JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆割れ鍋に割れ蓋・前編
サガは油断すると黒くなってアイオロスを殺そうとしたり、女神に反逆を企てようとする困ったちゃんですが、アイオロスはあんまり気にしてません。
サガの暴走っぷりを気にしていないのは、サガの反逆がちっとも成功しないのと、いざとなれば自分がサガを止められるという自信からくるのかもしれませんが、それにしても気にしなさすぎです。
今日も黒サガの悪巧みを『しょうがない人だなあ』で済ませて、仲良く一緒にサガの車でお出かけしました。獅子宮ではアイオリアがプンスカ怒っています。
「何でサガなんかが兄さんの友達なんだ?」
アイオリアも散々サガには痛い目をみさせられているので、どうして兄とサガの仲がいいのか全然理解できないのです。
「昔はよく二人で出かけていたようだぞ。いわゆる悪友というものだろう」
シュラがぼそりとフォローするも、それは火に油でした。シュラのフォローはどうも逆方向には良く働きます。そんな中へラダマンティスが突然やってきました。
「カノンが行方不明なのだ!」
獅子宮で騒がれても…という感じですが、よほど翼竜は動転している模様です。
冥界と繋がっている巨蟹宮から双児宮へ向かったものの、誰も居ないので反対側の獅子宮へ押しかけたのでしょう。溺れるものは藁をも掴む。
しかし、そんな闖入者を二人は適当にあしらいました。アイオロスとサガの事で頭がいっぱいのブラコンと過保護ナイトに相談しても無駄という典型です。
「痴話喧嘩か?」
「単にフラれたんだろう。お前甲斐性なさそうだし」
適当といいつつ本音が見えています。ラダマンティスは無遠慮な言葉にグサグサやられながらも反論します。
「そんなことは無い!俺はいつもカノンに尽くしている!」
そして語られたラダマンティスとカノンの想い出は、どうみてもカノンに都合よく搾取されている気の毒なお兄さんの姿でした。
シュラとアイオリアは遠い目になりました。
「カノン…虐待しすぎだろう…」
「ラダマンティス、お前はそれでいいのか…」
何だか思いっきり同情されたラダマンティスは、何の助けも得られなかったものの、まあ飲んでいけと二人からお茶を振舞われるのでした。
その頃、アイオロスとサガの二人は、とある海辺の田舎町に到着していました。
「けっこう時間かかって疲れたねえ」
「何をいう、お前は寝ていただけだろう!」
「だって、サガがオレの為に頑張ってくれるのを見るのが嬉しいから、つい」
車はずっとサガによる運転でした。
途中で車がエンストした折の修理もサガだけが頑張って、アイオロスは手伝いもせず優雅に昼寝していたりと、微妙に鬼畜です。
そのアイオロスは全く悪びれず、にこりと笑いました。
「俺は今から頑張るからさ?」
そう、実は二人はただデートをしにきたわけではありません。海辺で悪さをする海将軍がいるという手紙をもらい、その調査に来たのです。その手紙には、海将軍の似顔絵としてカノンの姿がしたためられていました。
「すまんな、アイオロス。私の弟の不始末のために…」
「いや、まだカノンの仕業と決まったわけじゃないよ」
「そ、そうだな…そういえばアイオロス、覚えているか?」
そう言ってサガは浜辺を指差しました。
「前に二人でデートした時に、初めてここでカノンと出会ったのだ」
「ああ、そうだった」
以下サガとアイオロスによる回想シーン。
聖域と海界、それぞれで育てられた双子は、浜辺で偶然巡りあいました。
嬉しさでカノンに構おうとするサガを、言葉巧みに苛めて楽しむカノン。
半分セクハラっぽいことをされているのに、サガは全然気づきません。
見ていたアイオロスがニコニコ割り込みました。
「楽しそうだね、俺も混ぜてくれないか」
当時もアイオロスは鬼畜です。鬼畜兄さんは言葉を続けました。
「そういえば、このあたりで人の親切につけこんで悪戯をする海将軍がいると噂になっているよ…まあ、騙される方も問題だと思うけどね」
昆布で簀巻きにしたサガを横に、カノンはチッと舌打ちしてアイオロスを睨みます。
「貴様、オレが海将軍と気づいていたのか!」
「それだけ常人でない気配を発していれば、普通判ると思うよ」
