいいのは、オレよりサガだ!」
思わず叫んでしまったアイオロスなのだった。
2008/6/17