1.サガが猫を拾ってきた / 2.アイオロスという名の猫 / 3.初風呂 / 4.猫馬鹿 / 5.猫科です / 6.玩具 / 7.毛並み
◆サガが猫を拾ってきた
今日もカノンが自宅でごろごろとTVゲームなどをしていると、兄の帰ってくる気配がした。
習慣的におかえりと言いかけたものの、何故かちっとも家の中へ入ってくる様子が無い。
「サガ?」
どうしたのかと思って入り口まで迎えに行くと、扉の隙間からサガがこそりと顔を覗かせた。
しかし、そのまま何か後ろめたそうな顔でもじもじしている。
「何やってんだ。早く入ってこいよ」
そう言ってやると、サガはカノンの顔色を伺うかのように上目遣いでぼそりと呟いた。
「その…猫を拾ったのだが、家に入れても良いかな」
「はあ?」
「仕事先に近いサバンナで、獅子に食われそうになっているのを見かけて…つい持ってきてしまったのだ」
「はああ!?」
万物に博愛なサガだが、こうみえて普段は自然界の弱肉強食に手を入れるようなことはしない。
自然には自然の掟があり、可哀想だからなどという理由で肉食獣の餌を奪うような真似があってはならないからだ。
よほどその猫とやらが気に入ったのだろう。
「まあ、持ってきてしまったモンは仕方ない…もう夜だし、猫連れて家に入れよ」
ぱあっと嬉しそうな顔になったサガは、振り向いて猫に呼びかけた。
「良かった、カノンの許しが出たぞ!」
サガの後ろからのそりと現れたのは、大きな獣だった。それこそライオンほどの。
考えてみればサバンナに猫などいるわけがない。カノンは慌ててサガに突っ込んだ。
「ちょ、これ猫じゃねえだろ!」
「少し大きいだけだ」
「返して来い!」
玄関先で言い争っている双子の脇をすり抜けて、その猫(?)はちゃっかり部屋の中へ入っていく。
その獣が実は半人獣のアイオロスと呼ばれる生き物だとは双子もまだ気づいていないのだった。
2008/2/26
◆アイオロスという名の猫
サバンナから拾ってきた大型獣を猫と言い張るサガのことは諦めて、カノンは改めて獣の方を観察してみた。野生の獣にしては毛皮に汚れもなく、獣特有の匂いもほとんどしない。大人しく絨毯の上に陣取ったまま、伏せて寛いでいるようだ。
「本当にこれ野獣か?逃げ出したペットじゃねえの?」
カノンが疑うのも無理はない。野獣がこんなに人に慣れて大人しいわけがないのだ。
「野良猫だろう。首輪をしていないし…」
サガはまだ猫と言い張っていた。それだけではなく、弟へ厄介ごとを押し付た。
「私はちょっと仕事の報告をしてくるから、その間、猫を見ていてくれないか」
「オレがか!?」
さすがのサガも、拾ってきた獣を連れたまま、上司であるシオンのところへ行く事は出来ない。
「簡単な結果報告だけなので、1時間も掛からない。頼む、カノン」
両手を合わせて頼まれると、ただでさえ兄のお願いに弱い弟は嫌と言えなくなってしまう。
(まあ、言われないでも見張らざるをえないしな。こっちが食われないように)
サガが出かけたら、すぐに大型犬用の檻を調達して突っ込もうと思っているカノンだった。
しかし、入り口で兄を見送ったカノンは、背後からの声にぎょっとした。
「彼、サガっていうんだ?名前も綺麗だよね」
人類としては最高ランクにあるはずの反射神経で振り返ると、いつ侵入したのか、そこにはカノンと同年代ほどの若い男が座ったままニコニコこちらを見ていた…全裸で。
「げっ!変質者か!?」
「失礼だなあ。でも、そう思われるのも仕方ないか。シーツか何か貸してくれる?」
「不法侵入のくせに物品要求とは図々しいぞ変質者」
「いや、オレは不法侵入はしていないし、変質者でもないから。むしろサガに攫われて来たんですけど」
怪訝な目つきで睨むカノンの前で、その男は見る間に先ほどの獣へと変化していった。
