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取り扱い注意
両手に花1


 冥界の重鎮であるラダマンティスは、しばしば聖域のカノンを訪れるが、その際サープリスを着用してくることはあまりない。公式訪問ならばいざ知らず、仮にも和平条約を結んだ相手の膝元へ武装して出かけるということ自体、無用の波風を立てる原因となる。また、ワイバーンの大きな翼は日常生活においては邪魔なだけなのだ。

 ちなみに、聖域勢が冥界を訪れる場合の聖衣着用は大目に見られている。その着用が戦闘のためではなく小宇宙の浪費を抑えるため、すなわち生命維持目的であるからだ。冥闘士といえど冥衣なしには立てぬ地であるので、これは仕方がない。

 しかし、今日のラダマンティスは冥府での仕事帰りだった。
 聖域へ直行したので、珍しく冥衣のままである。そして珍しい事は重なるもので、同じように海界での仕事帰りに双児宮へ直行したカノンは、鱗衣のままだった。
 二界の闘衣が、計らず双児宮で並ぶこととなる。
 双子座聖衣と海龍鱗衣を隣同士で並べると、反発音を発生させることがあるので、カノンは気を利かせたつもりで冥衣を真ん中に挟んで隣室へ闘衣を置いた。
 お陰でワイバーンの冥衣は大迷惑を被る事になったのだった。

 以下、例によって闘衣同士の会話意訳。


 なんとなーく両側からのプレッシャーを感じて、翼竜冥衣は居心地が悪かった。
 冥闘士の頂点にある三巨頭の冥衣として、実力的に海龍鱗衣や双子座聖衣に劣るつもりはない。
 だが、現状感じている圧迫感は、実力とは無関係のもののように思われた。
 聖戦で敵対した双子座聖衣はともかく、海龍鱗衣からの反応は何なのだろうと考えていると、その海龍鱗衣から声が掛かった。
『お前は我が主カノンと親しいそうだな』
『ああ。俺がというよりも、俺の主人のラダマンティスがな』
『お前の目から見て、カノンに相応しいのは俺と双子座聖衣、どちらだと思う』
『…は?』
 突然の問いにワイバーンが戸惑っていると、反対側からジェミニの反応があった。
『私に決まっているだろう。カノンの真価を引き出せるのは、お前ではなくこの私だ』
『俺はワイバーンに聞いているのだ』
 自分を挟んで角をつつき合わせている二つの闘衣に困惑しつつ、ワイバーンは馬鹿正直に答えた。
『カノンは双子座の黄金聖闘士だろう。双子座の聖衣を身につけるのが当然ではないのか…?というか、俺はカノンが鱗衣を纏ったところを見た事がないので、何とも言えないのだが…』
 その回答に満足げなジェミニと反対に、シードラゴンはワイバーンへ噛み付いた。
『何だと!?貴様は聖衣の味方か!?』
『いや、味方とかではなく…』
『見たことがないというのなら、今見せてやろう!』


 リビングでラダマンティスや兄と共に茶を飲んでいたカノンは、突然飛んできて無理矢理身体を覆った鱗衣のせいで、その茶を吹っ飛ばす羽目になった。
 さらに続いて飛んできた冥衣と聖衣が、ラダマンティスとサガの身体をも覆う。
「「「……………」」」
 キラキラと輝く闘衣姿でティータイムとなった三人の主人の間に無言の時間が流れた。


 そんな主人たちの反応を他所に、勝手に共鳴音で会話をする三闘衣。
『カノンの真価を発揮出来るのは聖衣よりむしろ鱗衣だ。俺はカノンの海龍としての能力を引き出すことが出来る』
『…まあ、確かになかなか似合っているな』
 翼竜冥衣にとっては、初めて見る鱗衣姿のカノンが新鮮だった。
『ワイバーン!貴様、意見をころころと変えるな!』
 横で騒ぐ双子座聖衣を無視して、海龍鱗衣は誇らしげに語りかける。
『海界で俺を纏うカノンは、それは凛々しいのだ。その姿も是非見てもらいたいぞ、ワイバーンよ』
『シードラゴン!どさくさに紛れてワイバーンを海界へ誘惑するつもりか』
 だんだん話が横へ逸れていくことに、三闘衣は気づいていない。
『もともとラダマンティスは我が主カノンへ会いに来ているのだろう。ならば聖域ではなく海界へ直接会いに来れば良いのだ』
『…まあ、そうなのだが…巨蟹宮が黄泉比良坂と繋がっているので、冥界から通うには聖域で会うほうが近くて楽というか…』
『私の目の届かぬところで、シードラゴンと会うつもりかワイバーン』
『す、すまん…。いや、ちょっとまて。何故ジェミニの目を俺が気にしなければならんのだ』
『海将軍筆頭と親交深い翼竜ならば、海界は歓迎しよう』
『いや…その、気持ちはありがたいが…』

(何故、いつの間にかシードラゴンとジェミニのどちらを俺が選ぶかというような話になっているのだ)

 聖衣と鱗衣から選択を迫られて、嫌な汗を流すワイバーンの冥衣だった。
 しかし、闘衣の暴走を怒った三人の主人たちがそれぞれの闘衣へと説教をし始めたため、火種となりそうな回答をすることからは、幸運にも何とか免れることが出来た。

(−2008/5/20−)

