HOME - TEXT - ETC - 2013-JUNK1

◆2013-JUNK1

JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW


◆へび年・青銅の蛇…(謹賀新年挨拶で星矢&双子)


「カノン、オフ日だからというのは判るが、新年くらいもう少しきちんとした格好をしてはどうか」
 純白の法衣で新年そうそう母親じみたことを言っているのは、カノンの兄・サガだ。
 慰問にも着用していける格式の身支度をしているのは、ちゃんと理由がある。新年ということで、女神へ拝謁をするために十二宮を登る者がいつもより多いのだ。直接女神へ拝謁のかなう者は、それなりの身分の人間に限られる。そうなると、通行許可を出すサガとしても、きちんとした服装で対応すべきという意識になる。
言われたカノンは、ソファーの上であくびをしていた。
「通行許可なんて小宇宙通信だけでいいだろ。いずれにしろ外へ出て対応するのはお前なのだし、オレは別にこのままで…」
 彼が着用しているのは、冬用バージョンの長袖スニオン服だった。フードのついているタイプもあるのだが、長髪がフードに納まりきるわけもないので、無いタイプを寝着にしている。まともな服はサガよりも余程持っているというのに、宮内ではとことん無頓着である。ただ、無頓着でも顔が良いのと、研ぎ澄まされた小宇宙のおかげか、だらしなくは見えない。※ただしイケメンに限る、という実例だ。

 サガがまた何か言おうとしたそばから、来訪者の気配がした。
「あけましておめでとうございまーす!」
 相変わらず元気なペガサスの声だ。
 新年の陽が昇ると、十二宮をまっさきに駆け上っていく星矢の姿は、毎年恒例のものだった。女神が新年の式典や拝謁などで時間のとれなくなる前に、沙織個人へ挨拶をするために星矢は登って行く。その途中で双児宮へ立ち寄るのだ。

 来客がきたことで、サガが『そらみたことか』という顔をしたが、カノンからすると『青銅に会うのに着替える必要もねえだろ』である。
 その星矢は、勝手知ったる知己の勢いで、居住区に駆け込んできた。迷宮はとうにサガによって解除されている。

 飛び込んできた星矢はリビングのなかを見回し、サガとカノンの姿をみとめると、珍しくカノンのほうへ先に駆け寄って行った。ソファーへ寝そべっているカノンの頭側にまわり、カノンを無理矢理起こすと背中側に回り込む。呆気に取られているカノンの身体へ手足をまわし、関節固めを決めようとしたところでカノンに投げ飛ばされた。
「わあ、何するんだよ!」
 それでもくるりと宙で廻って、壁に激突することなく着地したのは、戦士としての成長の証であろう。
「それはこちらの台詞だ!いきなり人に攻撃をしかけるとはどういうつもりだ!」
「攻撃じゃなく挨拶だよ。巳年だから蛇にちなんでコブラツイスト」
「ほお…今のが挨拶か小僧…」
 カノンの小宇宙が剣呑になってきたため、慌てて星矢はお土産のへび型アイシングクッキー缶をカノンへ押し付けた。『挨拶』をするまえにテーブルへ置いておいたものだ。嘘ではなく恒例の”干支尽くし”のようだ。星矢は妙にまめなところがあり、毎年その年の干支にちなんだ挨拶と土産を置いていく。
 そのことを思い出したカノンは渋々怒りを解いたが、完全には納得していない。

「挨拶なら、何故サガではなくオレのほうを狙ったのだ。兄と比べてオレのほうが技にかかる可能性が高いとでも?」
 サガと比較されたうえ、格下と侮られたのであれば、先輩としてしごき返してやるつもりのカノンだ。もちろん星矢がサガに好意を持っているためにカノンのほうを…などという理由であった場合でも同様である。

 しかし星矢はもじもじしながら、サガの方をみた。
「いや、その、サガにしようとしたんだ。ホントだぜ?だけどサガは何か綺麗な服を着てるから、汚したり皺にしたら悪いと思って…破ったら弁償しなきゃならないし…」
 ぼそぼそ言い訳をする星矢は、孤児院育ちの超庶民でもあった。
 近づいてきたサガが、ぽんとカノンの肩を叩く。
「だから、新年くらいきちんとした服装をしなさいと言ったろう」
「………」
 穏やかながら、勝ち誇った(と見える)顔のサガがカノンには気に食わない。

「オレはお前と違ってきちんとした下着を履いている」
「……ほう…」
 星矢の前でそんな風に言い返したため、新年早々千日戦争が勃発しかけた。

 その緊迫した空気を破ったのも星矢だった。
「第1案のコブラツイストが駄目なら、第2案の『へびーなキス』とかはどうかな」
 言っている内容は大人向けだが、肝心の星矢に邪心がないため、サガも苦笑するしかない。

「お前はわたしにとっての青銅の蛇(罪からの癒しの象徴)だ。それゆえ、おまえ自身からの祝福のキスであれば、それだけで嬉しい」

 サガが穏やかに、そして真剣に応える横で、カノンが「頬にまでだぞ」と注文をつけた。

2013/1/1
◆接待初夢…(サガ&カノン)


