HOME - TEXT - CP&EVENT - 約束の彼方11〜15

◆約束の彼方
※ ロストキャンバスでの前聖戦双子関連SSよせ鍋。設定はバラバラです。
  連載と同時進行で書いていたため、元ストーリーと繋がらない勝手なパラレル多め。
  星矢とのクロスオーバーが混じったりもしますので、苦手な方はご注意下さい。
11.見えない傷跡 / 12.当然 / 13.風呂 / 14.初日の出 / 15.記録伝承
◆見えない傷跡…双子同居シリーズ

 今日もペアルックの装いで弟との外出を果たしたアスプロスは、かなり羞恥心を犠牲にしてはいるものの、デフテロスとのコミニュケーションには自信を取り戻しつつあった。

(フ…この俺が本気を見せれば、弟を満足させることなど造作もないわ)

 闇の一滴による長年の性格歪曲のため、根拠も無く増長するのがアスプロスの悪い癖である。帰宅するなり当たり前のようにデフテロスへ茶の支度を頼み、自分は椅子に腰を下ろして足を組み寛いでいる。
 カノン島では、時代的にも場所的にも高価な紅茶や珈琲などは望むべくも無く、自生している香草類を乾燥させ煎じて飲むくらいしか出来なかったが、アスプロスはデフテロスの淹れるハーブティーをとても気に入っていた。
 デフテロスも兄の世話をすることに何の疑問も持っていない。適量の湯を沸かしたやかんへレモンバームを放り込み、蒸らしてからカップに注いで蜂蜜を落とす。作り方はぞんざいなようで、兄の好みには適った飲物がきちんと出来上がる。
 デフテロスはそれを兄の元へ運びながら、ふと小さく溜息をついた。
「どうしたデフテロス」
 見咎めたアスプロスが疑問を口にする。思いを言葉にすることが苦手な弟に対して、呼び水となる声を掛けてやる気遣いくらいのことは、アスプロスも学んでいる。
「いや…気にするな、アスプロス。詮無きことなのだ」
「何か悩みがあるのならば、話してみろ。俺に出来ることならば何とかしてやろう」
「優しいな、アスプロス」
 デフテロスの目にまた色眼鏡が掛かり始めたが、アスプロスは無視して先を促した。意を決したのかデフテロスがぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「その…先日ペガサスと話をする機会があってな…」
「ふむ、あのメフィストフェレスの息子で神殺しだという?」
「そうだ。そのメフィストがペガサスに初めて父として出会ったとき、『おいらの愛しの息子!会いたかったよテンマー!』といって抱き倒したそうなのだ」
 その場面を想像してしまい、杳馬に対する嫌悪感もあって顔をしかめそうになったアスプロスだ。受け取ったハーブティーを、話の口直しとばかり早速飲み始めている。しかし、デフテロスのほうは目をキラキラさせていた。
「やはり家族の再会はそうありたい…あれを兄さんにもしてもらえたらと思って…」
 思わずハーブティーを噴いたアスプロスだった。
(アホかーーー!)
 叫びかけ、デフテロスの表情に気づいて何とか押しとどまる。思えば自分とデフテロスの再会のときなど、技のかけ合いから始まったのだ。まあ…自分のせいで。
 デフテロスが寂しさを交えた笑顔でにこりとする。
「いいのだ。兄さんがまだ俺に疎ましさを感じているのは判っている」
「そんなことはない!」
 予想もせぬ弟の言葉に、アスプロスは反射的に声を上げた。今の弟との距離感には戸惑っているが、鬱陶しいなどとはもう思っていない。けれどもデフテロスの方はそんな風に思って…恐れていたのだろうか。兄に嫌われる事を恐れるあまり、それを振り払うかのごとく愛情を求めてしまっているのだろうか。
そう考えると、弟の願いをぞんざいにすることは出来なかった。

 アスプロスは立ち上がり、カップを置いてデフテロスを抱きしめた。
「愛しの弟。死んでいた間も、ずっと会いたかったぞ」
 再会を求めたのは決着をつけるためにであったが、とりあえず嘘は言っていない。
 多少棒読みなものの、デフテロスがぎゅーっと無言で抱き返してきたので、アスプロスはあやすように背中を撫でてやった。

