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◆2008-JUNK3

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆調律…(カノンベースなサガ)

 海界から戻ったオレは、宮にいるべき兄の姿がないことに首を傾げた。
「サガ?」
 声を掛けたものの返事が無い。
(出かけているのだろうか)
 そう思い、小宇宙を高めてサガの気配を辿ると、探すまでもなく寝室の方から反応があった。いつもであれば、直ぐに「おかえり」と出迎えるサガにしては珍しい。
 『兄弟であっても、日常における挨拶を交わすのは大事なけじめだ』と、しつこいくらい押し付けてくるのが鬱陶しいと思っているのに、迎えが無いとそれはそれで寂しいと感じるあたり、相当サガに毒されてきたのだろうか。そんな事を思いつつ、様子を見に部屋へ足を運ぶ。
 閉じられた扉の前で一応ノックをしてみた(これも、サガの躾によるものだ)が、返される応えは無い。
 オレは仕方なく、そのまま扉を押し開けた。中に見えたのは、寝台の上へ身体を丸めるように沈め、荒い息を零して苦しむサガの姿。
「おい、どうしたんだよ!」
 流石に慌てて駆け込み、まずは手のひらによる触診でもって体温を計る。熱は無い。
 しかし、その額にはじっとりと汗が滲み、触れた手を湿らせる。
 意識があるのかと頬を軽く叩くと、その衝撃に気づいたのか、うっすらとサガがまぶたを開いた。
「カノン…おかえり」
 こんな時でも挨拶優先なところがサガらしい。
「おかえりじゃねえよ、どうしたんだ一体!何で人を呼ばないんだ!」
 病気であれば聖闘士の自然治癒だけでは追いつかないだろうし、自分の手にも負えない。
 緊急の通信を飛ばそうと小宇宙を高め始めると、汗ばんだサガの手がそっとそれを抑えた。
「違うのだカノン…」
「何が違うのだ、医者を呼ぶぞ!」
「これは…統合の調子が悪いだけで…医療では治らん…」
 途切れ途切れ苦しそうに吐き出すサガは、他人には治せないものだと告げた。あまりに白と黒の波長が遠い時に、無理に一つになろうとすると、拒否反応が出るのだという。
「そのうちに、治まる…」
「しかし!」
 苦しそうなサガの波動はこちらまで伝わるほどだ。
 合うべきものが合わないような、もどかしく気持ちの悪い、それでいて切裂かれるようなこの感覚。
 これを本人であるサガは何百倍も強く直に感じているのだろう。
「統合が苦しいってのなら、解けばいいだろ!」
 思わず叫ぶと、サガは乱れた髪の合間から微笑んだ。
「私は、一つになることから、逃げてはならない…慣れなければ」
 その瞳の色は紅く点滅しているようでもあり、青く澄んでいるようでもあり、なかなか定まらない。
 カノンは兄の身体ごと抱き起こすと、睨むように顔を覗き込んだ。
「無理に型に嵌める必要はない。どんなお前だって、お前だろうに」
 サガは目を見開き、それから小さく笑った。
「…お前も…どんなお前であっても、私のカノンだ」
 白くなめらかなサガの指が伸びてきて、オレの頬をなぞる。
 それから、倒れこむようにオレの胸に顔を埋めて、背中へと手を回してきた。
「カノン…少し、こうしていても良いか」
「ああ」
 何をしたいのか、オレは直ぐに気づいた。
 サガと同じオレの小宇宙は、サガを安定させる効果があるのだ。
 統合による精神の乱れを、オレとの接触で癒しているのだろう。
 オレの小宇宙はいわば調律の基調となる指針のようなもの。だから指針であるオレが悪の方に振れれば、サガも悪に流れる。過去の経験でオレはそれを知っていた。
「無防備にオレと同調して、また流されると思わないのか?」
 そう言ってやったものの、サガが離れる気配は無い。
「お前を信じている」
 胸元で即答されて苦笑する。昔はこの信頼さえ正義の押し付けと思ったものだが。

