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◆2008-JUNK1

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆ねずみ年…(謹賀新年挨拶ロス&サガ&星矢)

「東洋では干支といって年月を動物で表したりするんだ」
 新年の挨拶がてら双児宮を訪れた星矢は、年賀状に描かれた白いネズミの意味を聞かれてそう説明した。
「今年は子年だからネズミ」
「そういえばデスマスクが、十二支は十二辰に関わり、ひいては十二宮に繋がると説明していた事があったような…」
 サガが感心したように年賀状を受け取る。
 ギリシアには日本のような、宗教に関わらぬ新年の挨拶状交換はない。それでも異国の絵葉書は気に入ったようで、新年の祝いと共に礼を言った。
 星矢はニコニコと無邪気に返事をしてくる。
「ネズミ年だから、ネズミ式の挨拶が欲しいな」
「なんだそれは?」
「ちゅう」
「………」
 あまりのベタさに遠い目になりつつも、サガは星矢の額へ口付けを落とした。

 その話を後で聞いたアイオロスも、当然の事ながらサガに要求した。
「俺ともネズミ式の挨拶をしてくれるよね?」
「お前まで子供のようなことを」
「いや、俺は大人向けの挨拶で頼むから」
「は?」
「マウスTOマウス」
「…マウスの発音が違うぞ」
 サガが呆れながらもアイオロスの唇へ軽く口付けたのは、新年ならではの行幸といえよう。


2008/1/2

◆選択肢…(サガへの断罪)

「罪人よ、射手座を蘇らせるにあたり、屠ったお前に選ばせてやろう」
 冥府の王ハーデスが宣告する。
「彼の者の死した時点における肉体の齢から続けるか、それとも聖衣に留まり続けた魂の齢に合わせるか」
 ふわりと冥王が手をかざすと、サガの右前には記憶にあるままの14歳の少年の姿をしたアイオロスが現れ、左前には嘆きの壁や聖衣を通じてアイオリアの前へ姿を見せた時の、年を経た27歳のアイオロスが現れた。
 どちらのアイオロスも突然の呼び出しに驚いたような表情をしていたが、何かをサガへ伝えようとして叶わず喉を押さえる。
「死者に言葉は不要であろう」
 それはある意味、厳格な生者と死者の区分けだった。
 ハーデスはサガが選択を行うまで、アイオロスとサガに意思疎通の手段を与えるつもりはないらしい。
「ふふ、お前の好きな方を選んで良いぞ」
 ゆるりと笑う冥界の王へ、サガは溢れる怒気を抑えもせずに聞き返した。
「選ばれなかった方は、どうなる」
 聖戦における敗者であるにもかかわらず、ハーデスは未だ神としての威厳を損なってはいなかった。サガの殺気にまで至った小宇宙を軽く受け流し、傲慢ともとれる優雅さで応える。
「存在を与えられぬ者は死者ですらない。この場で消滅する」
「ふざけるな!」
「ふざけているのは女神であろう。聖戦に関わらぬ死者まで起こせなどと。蘇生を行なう恩恵に感謝されこそすれ、責められる覚えはない。さあ如何する。選択せぬという選択肢もあるが」
 どちらのアイオロスも蘇生させぬ場合、黄金聖闘士の要が失われるだけであり、冥王としては一向に差し支えないという目論みなのが見て取れた。
「さあ、選べ」
 ハーデスは再び宣告した。それは確かな断罪だった。

2008/1/4

東風様コメントによるオマケ版
  冥王「さあ、蘇生させるのはどちらのアイオロスか、選べサガ」
  サガ「……その、ハーデス」
  冥王「何だ」
  サガ「悩む間に、どちらが14歳で、どちらが27歳のアイオロスか判らなくなった」
  冥王「フ、親友などと言うても小宇宙から齢も測れぬとは」
  サガ「小宇宙で判断…?すると貴方も外見では判別出来ぬと言う事か」
  冥王「……」
  サガ「……」
  冥王「…未成年の方が、多少肌の張りが良いはずだ」
  サガ「27歳の方を肌の曲がり角のように言うな!14歳も老け顔ではない!」
  冥王「そこまで言っておらん!」

  言い争う二人の横で、年齢軸の異なる射手座は、それぞれ膝を抱えて黄昏ていた。

  2008/1/13


◆÷2なのか×2なのか…(シュラ+サガ+カノン)