サガを巡って小宇宙がぶつかりあいます。海神の矛を持つカノンはアイオロスを圧倒しますが、その矛を使いこなせないでいる隙をついて、なんとか倒す事が出来ました。
サガを簀巻きにしていた昆布で縛られたカノンへ、双子の兄は魚を焼いて食べさせてあげます。
「アイオロス…勝手を言うようだが、カノンを許してやってくれないか。彼が世界征服を目論んだのも、ただ寂しくて鎌って欲しかっただけだと思うのだ」
「ええっ、いつそんな大それた事を目論んだ話になったんだ?っていうか、それだけの理由で世界征服しちゃうんだ…」
まあ何だかんだいって被害はその小さな港町の住人だけであり、カノンも反省したらしいので、二人は許してあげることにしました。それ以降双子は仲良く一緒に暮らすようになったのです。
回想おわり。
「やはりカノンは裏切っていないと思うよ」
「そうだな…私もカノンを信じる」
アイオロスとサガの二人は、そういって微笑みあうと手を繋ぎました。
2008/1/27
◆割れ鍋に割れ蓋・中編
アイオロスとサガは早速聞き込みに周りました。
聖闘士ですが、調査方法は通常の人間と同じで地道です。その結果、被害者はみな女の子で声を奪われたという共通点がみつかりました。サガのオーラは大分黒くなっています。
「か弱い少女を襲うとは…しかも私以外の人間へこんなに手を出して…」
信じると言ったそばから弟に怒りを向けている兄でした。
「サガ、後半はちょっと怒りの方向が違うと思うよ」
アイオロスはサガがカノンに対する半分くらい自分にも妬いてくれればいいのにと思いつつ、調査結果に首を捻ります。
「カノンに声を奪う能力なんてないよね?」
「ああ、しかし神器があればどうだろうか」
以前、カノンから取り上げた海神の矛は、スニオン岬に封印してあります。とりあえず二人は海界経由で、矛がどうなっているのか調べに行く事にしました。
海界は聖域とやりあったせいで、神殿などはボロボロのままですが、その戦に関わっていないアイオロスとサガは他人事です。
誰かいないかと探していると、隅っこのほうに三人ほど海闘士をみつけました。
「フカ美味いよ」
「フカ美味くないよ。生臭いよ」
「フカヒレは美味いよ。背びれ切って乾燥させてもどすんだよ」
「イオ様、バイアン様、魚類を惨殺する話は止めて欲しいんですけど」
そんな会話をしている三人にアイオロスは話しかけました。
「ねえ、ポセイドンの矛ってどうなってるかな」
目の前に聖域の次期教皇が突然現れても、海闘士はマイペースです。
「ポセイドンのフカ?」
「ホコだよ。一文字もあってないよイオ」
「そう言われてみるとスニオン岬に気配を感じませんね」
「今は無いみたいだね」
海界の神器の行方が判らなくなっているというのに、海闘士はのんきだな…と感想を述べるサガへ、アイオロスは内心『君は逆にデンジャラスすぎるけど』とこっそり突っ込んでおりました。
とにかく矛の封印が解かれたことを知った二人は、地上へ戻り正攻法で被害を食い止めようとします。しかし、そんな二人を嘲笑うかのように、また被害者が出てしまいました。
2008/1/28
◆割れ鍋に割れ蓋・後編
巧妙に調査の手をかいくぐる犯人の手口に、二人は考え込みます。
「これはもうアレしかないな…」
「オレは嫌だよ」
「私だって嫌だ」
言い終わるや否や、二人は光速ジャンケンを始めました。
これはもう囮捜査をするしかないって事なのですが、二人とも自分が囮役になるのは避けたいのです。拳で決めずにジャンケンで決めるところが、聖闘士にしては文化的です。
ジャンケンに負けたサガは、しぶしぶセーラー服を着て、犯人の現れそうな道を練り歩きました。
三つ編みにしたおさげに白のソックス、学生かばんを持って歩くサガは、どこからどうみても身長188センチのガタイの良い素敵な女子高生です。28歳ですが。
嫌がっていても、やるからには完璧を目指すのがサガらしいところでした。
旅先でキングサイズのセーラー服を手に入れるのは一苦労だと思われますが、そこは次期教皇たるアイオロスの外交手腕が発揮されています。
そのアイオロスはこっそりサガの後をつけながら、犯人が現れるのを待つという寸法です。
頼もしいですが、一見すると単なるストーカーのようです。
(女子高生サガの姿を見れば、犯人でなくたって引き寄せられるに決まっている!)