2009/12/25


◆当然…双子同居シリーズ

 カノン島は基本的に火山の地熱で温かいとはいえ、双子の住む地域は草木も少なく、熱を蓄える地肌も薄く、夜ともなるとやはり冷える。
 初めてデフテロスの住む小屋へ来た日、アスプロスは一応悩んだ。
(俺はどこで寝ればいいのだろう)
 寝台はそこで暮らしていたデフテロス用のものしかなく、狭い小屋ゆえに2つも寝台を並べる空間などないのである。
 常に1番目として生きてきたアスプロスにとって、聖域では最初に自分へ何かがあてがわれ、弟はその次という環境が当然であった。その「聖域での当たり前」を崩すことに慣れようと思い、彼はまず横になれる床を探した。質素でほとんど何も無い部屋ゆえに、空き場所だけは沢山ある。
(あのあたりに鹿の皮でも置いて寝床とするか)
 そんなわけで部屋の片隅に敷物を並べていると、いつのまにか彼の横へデフテロスが立っていた。食糧確保の狩りから帰ってきたばかりの弟は、何故か成果のウサギの耳を掴んでぶら下げたまま、ショックを受けたような顔で立ちすくんでいる。
「おかえり…どうしたのだデフテロス」
 弟が無言のままのとき、話す気が無いのではなく、考えた事を言葉にする習慣が身についていないだけだと今は知っているので、先にアスプロスから声をかけてやる。
 デフテロスはそれでも少し躊躇して下を向いていたが、思い切ったようにアスプロスの顔を見た。
「兄さんは、俺が嫌なのか」
「は?」
「そんな片隅に…寝るところを…」
 アスプロスは目をぱちりとさせた。確かに空きスペースの関係上部屋の片隅だし、デフテロスの寝台から離れているとはいえ、同じ狭い部屋内なのである。何故それが好き嫌いの話へ繋がるのかが判らない。
「しかし、他に寝る空間のある場所といったら、隣の物置の床くらいだが」
「普通、寝台が一つしかなかったら、一緒に寝るだろう」
「えっ」
「影でなくなったいま、初めて兄さんと一緒に眠れるのだと楽しみにしていたのに…」
 手に持ったウサギの耳を握りつぶさんばかりにふるふるさせているので、慌てたアスプロスはとりあえず夕飯のオカズを取り上げ、それをテーブルの上に置く。
(聖域外では寝台が一つの場合、兄弟一緒に寝るのが普通であったのか…)
 それは悪い事をしたと、アスプロスはデフテロスの頭をぽふりと撫でる。
 そして、今晩は一緒に眠る事と夕飯の支度は自分がすることを約束して、しょんぼりしている弟の機嫌をなんとか持ち直すことに成功したのだった。

2009/12/28


◆風呂…双子同居シリーズ

 カノン島で一緒に住むこととなった双子だが、デフテロスが暮らしていた小屋には風呂などない。
 だがアスプロスは気にしなかった。聖域でも沐浴の設備を持てるのは女神や教皇、そして黄金聖闘士などの上級ランクの者たちだけであり、通常は何箇所かに設置された集団用の大浴場を利用していたのだ。
 デフテロスがここで修行をするにあたり、個人風呂を持つような贅沢は必要なかったろう。あったところで、入浴分の水を汲み、火を焚いて湯とする労力と時間が勿体無い。水道も敷かれていない奥地に建つ小屋だ。鍛錬が目的であるのならば、住まいは雨露をしのげて、寝食が可能であればそれで良い。
 アスプロスが風呂の無いことを気にしない理由はもう1つあった。それはここが火山島であるということだ。火口にほどちかいこの地帯には、温泉がいくつもある筈なのである。万がいち適当な温泉がなくとも、噴火口傍には自然のサウナが存在する。おそらくデフテロスはそれらを利用していたに違いない。風呂などなくとも身体を清めるのに不自由はしないだろう。