あまりの出来事に驚いて声もないカノンを無視したまま、その獣は再び人間の姿へ変化する。
そして、自分の名前がアイオロスであるということ、半人半獣の種族であることなどを説明しはじめた。
「草原で弟のアイオリアと話していたら、彼が現れてね。あんな奥地へ人間が来るだけでも珍しいのに、あんまり美人さんなので見とれていたら、突然抱えあげられてさ…オレ結構体重あると思うんだけど、これだけ軽々とあしらわれたのも初めてだよ。見た目と違って豪胆なんだなあって思ってるうちに、連れ去られてしまって。まさかアイオリアがオレを襲っていると勘違いされてるなんて思わないし」
「弟とやらも、やっぱり獣なのか」
「ああ。弟は獅子の血が強いからたてがみ付きだけど」
「……猫が獅子に襲われてたってのは、それか」
どうも話を聞くと、悪いのはこの男ではなくサガのようだ。
原因が判ると相手を無碍にも出来ず、とりあえずサガが帰るまでは丁重に扱っておくか…とカノンは溜息をついた。
しかしサガが帰ってくると、アイオロスは獣の姿に戻ってしまったのだった。
「ただいま、いい子にしていたか?」
飛びついた獣に顔をぺろぺろと舐められながらも、頭を撫で返しているサガを見て、カノンが怒ったのも当然だろう。
「アイオロス!お前、人の兄に何やってるんだ!」
「カノン、何を怒っているのだ…それにアイオロスとは?」
「そいつの名前だ」
「ええっ、名前は私がつけようと思っていたのに」
「最初から名前付きだったんだよ!そいつが自分で言ってたんだ!」
カノンの怒りも、理由の判らぬサガからすると、単なる癇癪にしか見えない。
「猫が話すわけなかろう。だが、確かにしっくりくる名前だな…アイオロス、今日は私と一緒に寝るか?」
『ニャー』
「今の作り声だろ!お前そんな風に鳴かないだろ!」
怒鳴るカノンをよそに、アイオロスは素知らぬ顔だ。
そのままちゃっかりサガの布団へ潜りこんでいるアイオロスを見て、明日の朝には絶対サバンナへ叩き返してやるとカノンは決意した。
2008/2/27
◆初風呂
いつもは早起きのサガが、珍しく定刻となっても食卓に現れないので、カノンは心配になった。
兄の寝室へ様子を見に行くと、そこには寝台の中で大型獣をぬいぐるみのごとく抱きしめ、幸せそうな顔をしている兄の姿。獣の方も満更ではない感じで、尻尾をぱたぱたさせている。
その獣が実は半人半獣のアイオロスと知っているカノンの機嫌は急降下した。
「おいサガ、ケモノを布団に上げるのはよさないか」
注意しても、サガは聞く気が全くない。
「何故だ?猫と一緒に布団で寝るのは普通のことだろう。もし汚れたとしても、洗濯は私がしているのだから問題あるまい」
言い返されたので、カノンも負けずに理屈をひねり出した。
「しかし…そうだ、野生の獣だぞ。ダニとかノミがいるかもしれないだろ」
サガの隣で大型獣=ロス猫がイヤな顔をした。視線で『そんなものはいない』と睨んできたのを、カノンはさらりと無視する。いくら気に入っているとはいえ、サバンナで昨日拾ってきたばかりの野良猫(サガ主張)だ。そんな状態の動物を、人間の寝る布団に入れるのはどうかという部分をカノンは訴えたのだった。
サガはカノンの言葉を聞き、はっと真面目な顔になった。
「そ、そうだな…アイオロスを綺麗にしてあげないといけないな」
何だか、カノンの意図した方向とは別の決意をしている様子である。
「漫画などで野良猫を拾ったときの定番は、まず風呂で汚れを落としてやることだったように思う。私とした事がアイオロスを洗ってもやらず…」
「どんな漫画を見たんだよ。っていうか、洗うならバケツで水でも被せとけばいいだろ」
「冬場になんと酷い事を言うのだ。今から風呂を沸かすぞ」
「は?」
「アイオロス、私が綺麗にしてやるからな。一緒に風呂に入ろうな」
