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◆JUNK10

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆ゼオライマー…(冥王計画ゼオライマーパロ)

 私はごく平凡な高校生だった。どこにでもある普通の生活をただ静かに送っていたにすぎない。
 ところが、突然現れた聖域の使者とやらは、その日常をことごとく破壊したのだった。


「迎えに来たぜ、サガ」
 初対面の場で私と同じ顔を持つ男はそう言ったが、あれは出迎えではなくて拉致だ。
 カノンと呼ばれるその男とシオンは、私の意思など関係なくここへ攫ってきたのだから。

 ただでさえワケが判らないのに、ジェミニの継承者であるとかなんとか言われ、鎧のような聖衣と呼ばれるモノを身にまとって戦うことを強制してくる。兵器として人を殺せなどと言われて反発しないわけがない。
 聞けば、私はかつて聖域に敵対していた軍神アーレスのクローンであり、双子座の聖衣を制御できる遺伝子を持つ人間だという。そのために生まれてからこのかた、ずっと聖域の監視下に置かれていたというのだ。馬鹿馬鹿しい。

 戦うことなど好まなかったが、そう伝えるとスニオン岬に閉じ込められた。
 戦意を高めるためだ。
 聖域でも穏健派のアイオロスという将校は人道に反すると抗議してくれたが、黄金聖闘士であるとはいえ組織の歯車でしかない彼の意見は握りつぶされた。
 私はスニオン岬で幾度も死線をさまよいながら、聖域のシステムと戦い方を叩き込まれていった。

 聖域には世界を掌握せんとするための十二体の黄金聖衣が存在するという。
 その聖衣の中でも天の称号を持ち、最強を誇るのが双子座聖衣だ。
 双子座聖衣はカノンの身体にセットされた次元連結(アナザーディメンション)ユニットを通じ、別次元から無限のエネルギーを供給される。そのため、この聖衣はカノンと私の二人が揃わないと本来の力を発揮しない。
 しかし、その力を自由に扱えるようになれば無敵であるともいえた。
 ジェミニを支配する者は世界の頂点に立つことが可能となるだろう。
 聖域は私を洗脳して他界を制し、都合の良い駒として扱おうとしたのだ。

 しかし、まだ聖域は知らなかった。
 ジェミニには恐るべきプロジェクトがプログラムされていることを。
 それは双子座聖衣を纏うものを冥王とせんとする、冥王計画であった。


(自分が自分でなくなる気がする…)

 聖衣性能のサンプリングをとる為に追いやられた戦場で、私は慄いた。
 この高揚は戦意を人為的に高められたせいだけではない。とにかく目の前にいる敵を血の海に沈めるのが楽しくて仕方がないのだ。
 聖衣を通じて、カノンからエネルギーが溢れんばかりに伝わってくる。
 弟と自分が重なる一体感に、高揚を超えて恍惚となる。
「サガ…?」
 その様子を心配したアイオロスが声をかけてきたが無視して、現れた敵を一閃した。
 余波で逃げ遅れた市民が吹き飛んだが気にしない。
 敵が雑魚に気をとられて動きを鈍らせれば好都合というもの。
「ククク…アハハハハ!!」
 楽しかった。聖衣を着るのは初めてだが、確かに自分はこれを装着したことがある。
 戦場にいる全ての存在が動きを止めるまで殺戮を堪能し、ものはついでと敵基地の病棟を破壊しようと手を振りかざしたとき、その手首をアイオロスが掴んだ。
「もうやめるんだ。君は誰だ…サガではないな」
 眉をひそめた射手座の男へ、私は口元を歪めて答えた。

「ああ、私はアーレス。お前たちは私を必要としたのだろう?」

 そう、すべてはアーレス…私が仕組んだこと。
 十二体の黄金聖衣を作成したのは、サガのオリジナルであるこの私。
 私は最強の聖衣を自分とカノンしか扱えないようにブラックボックス化した。
 そして、自分達が殺された場合に備えてクローンを作り、分身が洗脳行為を受けた場合でも聖衣をまとえば本来の記憶と人格が再インストールされるようにプログラムを組んだのだ。

「サガを返せ」
 手首を掴んだまま睨むアイオロスを、私は鼻で笑った。
「アレは私だ…いいや、アレだけではない。お前達もまた私で作られている」
「何だと!?」
 警戒心をあらわにしている射手座の手を、あえて振り払わずそのままにさせた。
 笑ったまま教えてやる。
「黄金聖衣を着用できる人間…黄金聖闘士は全て私の遺伝子で作った。冥界や海界にも私の遺伝子を撒いてある。たとえ戦いがあってサガが死に、誰が残ろうとそれもまたおそらく私だろう。世界の覇権は私が握る。聖域は私を利用しようとしたが、結局最後に笑うのは私なのだ」
 アイオロスは流石に驚いたようで息を呑んだ。
「聖域としては私とカノンのクローンを記憶再構築前に手に入れて調教すれば、どうにでもなると踏んでいたのだろうな…その事が私を復活させるとも知らず」

