JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆真言…(ちょと黒×カノン?)
「お前は、誰だ」
カノンは目の前にいるサガの顔をした黒髪の男を睨んだ。
カノンの兄と同じ顔でありながら、その兄とはまったく異なる表情をした男は、カノンの問いに薄く微笑む。
「私を喚んだお前がそれを言うのか?」
指先がカノンの頬へ伸ばされる。輪郭をなぞるように優しくゆっくりと動いていく。
何か大切なものを扱うかのように。
しかしそれは表面上だけだとカノンは思った。
獲物を物色するような剣呑さと愉悦が赤い邪眼に浮かんでいる。
手を払いのけようとして、だがカノンは動けなかった。
男はなおもカノンへと近づくと、息が感じられるほどの距離にまで顔を寄せる。
「お前は、このサガに自分と同じものであって欲しいと願った」
サガも、悪を好む自分と同じ場所に。
せっかく神から授かった力を、自分だけで好きなように楽しむのもつまらない。
聖人面した兄もつまらない。
二人で好きなように生きることが出来たら。
そうしてカノンは常にサガへ悪を吹き込んできた。
だが、このサガは本当に自分の願ったサガだろうか。
「お前が私を望んだのだ。だから…」
頬を撫でていた手が首元へ下りていく。カノンの首筋をするりと滑り落ちたその手は、柔らかく喉を掴むようにそえられた。
カノンには相手が蛇のように感じられてならなかった。じっさい、この黒髪の男の気まぐれで、いつでもその指は牙となって喉を食い破るだろう。
それでも、カノンの力を持ってすれば反撃も可能なはず、だった。
「だから、今度は私がお前を望んでも良いだろう?」
唇を軽く啄ばまれる。
ああ、駄目だ。とカノンは眼を閉ざした。
「サガ」
カノンはとうとうその男を兄の名で呼んだ。
2007/7/3
◆両側から…(ロスサガでカノサガ)
「くそ、地上は暑い…」
ぐったりしているカノンを尻目に、射手座は涼しい顔だ。
「そうか?ギリシアの夏はこんなものだろう。暑い方がやる気が出るよ」
「お前は頭の中身も元気だな」
「カノン、君こそ暑いと言いつつその長髪を切ろうとしないじゃないか」
「サガが切らないからだ」
「そういえばサガは夏でも暑苦しい法衣で涼しい顔をしてるよね」
二人の視線が丁度部屋へ入ってきたサガへ向けられる。
サガは親友と弟の目の前へカキ氷を置くと首をかしげた。
「カミュほどには至らずとも、小宇宙で原子運動の速度を落とし、数℃体感温度を下げるくらいならお前達にも可能だろう」
「ああ、なるほど!早速やってみるよ」
ものは試しとアイオロスが小宇宙を燃やし始める。
だが暫くして、サガもカノンも微妙な顔をし始めた。
「…冷却ではなく燃焼していないか?」
「おいおい、カキ氷が溶けてきたぞ」
慌ててカノンが自分の分のカキ氷を口にかきこんでいる。
アイオロスは首を捻りながらも小宇宙をおさめた。
「うーん、どうもコツが掴めん。サガが冷やした空間にくっついていた方が早そうだ」
「私も自分の周囲わずかほどしか冷やせないが…」
「問題ない」
言うなり、アイオロスは立っていたサガを自分の膝上に引っ張り込んだ。身体全体でぎゅうっとそのまま抱きしめる。見た目には暑苦しい事この上ないが、確かにサガの周囲は若干冷えていたので、彼は遠慮なく顔を擦り付けた。
サガが慌てて抗議する。
「こら、ロス!私は冷房代わりか!」
「ああ、肌が冷たくて気持ちいいね」
「変なところに触るな、くすぐったい」
…ゴゴゴゴゴ
車田的効果音および暗雲とともに、急激に室温が下がった。
環境の変化に敏感な黄金聖闘士二名(射手座および双子座の兄)が冷気の発生源の方を見ると、カノンが冷蔵庫並みに冷気を発生させている。沸いた暗雲から今にも雷雨が発生しそうな勢いだ。
「うわあ、凄いね。それ海龍の能力?」
原因であるアイオロスがサガを抱きしめたままのん気に感心している。
「サガ、オレの傍に居た方が涼しいぞ」
剣呑な顔をしたカノンがサガに近づくと片側から身体を奪いとった。
アイオロスも腕を放さないので、サガは両側から挟まれる格好となる。
「ありがとうカノン。涼しいが…何故か空気が重くなったように感じるのは何故だろう」
