JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。
たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆神の絵筆…(ロストキャンパスSS)
「ハーデス様。何故、こたびの依代ではタナトスばかり優遇なさるのですか」
アローンの身体に降臨した冥王の居室へ、憤懣やるかたないといった様子のヒュプノスが押し込んできた。ヒュプノスは慎重参謀系ジャンルに分類されるような温和タイプで、このように抗議などしてくる事は大変珍しい。
冥王はといえば傍らに輝火を控えさせ、常のごとくキャンバスへ絵筆を走らせている。
不躾な闖入にベヌウの冥闘士は何か言いたげな表情をしていたが、相手が格上の存在である神であることを慮り、冥王の判断を仰ぐことにしたようだ。
「何事かと思えば…私はそなた達へ違わぬ信頼をおき、共に重用している。寵愛に差などつけてはおらぬ」
対応するのも馬鹿馬鹿しいといった風情で筆を止めないハーデスに、ヒュプノスはきっぱりと反論した。
「いいえ、ハーデス様はタナトスの管轄となる力ばかりをお使いです。死は救い…確かにそうではありますが、私の司る眠りとて人に救いを与えると自負しております」
「それは判っておるが…」
「ならばその絵筆に、私の力も篭めて頂きたい」
「…」
そんな事かと呆れているハーデスを尻目に、眠りの神はアローン所持の絵筆に片端から自分の印を篭めていく。止める間もない。
全ての絵筆に力を与え、漸くヒュプノスは満足そうな顔をした。
「これで、ハーデス様の描かれる対象が全て眠りの淵に」
「…眠らせてどうするのだ」
「生け捕りにできます」
「…さようか」
これは何を言っても無駄かと、冥王が遠い目になっている。
ひととおり絵筆に力を付与して満足したヒュプノスは『絶対に使ってください』と念を押して去っていった。
仕方なく冥王は、溜息をつくように傍らの輝火に告げる。
「もしも我が軍に不眠症の者がでたならば、ここへ連れて来るように」
2006/11/06
◆お触り禁止…(ローマ式風呂の続きが黒×ラダだったら)
カノンの勧めにより双児宮の風呂で仕事の疲れを落としていたラダマンティスは、続いて浴室へ入ってきた双子たちに湯船の中で呆然としていた。
恋人であるカノンだけならともかく、その兄に対する心構えなど突然すぎて出来ていない。
双子とはいえ、今日の彼らは直ぐに見分けがついた。片方は艶やかな黒髪で、その双眸には紅く傲慢なまでの意思の光がともっていたからだ。
黒髪のサガの小宇宙も気配も、とても聖闘士のものとは思えず、自分の情人が海龍であるとするならば、この兄は闇の深遠に潜みとぐろを巻く暗黒の蛇のように思われた。
黒サガと目があうと、彼はフンと鼻をならし「冥界の犬が、随分私の弟と親しくしているようだな」と見下してきた。後ろにいるカノンが(今のケンカ売ってるんじゃなく、挨拶だから!)と黒サガ的言語を翻訳し、小宇宙通信によるフォローを飛ばしてくる。
挨拶で犬呼ばわりされた冥界の重鎮が返事に困っていると、その倣岸不遜な海龍の兄は湯船の中へ足を下ろし、真っ直ぐにこちらへ歩いてきた。
湯船は彼の腰を隠すほどまで深くは無いので、少し目のやり場に困る。