 幼かったあの頃とはまた別の意味で、この優等生な兄を流してみたいと思いながら、オレはそっとサガの頭を抱きしめた。


2008/3/11
◆白サガでも…(統合サガ×タナ前提の白サガとタナひとコマ)

「溜息などついてどうしたのだサガ」
「…ときには地上の果物を…いや、なんでもない」
「果物を食いたいのか。ザクロなら地上のものと変わらんだろう」
「そうだな…神であるお前ならば、地上の食物を手に入れることなど容易いと思ったのだが、贅沢を言った」
「……」
「……」
 タナトスの離宮に訪れる暫しの沈黙。
「と、取ってくれば良いのだろう!」
「ありがとうタナトス。お前は優しいのだな」
 柔らかく微笑む白サガ。しかし物腰が丁寧なだけでほぼ強制なのだった。


2008/4/1 四月馬鹿ネタの一環。当日拙宅はサガ×タナサイトになっておりました。
◆神の源…(サガ&星矢)

「神の力に距離って関係あるのかな」
 突然星矢が言い出したので、話し相手となっていたサガは首をかしげた。
「物理的にということならば、多少はあるのではないか?」
 神の意思、すなわちビックウィルと呼ばれる存在の形でいえば、宇宙の真理に関わるものでもあり、どこであろうとその意思は発動するように思われる。
 しかし、一旦それが人間に宿り、物質界で影響を及ぼす分には、神の力といえどもその宇宙の法則に従うように思う。
 何故星矢がそのようなことを言い出したのか判らなくて、サガは話の続きを促すように視線を投げかけた。
「いや、ほらアポロンとか、すげー強いし、偉そうだろ?」
「そうだな」
「でもアポロンて太陽神なわけだよな」
「ああ」
「宇宙の広さを考えたら、太陽系の小さな恒星の神様より、もっと大きな恒星の神様がいっぱい居る気がしてさ。オレの星座を構成している星だって、太陽よりもずっとでかいんだけど。そんな星の集まったペガサスの星座の守護神パワーの方がアポロンよりランクとか上っぽいのに!」
 星の大きさを神の力に直結させた星矢の理論(というよりも願望)に、サガは目を丸くして、それから噴出した。笑いながらも、星矢を傷つけぬ程度にフォローする。
「そうであったら、面白いな」
 ひとしきり笑ったあと、今は星の見えぬ青空を見上げてサガは目を細めた。
「神の力とは、何に因るのだろうな。神は人間の誕生するはるか以前から存在するというが、神々の格や力は、人間の想いによって、高まりもすれば貶められもするような気がする…それゆえ、人の住まう地球を照らし育む太陽神は強大なのではなかろうか」
 星矢も並んで空を見上げる。青く澄み渡った空に輝く太陽の光が、今も二人へそそいでいる。
「それなら、地上を愛して、人に愛される沙織さ…アテナが最強になるの、判る気がする」
 とびきりの笑顔でそう言った星矢へ、サガもまた極上の微笑みを返した。


2008/4/8 神と人との関係シリーズ

◆弟二人…(カノンとリアの兄話)

