1. 除算→ 乗算 …(双子)
2. 二つの心 …(白黒・ロスサガでシュラ黒なサガ)
3. 連携技 …(双子とLC神々)
◆除算→ 乗算…(双子)
『カノン、星矢がケーキを1個置いていってくれたので、半分にして一緒に食べないか』
双児宮へ帰る途中だったオレの脳裏に、サガからの小宇宙通信が届いた。
またあの小僧が遊びに来ていたのかと思うと同時に、半分にしようというサガの言葉で昔を思い出す。
今でこそサガと並び立ち、もうひとりの双子座の聖闘士として表の世界にいるが、昔のオレはジェミニの隠されたスペアであり、この名と存在を知るものはサガ以外ほぼ皆無だった。
だから今日のような誕生日であっても、祝われたのはサガ一人。
サガは受け取った品物や菓子を必ずオレの元へ持ち帰り、『半分にしよう』と言ったものだった。
聖域では貴重な嗜好品である一片のケーキを、絶対に一人では食べようとしないサガが、救いでもあり疎ましくもあったあの頃。サガのおこぼれを貰うかのような気分になり、渡された半分を払い捨てた事もある。
(サガもオレと同じ歳の子供にすぎなかったのにな)
兄にある意味、甘えていたのかもしれないと今なら思う。
大人になった今なら、サガの好意を素直に受け止める事が出来る。それに、他の奴がサガにくれたものだとしても、サガからオレに分けた時点で、それはサガからの贈り物だ。 そう思うことにしよう。
「ただいま」
そう言って双児宮の居住区へ足を踏み入れたオレは、テーブルの上にある物体に目を丸くした。
そこにあったのは結婚式の二次会に出てくるような、15人分は確実にある長方形巨大ケーキ。
「待っていたぞカノン。二人で半分こしよう」
皿を既に用意しているサガが、フォークを片手に待ちきれぬといった風情でニコニコしている。
「ちょ、待て!お前、ケーキは1個だと…!」
「見てのとおり1個だぞ。星矢がお前と私の二人にプレゼントしてくれたのだ」
「食いきれるかー!!!甘党のお前と一緒にするな!」
そのケーキは『サガの』ではなく『サガとオレの』だった。
現実はオレの予想を大きく外れてのしかかってくる。
「食べ切れなかったら、皆にお裾分けすればいい。私は一人で食べきれる自信があるが」
「何者だよお前…」
昔、サガ一人が貰ったケーキは、オレとサガの二人で分けることが出来た。
それは半分が二倍になった二人分の幸せ。
あの頃のそういう二人だけの世界も悪くないが、仲間がいる今のサガとオレが二人で貰ったケーキは、同じ半分でも、皆にまでお裾分けをすることが出来る。
半分が何倍にもなる幸せがどうにも照れくさく、つい乱暴な口を利いてしまうオレを、サガは軽く受け流して楽しそうにケーキを切り分けていく。
前言撤回、オレはまだまだ子供だと思いつつ、早速サガの取り分けたケーキをパクついたのだった。
(2008/6/1)
◆二つの心…(白黒・ロスサガでシュラ黒なサガ)
「お前は常に私を取り込もうとしていたな」
白サガが内なる半身、黒サガへと静かに語りかける。
「野望を捨てたお前にならば、取り込まれてやっても良いぞ」
そう伝える白サガの目は湖のように静かで澄んでいた。
『…何を考えている』
対して、内面の思念で返す黒サガは、どこか歯切れが悪い。
「今日は私達の生まれた日だからな」
白サガは投げやりともとれる簡潔さで応えた。
「一人の私として共に祝われるのも、悪くあるまい」
『何が”悪くないだ”』
黒サガが吐き捨てる。
『お前は、お前として祝われる気がないだけだろう。その事に私を利用するな』
「お見通しなのだな。だが、多少はお前に私を与えて良いと思っているのも本当だ」
白のサガはひっそりと笑った。
「ただし、私を受け入れるという事は、私のアイオロスへの想いを受け入れるということでもあるが」
その言葉を聞き、黒サガの顔にはっきりと動揺の色が浮かぶ。
「お前が欲しいのはシュラだろう?逆に、その想いを私も受け取ることになるのかな」
『断る』
サガとしての形をとって以降初めて、黒サガは同化を拒否した。
『たとえ一つの存在となったとしても、私の感情は私だけのものだ』
「…そうだな。だが、二つの意識を持つという事は、二人の相手を想う言い訳になるのだろうか」
白サガは冷たく笑った。白サガはその言葉の刃によって自らを傷つける。
「まあ、私は別に成就を望んでおらぬ。それゆえ、同化した折には私の方の想いを捨てても構わない」
『そうしたいのか?』
黒サガが問う。
「私はアイオロスが幸せであればそれで良い。むしろ私の想いは彼の輝きの妨げとなるだけ」
当のアイオロスが聞けば、そんな勝手なと怒りそうな内容だが、白のサガは本気でそう思っていた。
『勝手にしろ。だが私を巻き込むな。というか私は別にシュラの事など、あれは便利な男だから側に置いているだけであって』
「…そうか」
素直でない黒サガの言い訳を、白サガは苦笑しながら聞いてやった。
(2008/5/31)