 そんなわけで暢気に構えていると、案の定、二日目の夜になって弟の誘いがあった。
「兄さん、風呂に行かないか」
「ほう、露天風呂か?」
「いや、洞窟内だが…」
 洞窟風呂もそれはそれで良いものだとアスプロスは思った。どちらにせよ、一日の汗は流したいし、断る理由など無い。二つ返事で了承すると、デフテロスは片手に着替えの衣類を持ち、片手でアスプロスの手を取り歩き始めた。アスプロスも戸惑うことなく握り返して付いていく。ひと目のない場所で弟と手を繋ぐ事程度は、もうすっかり慣(らさ)れているアスプロスだ。
 しばらく行くと、もうもうと噴煙の湧き上がる洞窟が見えてきた。穴の中へ入ると一気に温度が高まる。
「もしや、蒸気風呂か?」
 アスプロスが尋ねるも、デフテロスは首を横に振る。
「いや、ちゃんと浸かる風呂だ」
 しかし行けども温泉の現れる気配は無い。
 とうとう二人は溶岩の流動する灼熱のエリアまで辿りついた。
 流石にアスプロスはあたりを見回したものの、デフテロスの方は気にせずそのまま進んでいく。
「デフテロスよ、風呂は…?」
「すぐ目の前にあるだろう」
 服を脱ぎもせず溶岩の中に入っていく弟を見て、アスプロスは目が点になった。
「これに浸かるのか?」
「埃や汚れなどは一瞬にして燃え尽きるし、汗もかける」
「………」
 アスプロスは共同生活開始以来、初めて弟に意見する事にした。


 その後、アスプロスが探し出した温泉にきちんと服を剥がれて浸けられたデフテロスは、溶岩風呂の熱さにも平気だったくせに、裸の兄との入浴でのぼせて湯へ浮かぶ羽目となった。

2009/12/30


◆初日の出…双子同居シリーズ

「なるほど、なかなか良い眺めだ」
 カノン島に唯一そびえ立つ火山の頂上付近からみおろした景色は、デフテロスの言ったとおり雄大で、アスプロスは目を細めた。普段はもうもうと上がる噴煙が周囲を覆ってしまうのだが、それらの塵灰は視界の邪魔にならぬよう、風向きをコントロールして後ろへ流している。
 山へと登る前は闇夜にまるく輝いていた月も、既に西の端へ沈む頃である。視線の先に見える水平線は、徐々に白み始めていた。
 隣に立つデフテロスが、黙ったまま遠慮がちに手を繋いできたので握り返してやる。
「聖域でひとりだけ賑やかに年明けを迎えるよりも、こうしてお前と二人で並んで日の出を見る方がずっと良いものだな」
 それはアスプロスの偽りのない本心であった。
 まだ聖域にいた頃は、黄金聖闘士のひとりとして年始の行事や祭事などへ積極的に参加していた。それは殆ど慈善活動や外部に対する聖域のデモンストレーション行為であったが、アスプロスにとっては教皇の座を狙うための足固め的な意味もあり、影である弟のことは後回しにしてしまう事も多かった。
 東の空に光がさし始める。
 早朝ではあるが活火山の噴火口近くは暖かく、小宇宙を燃やさずとも肌はそれほど冷えない。そして昇り出した太陽が、隠す事のないデフテロスの顔を照らしたのを見て、アスプロスは笑みを浮かべた。
「今年もよろしくな、デフテロス」
「アスプロス…」
 デフテロスが目をきらきらさせたのはいつものことだが、どこからともなく聞こえ始めた地響きにアスプロスは眉を潜めた。次第にその響きは鳴動となって、火山全体を揺らし始めている。
 地脈の流れを追ったアスプロスは、それがデフテロスと繋がっている事に気づいて慌てて弟を諌めた。
「デ、デフテロス!これを止めろ!」
「今年も兄さんと一緒に暮らせるのかと思ったら、嬉しさが止まらなくて…つい噴火させそうに…」
「新年早々、下の村を全滅させるのはよそうな、デフテロス」
 とりあえず弟の小宇宙を火山への同調から引き剥がす為、アスプロスはデフテロスを抱きしめて自分の小宇宙でその身体を包んだ。