カノンの屁理屈は、とんだヤブヘビへと発展することとなる。
歯噛みするカノンをよそに、アイオロスは勝ち誇った表情でサガの横に寝そべっていた。
しかし、アイオロスもサガの長風呂をなめていた。
ただでさえ毛皮のぶん熱が溜まる獣形態で、サガと同時間お湯に浸かるのは、はっきり言って自殺行為。
サービス時間の長さが逆にあだとなり、その後すっかりのぼせてクルクル目をまわしたアイオロスを、風呂から華麗に引きずりだしたサガは、にこにこドライヤーで毛皮を乾かした。
(猫にはこのあとホットミルクを与えるのが定番だな)
サガはぐったりしているアイオロスを膝に抱えつつ、そんな事をのん気に考えていたのだった。
2008/2/28
◆猫馬鹿
「カノン!お前はまた勝手に冷蔵庫の私のものを持って行ったな!」
帰宅して早々、猫(サガ主張)にご飯を作ろうとしていたサガは、冷蔵庫から牛乳パックが無くなっている事に気づいた。
弟と共用の冷蔵庫なので、中のものを持って行ってしまう人間がいるとしたら、カノンしかない。呼ばれたカノンは何だという顔で自室から出てきたものの、何故怒鳴られたのか判らないという表情だった。
「知らねえよ。何が無くなったんだよ」
「しらばっくれるな。ミルクを飲んだろう。あれはアイオロス用だったのに」
「………あ〜」
しばしの無言のあと、カノンは何か納得したように声をあげた。
サガが留守の間、アイオロスはよく人間の姿となる。
そしてすっかり我が物がおでカノンのゲームを借りたり、冷蔵庫を漁ったり、サガの本を読んだりしている。
『サバンナの方ではなかなか文明の恩恵を受けられなくてね』
それも、こんな理由で。
アイオロスは冷蔵庫の牛乳も、自分のものと判断すると、さくっと風呂上りに飲んでしまっていた。誰も見てはいなかったが、飲み方も腰に手を当ててパックからラッパ飲みするという堂に入ったものだった。
そんなわけで最近は、本の場所が変わったり、朝よりも散らかっていたり、冷蔵庫のものがなくなったりすることが良くあるのだが、サガはそれを全部カノンのせいだと思っていた。
些細な事であるので、サガも今までは流していたのだが、アイオロスの牛乳を取られてしまった今日は、流石に注意しておこうと思ったのだった。
サガの声を聞きつけて、アイオロスも応接間の方から顔を覗かせた。
耳をたてているところを見ると、自分のせいでカノンが叱られているのは判ったようだ。まさかそんな事になるとは思っていなかったようで、すまなそうな目でカノンに視線を向ける。
カノンはぽりぽりと頭をかいた。
「ああ、すまん。オレが飲んだ」
アイオロスを庇ったというよりは、説明が面倒かつ信じてもらえそうにないからという理由が大きいものの、それを聞いたアイオロスは、二人のいる方の部屋の中へもそもそ歩いてきて、冷蔵庫の前に鎮座した。
「飲むのは構わないから、事前に断りをいれなさい…おや、アイオロス?」
気づいて目を向けたサガの前で、アイオロスは器用に前脚で冷蔵庫をあけて見せると、前脚と口を使って、他のジュースのパックを取り出してみせたのだった。
「凄いな、自分で冷蔵庫を開けられるなんて、アイオロスは天才猫だ!」
カノンの濡れ衣は晴れたものの、その後いっそうサガの猫溺愛が深まったのだった。
2008/3/02
◆猫科です
半人半獣族のアイオロスは、普段は大型獣の格好をしていた。馬ではなく一応猫科だ。
それがサガの勘違いによって攫われてきて以来、双子の家に飼われることになっている。
それまで兄を独占出来ていたカノンは不満だったが、サガがあまりにも嬉しそうにしているので『サガが喜ぶのならば』と黙認している状態だった。
ただ、アイオロスが本当は青年の姿になれることもカノンは知っていた。サガが同じ布団へアイオロスを引っ張り込むたびに「それだけはヤメロ」と思っていた。