アイオロスは、犯人以外まで集まってきたら囮捜査の意味がないことは忘れていました。
しかしそんな穴だらけの計画でも、ちゃんと犯人は現れたのです。
サガの前に立ちふさがったのは、ポセイドンの矛を持つ海将軍姿のカノンでした。
やはりカノンが犯人だったのかと衝撃を受けている二人の前で、カノンが矛を振るいます。
カノンであればサガに傷をつけないだろうと思っていたアイオロスは慌てて叫びました。
「サガ姫、逃げろ!」
スカートをひらめかせて攻撃を避けるサガ姫と、彼を姫と呼び助けるアイオロス王子。
彼らは二人だけの世界を構築し、何か別のプレイをしているかのようでした。
危機的状況だというのに、黄金聖闘士二人の脳内はお花畑というか余裕です。
しかし、流石に海神の神器の前では押され気味になってきました。
カノンが笑いました。
「サガよ、お前からも奪ってやろう」
その台詞を最後まで聞かずに、アイオロスを置いて光速で逃げ出すサガです。
カノンは『声を』奪うぞと言ったつもりだったのでしょうが、何か別のモノを奪われる危機感を覚えたのです。
サガは鈍感ですが、黄金聖闘士だけあって防御本能だけは無駄に発達しておりました。残されたアイオロスは果敢に戦ったものの、矛の力によってスニオン岬に封印されてしまいました。
「ウワーハハハハハ!」
勝利に高笑いするカノンの笑い方は黒サガそっくりで、確かにDNAが同じなのだと言う事を実感させられます。
そこへ、どこからか魚の焼けた良い匂いが漂ってきました。
思わず匂いを辿っていくと、七輪でサガが魚を焼いています。
サガはこちらを振り返ると、何事もなかったようにニッコリ微笑みました。
「お前も食うか?」
白魚のような指で、串にさした焼き魚を差し出したサガの微笑みの優しく神々しいことといったら。
「あ、ありがとう」
思わずカノンが片手の矛を離してその串を受け取ったとたん、サガは矛を奪い取りました。
「ククク、簡単に人を信じるとは馬鹿め!」
いつの間にかサガの髪が漆黒に変化しています。
長い髪を潮風にたなびかせ、黒サガは矛でカノンの頭をしばき倒しました。
弟にも容赦ありません。流石サガ。
焼き魚を口にする事も無く昏倒したカノンは、黒サガの足元で姿を変えていきました。
「…愚弟ではなかったのか」
そこに現れたのは、リュムナデスのカーサでした。
いっぽう、矛の力によってスニオン牢に飛ばされたアイオロスは、その中でカノンを見つけていました。カノンはアイオロスへ送られてきた手紙を先に目にして、自分の身に降りかかった濡れ衣をはらそうと、一足先にこの港町へ来ていたのです。しかし、カーサの持つ矛の能力でスニオン牢へ閉じ込められてしまっていたのでした。
サガがカーサから矛を取り戻したことにより、スニオン岬の牢が開き、二人はサガのもとへ瞬間移動します。
二人が見たのは、既に黒サガによって叩きのめされた後のカーサでした。
カノンは海将軍筆頭として責任を感じ、アイオロスやサガに代わってカーサに尋ねました。
「何故このような悪さをしたんだ」
気絶から目を覚ましたカーサは、項垂れつつ訳を話します。
「町の連中と仲良くしようにも、ここではシードラゴンの昔の悪行のせいで、海将軍は悪者だと嫌われているんでさ…それならいっそシードラゴンの振りをしてトコトン暴れてやろうと思って」
アイオロスとサガがカノンを見ます。
犯人ではなかったものの、ちょっぴり要因はカノンにあるようです。
カノンはちょっと考えてから、アイオロスとサガを振り返り、爽やかに言い放ちました。
「勝手な言い分だが、カーサを許してやってくれないか。こいつは単に寂しかっただけだと思うんだ」
誤魔化す気満々です。
「ま、まあ、反省しているようだし、良いのではないか…?」
普段カノンに厳しいくせに、お願いされると弱いサガは、さっそく許してしまいました。
「オレもサガの珍しい格好見れたから満足かな」
アイオロスも私情丸出しです。
そんなわけで、アイオロスとサガはカーサを海へ流しました。