鈍感なサガは事態が判っていなかった。
「こうして愛する者に囲まれて過ごせるのも、昔の私の罪を思えば過ぎた僥倖だな」
けれどサガが更にこんな言葉を続けて、その顔が本当に幸せそうだったものだから、アイオロスもカノンも張り合いは止めて、双方からサガに寄りかかる。
サガがそのままシェスタに入った後、小声でアイオロスは親友の弟に囁いた。
「両方がお母さんでもいいよね」
「どんな越前裁きだよ」
肩をすくめながら、二人もまた暖かな眠りに落ちる。
2007/7/11 カノンが海龍ならではの特殊能力を持っていたりしたら美味しいなあというお話
◆セブンセンシズも六感も極めてます…(サガの噂)
星矢「えっ、サガってあれで味覚も極めてるのか?」
カノン「…味覚センスと味覚の鋭敏さとは別物なのだ」
ロス「でも、サガは飲用温泉水の産地当てクイズとか得意だぞ」
デス「そいつぁ、味の良し悪しじゃなくて成分で判別してるんだ」
カノン「味覚音痴というわけじゃあないんだがな」
ロス「料理に挑むと独特な完成形態になるだけだよね」
星矢「意外と日常生活では不器用なんだよなあ」
2007/7/13
◆八識…(ラダカノ+黒)
ラダマンティスが双児宮の居住エリアでカノンと寛いでいると、サガが入ってきた。
それだけならいつもの事なのだが、今日のサガは髪の色が黒い。
黒サガの傲岸不遜な見下し口調と雰囲気は、微妙にハーデスがアンドロメダに降臨したときの状態に似ているので、ラダマンティスはほんの少し彼が苦手だった(もっともラダマンティスは『ハーデス様の方が千倍優美で気品がある』とも思っていたが)
「貴様に尋ねたいことがある」
黒サガは部屋に足を踏み入れるなり、命令口調でラダマンティスに声をかけた。黒サガにとってその口調は悪気があっての事ではなく、単にそれが自然体なのだろう。
(この物言い…ハーデス様とパンドラ様とミーノスとカノンを混ぜて図々しくした感じか?)
そう考えてみると、全員ラダマンティスにとって頭の上がらない相手だ。
それに気づいて彼はやや遠い目になりつつも、義兄予定者に釘をさす。
「”貴様”ではなくラダマンティスだ」
「そのような事はどうでもよい。貴様なら冥府の地理に詳しかろう」
「まあ、多少は。だが聖域の人間に教えられる内容は限られている」
「冥府の地底温泉情報があれば提供しろ」
「………」
いっそう遠い目になったラダマンティスを尻目に、隣で話を聞いていたカノンが身を乗り出して会話に参加してきた。サガの風呂好きに隠れて目立たないが、カノンも海龍の業を持つだけあって水の携わるリラクゼーションを好むところがある。
「おいラダ。温泉があるのならオレも行ってみたいぞ。一緒に行かないか」
「翼竜、温泉であっても、血の池や煮えたタール池は除外しろ」
「それが聖戦後に復興した冥府には、女神の意向で死者を拷問するエリアは無いって話だぜ、サガ」
「そうなのか、つまらん」
「温泉施設なんぞないだろうから、基本的に露天風呂ってことになるのか?」
珍しく普通の兄弟のように盛り上がっている双子だった。
しかし、ふと隣で黙っているラダマンティスの様子に顔を見合わせた。
カノンが心配そうに声をかけてくる。
「すまん、ラダはひょっとして地底温泉は無理か…?」
黒サガの方は遠慮のない物言いで嘲笑してきた。
「そういえば冥闘士は冥衣の力により死界での滞在を可能とするそうだな。ということは、冥府でそれを脱ぎ捨て温泉に浸かる事など不可能なのであろう。冥衣に依存せねばならぬ冥闘士とは不便なものよ」
悔しい事に黒サガの言うとおりで、ラダマンティスは聖闘士のように小宇宙の修行などしたことはない。
三巨頭ランクともなれば、気の扱い方など黄金聖闘士に引けを取らぬと自負はしているものの、エイトセンシズとなると試す機会もなかったし、冥府で試して失敗するということは死と同義であるから、独学で気軽に挑戦出来る物でもないのだ。
しかしここで引いては冥闘士の名誉にも関わる。
「くっ、カノンと温泉に入るためであれば、エイトセンシズなど直ぐに目覚めてみせる!」
ラダマンティスの宣言に今度は黒サガが遠い目になった。
