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◆JUNK14

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆エラステース…(告白ロスと駄目サガ)

 談笑していたアイオロスが、突然黙り込んだと思ったら、私の目を真っ直ぐに見た。
「サガ、君が好きだ。ずっと好きだったんだ」
 その瞳は怖いくらい真剣で、冗談だろうと流しかけた言葉が止まる。
「今の俺は14歳で、大人のサガには不釣合いかもしれないけれど」
「い、いや、そんな事は無い」
 ロスはどう見ても14歳には見えないから。いや、問題はそんなことではなく。
「俺はね、昔からサガの全てが欲しいと思っていたよ。心も身体も」
「そっ…そうなのか」
 動揺のあまり頭が回らない。大人の威厳などどこへやら。
 私もロスが好きだ。しかし、ロスの言う意味はもう少し深い気がする。
 心も身体もって…ええ?身体もか!?
「えっ、ええと、つまりアイオロスは、私をエラステースとして選んだという事なのか」
 ギリシアには優れた成年男子が、少年を導く制度としての青少年愛があった。
 その際、成年側をエラステースと言い、愛される側をエローメノスという。
 神話の時代から続く聖域には、旧来のままの慣習が伝統としてなくはない。
「うーん、ちょっと違うけど、そういうのがサガ的に判りやすいのなら…」
 ちょっと違うだけで、やはりそうなのか。
「私にお前を抱けと言う事だな?」
「…は?」
「このサガ、お前に相応しい男ではない。そ、それに心の準備が」
「ちょっと待ったサガ、それは大分違う!!」
「違わない。私はかつて自分に負けてお前を殺した男で」
「否定部分そこじゃないから!」
「すまない、アイオロス。少し考えさせてくれっ」
「ちょ、サガ待って!」

 逃げたと言われても仕方が無いが、私は彼を振り切って双児宮に駆け込んだ。
 宮の周囲には迷宮を張り、誰も入ってくることが出来ないようにする。
 アイオロスは直接心話で声を届けようとしていた。しかし、その小宇宙も遮断した。
「はぁ…」
 頭を抱えるようにしてソファーに腰を下ろした私の前へ、タイミングよく珈琲が差し出されてきた。カノンだ。
「それを飲んで少し落ち着け」
 カノンは能面のような顔をしている。しかし双子である私には判った。これは、何かを隠そうとして無理に表情を抑えている顔だ。
「見ていたのか」
「そりゃ、宮の目の前で漫才繰り広げられたらな」
 …カノンは笑いを抑えているのだ。おかしくて悪かったな。
「わ、笑いたければ笑え」
「いいのかよ。じゃあ遠慮なく」
 言ったとたん、本当にカノンが腹を抱えて笑い出したので少し傷つく。
「はははっ、本当に兄さんは馬鹿だから好きだ…って睨むなよ」
「お前はヒトゴトだと思って!」
「いや、他人事じゃない」
「どういうことだ?」
 カノンは笑うのを止めて私の顔を見たが何も言わない。
 気になるが、今は弟のことよりもアイオロスだ。

「どうしたらいいだろう」
「サガ、お前はどうしたいんだ?」
「その…光栄だし嬉しいが…しかし…」
 私はロスと肌を合わせたいのだろうか。出来ない事は無いと思う。
 脳裏で想像してみる。私と彼が…
「うわああああああああ!」
 思わず叫んだ私に驚いてカノンが一歩引く。
「急に大声出すなよ!なんだよ一体!」
「ななな何でもない」
 あんまりリアルな図が頭に浮かんだので自分で驚いただけだ。
 赤くなった顔を片手で隠すように覆う。カノンが呆れたようにため息をついた。
「なあサガ、何も一足飛びに肉体関係を考えなくて良いんじゃないか?」
「え…」
「お前がエラステースってのなら、まずは奴を鍛え導くのが役割だろ」
「……」
「奴を殺して成長を遅らせた罪があると思うのなら、今のお前の持てる技量や知識を尽くして、あいつの力を伸ばしてやるのが義務ってものじゃないか?」
「……」
 そうだ。カノンの言うとおりだった。
 下賎な心配を優先させた自分が恥ずかしくなる。
 私のせいで14歳のまま蘇生されてきたアイオロスに、本来13年間の年月で培えるはずだった全てを教えるのは、最低限とるべき責任だ。
 自分などがアイオロスに選ばれるに足る人間だとは思わない。だが、それはそれとして、私は責務を果たさねばならない。