すっかり格納を忘れていたらしきSSを過去ブログより発見…
両手に花2


 双児宮には様々な人間が訪れるが、アイオロスはその中でも足繁く通う者のひとりだ。
 今日も任務帰りにサガを尋ね、その時に背負っていた聖衣箱は双子座の闘衣とともに隣室へと置かれている。
 守護宮では良くある日常風景なのだが、サガの宮には闘衣が2つあった。
 すなわち、ジェミニの聖衣と冥衣である。
 過去の経緯から、ペットの序列を示すケージ位置のごとく、黄金聖衣の方を1段高くして安置されているのだが、そのため、アイオロスが無造作に床へ置いた射手座の聖衣箱はジェミニの冥衣の方と並ぶ事になった。ちなみにジェミニ用の冥衣箱は現在ムウが作成中である。

 見知らぬ黄金聖衣が隣へ来たことによって、ジェミニの冥衣は警戒と敵意をあらわにしたが、射手座の聖衣の方はそんな事を気にも留めずに話しかけた。英雄の聖衣と呼ばれる彼は、持ち主の気質に似て大らかなのだ。

「初めまして、噂には聞いていたけれど君が双子座の冥衣か。双子座の聖衣にそっくりだけど、やっぱり大分異なるね」
「……」
「見た目がシャープだし、色気のある感じがする。聖闘士の身体を守ったり、その力を引き出したりするのは、冥闘士相手とは勝手が違って戸惑うんじゃないか?聖闘士と冥闘士じゃ小宇宙の使いかたも違うし。冥衣は着用者の体を守るよりも、冥衣自体のガードを重視することも多いと聞いたんだが」
「…わたしは、サガが初めての装着者ゆえ、他は知らぬ」
「ああ、そうか。だからサガの癖が色濃いのか」
「癖?」
「闘衣は代々の主の魂というか、想いを蓄積する。そうする事によって戦闘経験値も蓄積されていくんだ。君からはまだサガの匂いしかしない」

 そう言いながら、射手座の聖衣はジェミニの冥衣に鼻を近づけた(※表現はイメージです)。
 しかしその途端に、低く唸るような金属音が響く。
 はっと射手座の聖衣が振り返ると、段上の双子座聖衣が不機嫌オーラを滲み出させながら、重低音を発生させていた。
 双子座の聖衣は冷たい語調でぼそりと呟いた。

「経験豊富で初々しくもなくて悪かったな」
「え、ええっ?そんな事は言っていないぞ、何の話だ?」
「どうせわたしは色気もなくシャープでもない」
「ちょ、ちょっと待て、何を怒っているんだ」

 慌ててフォローを入れようとするも、今度は双子座の冥衣の方が彼を引きとめる。

「人に話しかけておいて、途中でなんだ」
「あ、ああ」
「今はわたしと話しているのだろう」

 射手座聖衣が慌てている間にも、双子座聖衣はどんどん拗ねていく。
 彼が両手に花状態を楽しめるようになるのは、まだまだ当分先の話になりそうだった。

(−2009/9/5−)


戦闘利用以外お断り◆…(タナサガ前提SS「着用状態で」の続き)


 双児宮の控室では、どんよりとした空気が漂っていた。
 といっても、そこに居るのは双子座の闘衣たちだけだ。
 黄金聖衣は太陽のごときその輝きを曇らせ、冥衣は闇の色を濃くしている。
 双子座の黄金聖衣がぽつりと呟く(文中の表現はイメージです)。
「…いざその場になったなら、外れて逃げれば良いのではないか?」
 それに対して、冥衣の方はどんよりと答える。
「女神の守護下にあるお前はそれが可能かもしれぬが、わたしは所属界の神に逆らえるかどうか…」
「不甲斐ない!主がタナトスに辱めを受けようとしているというのに、闘衣としての気概はないのか!」
「我が界の神を愚弄するな、あれは合意だ!」
「…ならばお前は、あの行為を許すのか」
「………嫌だ」
「………だろう」
 双子座の聖衣と冥衣の困惑は、隣室でのタナトスとサガの会話が聞こえた事から始まる。こともあろうにタナトスは『闘衣を着たままのサガを抱いてみたい』などと言い出しているのだ。
 黄金聖衣の方は断固として拒否をするだけでなく、主の貞操を守るつもりではいるものの、過去には数体の黄金聖衣を一瞬で砕いたタナトスだ。力での抵抗が出来るとは思いにくい。
 まして冥界に属する冥衣のほうは、造ったのはハーデスであるとはいえ、その従属神に逆らえるかどうか。

「仕方が無い、主の方へ訴えかけるしかあるまい…」
「どうするのだ?」
 黄金聖衣の言葉へ、真剣に冥衣が耳を傾ける。珍しく二つの闘衣の思惑が一致した空間であった。


 サガは律儀に双子座の冥衣を纏ってエリシオンを訪れた。黒の輝きを誇る闘衣の上を、青みがかった銀糸の髪が流れ、その美しさに厳しい審美眼をもつタナトスの目も細まる。
 タナトスの呼びかけに応え、サガは多少の恥じらいを見せながらもヘッドパーツを外し、サイドテーブルへと置く。
「やはりお前には冥界の色が似合うぞ、サガ」
「…そうだろうか」
 そのまま顔が近付き、唇が重なりそうになったその時。突然室内に湿気と不穏な空気が流れ、サガは恐る恐る発生源たるそちらを見た。

 そこには滂沱の涙を零している双子座冥衣のヘッドパーツがあった。

 サイドテーブルの上から溢れ、床に零れ落ちるほどの滝涙がとめどもなく続いている。
 サガは慌てて乾布を取りに走り、邪魔をされたタナトスはとりあえずヘッドパーツを床へ落して、その頭を踏んづけた。

(−2009/12/6−)

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