全裸であることをまるで気にもせずに翼竜の前まできた黒サガは、すとんとそこへ腰を下ろした。
そして、まるで工場の商品の検分をするように、ラダマンティスの身体をねめつけている。
不躾な視線に、さすがに黙っていられなくなって翼竜は口を開いた。
「男の身体がそれほど珍しいか」
わずかに不快を篭めた語調にもサガは全くひるむ様子は無い。
「冥闘士というのは冥衣がなければ常人と変わらぬと聞いていたが、流石に三巨頭ともなると鍛えているようだな」
何のてらいもなく黒サガの指が伸びて、筋質の確認とばかりに上腕へ触れてくる。
思わず逃げ腰になりかけた翼竜と黒サガの間へ、慌ててカノンが割って入ってきた。
「勝手に触っていい風呂はソープランドだけなのだ、サガ!」
2006/11/09
◆幸福の予約…(三丁目の夕日パロディ)
「なあ…俺と家族になってくれないか?」
星矢は真っ赤になりながら、目の前のサガに小さなビロード張りの小箱を差し出した。指輪のケースだ。驚いたサガは星矢とそれを交互に見つめる。目の前の少年の顔はこれ以上はなく真剣で、冗談のようには思われなかった。
教皇の間の執務机を挟んで、サガは星矢に確認をした。
「ええと…それは君の姉さん…星華さんといったか?彼女と結婚して欲しいということだろうか」
「違うよ!どんなボケだよそれは!」
星矢はむぅと膨れながらその箱を開ける。サガはつられるように覗き込んだ。しかし、そこにあるべき指輪は何も無い。どういう事だろうと首をかしげているサガへ、星矢は恥ずかしそうにうつむきながらも、しっかりとした口調で伝えた。
「俺はただの青銅だから…お金とか無くて、今は箱しか買えなかったんだ。だけど、将来絶対にサガに相応しい指輪を買って見せるから…受け取って欲しい」
子供だとばかり思っていた星矢の瞳には強い決意が秘められていて、サガは一瞬息を飲む。自分は28歳で、星矢は13歳。自分は大人なのだから、少年が道を踏み外しそうな時には正すべきなのだろう。だが、何故か一笑に付すことは出来なかった。
こんな風に強く純粋に想われて、靡かない者がいるだろうか。
サガは星矢に向かって左手を差し出した。形良く整えられた爪先が僅かに震える。
「星矢、私に嵌めてくれないか?お前が買ってくれる、その未来の指輪を」
青年の手を捉え、星矢は確かに薬指へと指輪を嵌めたのだった。
「予約、したからな」
星矢は大人の逡巡など押し流す笑顔で、サガの首を抱きしめた。
「兄さん、なに薬指を見てニヤニヤしてんだよ」
職務の合間に左手に何度となく視線を落としては目元を緩めるサガを見咎め、カノンが流石に突っ込みを入れた。サガは慌てて顔と気持ちを引き締めたものの、胸の奥から幸福感が溢れてくるのを止めることは出来なかった。
「ふふ、これは馬鹿には見えない指輪なのだ」
「はあ?指輪?」
訳がわからず呆れた顔をしている弟を尻目に、サガは窓の光に自分の手をかざす。
指の合間から差し込む光のまぶしさに目を細めて、彼は微笑んだ。
翼を持つペガサスは、きっと自分の元を去っていく。そう思ってしまう自分は星矢を信じていないのかもしれない。それでももしかしたら。こんな私でも光を願って良いのだろうか。
裸の王様でも良かった。星矢は確かに希望をくれたのだった。
(星矢が大人になって分別を持ち、私などから離れて飛び去って行くその日までは…嵌めていても構わないだろう?)
