JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆頼れ…(風邪ひきカノン)
コホ…と喉から掠れた息が洩れて、カノンは自分が風邪を引き始めていることに気がついた。
聖域と海界、二束のわらじを履いての聖戦後処理は、黄金聖闘士の体力をもってしても、流石にオーバーペースだったのかもしれない。季節は冬へ近づき、ギリシアの乾燥した空気が肌寒い。どこかでウイルスを拾ってきたのだろう。
カノンは自分の健康管理の不備を反省しながらも、まず今日からの宿をどこにすべきか頭を働かせた。
復興で忙しい聖域や海界へこのウイルスを持ち込んで、広めるわけにはいかない。特にサガに感染させるわけにはいかない。
双子座はスペアのあることが強みの聖闘士だ。
聖域に来てからのカノンとサガは、どちらかが風邪を引くと、病んだ片方が隔離された。二人で寝込んでしまっては、一人の存在を隠してまでスペアとした意味が無いからだ。
必ずどちらかは戦場に立てるように…それが双子座の取り決めだった。
健康なもう一人まで感染しそうになったときは、病に伏せる方が小宇宙を渡してそれを防ぐ。当然、片方の病による苦痛は深くなったが、相手と共倒れになるよりはマシだ。
聖衣を継いだ後も、その習慣は当人達によって続けられた。
宿の当てなど無かったので、ラダマンティスの処へでも押しかけるかとカノンは考えかけて止めた。冥界ではウイルス感染などないかもしれないが、復興に関して一番忙しいのは、界自体が一度破壊された冥界の気がする。
それに、そこまであの男に甘えてよいものかどうかも判らなかったので。
「その辺の廃屋でいいか」
カノンは無難な線で妥協した。昔はよくそうしていた。
寝台は朽ちた長椅子、または床。薄汚いカーテンでもあればシーツ代わりに被って、寒さを防ぐ。あとはひたすら体力の回復を待ち、わずかな小宇宙で治癒に専念する。食事は摂らない。
そんな野の獣みたいな休息でも、一週間もあれば殆どの病気は治った。
サガも病の折には姿を隠し、決して気配を感じさせなかったので、似たような過ごし方をしていたのだろうとカノンは思う。
二人にとって、それは当たり前のことだったのだ。
熱が上がってきたのを感じ、カノンは海辺の小屋へと飛んだ。
夏の間だけ使われているらしい漁師小屋は、潮風が板間から吹き込んだ。
それでも野宿よりは全くマシだった。
ごろりと板敷きの床に転がり、カノンはそのまま直ぐに目を閉ざした。さっさと治して仕事へ戻るためだ。
単なる風邪であれば、二日もあれば治るだろう。
微量の小宇宙で身体を覆う。気配を消す。あとは寝るだけ。
熱でぼんやりしだした思考の中で、カノンは久しぶりの無断外泊だなと考えた。
なのに、目を覚ましたら彼は暖かい布団の中にいた。
見覚えのある部屋、そこは双児宮だった。
直ぐ隣にはカノンと同じ顔をした兄が、少し怒ったような顔をして見下ろしている。
どうして、と問おうとした唇はサガの指先で押さえられる。
「まだ喉が痛むはずだ。黙って寝ていなさい」
サガはテーブルにおかれた水盥で布を絞りカノンの頭へと置いた。
冷えた柔らかさが、優しく熱を吸い取る。
カノンは目線だけで、何故だとまた問うた。
サガは視線をそらして呟いた。
「…これが当たり前の在り方だろう」
カノンの目がぱちりと瞬く。サガが双子座のしきたりを破るとは思わなかった。
その感想へ答えるかのように、サガは苦笑した。
「お前が伏せる間、私は絶対に何にも負けない。だから、安心して休め」
病にも倒れぬとサガは言う。
無敵を宣言されて、カノンは初めてこの兄を頼っても良いのかもしれないと思った。
2007/12/16
◆操縦方法…(双子+ロス)
「夢は見るものではなく叶えるものだと言うではないか!」
「ほぉ、それが眠っている私の夢を勝手に幻朧拳で弄ろうとした言訳か」