 迷いが抜けた気がして、顔を上げてカノンを見た。
「お前の言うとおりだ…修行以外で時間をつぶす暇などはないな!」
「ああ、そうだぜ。何せ奴は次期教皇となる男だし」
「ありがとう、カノン。お前に諭される日がこようとは…」
「まあ、出来るだけ厳しく鍛えてやれよ。アイツ、特に座学関連弱いようだし」
 カノンのほうが大人なのかもしれない。
 立派な事を言っているのに、何かニヤニヤしているのが多少気になるが。
 明日からはこの身も心もアイオロスの特訓のために捧げよう。

「さっそく、明日からのスケジュールを作ってみる」
 そう言ったら、何故かカノンにまた「兄さんは馬鹿だから好きだ」と笑われた。


2007/10/25 恋愛感情に耐性なさすぎな駄目サガのケース
◆転生封印…(聖衣で拘束されているサガバージョンその1)

 それは遠い神代のお話。

 聖域の最奥、アテナ神殿の祭壇の前で、ニケの杖を片手に立つ女神は目の前に横たわる美しい青年を見下ろしていた。その胸元には小さな黄金の短剣が置かれている。
 それは神殺しの力を持つ魔物アーレスの象徴であり、力の源。
「ようやく貴方を捕まえました」
 アテナは呟く。
 地上において同じ「戦い」を司りながら、理性と秩序でそれを実現する女神アテナと、狂気と混乱に拠る魔物アーレスは衝突する事が多く、幾度も激しい戦闘が繰り返されていた。
 この代においてようやく女神がアーレスを制し、魂をその神具に封じ込めたのだ。

 普段のアーレスは、その本性にまるで似つかわしくない穏やかな青年の姿を見せる。
 慈愛に満ちた貌は、争いごとになどまるで興味がないかのようだ。
 そんな時のアーレスは、女神とも穏やかに言葉を交わした。
 女神は彼が嫌いではなかった。

 だが、戦場においてその姿は一変する。
 艶やかな銀髪は漆黒へと変わり、目には飢えた血の色が浮かぶ。
 神格とそれに相反する深淵を併せ持つ、純粋なる古代の力。
 自身にすら制御できぬその二面性と、力への渇望が彼の本質だった。
 狂気は時に暴走し、アーレス自身をも傷つける。
 それを憂いたアテナは、彼を人として転生させることに決めた。
 彼の魔性を長い年月で削り、光へと変えるために。

 女神は双子座の聖闘士を呼んだ。膝をついてかしこまる青年へ、女神は屈みこんで目線を合わせる。
「お願いがあるのだけれど」
「は、何なりと」
「貴方に彼を預けます。ついでに聖衣を彼に貸してあげてもらえないかしら」
 青年は驚いたように女神を見つめ返した。
「俺…いや、私だけでアレを抑えろと言うのですか」
「双子座の善悪を制御する力を使い、宿星に働きかけて彼の本質を封じます。貴方には不安定になるであろう彼のフォローをして欲しいの」
「フォローといっても、何をして良いのか…」
 戸惑っている双子座の聖闘士へ女神は悪戯っぽい目を向ける。女神はこの双子座聖衣の主がことのほかアーレスを気に入っているのを知っていた。繰り返す転生のたびに双子座はアーレスを追い、戦う事を望んだ。彼とアーレスは、双子座が光と同様に闇へ惹かれる性質があることを除いても、どこか強く引き合うところがあった。
「やり方は貴方に任せるわ。とりあえず、彼に名前を付けてあげて?」
 青年は今度こそ驚いた。魔物から名を取り上げて新しい名を与える事は、彼を作り変え支配することに等しい。そんな事が可能なのだろうか。
 それに、魔物とはいえアーレスの力は神にも等しいのだ。
 聖衣で彼を拘束しきれるか不安でもある。