 年明け早々、カノンは眉をひそめていた。
 しかめっ面のまま、ふたり分の朝食の支度をしていると、サガがこれまた眉間にしわを寄せて起き出して来る。
「おはよう、サガ」
「おはよう、カノン」
 挨拶をしたあとに微妙な間が生まれる。
 無言の空間を打ち破り、まずはサガが話しかけた。
「カノン、どうであった?」
「お前と同じ心境だ」
 以心伝心がすぎて省略形の会話になっているが、二人の間ではきちんと伝わっている。
 カノンが憤然とした様子でサガの前へ珈琲を置き、口を開いた。
「ハーデスが聖域との友好の証に、接待モードの初夢を寄越すなどと言ってきたゆえ、女神が対応に困っていらしたが、ヒュプノスは全くやる気がなかったようだな」
 珈琲へ手を伸ばしながら、サガも応える。
「真面目にやってあれなのではなかろうか。いくらヒュプノスでもハーデスの主命を疎かにはすまい」
「どうだか。むしろ聖域への嫌がらせを独断で夢に含める気がするぜ。兄さんのほうは、どんな夢だったのだ」
「108の温泉巡りを24時間以内に制覇する夢だ…。温泉自体はとても嬉しいのだが、廻りきれるわけがないので悔しさの方が先立つ。また、どの温泉にも何故か山の絵が壁に描かれ、湯には茄子が浮かび、空には鷹が飛んでいるという…意味が判らぬ」
「オレのほうは女と酒池肉林系だった。しかし場所がスニオン牢内という時点で全て台無しだ。やはり壁にはどこかの山が描かれていたぞ。酒の肴が茄子で、牢越しに見える空には鷹が飛んでいたように思う。酌をする女はおまえに…いや、美人で良かったが、意味が判らねえ」
 ちなみにカノンが伏せたのは”お前に似た美人”との言葉だ。サガは美形ではあるが女性的とは言いがたい。188p美丈夫の兄に似た女性を美人と称するのも、それを兄に告げるのも、カノンのなかで色々な意味で憚られたようだ。
 二人は顔を見合わせ、ため息を零しながら互いに零した。
「注文を付けるわけではないのだが…」
「接待なら接待で、手抜き接待せずにきちんとリサーチして欲しいよな」
「わたしは接待など不要だ。普通の初夢がいい。お前と二人でいつもどおりに過ごすような」
「それなら夢に期待せずとも、こうして実現しているだろ」
 サガが微笑んだのでカノンも釣られたように笑い、それから用意済みの朝食をとりに台所へ向かった。


2013/1/2 聖闘士全員分の初夢を企画するヒュプノスだって大変だったんです。
◆女性化IF1…(サガとカノン)


 ごろごろとリビングのソファーに転がっていたカノンが、何気なく呟いた。
「サガが女だったらオレが双子座の継承者だったかな」
 隣で本を読んでいるサガは、文字を目で追いながらもすげなく否定する。
「いや、性別関係なくわたしが聖衣を得たろう」
 負けず嫌いであった。カノンも引かない。
「幾らなんでも女の身体と男の身体では戦闘力が違う。負ける気がせん」
「カノンよ、小宇宙とは命を燃やす行為であろう。究極には性別など関係ない。アテナとて女神だが戦神ではないか」
「神と人間は別だろ」
 埒がなくなりそうと見て、サガが提案を持ちかけた。
「よし、では試してみようではないか」
「え?」
「タナトスかポセイドンに頼んで、肉体を一時的に女性へと変えてもらう。わたしが双子座冥衣を着用するから、お前は黄金聖衣を着用して対戦しろ。シードラゴンの鱗衣を着たのでは闘衣の差分が判り難いゆえな」
「え、え?おい」
「お前の言葉を真似るようだが、わたしも負ける気などないぞ」
 どうやら本気のようであった。
 カノンは女性となった兄の姿を想像してみる。しかし、とりたたて想像力に長けているわけでもない脳裏に浮かんだのは、単なる女装姿であったため、その時点で深い精神的ダメージを負う。
(そ、そういえば下着とかどうすんだ、ポセイドン様なら配慮してくれそうだが、タナトスはそんなことは気にするわけない。適当に身体を直して追い返すだけだろう。いやそんな親切だろうか。面白がって手を出したり、いやそれはないか、しかしどっちにしろサガが女物の下着なんてつけるわけねえ。じゃあ何か、やっぱりマッパ冥衣なのか。蹴りをしたときに見えたりしたら…ぎゃー!)
「………」
「急に黙り込んでどうしたカノン」
「オレの負けでいいから絶対にやめろ」

 想像上の戦いでもサガの不戦勝になってしまうのは、カノンの方が常識人であることに8割がたの原因があるのであった。

2013/1/14
◆女性化IF2…(サガとカノンとアイオロス)


