JUNKには、ブログなどで勢いのままに書きなぐった小ネタが5話ずつ格納されています。たまにこっそり加筆したり訂正したり。↑OLD↓NEW
◆とら年…(謹賀新年挨拶で星矢&双子)
年明けの十二宮の階段を、星矢が元気よく駆け上っていく姿は恒例となっている。
神であるアテナが新年の行事・儀式を幾つもこなさねばならないため、それらが始まる前に拝謁(という建前の新年挨拶)をするのが彼の目的だ。
今年も星矢は途中で双児宮に立ち寄り、サガをみつけると子犬のように飛びついていった。それを見てカノンが呆れの視線を向けるのも、またいつものことである。
「サガにカノン!新年あけましておめでとう!」
「おめでとう星矢」
「おめでたいな小僧」
溢れんばかりの笑顔を向けるサガと、ぶっきらぼうながらも挨拶を返すカノン。他人に迎合することを嫌うカノンも、一回り以上年下の星矢に対しては割合と優しい。もし成人以上の他者が同じ事をサガにしたならば、瞬時に双児宮から叩き出しているだろう。
星矢はガサガサと紙袋を開き、中を見せるようにしてサガへと差し出した。
「今年は手土産を持ってきたんだ。これだけど」
「何だろう?」
サガが屈んで覗き込んだ途端、星矢はその頬へとキスをしたのだった。
目を丸くしたサガへ、星矢は笑って片目を瞑る。
「われ奇襲に成功せり!」
「…なるほどな」
驚きつつ直ぐにいつもの落ち着きを取り戻したサガは、星矢の額にも祝福の口付けを落す。星矢は袋の中から紅白2つの饅頭を取り出して「二人分だよ」と渡した。
そのあと星矢はカノンへも同じように頬へキスをさせてもらってから、上宮目指して走っていった。
慌しく星矢の去っていった方向を見上げて、カノンが首を傾げる。
「今年は干支とやらに関連してないのか?」
「何を言っている、今年は寅年だろう」
サガは部屋を横切り、星矢にもらった饅頭の白い方をカノンへ手渡した。
「ワレ奇襲ニ成功セリ…日本でこれを意味するところの電信といえば、『トラ トラ トラ』しかあるまいよ」
今度はカノンが目をぱちりとさせている。
そして受け取った饅頭に目をやると、包み紙には日本の和菓子屋・虎屋のマークが入っていたのだった。
2010/1/1
◆とら年プラス…(上記の続きでロスサガ)
「俺なら奇襲なんてしないな。正々堂々と宣戦布告させてもらおう」
アイオロスがサガの顔を覗き込み、顔を近づける。
サガは指先でアイオロスの唇を制した。
「その宣戦布告、受けるわけにはいかない」
「どうして?」
「わたしは、もうお前と戦いたくないのだ」
だから、とサガは指先を追うようにして、ふわりとアイオロスの唇を自分からキスで塞いだ。啄ばむだけの優しい口付けであったが、アイオロスは見事に金縛りとなっている。
「さりとて全面降伏するつもりもない。そうなると同盟を結ぶするしかないだろう?今のは友好の印だ」
戦いたくないと言っておきながら、挑戦的な瞳で見つめるサガを前にして、アイオロスの方が両手を挙げて完全降伏の姿勢をとった。
2010/1/1
◆二人の王様…(黒サガ+アイオロスの会話)
アイオロスと黒サガが衝突することは意外と少ない。
黒サガは基本的にアイオロスを避けており、アイオロス側からはサガに対して喧嘩を売るような真似をしないからだ。
しかし今日は様子が違っていた。人通りも多い公道の真ん中で、二人が一歩も引かずに睨みあい対峙している。原因はシオンから二人に任された今後の改革用草案だ。
遠慮のない大声が、喧々諤々と高い空へと響き渡っている。
「素直に教皇に従わぬ古株の神官など、さっさと事故に見せかけて粛清してしまえば良かろう!」
「出来るわけないだろ!それに何でも殺せばいいってものじゃないんだよ!だいたい、君の施政の時に勢力を増した暗部の連中だってやっかいだよ!というか、君が一番教皇に素直に従わない人間の筆頭だよ!」
「口の減らぬ男だな!掃除屋はいつでも需要があるものだ!あれは聖域の闇を制御するのには必要な組織なのだ!」
「利権のために無理矢理需要を作ろうとする勢力が出てくるから!」
「それは暗部に限らんわ!増長したらデスクイーン島へ追い出せ!」
「じつは意外と人を動かすのに幻朧魔皇拳を乱発しないよね君」
「あれは後々面倒なのだ。長期的に融通が利かぬしな」
「まあ洗脳や殺害よりは、島流しのほうが穏当かな…でもデスクイーン島で群れられても困るんだよ」
「その時は乙女座をまた送り込めばいいだろう。しかし、それは聖域で圧するか島流し先で粛清するかの違いだけではないか?」
「粛清の様子が人々の目に触れるか触れないかは大きいよ。それに、二段階査定にして復帰の機会も与えた方が、人材の更生に繋がるんじゃないかと」
「面倒な…しかしそもそも、本気を出した貴様の『正義』に逆らえる者などおるまい。島送りより貴様の目の届く範囲で飼い殺される方が堪えるかもしれん」