朝から壁際に追い詰められているのがカノン、その目の前で物騒な笑みを浮かべ、腕を組んでいるのが黒サガだ。
「私に風呂掃除をする夢を見せようなどとは、随分と良い度胸をしているな、カノン」
「お前が掃除当番を毎回サボるからだろ!やれと言っても聞かないし!」
双児宮の広い風呂は、広いわりに二名しか使用しないので、それほど汚れはしない。それでも掃除をするのはなかなか手間がかかる。
黒サガが毎回うまく掃除当番から逃げるため、風呂を綺麗にしているのは現在カノンである。
昔は逆で、カノンが当番ごとから逃亡しては、サガがその後始末やフォローをする羽目になっていた。そんな過去を多少すまなく思うからこそ、カノンも黒サガの行動を我慢しているのだが、風呂に関してだけは兄の方が使用頻度が高い。カノンの不満は当然だった。
(にもかかわらず、小言を言う側の筈のオレが、壁際に追い詰められているのは何故だ)
答え。黒サガに常識は通用しない。
自問自答して導かれた回答に、カノンはくじけそうになった。
「はは、朝から仲がいいな」
突如、横合いから声がかかり、カノンはぎょっとした。アイオロスの声だ。
「貴様、いつからそこに」
黒サガも驚いた顔をしている。迷宮を張っていなかったとはいえ、双児宮へ気づかれず入り込むことの出来る技量は、さすが英雄というべきか。
アイオロスは殺気立つ黒サガへニコニコ手を振りつつ、カノンに言う。
「バカだなあ。サガは綺麗好きだから、カノンが風呂掃除しないで放っておけば、嫌でも自分でするようになるよ」
「……あ」
カノンが手をポンと打つ。余計な事を言うなと黒サガが噛み付いた。
だが、アイオロスはどこ吹く風だ。
「いいじゃん、俺も掃除を手伝うからさ」
「貴様が私を、手伝う?」
「掃除終わったら、一緒に風呂で汗を流そうよ」
「…後半は断る」
「手伝うだけならOKなんだ?」
以前の兄であれば、前半も断っていただろうとカノンは思った。
非常識に対抗するには、こちらも常識に拘っていてはいけないのかもしれない。
なんだか仲良く見えないこともない黒サガとアイオロスを見ながら、カノンは自分もサガには強気で行こうと決意した。
2007/12/20
◆紛らわしい…(サガ+ロス)
「カノンがすごく好きなんだ」
唐突にそんなことを言い出したサガに、アイオロスは『やはり』と思いながら僅かな寂しさを覚えた。
それでも、多少の虚勢とサガの幸福を願う心から笑顔で返す。
「ああ、知っている」
しかし、全力で笑顔を作ったというのに、サガの返事はアイオロスの予想とは全く違うものだった。
「私もあの店のパンの食感が好きでね…だが、なぜ君がカノンの好物を知っているのだ?」
きょとんと返すサガの顔を見て、自分の勘違いを悟りつつも脱力する。
「食べ物の話なのか!?まぎらわしい!」
「何を言っているのだロス」
アイオロスの安堵を他所に、サガの目つきが微妙に冷たくなった。
「カノンに詳しいのだな…」
最愛の弟に手を出すなというけん制なのか、はたまた妬かれたのか、多少は後者であって欲しいと遠い目になるアイオロスだった。
2007/12/27
◆天然チーム…(ロスサガ)
黄金聖闘士のなかでも最年長である二人…アイオロスとサガが闘技場に現れたことに気づいて、その場にいた修行者たちはざわめいた。
二人は場の雰囲気を読み取りながらも、互いの会話に熱中しているようだ。
「う〜ん、修行中に邪魔をしてしまったろうか」
「黄金聖闘士が突然二人も来ては彼らも驚くだろう」
「実戦ではいつ敵と対峙するか判らないんだけどな。そんな集中力でどうする」
「責めてやるな。彼らも英雄であるお前に会えて嬉しいのだろう」
「それにしても随分と動きが鈍っているようだが」
「こちらが気になるようだな。確かに修行が足りぬかもしれん」
二人のいうとおり、雑兵一同は気になって修行どころではなかった。
(なんでずっと手を繋ぎ合ったままなんだあの二人は!!)
2007/12/29