一方アイオロスも、双子の仲があまりに良すぎることに驚いていた。
「獣族も兄弟で舐めて毛づくろいをしあったり、一緒に丸くなって寝たり、甘噛みして気持ちを伝えたりするけど、人間もそうなんだね」
とりあえず盛大な勘違いで自分を納得させ、自分もちゃっかりその仲に紛れ込んでいる。。
ちなみにサガとの寝心地があまりに良かったので、その双子の弟であるカノンとの同衾も試してみたアイオロスだったが、結果は散々だった。
夜中にこっそり布団へ潜り込み、横で丸くなってみたものの、カノンの自由奔放な寝相で酷い目にあった上、カノンの側も寝苦しさで目を覚ましたため見つかってしまい、布団から蹴り出されてしまったのだ。
どうも弟のほうの寝心地は良くないなと、その時に学習したアイオロスだった。
それでいて、どうもサガと寝ているときのカノンの寝相は良いようで(サガはカノンともしばしば一緒に寝ている)、ちょっぴり納得のいかないアイオロスでもあった。
そんなこんなで適当な共同生活に三人が慣れはじめた頃、カノンは兄にふと尋ねてみた。
「なあ、お前すごくアイオロスを可愛がっているよな」
「猫かわいがりという言葉があるように、猫は可愛がるものだろう」
「まだ猫と言うか…その猫が、もし人間になったらどうする?」
部屋の隅で横たわっていた獣形態のアイオロスが顔をあげ、ぎろりとカノンを睨んだ。
アイオロスは何故かサガの前では単なる獣の振りをしている。カノンは別に口止めをされたわけでも、黙っていてやる義理もないのだが、何となくそれに付き合ってやっている現状だ。
自分の正体をバラされるのかと危惧したアイオロスだが、カノンはあくまで「仮に」という前提で進めている。動物が人間になるなどとは想像もしていないサガといえば、勿論弟の冗談だと思っていた。
「それは擬人化というやつか?」
「ちょ、ちょっと違うな…」
「アイオロスが人間だったら、きっとこの見かけのとおり、可愛いだろう。頭に耳がついていて」
ほわ…とトリップしているサガへ、カノンは『それオスだぞ』と内心で突っ込んだ。
「いや、そういうのではなく、ほら、狼男とかあるだろ、そういう風にだな」
「ああ、猫も化けると言うからな」
サガはまた考え込んだ。
「狼男ではなく猫男というのだろうか?それとてきっと可愛らしいに違いないぞ。猫だしな」
「……」
目をキラキラさせて想像しているサガを見て、カノンは兄の夢を壊すような真実を話すのは止めようと考え、猫男と呼ばれたアイオロスは遠い目でますます正体をバラすのは止めようと決意したのだった。
2008/3/17
◆玩具
「ただいまサガ、今日は土産を買ってきてやったぜ」
出迎えたサガに、カノンは可愛く包装された品物を手渡した。
「これは何だろう…?」
別に旅行へ出ていたわけでもない弟からの土産にサガは首を捻る。受け取ってみると、それは見た目の大きさに比して随分と軽い。
「開けてみるといい」
カノンがそういうので、その場でガサガサ包装紙をひらいてみると、中から現れたのはペットショップでよくみかける基本アイテムの猫じゃらし(リボンつき)。
サガの顔がぱぁっと明るくなった。
「これは…アイオロス用か!?」
「まあな」
「ありがとうカノン!お前は猫を飼うのに反対だとばかり思っていたのに…」
ぎゅうっと抱きついてきたサガを、カノンは満足そうに抱き返した。思った以上に高ポイントを稼いだようだ。
「早速使ってみる」
ウキウキと猫じゃらしを持ってアイオロスの方へ向かうサガの後を、カノンは人の悪い笑みを浮かべて付いていった。
「さ、アイオロス、オモチャだぞ」
目の前で揺れる猫じゃらしと、ドキドキわくわく期待した目で自分を見つめるサガの顔を交互に見比べて、アイオロスは途方にくれた。
サガの後ろでは、ニヤニヤと腕を組んで見下ろすカノンの姿。
(元凶は貴様か!)