「邪魔をする」
 獅子宮へ押しかけてきたカノンは、守護宮の主が許可を出す間もなく、勝手に居住区部分へ入り腰を下ろした。
「何をしに来たのだ」
 今は同僚となった双子座の片割れを、アイオリアは戸惑いながら迎え出る。
「ちょっとサガと喧嘩した。ここで暇つぶしさせろ」
 カノンは機嫌の悪そうな表情で、茶を出せなどと図々しいことを主張した。
「デスマスクのところで良いだろう」
「それが留守だったのだ」
 いつものごとく巨蟹宮へ押しかけようとしたところ、不在であったので勢いでその1つ上の獅子宮まで来たのだという。同じ顔でも品行方正なサガとは大分違うなとアイオリアが呆れていると、その思いを読み取ったかのようにカノンが睨んだ。
「お前とて兄の事では苦労してるんじゃないか?」
 13年間は逆賊の弟と呼ばれ、今は英雄の弟と呼ばれ比較されるそのことを指摘する。
「まあ、何も無いとは言わんが、別に…」
 アイオリアにとっては、兄の汚名が雪がれたのみならず、生き返ってきたというだけで望外の喜びであった。13年間はともかく、現在兄が英雄と呼ばれることに関しては誇らしい気持ちのみだ。
 カノンもそこは判っているようで、問いの方向性を変えた。
「じゃあ、仮にだ。アイオロスが二重人格だったらどうだ」
「…はあ?」
「正義に篤く厳格なアイオロスという一面の裏に、凶暴で聖域の支配を望むような人格を秘めていたらどうする」
 あまりに突飛な仮定だが、サガという兄を持つカノンからみれば、自分の境遇を置き換えてみたにすぎないことに気づき、アイオリアは律儀にそれを想像してみることにした。
「兄さんが黒髪化して、聖域を掌握するってことか?」
「まあそんなとこだ」
「…結構格好いいかも…」
「はあ!?」
 今度はカノンが呆れた声を上げる。
「お前、一体どういう想像したんだよ!脳の中覗かせろ!」
「幻朧魔皇拳使おうとするな!プライバシーの侵害だ!」

 ブラコン二人が揃うと、気が合いそうで微妙な会話になることも多いのだった。


2008/4/15
◆もんじゃ…(サガ&星矢)

「モンジャヤキ?」
 食材をテーブルに広げている星矢の口から出てきた単語を、サガは繰り返した。
「もんじゃ焼き。日本の食い物さ」
 どこから持ってきたのか、ホットプレートまで用意されている。
「一緒に食べようと思って。小麦粉ならサガのとこにもあるよな?あと油とミニボウル2つ」
 勝手に押しかけておきながら材料を要求するあたり、星矢もすっかりサガのことを身内扱いするようになっている。
「ホットプレートがあるということは、炒め物なのか?」
 旧態依然の聖域に暮らすサガも、さすがにホットプレート位は知っていた。
「これは焼き物かな。小麦粉を水で溶いて、材料を加えて焼くだけだから簡単だよ」
 星矢に説明され、それは甘くないパンケーキのようなものだろうかと想像しつつ、サガは棚のほうから油の入った小さな陶器と小麦粉を持ってきた。ミニボウルは無かったので、普通に丼型の深皿を利用することにする。
「小麦粉と水と材料を混ぜて、最初は具の方だけ焼いて、その上に小麦粉水をかける!」
 お互いに自分の分を作ってみようねとエビやイカのぶつ切りを渡され、とりあえずサガはそれらをまとめて深皿に放り込んだ。星矢は早速手際よくかき混ぜて、ホットプレートの準備も始めている。
「じゃあ、お手本を見せるな」
 そう言ってまずは油を敷く。しかしその時点で星矢は顔をしかめた。
「これ、オリーブオイルみたいだけど」
「そのとおりだが」
「それ以外の植物油、ない?」
「カノンが揃えていた気がするが、どの油がどの容器に入っているか判らない」
「…ま、まあいっか、これでも」
 出だしからギリシアテイストになったもんじゃを、それでも星矢は器用に仕上げていく。
 そしてサガにも同じように作るよう勧める。
 サガは、見よう見まねで作成手順を真似し、材料をホットプレートの上へ落としてみた。
 しかし完成したものは何故か焦げかけの厚い物体なのだった。
「もんじゃにはならなかったみたいだけど、ええと、お好み焼きが出来たね」
 星矢のフォローがかなり苦しい。だがサガは出来栄えに満足し、それを自分の平皿へと取り分けた。
「オコノミヤキも日本の食べ物か?」
「うん」
「お前の国の料理かと思うと、作り甲斐があるな」
 そう言って、切り分けたその物体をひとかけらフォークに刺し、星矢の口元へ運ぶ。
「味見を頼んでも良いか?」
 その姿はさながら恋人のよう。

 にこにこと言うサガに対し、星矢は
(シチュエーションだけは贅沢なんだけどなあ)
 などと思いつつ、その微妙な物体を噛み砕いて無理やり飲み込んだ。


2008/4/12
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