 サガをほおって置けば、私は眠ったままだった。
 私を目覚めさせたのは聖域の自業自得。
 だから、私は聖域を滅ぼすことに後ろめたさなど覚えない。

「サガは、どうなる」
 ギリ、と掴む手に力がこめられた。こうなってもこの男はまだサガの事が気になるらしい。
「私がサガだ」
 もう一人の私のようにニコリと笑うと、彼は視線を反らせた。
 アイオロスは嫌いではない。
「今の私は機嫌が良い。お前が望むならば、聖域の目論見どおり、黄金聖闘士として他界を制圧してやっても良いが」
 そう言ってやったのに、彼は悲しそうにため息をついただけだった。
「違う。聖域は…女神は本当はそんなことは望んでいないよ」
 どう違うのか知らぬが、私を望まないというのであれば勝手にやるだけだ。
「ならば、私はカノンと行く。世界が塗り替えられていくのを黙って見ているが良い」

 胸の奥で何かが軋んだが、どうでも良かった。
 手始めに十二宮を破壊するために、私は聖域へ飛んだ。


2007/5/20

◆蟹 VS 料理音痴…(デス料理教室)

「デスマスク、何故お前が双児宮に居るのだ」

 大きな紙袋を片手に押しかけてきた隣宮の主へ、黒サガは怪訝そうな目を向けた。
 闖入者はテーブルの上へどさりと荷物を置くと、その中から次々に何やら食材を取り出している。

「アンタの弟に頼まれたんだよ」
「今日の食事作成をか?」

 黒サガにとっては見たこともない粉類や調味料が卓上へ並べられていく。
 デスマスクへ問い返した形は疑問系だが、その声色には作るのが当然であるかのようなニュアンスが含まれていた。

「違う!調理指南をだ。聞けばアンタ、食事当番をサボってばかりいるんだって?」
「………」

 サガは料理が下手だった。それでも白サガの時は努力して食べられるものを何とか取り揃えるのだが、黒サガの時は調理自体をしようとしない。従者に押し付けるか、出来合いを調達してくるか、それが出来ないときには当番を放棄するかだ。
 そして放棄されたばあい、カノンが根負けして食事を作らないとその日は何も食べられないのだ。

「アンタらの師匠は食事を作らせたりしなかったのかよ」
「…それはアレとカノンが何とかしていた」
「まあ、アンタの方は習う機会も無かったんだろうがな。今日はアンタでも出来そうな簡単なパン作りを叩き込むからそのつもりで。混ぜてこねて焼くだけだから、仕上がりと焼き加減さえ気にしなければ普通に食えるものが出来るはずだ」
「何故私がそんな事をせねばならんのだ」
「そのメモに材料名と、それぞれの分量が書いてあるから順番に量れ」

 いつもは黒サガに対して下手に出るデスマスクも、こと料理に関しては強気だった。
 仕方なく…というよりは半分気まぐれで、黒サガはとりあえず言われたとおりメモの上から順番に量ってはボールに入れていく。

「…ってアンタ!!!何でいきなり全部一緒のボールに入れるんだよ!」
「どうせ混ぜるのだろう」
「手順があるんだよ!しかも何でドライイーストをそんなに大量に混ぜようとしてるんだ!7.0グラムって書いてあっただろ」
「70グラムの書き間違いかと思ったのだ」
「誤字を疑う前に、自分の料理能力を疑えよ!」
「強力粉は400グラムなのに、そんなに少ないわけがない」
「あああああ、言ってるそばからバターを固形のまま入れたな!それは室温に!」
「温めれば良いのか」
「混ぜた後で小宇宙で熱するな!他の材料も温まるだろう!」
「細かいことをうるさい奴だな」
「室温にって言ってるのに、何で卵が固まり始めてるんだよ!」
「最終的に混ざれば良かろう」
「そのワインは土産に持ってきたやつで材料じゃないから混ぜるなー!!」


 結局パンは作成できず、その日以降はいくらカノンが頼んでもデスマスクは黒サガに料理を教えようとはしてくれませんでした。


2007/5/24

◆マッパ…(愚兄とその弟)