2010/1/5


◆記録伝承…現代双子とシャカによるLC双子記録鑑賞

「乙女座は、今までの聖戦の記憶を伝承しているそうだな」
 珍しく執務がらみでサガを尋ねてきたシャカへ、ソファーで寝転がったままのカノンが尋ねた。
「ふむ、伝承というほどのものでもないが、各時代の乙女座が目にしたものならば、私がその記憶を具現化することは出来る」
 シャカはといえば、出された日本茶をすすりながら(このお茶は星矢の日本土産だ)、カノンの話に付き合っている。
 乙女座の作り出す幻覚空間は双子座をも凌ぐ。普段は視覚をみずから閉ざしている彼だが、五感についてはエキスパートなのだ。その技に捉えられた敵は、結界内の空間を現実のものとして受け止める事となる。
 そんな能力を持つ乙女座は記録の伝承にうってつけと言えた。何せ、あるがままを映像化して伝えることが出来るのだ。
「へえ、じゃあ前聖戦なんかの記憶もあるわけか」
「私自身の記憶としてではないがな。そういえば前聖戦の双子座もやはり双子であったよ」
 シャカは訥々と話す。丁度そこへサガが部屋へ戻ってきて、シャカへと書類の束を渡した。
「遅くなったな、これが例の資料だ。弟と何の話をしていたのだろう?」
「君たちの先人の話だ」
 首を傾げるサガへ、カノンが付け加える。
「サガ、前の双子座も双子だったらしいぞ」
「それは奇遇だ。一体どのような双子であったのだろうな」
 それを聞いたシャカは手を掲げた。手の先の空間にふわりと円形の風景が浮かぶ。見えてきたのはサガとカノンに良く似た二人であった。ただし一人は肌が浅黒い。
「彼らは互いに殺しあった」
 突然告げられた内容に、双子は目を見開く。
「だが互いに命を与え合いもした」
 シャカの言葉は事実であるようなのだが、その意味がサガとカノンには良く判らない。
 浮かんでいる映像のなかで、二人は仲良く肩を並べていて、とても殺しあったようには見えなかった。
 重くなりかけた空気を破るように、カノンが明るく尋ねる。
「で、どっちが兄でどっちが弟なんだ?」
「肌の色の濃いほうが弟だ」
 本物にしか見えぬ映像のなかで、弟と言われたほうが兄に手を差し出している。兄のほうは躊躇いながらもその手を掴んだ。微笑ましい光景にサガとカノンの顔も綻ぶ。しかし、兄の方は掴んだ手を引き寄せたかと思うと、そのまま床へと弟の身体を押し付け、頭を踏んづけた。
「……」
「……」
 これから血で血を洗うような喧嘩が始まるのかと、サガとカノンは息を呑む。だがどうも様子がおかしい。頭を踏まれているというのに、弟の側の怒りがあまりみえないのだ。
「ああ、安心するが良い。あれは彼らのコミニュケーションだ」
 冷静に解説するシャカへ、思わず突っ込むサガとカノンだった。
「そんな馬鹿な!」
「あんなコミニュケーションがあるか!!!」
 しかし、突っ込む間にも、過去の双子座はいっそう兄弟にあるまじき距離感になっていく。場所を寝台へと移したのを見て、カノンとサガは慌てた。
「も、もう充分だ、ありがとうシャカ!」
「何だねサガ、このあとが凄いというのに」
「いや、サガの言うとおり充分だったぞ、過去は過去、今は今だ!」
「そのとおりだなカノン!」
 こういうときだけ無駄に息のあう二人だった。

 シャカが去っていったあとの夕飯時間も、何となく気まずくて二人はずっと無言だった。
「なあサガ、映像化できるのは前聖戦の乙女座が直接見たものだけとか言っていなかったか…?」
「わたしに聞くなカノン…」
 唯一交わしたこんな会話のあと、二人は映像を思い出して、互いに気づかれぬよう視線を逸らしながら顔を赤らめた。

2010/1/7


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