アイオロスは直ぐに、これがカノンの嫌がらせだと気がづいた。
しかし、ここで猫じゃらしを無視をしてしまっては、純真そのものの瞳で期待しているサガがガッカリするのは目に見えている。それに、正体を隠し続けるには猫の振りをしたほうが良いという事は判りきっている。
「にゃ…にゃー…」
棒読みな声でアイオロスが猫じゃらしをぺしぺしおざなりに叩くと、サガは本当に嬉しそうに猫じゃらしを振り回すのだった。
サガの笑顔で心のダメージを相殺しつつ、アイオロスは後ろで笑い転げているカノンを横目で睨み、(絶対にこのお返しをしてやるからな)と心に誓った。
2008/3/19
◆毛並み
今日も大型獣形態の半獣人アイオロスはサガに構われてご満悦です。
動物界ではこんなイイ歳になってから、誰かにここまで甘やかされる体験など滅多にないのです。
普通は人間界でもですが。
大層な美人に毎日チヤホヤされて、黙っていてもご飯は出てくるし、ペット生活も良いなあなどと英雄らしからぬことまで考えておりました。
サガは向上心の強い性質なのでヒモは許しませんが、ペットならセーフです。
そこへ夕飯の片づけを終えたサガが戻ってきました。
屈みこみ、自分の膝頭へアイオロスの顎を乗せて、首のうしろを掻いてくれます。
「いつも思うのだが、お前は毛並みの良い猫だな…野良だが血統が良いのだろうな」
サガはアイオロスの毛皮を褒めるのが日課でした。もっとも、アイオロスから言わせればサガの毛並みの方が余程綺麗です。
普段であれば、このあと一日の出来事を話してくれたり、一緒にじゃれあったりとコミニュケーションタイムへ突入するのですが、今日のサガはいつもと違いました。
「…これだけ綺麗な毛並みを剥いだら、良い敷物になりそうだ。日本では猫の皮は三味線にするのであったか」
突然サガの雰囲気が変わり、物騒な台詞が頭から降ってきたので、アイオロスは驚いて膝から飛びのきました。腐っても野生の獣です。
あまりの殺気に攻撃態勢になりながら見上げると、そこには黒髪の赤い目をした人間がアイオロスを見下ろしていたのでした。
先ほどまでは確かにサガであった人間が、髪と瞳の色を変えてそこに居ます。
アイオロスの直観が、単に色合いが変わっただけの変化ではないと告げました。
それでいて彼は確かにサガなのだとも、嗅覚その他の本能が告げます。
反応に困っていると、タイミングよくカノンが帰ってきました。
カノンは、固まっているアイオロスと黒髪の男を見比べて「ああ」と一人納得したように声を上げました。
「何だサガ、アイオロスを苛めてるのか」
同じサガの名で呼ばれた男は、ムっとしています。
「猫と戯れていただけだ」
「…お前も猫と言い張るのか。それより、戯れていただけなら何でそいつがびびってるんだ」
「毛皮を褒めたら逃げたのだ」
アイオロスが先ほどのサガの台詞を思い返して見ますと、確かに意味合いとしては褒めているだけです。
しかし、この黒髪のサガが言うと何故か危険なニュアンスで伝わってくるのでした。
それこそまだ猫のように毛を逆立てているアイオロスと黒サガの間へ、さりげなくカノンが割って入ってくれました。
「サガの見た目が変わったから驚いたんだろうさ」
「猫が人間の容姿など気にするものか。どうせ固体識別も出来ないにきまっている」
「いやいや、サガとオレの区別もつけてたろ。動物は結構賢いのだぞ…って、サガ、何をいきなり短剣を持ち出しているのだ」
黒髪のサガが弟の話を聞き流しながら取り出した黄金の短剣に、アイオロスだけでなくカノンもびくついています。
「猫の爪が伸びているゆえ、切ってやろうかと」
「サガ!明日ペットショップで大きな爪切り探して買ってくるから!とりあえずソレをしまえ!」
「心配せずとも、この刃は骨まで断てるほどよく切れるが」
「切れすぎるのが心配なんだよ!何だその武器は!」
何故サガの髪の色と性格が変わるのかは明日聞く事にして、とりあえず今は身を護るのが先だと、アイオロスは初めてカノンの部屋の方へ逃走したのでした。
2008/3/22