 カノンに女体化を拒否されたものの、サガは納得いかなかった。
 ただでさえ負けず嫌いのサガに『オレの負けでいいから』などと言う台詞は逆効果であり、またカノンが理由を言わないこともそれに拍車をかけた。
「こうなったら誰が止めようともわたしは実行してお前に勝つ」
「バ、バカな…そこまでして勝ちたいか。自分が女体化しての勝利などなんの価値があるか!?なんのためにそこまで戦うのだ!」
「カノンよ、聖闘士ならわかりきったこと…女神のためだ!」
「いや違うだろ自分のためだろ。それにその台詞、紫龍のパクリだろ」
「お前が先にシュラの真似をしたのであろう」
 そんなこんなで言い争っていると、通りすがりのアイオロスが不穏な小宇宙を察知したのか、双児宮へ立ち寄ったのであった。
「喧嘩するほど仲が良いというが、お前たち本当に仲が良すぎるのではないか?一体何があったのか話してみろ」
 そうして双方に事情を聴いてみれば、思った以上に下らない発端である。
「二人の言い分はわかった。だが、私闘は駄目だ」
「う…」
「サガ、駄目なのは私闘だから、試しに性別変換するのは止めないぞ」
「アイオロス、それは本末転倒ではなかろうか」
「女性聖闘士の可能性を身をもって試してみるのも良かろう。聖域側としても女性が黄金聖衣を纏った時のデータがあれば欲しいしな」
「それなら、お前がなってみれば良い」
「ええ、俺が!?サガが一緒にやってくれるなら構わないが」
「だが断る」

 隣で聞いていたカノンは、
(こいつらが未来の教皇と教皇補佐って、聖域は大丈夫なのか?)
 と若干の不安を交えながら自分を棚に上げているのであった。

2013/1/15
◆巨額予算…(女神とサガ)


「あの時は聖域に…いえ、貴方に私の存在を伝えるのが目的でしたから、とにかく目立たせようと思って、金に糸目はつけませんでした。オリンピック開催を参考に、主要交通機関からの距離も考えて一等地にコロッセオを建設いたしましたし、宣伝費もかなりつかいましたし」

 懐かしそうに銀河戦争の思い出を語る沙織に悪意はないが、話を聞いていたサガの胃はキリキリ痛んでいた。アテナの決めた手段であるとはいえ、元凶は自分である。自分のせいでそんな無駄遣いをさせてしまったとしか思えない。

「具体的にはいかほど…」

 それでも数値を尋ねたのは彼らしい。情報に正確さを求めずにはいられないのだ。
 しかし、さらりと返ってきた答えが国家予算的な数字であったため、今度こそサガの顔から血の気がひいた。崩れ落ちそうになる膝をなんとか保ちながら訴える。

「畏れながらアテナ…聖闘士の名を出しさえすれば教皇のもとへ情報は届きます。その時点でアレも気づきますので、そこまで金をかけずとも開催は代々木競技場あたりでもよろしかったのでは」

 サガの本音からすると、それだって高額である。

「日本をよく知っているのですね、サガ。でも国の施設を聖闘士のパワーで壊すわけにもいきませんし、何よりギリシアの雰囲気が出ませんもの。そんなところで予算を切り詰めても仕方がないでしょう?」

 これが財閥育ちの金銭感覚か。

「し、しかし、わたしが申し上げるのも何ですが、偽教皇への挑発ということであれば、わたしが聖闘士を討伐に派遣することは予測できたはず。壊されるであろうと判っているものへ、そのような巨額をつぎこむなど」

 聖域予算額の何十年分に相当しそうな金額なのである。教皇として世俗と切り離された生活をしていたサガでも、その金の価値はわかる。今更言っても仕方のないことではあるが、金遣いに思い切りが良すぎではないか。
 青くなっているサガを見て、沙織はころころと笑った。

「大丈夫ですよ、保険はしっかりかけておりましたから」
「そ、そうなのですか…?」
「銀河戦争の世界各国TV放映権の収入もありますし、チケット代…これは後半分を払い戻ししなければなりませんでしたけれど、グッズやパンフレット販売も致しました。オフィシャルホテルとした近隣の系列ホテルは連日満室、飲食系の企業でも随分儲けさせてもらいましたので」
「……」

 当時、命を狙われていたと言うのに、随分と精神的に余裕があったようだ。
 尊敬するアテナの世俗的な辣腕ぶりに、サガとしては微妙な顔をするしかない。沙織はにこりと女神の笑顔をみせる。

「それに、幾らかかろうとも、お金など所詮は人間の流通貨幣ではありませんか」

 女神にとって、マネーゲームは言葉どおり、ゲームに近いのかもしれなかった。神の能力と祝福があれば、金など簡単に増えていくだろう。

(アテナに任せれば聖域の収入や経済規模は飛躍的に向上するに違いない。だが、財政面は教皇や神官などの人間に今までどおりお任せいただこう…)

 それが聖域を健全に保つすべだとサガは思った。

2013/1/21
NEXT