 そんな彼の心を読んだかのように、女神はニコリと笑った。
「射手座にも手伝わせますから」
 邪悪を射抜く力を持つ射手座の性格からして、たとえ魔物であっても、こんな風に相手の意思を無視して心を縛る事を好まないのではないかと青年は思ったが、女神には女神のお考えがあるのだろうと言葉を控えた。

 青年は立ち上がって横たわる魔物のそばに近寄った。
 聖衣に命ずると、それは勝手に体から外れて魔物の身体を覆う。聖衣を通して女神の小宇宙が魔物を浸していく。
「サガ」
 名付けに反応するように、魔物がぼんやりと目を開けた。
 その透き通った蒼い瞳の色を、双子座の青年…カノンは決して忘れないだろうと思った。


2007/11/1 拍手コメントでM様より頂いたネタより!「サガは黄金聖衣でもって拘束してある人だといいな(略)」に激しく萌えつつ同意です。そんなわけで強引にM様に押し付けた小話です。

◆楽土…(記憶喪失黒サガネタ)

 一度アテナの盾で浄化された黒サガは、復活後に記憶を持っていなかった。
 記憶を持たぬがゆえに敗者となった過去も持たず、あの傲慢な気性のまま、いつ再び女神に牙を剥くやもしれないということで、彼は鎖に繋がれた軟禁生活を送ることになった。
 尤もそれは表向きの理由で、実質は黒の双子座を隠し守護する措置だったのだが。

 黒サガがそれを拘束と捉えなかった事は幸いかもしれない。
 ある意味生まれたばかりの赤子と同じほどの判断力しか持たぬ彼は、己の置かれた状態を理解出来なかったのだ。
 足枷から伸ばされた鎖は、女神が封印で固めた部屋の中を歩き回るのに充分な長さがあったし、黒サガは外の世界に興味を持たなかった。静かに横たわれるだけの空間があれば、彼は満足だった。

 あるとき、黒サガの世界へいつもの世話係ではない人間が入ってきた。
 手に持つトレイの上に簡単な食事を乗せている。
 その姿は黄金の鎧に包まれて光り、背には翼が広げられていた。
 随分と派手な人間だと思いながら、黒サガはその男からの食事を受け取る。
 その途端、その人間はくしゃりと顔を歪めた。

「拒絶しないんだね」

 黒サガにとって、食事はそれほど重要な位置を占めるものではないが、与えられた食事を拒む意味も判らない。不思議そうな顔をして見返すと、その男は静かに涙を零した。

「ごめん」

 何に対して謝られているのかも理解できないまま、いつの間にか黒サガは射手座のアイオロスに抱きしめられていた。


2007/11/2
◆二人の射手座…(誕生日の近い星矢とロスそしてサガ)