「なあサガ」
「なんだ愚弟」
 穏やかなシェスタの昼下がり、今日も傲慢な態度を崩さない黒髪の兄へ、カノンはボソリと尋ねた。
「お前、星矢が十二宮に攻めてきたときアンダー無しで聖衣つけたんだって?」
「その通りだが」
「女神の前でもそのまんま自決したんだって?」
「私ではなくアレがな」
 カノンは大きく溜息をつき、黒サガに突っ込んだ。
「女神が矢に倒れてたからいいようなものの、星矢たちと一緒に乗り込んできていたらどうするつもりだったのだ」
「どうもせぬだろう」
「アホか!お見苦しいモノを女神の目にも晒す事になってたんだぞ!」
「私の裸は見苦しくなど無い。そもそもアテナは古代からギリシアの文化になじんでいる。当事のごとく男が全員全裸でいても気にすまい
「アテナは気にせずとも、サオリは気にするに決まってるだろ!ていうか古代ギリシアでも女性には裸を見せねえよ!」
「私は眉一つ動かさないと思うがな。賭けてみようか」
「何をだ」
「あの小娘の前で私が全裸になって驚くかどうか試し…」
「この愚兄がーーー!!!」
 本気の鉄拳が黒サガに飛び、その後珍しく弟の勢いに負けた黒サガが延々と説教を食らう羽目になった。


2007/6/3
◆あのとき…(ロスサガ)

「偽教皇をやっていた頃は、何度も『あの瞬間に戻れたら』と思った」
 目前にエーゲ海の碧が広がる堤防の上で、サガと俺は二人で立っていた。
「あの瞬間って?」
 彼のクセのある銀青の毛先が潮風に揺れる。それを目で追いながら俺は聞き返す。
「シオン様を殺したあの時…もしくは、女神に刃を向けたあの時」
 サガは穏やかな声で答えた。
「戻れたら、君はどうしていた?」
「そうだな。自分を殺したろうね」
 人生にIFなど無いけれど、取り返しの付かない過去の修正が出来たらと何度望んだ事か…そう彼は言った。
「でも、もしも本当に戻れたら、今ならそうはしないだろう」
 サガが遠くを見ながら笑う。
「今だったら、君はどうするの?」
 鸚鵡返しのように、俺はまたサガに問う。
「過去の私に、女神を信じても大丈夫だからと伝えると思う」
「それだけ?」
「ああ」
「過去の君は判ってくれるかな」
「多分聞き入れはしないだろう。同じように私は女神を狙い、君を殺してしまう」
「最初と変わらないね」
「変わらないな。そして大勢の人に迷惑をかけて、最後には死ぬ」

 俺は手を伸ばして、サガの髪に絡めてみた。手入れされて滑りの良い銀糸はサラリと指先でほどけていく。

「どう取り繕っても、私の愚かな過去は変わらない。皆が歩んできた茨の道を、私の罪を、簡単に無かった事にしてはならないと今は思う」
「そっか」
「それでも、嘆きの壁でお前に会えなかったら、そう思えなかったかもしれない」

 サガもまた指を伸ばして、俺の額上の前髪をくるりと巻いた。
「ずっと聖域を見守っていてくれてありがとう、アイオロス。私はお前が好きだよ」
 俺はずっとサガの爪を見ていたので、ごく自然に紡がれた告白に気づいたのは二人で聖域に戻った後だった。

 もしも戻れる瞬間があるのなら、あのとき間をおかずサガへキスをしたのになと思った。


2007/6/4

◆路上…(デス&サガ+アイオロス)

「クク、外で四つ這いになる気分はどうだサガ」
「う、うるさいデスマスク」
「人が通ったらどう思うだろうな?」
「言うなっ…!」
「どうよ、もう少しで奥まで届くだろ」
「アッ…あと少し…!」

 人通りが少ないとはいえ公道だ。
 デスマスクの言うとおり、こんな姿を見られたらと思うと、サガの動悸は早くなる。
 しかし、サガの焦りとは裏腹に、最奥への指先は届きそうで届かない。じれったさに唇をかみ締める。

 そんなデスマスクとサガを少し離れた場所から眺めていたアイオロスが、遠い目をしながら語りかけた。

「なあ、念動力で取ったらどうかな。その自動販売機の下に落としたコイン」
「街中で超能力をみだりに使うものではない!人が見たらどうするのだ」
「いや、そんな格好で手を突っ込んでる方が目立つと思うよ…もう諦めたら?」
「アイオロス、日本には1円を笑うものは1円に泣くっつーことわざがあるんだぜ」
「てゆーかデスマスク。君とサガが会話すると何か卑猥なんだけど」
「そうか?」「どこがだ?」

 二人から同時に返される。
 サガは判っていない顔だが、デスマスクはニヤニヤしているのでわざとだ。
 アイオロスはサガが見ていないところで、こっそりデスマスクをどついておいた。


2007/6/20
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