「きみの生きる場所は海の中だったんだ。二度と陸へあがってきてはいけないよ」
カーサは許されてホっとしながらも、この二人が聖域の次期教皇とその補佐かと思うと、少しだけ地上の未来が心配になるのでした。
「さて、デートの続きをしようかサガ」
「ちょっとまて貴様。オレのサガとデートとはどういう事だ」
「カノン。お前こそ、この兄を置いて冥界のラダマンティスとデートに行くといったまま、行方知れずになっていたではないか…」
浜辺に残った三人が、小宇宙全開で繰り広げた聖闘士的スキンシップによって、カーサの悪戯よりもよほど大きな物理的被害が出たのですが、勿論それもアイオロスの政治的手腕によってカーサの仕業ということになったのでした。
めでたしめでたし。
2008/1/29
※おおまかにこんな話でした。ねずみ男のセーラ服姿を見たのは初めてでした。
◆自然災害…(ラダカノなブラコンカノン)
サガはあまりモノを望まないタイプだが、ひとたび何かを願った時の想いの強さときたら、双子の弟のオレからみても空恐ろしい程だ。
堤防をも決壊させる奔流のごとく、深く激しくただひたすらに、その想いはあらゆる障害を押し流していく。
戦いを好む性質ではなかったというのに、平和を守るための力が必要と思えば聖闘士を目指し、信じられぬほどの努力とひたむきさでもって黄金聖衣を手に入れた。
その想いの強さのままに正義を愛し、女神を愛し、地上を愛したサガ。
覇道を目指したもう一人のサガも、同じだけの強さで己を貫いたという。
「そのサガに愛されることの充足感が、お前に判るか」
カイーナ城の執務室に置かれた大きなソファーへ横たわりながら、オレはラダマンティスを見た。
「判らんな。仕事の邪魔をしにきた恋人が、目の前で他の男へのノロケを聞かせてきた時の気持ちなら大層判るのだが」
奴は邪魔と言いながら、ペンを走らせる仕事の手も止めない。
「あの強さでオレだけを見るんだぜ?幼かったオレが、そんな想いを向けられて抗えるわけないだろう」
ほんの4〜5歳の頃の、本当に幼い頃の話だがな。と付け加える。
「あの頃、サガにはオレしかいなかったし、オレにもアイツしかいなかったから」
「ブラコンの原因を兄のせいにするのか?」
呆れたようにラダマンティスが口を挟んできた。
「ああ、あいつのせいだ。オレにとってサガはどうしようもない自然災害みたいなもんだ。オレがサガに流されるのは仕方が無い。だから」
そう言いつつ、立ち上がると、ラダマンティスの目の前の書類の上に手を置く。
「オレがサガの波に飲み込まれていたら、お前が救助に来い」
最大限のサービスでそう言ってやったというのに、ラダマンティスときたら更に呆れたように
「お前の兄はどれだけお前を甘やかしたのだ…」
そう言いながらオレの頭を撫でて子ども扱いしただけだった。
年下の癖にこの余裕が時折むかつく。
オレはぶつくさ言いながら、仕方なく恋人の仕事が終わるのを待った。
2008/3/5
◆幸福の疵…(リアサガ←ロス)
サガが俺の弟であるアイオリアと付きあいだした…という噂を最初に聞いたとき、俺は一笑に伏した。弟の気性を思うとありえない話だと思ったし、いま考えると信じたくないという気持ちもあったのだろう。
だがサガ本人から、まるで世間話をするときのような気安さで報告を受けたときは、流石に笑うことが出来なかった。
「俺だって君のことが好きだ」
掠れた声を搾り出す。
サガは柔らかく微笑んだが、それだけだった。
「私も君のことが好きだったよ」
過去形で語る語尾が俺の胸を突き刺す。
サガは何か大切なものを語るがごとく、瞳に幸福の色を浮かばせていた。
「アイオリアは私を好きだとは言わない。けれども必要だと言ってくれた。私の償いが必要だと」
サガが求めていたものは、無償の愛よりも、もっと人間的な何かであったのだと、今更知ってもどうにもならない。
「そうか…幸せにな」
ちっとも心の篭らぬ祝福の言葉を口に乗せたとき、背中から黄金の翼が萎びて消えていった。
2008/3/7