 サガは他人に寄りかかる事をしない男だ。

 それは遠慮から発する性質なのかもしれないし、己の力のみで大抵の事をこなせてしまう有能さからくる無作為かもしれない。誇りからくる矜持とも考えられる。
 なんにせよ、時間をかけて彼の内面に踏み込ませてもらえるようになって、ようやく何事かを頼まれるようになる。

 しかし無防備に背中を預けてくれることはない。

 それを寂しく思いながらも、シュラはそういうサガが好きだった。
 その孤高の強さは善いもののように思えた。

 女神の聖闘士は、基本的に個の強さを求められる。複数で一人を攻撃することが許されぬからだ。
 集団で任務を行なうこともある青銅や白銀も、戦闘に突入すれば基本的に個対個だ。
 黄金の位ともなると、単体で至高の強さを持たねばならない。
 誰にも寄りかからず、そのかわり弱い者全てを護る。

 サガは理想的な黄金聖闘士だった。


 それなのに。
 シュラは目の前でカノンの膝枕に眠る黒サガを見て溜息をついた。
 カノンが『何か文句でもあるか』と言う顔で、シュラに視線を向けてくる。

「どうやって手なづけたんですか」
「人の兄を野獣のように言うな。サガは昔からオレのものだ。それに、それはこっちの台詞なのだが。お前が居るのにサガが起きない。サガは他人の前で眠らなかったのに」

 カノンはカノンで不満があるようだ。

「13年間一緒でしたので」

 今度はカノンが溜息をつく。
『それでも胸が痛まないのは何故だろう』と二人は思う。
 サガの居場所が増えたことを知った二人は、この溜息にはどんな意味があるのだろうと考えた。


2008/1/19

◆氷の褥…(すれ違いロスサガ)

 夜が更けて、人馬宮にいとまを告げようとしたサガの手を、アイオロスが捕らえた。
「今日は泊まっていかないか」
 さりげなさを装っているものの、これはアイオロスにとってすら勇気の要る誘いだった。
 何故ならこの宮には寝台が1つしかない。
 誰かが泊まるとなれば、その寝台を共有するか、どちらかが1枚の毛布で床に転がることとなる。
 アイオロスは、サガを床に寝かせるつもりはなかった。勿論自分も。

 聖戦後にアイオロスは気づいた。過去においてあれほど仲がよいと思っていたサガが、自分の前では決して眠らなかったことを。
 それに気づいたのは、カノンやシュラたちと過ごすサガを知ってからだ。
 サガは彼らの前では休む、らしい。
 らしいというのは、それが伝聞でしかなく、自分は眠ったサガを見たことがないからだ。

 一緒に寝て欲しい。
 俺の傍でも安らいで欲しい。
 信頼して欲しい。

 それは祈るような問いかけだった。
 サガは少し考えるようなそぶりを見せてから「君さえよければ、私は構わない」と答えた。

 誰かと一緒に寝るのなんて、弟のアイオリアを寝かしつけたとき以来だとはしゃぐアイオロスを見て、サガも笑った。
(君になら寝首をかかれて殺されてもいい)
 サガがそう思っていたことを、アイオロスは知らなかった。

2008/1/20

おまけSSロス+黒サガ
 隣で眠っているサガの動く気配で、アイオロスもまた目を覚ました。
 そっと身体を起こして、サガを見る。
 彼の眼下でざわりとサガの気配が揺らいだかと思うと、その髪が徐々に黒く染まっていった。
 変化していく過程を目の当たりにするのは流石に初めてで、アイオロスは目を見開く。
「サガ?」
 完全に髪が黒くなった頃を見計らって、そっと声を掛けてみる。
 黒サガはまだ頭がはっきりしていないのか、面倒くさそうに視線をあげ、アイオロスに気づくと無言で固まった。
「…やあ」
 どう声をかけたものか悩み、少し間の抜けた挨拶を向けたものの、黒サガは黙ったままだ。
 怒り出すかと思ったら、何も言わぬまま背を向けて、布団を被りなおしている。
(猫のようだ)
 アイオロスは思った。それも失敗をしたときの猫だ。
 何かドジをやらかして固まった時の猫は、涼しい顔で失敗を誤魔化す。素知らぬ顔をしていれば、何も無かった事にできると思っているかのように。
(それでも、寝台に留まってはくれるのだな)
 蹴り出される覚悟はしていたなどと言ったら、サガは怒るだろうか。
 そんな事を考えていたら、見る間にサガの黒髪は薄まり、もとの色を取り戻していった。