「貴様が拘るのはそちらなのか」
カノンはと言えばそれなりにラダマンティスの言葉で感動したらしく、翼竜の手を握りしめ、目をキラキラさせている。
「よし、そうとなれば早速特訓だ。ラダなら直ぐ小宇宙の扱い方くらいマスター出来るぞ」
どうも本気のようだ。
「それは嬉しいが、敵陣の人間を八識に導いてよいのか」
「黄金聖闘士は全員八識まで目覚めてるから、ラダも目覚めてやっと平等ってところだろ」
「うっ…」
そう、実は冥府が戦場になった場合、冥闘士は圧倒的に不利なのだった。
八識に目覚めた聖闘士は、聖衣を破損されたり脱ぎ捨てる必要に迫られても、冥府でカノンがしたように小宇宙の燃焼によって敵と戦う事が出来る。
しかし、死界での冥闘士はサープリスを破壊されたら終わりだ。
カノンはニヤリと笑う。
「ま、お前が敵に回ったときにはオレが真っ先に叩き潰しに行くからさ」
「カノン…」
「そういうわけで、びしびしオレとサガが鍛えるからそのつもりでいろ」
「なに!?お前だけではないのか?」
「サガの方が他人に教えるのは上手いのだ」
勝手に師匠役に混ぜられた黒サガは、目をぱちりと瞬かせている。
しかし、すぐにこちらも物騒な笑みを浮かべた。
「一週間以内に温泉に行くつもりでいるゆえ、死ぬ気で覚えろ」
「ラダなら三日でいいんじゃないか?」
温泉のために彼は命の極限に迫る修行を強要させられることになった。
修行の褒美が自身のパワーアップとカノンとの温泉旅行と思えば悪くないが、この双子たちにますます頭があがらなくなりそうだと、ラダマンティスは内心こっそり溜息をついた。
2007/7/22
◆歓酒…(アフロディーテ+サガ)
「花に嵐のたとえもあるぞ」
双魚宮での酒の席で、ふとアフロディーテがサガへ微笑んだ。
「最初に貴方からこの言葉を聞いたとき、私は『儚く弱い花であっても、その美しさの内に嵐を秘めていることがある』…そういう意味だと思いました」
そう言いながらサガの杯へ酒を注ぎ足す。サガが手にする小さな金杯は、酒とともに童虎が双魚宮へ持ってきたものだ。その童虎は酔ったシオンといつの間にか席をはずしている。
いま、サガとアフロディーテは二人だけで夜薔薇を肴に杯を重ねていた。
静かな空間に、ときおり甘やかな花の香が風に乗って流れてくる。
「イブセマスジの訳で教えたからね…花発多風雨といえば間違えないだろう?」
「花が咲くと風雨が散らしていくという意味ですね。人生とはそのようなものかもしれないが、私は散らされるだけの花は嫌でした」
きっぱりと言う美しい後輩を見て、サガは微笑みを返す。
「君は花であり嵐でもあるように見える」
「毒の間違いでしょう。それにサガ、言わせていただければ貴方こそ花に見えますが」
「どのようなところが?」
「蜜も色も香もあり…そうですね、ただ散るばかりではなく実を残すところが」
「買いかぶりだ」
受けた杯を、サガはくいと飲み干した。
そして今度はアフロディーテの杯へ酒を注ぐべく古酒の瓶を手にする。
「『どうぞなみなみ注がせておくれ』」
芝居がかった台詞で酒を勧められた双魚宮の主も、笑んで杯を空にする。
「『さよならだけが人生だ』」
アフロディーテは合わせたが、こう付け足す事も忘れなかった。
「でも、私は貴方という友と別れるつもりはサラサラありませんからね」
2007/7/26
2009/7/26追記…SSで井伏鱒二訳とした「勸酒」ですが、どうも井伏訳前に潜魚庵という方の訳された「臼挽歌」というタネ本があるようですね(^^;)私は物知らずで、唐詩選をそのまま井伏氏が直接訳したものだと思っていたのですが、井伏氏がそもそも「父の翻訳詩をノートから発見したのでアレンジした」「”さよならだけが人生だ”部分は林芙美子さんの”人生は左様ならだけね”という台詞からインスパイアした」(両大意)のように書いておられるので、名訳というよりは名アレンジだったわけです。…という事を私は高島俊男著「お言葉ですが7」で知ったのですが、猪瀬直樹評論や松下緑著本などでも詳しいようです。
経緯がどうあれ素敵な詩であることに変わりは無いのですが『井伏鱒二訳』と書くのは正確ではないのではないかと思い、追記とさせて頂きました。