「サガ!」
 星矢が元気よく双児宮へ飛び込んでくる。
 紅茶を飲んでいたサガは、ゆったりとした動作でカップをテーブルへと置いた。
「どうしたのだ、星矢?」
 年の離れた後輩へ穏やかなまなざしを向けると、星矢は子犬のようにサガの元へと駆け寄ってきた。
「12月1日は俺の誕生日なんだ」
「ああ、知っているよ」
 サガは正規の聖闘士の出身地や経歴その他を全て把握していた。聖闘士の修行に来る者たちは幼い頃から身寄りの無い者も多いため、正確な誕生日を知らぬことも珍しくはない。そんな中で生まれ日の判明している幸福な一群について、人間演算機なサガが失念するわけがなかった。
 星矢がニコニコと続ける。
「俺、誕生日は最初にサガの顔をみたいんだけど」
 さらりと凄いことを言ってのけるこの性格は、確実に城戸光政の血を引いていることを思わせる。
 サガが返事をする前に、横から穏やかな声が割って入った。アイオロスだ。
「夜中に来るのはいいが、多分私も一緒だぞ」
 双児宮でサガと共にティータイムを楽しんでいたアイオロスを見て、星矢は改めて挨拶をする。
「アイオロスもこんちは。そうなの?アイオロスが何で夜中にサガと一緒にいるんだ?」
 サガも首をかしげて隣のアイオロスを見る。
「私もそれは初耳だが。お前は自分の誕生日のあとに此処へ居座るつもりか?」
「ああ」
「『ああ』ではなかろう。そういうことは家主の私に許可をとってから言え」
「サガに事前許可を求めると、いろいろ申請が下りなさそうだし」
 言ってから、チュとサガの頬に口付ける。
「こういうのだって、事前に聞いたら許可してくれないだろう?」
 サガが笑顔をひきつらせたまま固まった。
 星矢も目を丸くしていたが、子供のたくましさと鈍感さでアイオロスのけん制を受け流す。
「そっか、アイオロスも誕生日が近いもんな!きっと沙織さんが誕生会の準備をしてくれるだろうし、一緒に祝おうよ」
「ああ、そうだな」
「アイオロスの誕生日の31日は譲るけど、翌日の1日は俺もサガとデートしたい!」
「簡単にいうなあお前は」
 まだ深い意味を持たずに主張する少年に対して、アイオロスは苦笑しながらも大人の余裕を見せる。

 だが、そんな余裕も、硬直していたサガが復活してアイオロスの頬をつねるまでのわずかな時間のことなのだった。


2007/11/12
◆腐肉…(ロストキャンバス・ナスが女性だったら妄想SS)

「ま、ざっとこんなモンだろ」

 キャンサーのマニゴルドは、冥闘士の死体から浮かび上がった魔星の燐光を見て呟いた。タナトスの加護を受けた地上の死の森では、ベロニカは何度肉体を破壊されても蘇ったが、積尸気冥界波によって魂だけ飛ばされた世界では、復活の手段を持たなかったようだ。
 ベロニカの魂もこの後は魔星封じの数珠に吸い取られていくのだろう。
「よく頑張ってたが、不死身のオカマも、冥界ではあっけなかったな」
 敗北と共に腐り落ちた冥闘士の身体を足先で蹴る。浮かぶ燐光から抗議の声が上がった。

『失礼ね…私はオカマではないわ』

 ぎょ、とマニゴルドが顔をあげる。燐光はふわふわと囁いた。

『私はこれでも修道女をしていたのよ。聞かせてあげたオルガンの音色はなかなかのものだったでしょう?平和につつましく暮らしていたのに、ある日突然戦火に巻き込まれて、匿った兵士達に乱暴されて私は死んだ。死んだ私の身体はぐずぐずに腐り、その身体から可愛い配下…蠅たちが生まれた。私の身体から生まれたのだから、あの子達は私の子供のようなものよね。私は生きた人間が嫌い。私は腐ったけれど、生きているあいつらのほうが汚いもの。そのうち私は冥府で自分が冥闘士であることを知った。冥衣を纏ったら身体がこうなっていたわ。多分、戦闘に向いた男性の身体に作り変えられたのでしょうね。タナトス様が、その美しい顔はそのままにっておっしゃってくれたから、私は何の不満もない。ああ、でも世界の全てを腐らせる事が出来なかったのは心残り…』

 言いたいことだけ発すると、ベロニカはそのまま消えた。
「性根まで腐らせちゃ、折角の綺麗な顔も台無しだぜ」
 死者の嘆きなど聞きなれているマニゴルドは、肩を竦めて聞き流しただけだった。

2007/11/24 
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