 黒サガが逃げずに(一瞬だが)閨を共にしてくれたことを喜んでいたら、翌日シュラが『黒サガは寒がりなので冬の夜中はまず布団から出ない』と教えてくれて、複雑になったアイオロスだった。

2008/1/23

◆神の疵…(ヒュプノス+サガ+星矢)

「どうしてあの時、タナトスに加勢しなかったんだ?」

 双児宮で卓を囲むのは、宮の主であるサガと星矢、そしてヒュプノスという異色の組合せだ。
 聖域の深部へ他界の神が簡単に訪れるのは防衛上どうなのかという意見も多いのだが、最近は慣れてきたのか、黄金聖闘士クラスの同席と女神の事前許可さえあれば、まあ良いだろうという雰囲気になっている。
 中でも冥界の双子神やその属神眷属は、比較的人界へ足を運ぶほうだ。
 女神に冥界を破壊されたため、地上へ湧き出しやすいという理由もあるが。

 ヒュプノスは、瞳孔の定かでない金のまなざしで星矢を見た。
「短慮とはいえ神であるタナトスが人間一人を相手にするのに、私が手助けを?」
 柔らかい冷たさとでもいう声色で返された言葉に、星矢はアレ?という顔をする。
「人間を軽視しないとか言ってなかったっけ」
「私はな」
 そう話すヒュプノスの身体からは、常に金の小宇宙が揺らめいては沈んでいく。
 それは確かに人を甚だしく凌駕する力を秘めていた。
 横からサガが控えめに口を挟んだ。
「失礼とは思うが、私も伺いたい。貴方とタナトスは双子神であるという。半身の危機に手を出さなかったのは、タナトスの力を信じていたからだろうか」
 サガもまた同じ双子として、その関係は気になるところだった。
 そのあとを星矢が続ける。
「あ、やっぱ一対一の戦いには手を出さないとかそういう?」
 ヒュプノスは星矢とタナトスの戦いに手を出さなかったものの、神聖衣の出現に反応してその場に駆けつけたことは間違いない。
 星矢やサガのような聖闘士的感覚では、『死にそうな仲間を助けるのは当たり前』『しかし一対一の戦闘に横槍は入れない』という思考経路が自然だったので、ヒュプノスもまたそうなのだろうと予測したのだった。

 ヒュプノスは首を振り、どう説明したものか少し考えていた。
 それから変わらぬ語調でゆったりと答えた。
「神にとって、疵は僅かであれ致命的なものなのだ」
 星矢とサガは顔を見合わせる。
「だったら尚更助けが必要じゃん?てか全然そんな弱く見えないけど」
 単純に聞き返す星矢に比べると、サガはどこか納得の色を見せた。
「身体の疵ではなく、神を神たらしめる魂への疵が致命的であるということだろうか?」
 眠りの神は頷いて、テーブルの上に置かれている焼き菓子を指に摘む。
「人の性質が千差万別であるように、神の性質もまたそれぞれ異なる。それゆえ、どのような事柄が存在を脅かすのかもまた異なる。だが、共通するのは永劫の命…神には死によるリセットが許されていない」
 眠りの神が発した言葉の最後あたりで、サガは二人に気づかれぬほど僅かに目を伏せたが、直ぐに視線を戻して尋ねた。
「倒される屈辱よりも、たかが人を倒すのに他者の手を借りる事の方がタナトスの疵になるという事か」
「私はそう思っている。そして神は変わらぬゆえに、自身では1度受けた疵を治す手段がない。屈辱を無かった事に出来ぬ以上、それは永遠に刻まれる罰のようなもの」
「ええっと、つまり神様は死なないから、一度プライドが傷ついたら大変ってことか?」
 物凄く簡略化して理解した星矢は、神様って面倒くせーのなと呆れている。
「ハーデス様が僅かな傷でご自身の肉体を隠されたのも、元を辿ればそういう事なのだ」
 そもそも、神が人によって傷つく事自体がありえないし、許されない事なのだとヒュプノスは言う。
「それでは誰が神を癒すのだ」
 優しさを含んだサガの問いへ、またヒュプノスは考えこむ。

「我らを奉る人の愛…だろうか。それゆえタナトスにも人間を無碍にするなと常々諭しているのだが」

 それに気づかぬ限り、アレの回復には時間がかかろうなと事もなげにいう眠りの神を見て、サガと星矢は『神の兄弟感覚は良く判らん』という結論に達したのだった。


2008/2/5
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