「あれ?もしかして褒めてくれてる!?」
「嫌味に決まっておろう!ともかく、貴様やシオンを怒らせる怖さを知らぬ者は、一度痛い目を見てみればよいのだ!」
二人が喧嘩したその日の午後には、何故か不穏分子が大人しくなりました。
2010/1/6
◆2010節分…(サガ+女神)
今日も衛星放送で日本の情報を欠かさないアテナ沙織である。
日本は節分の日ということで、画面には豆を撒く各地の行事の様子が映し出されていた。幼稚園では子供たちが手作りのお面をつけた鬼へ楽しそうに豆を投げつけている。微笑ましい風景だった。
紅茶を運んできたサガがそれを見て目を細める。
「アテナよ、あれも日本の風習ですか?」
「ええ、日本式の立春前日の季節行事です。豆を撒くのですよ」
カップを受け取り沙織も微笑んだ。サガは日本出身の沙織を慮り、日本の事を知ろうと努力をしてくれている。そして沙織が聖域で過ごしやすいようにと骨を折ってくれるのだ。
サガは画面を見ながら、感心したようにほぅと息を零した。
「”まめに働けるように”との願いを込めるのですね。働かぬものに投げつけて勤労を促すとは働き者の日本人らしい行事です。我々も見習わねば」
「サガ、お正月に説明したお節料理の由来と混ざっているようですが、微妙に違います」
沙織は微笑みながら、今日も冷静に訂正しておいた。
2010/2/3
◆寂しいと思う幸せ…(ロスサガ)
サガは己の孤独に構わぬ人間だ。
しかし、黄金聖闘士でありながら気さくで誰にでも優しい彼は、人々から慕われ、いつも大勢に囲まれている。周囲が彼を一人にしないのだ。
だから昔の俺は、サガのそんな性質どころか、その孤独にすらほとんど気づかなかった。時折のぞく翳りは、聖域の将来を担ってゆく責任ゆえの自戒あたりであろうと軽くみなしていた。黄金聖闘士は多かれ少なかれ孤高であるものだから。
身の内に秘めたもう一つの人格を隠し、弟のことまで隠さなければならない環境は、サガの対人感覚をだいぶ歪めたのではないだろうか。大勢の中に居ながらも他人に心を許すことが出来ず、また内面から他人のように語りかける存在があるという状態は、通常の意味での孤独というものを彼に理解させなかっただろうとも思う。
そして、彼の周囲にいた人間は、その後ことごとく彼の半魂によって排除されるか、配下として取り込まれた。そのこともサガの孤独を深くした。潔癖なサガは、己のせいで居なくなってしまった者に関して、自分が傷ついたと感じることすら許さなかったし、巻き込んだ者に対して寄りかかるような真似はしなかった。
大切な者を求める資格など全くないと考え、それを寂しいと思う感情を封じてしまったのだ。
それは心の空虚を埋める術も知らないという事を意味する。
ぽっかりと幾つも空いた穴をそのままに、サガは13年間過ごした。サガは他人には優しかったけれども、自分自身に対してはたいそう厳しい男だった。
彼は己の孤独に構わぬ人間ではあったが、それが平気であったわけではない。
むしろ、とても寂しがりやだったのだ。
「なあサガ。13年のあいだに、俺がいなくて寂しいと思ったことある?」
傷をえぐる台詞だよなあと思いながら、俺は尋ねてみた。
サガはまじまじと俺の顔をみて、そして首を振る。
「いいや。そのような余裕はなかった。お前を思い返すことは何度もあったが、それは寂しいという感情ではなかったように思う」
「ふうん」
サガが珍しく人馬宮へ立ち寄っているのは、双児宮へ戻ってもカノンがいないからだ。彼は海将軍としての任務で海界に行っている。
「じゃあ今、カノンが居なくて寂しい?」
「まあ…そうだな」
迷いながらも即座になされた言葉を聞いて、俺への台詞との差に少し拗ねる。
サガは俺の反応に気づいたのか、少し微笑んだ。
その笑み方が子供をあやす時のそれのようで、俺は本格的に拗ねた。
「カノンの時は寂しいと思うのか」
するとサガはそっと近寄ってきて、椅子に座っている俺の肩に手を置いた。
「いつでも会える者に会えぬのは寂しい…だが、寂しいと感じるのも楽しい。元気にやっていると知っている分には辛くない」
サガの声はいつでも穏やかで、荒げられたのを聞いたのは13年前のあの夜くらいだ。
「アイオロス、お前の失われていた時間はとても辛かったが、お前は光となって常にわたしを助けてくれた。だから寂しくはなかったのだ」
嘘ではないのだろう。けれどもそれは、死んだ者だけがサガの傍にいられるという意味でもある気がする。俺はサガを抱き寄せた。
「君が遠くて、俺は寂しい」
「わたしは此処に居るのに、どうして?」
「心に入れてくれないから」
サガは驚いたように息を呑み、それから『そんなことはない』と小さく吐息をついた。
2010/2/9 人馬宮に自分から来る時点で、サガ的に超ロスラブですよ。