そうしてサガは今日も教皇補佐の仕事に励むのだった。
2006/12/2
◆不法営業根性…(管理人+家族の実話変換)
普段は人馬宮と獅子宮で別々に暮らすアイオリアとアイオロスです。
別々にといっても聖域内の近所同士ですし、黄金聖闘士の移動能力を思えばお隣さんも同然なのですが、任務が忙しいとなかなか落ち着いて話す機会もありません。
そんな中、久しぶりにアイオリアから兄のもとへと電話がかかってまいりました。
「ええと、元気かな?実は携帯落としちゃったんだ。それで困ってるんだけど、警察には届けたので、もしもそちらに連絡があったりしたら宜しく頼むよ」
「了解、お疲れさま」
小宇宙通信を使わずに電話連絡とは、13年の間に弟も文明の利器を使いこなすようになったではないか…と満足げなアイオロスは、なかなか兄バカなのでした。
そしてまた次の日。再びアイオリアから電話がかかってまいりました。
「携帯の連絡きた?あ、今は時間平気かな」
「いやまだ来ないな。お前こそ今は仕事中の時間だろう。大丈夫なのか」
「それが…ちょっと大丈夫ではなくて…うーん…困ってるんだ」
「どうしたんだ、何かあったのか」
「株…」
「株?」
「株をやってるんだけど…お金が足りなくて聖域のお金に手をつけてしまって…」
弟がそのような事をするなどありえません。
アイオロスはこの時点でやっと、これが流行の振り込め詐欺だと気づいたのでした。
今までずっと弟の声の判別も出来ずに話しているのもどうかと思いながらアイオロスは確認の為にちょっと質問をしてみました。
「そうか、とりあえず誕生日を言ってみなさい」
「え?何?祝ってくれるの?」
「ああ、祝ってあげるから言ってみなさい」
「こんな大変な時に誕生日どころじゃないだろう!」
敵もなかなか回答慣れしています。ナイス返答に思わずアイオロスはにこにこしています。
「そうだな、だが聖域の金を使い込むのはお前が悪い。お前が頑張って返しなさい」
「やっぱ俺が悪いのかな」
「うん、お前が悪い」
「そっか、そうだよなあ」
「まあ、がんばれ」
アイオロスは笑いながら電話を切りました。死んで詫びろと言わないだけ優しい応対です。 こちらが誕生日を聞いた時点で、相手も嘘がバレていることは判ったはずです。
もう2度とこの人物から電話はないだろうと彼は考えたのですが、どういうわけか切ったそばからまた瞬時に電話がかかってきたのでした。アイオロスは不思議に思いながらも電話を取りました。電話相手はいきなり先ほどの続きから話し始めました。
「なあなあ聞いてくれないか、聖域の金を使い込んだのは本当なんだよ」
「ふんふん」
「俺もアイオリアって言うんだ。同じアイオリアのよしみで助けて欲しいんだけど」
Σ(゜▽゜)そうきたか!?
敵はまったくメゲてません。素晴らしきこの営業根性。アイオロスは感心しました。
さりげなく「振り込んでくれ」という言葉を出さずにこちらから金を出させようとする会話テク。話の出だしに「時間大丈夫?」と尋ねる部分もポイントが高い。
ツボに嵌ったアイオロスは、つい声を上げて笑い出してしまっています。それにつられて、電話の向こうの偽アイオリアも何だか笑い出しました。いや、笑い事じゃないんだけどね。
「悪いが私も金がなくてな、気持ちだけ応援しておく」
「うん」
「あんまり他の人を騙してはいかんぞ」
「わかった」
アイオロスは電話を切った後、『見込みなしと判ると、挨拶もなく途中で電話をガチャンと切ってしまう昨今の営業電話よりは、礼儀正しい男ではないか』と思いました。
その話をシオン教皇に話すと、シオン教皇は呆れたように
「馬鹿め、そもそもアイオリアは携帯電話など持っていなかろう。その時点で気づけ」
と諭されてしまいました。そう言われてみるとそうでした。
ちなみにデスマスクの感想は、
「俺なら振込み先番号まで聞きだして、架空口座潰してやるかな」
でした。
2006/12/7
◆嘆きのフィンガーファイブ…(冥界編・黄金五人結集)
「黄金聖闘士たちの力を結集すれば、太陽の光を作り出すことも不可能ではないのだ」
嘆きの壁を前にした黄金聖闘士たちは、老師の言葉に頷いた。
現在この場にいるのは、戦いをくぐり抜けてきた五人。
これまでの幾多の戦いは、黄金聖闘士十二人のうち半数以上の命を奪っていた。
自分たちは、死んでいった仲間たちの想いも背負ってここに立っている。壁などに手をこまねいているわけにはいかない。そう誰もが思っていた。
「命をひとつにしてぶつければ…!」
各自それぞれがライブラの武器を受け取り、壁に向かって構えを取る。
「光あれ!」
…しかし壁には傷ひとつ付かない。
ミロ、アイオリア、童虎、ムウ、そしてシャカ。
このメンバーで心がひとつにまとまるわけがなかった。
2006/12/12