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◆海龍サガシリーズ

御礼PIC「サガ&カノン」設定より発生。正式な海龍であるカノンがサガを海界側へ呼び寄せようとするお話。

1.海龍サガ1 / 2.海龍サガ2 / 3.オラクル /

海龍サガ1

 カノンの策略によりシードラゴンの鱗衣を身にまとったサガは、程なくして意識を失いました。鱗衣を通してポセイドンがサガの小宇宙を封じ、海龍としての記憶を植えつけたからです。
 難なくサガを海底神殿へ運んだカノンは、まずはポセイドンの元へ兄を連れて行きました。 ポセイドンはお気に入りの双子が自分の手元へ戻ってきたのでご機嫌です。さっそく歓迎の宴を開きます。
 海の民もサガなら大歓迎です(海龍の兄参照)。カノンの兄がシードラゴンとして海神配下についてくれたのだと勘違いして喜びました。地上の人間と違って海の民はわりと純朴なのでした。

 海界の環境は、水に親和性のあるサガにとって居心地の良い場所です。海の民は気性こそ荒っぽいところがありますが、陽気で信仰心厚く、何より親切でした。
 サガはすっかり馴染んでしまい、自分も海の民の一員だとばかり思い込んでおりました。今日もカノンと仲良く海界の為に働いています。

 双子&海界的には大層幸せだったのですが、自分の黄金聖闘士を取られた女神が黙っているわけがありません。そこで、まずサガに小宇宙で語りかけようとしたところ、ポセイドンの小宇宙にブロックされてしまいました。
 サガの忠誠心から考えて、自分の意思でポセイドンの元へ行くわけが無いのです。さっそく女神はポセイドンに抗議しました。

「ちょっと叔父様、どういうことかしら。教皇補佐を持っていかれると聖域としても困ります」
「ケチケチせずに貸し出せ。それに、どう見ても聖域より海界の方がサガの精神状態には良い」
「それはそうなのですけれど…」

 確かに、サガがこの聖域に居ても過去が重いだけです。サガ自身は決して弱音を吐かず、昔と同じ柔らかな笑顔を浮かべて罪を償うべくひたすら働いてきました。けれども、辛くないわけが無いのです。
 ここはポセイドンに貸しを作る形で、サガに精神休養をさせようと女神は妥協しました。
「わかりました。その代わりサガの様子見のため、定期的に黄金聖闘士を一人そちらに派遣します」
「カノンが居るではないか」
「ことサガの事に関すると、カノンは貴方の味方をするようですからね」
 今度はポセイドンが妥協する番でした。

 この話を聞いた黄金聖闘士たちが、一人どころか半数は押しかけて海界が迷惑したのはまた後の話。


(−2007/1/11−)
海龍サガ2

「兄さん、ちょっとオレの代わりに冥界へ行ってくれないか?」

 突然弟に手を合わされて、サガは怪訝な顔をした。それまではソファーにもたれ、古文書に目を通していたのだが、肩をすくめて向き直り、カノンを見上げる。
「頼む前にまず、事情を説明してくれ」
 カノンは頷いて向かいの椅子へと腰を下ろした。

「まあ…海界にも三界の和平に不満のある不穏分子がいるわけだ」
「ふむ、それはどの界にも少なからず過激派はいるだろう。それを抑え、まとめるのが海将軍筆頭であるお前の役割ではないのか?」
「ああ、そうなのだが、オレが居るときには却って用心するのか地下へ潜伏化してしまってな。それで、オレが暫く冥界での交渉で留守であるという状況を作りたいのだ」
「なるほど、私がお前の振りをして冥界へ向かい、その間にお前がその連中の尻尾を掴むという心算か」
「ご明察」
 サガは、カノンの言葉にますます呆れたように肩をすくめた。
「そういった海界の内情を聖域の黄金聖闘士に明かすとは、お前はバカなのか?しかも公私混同だ」
 しかし、カノンは口の端を歪めてニヤリと笑った。
「この程度、内情のうちに入らないさ。それに…」
「それに?」
「ポセイドン様も、またサガが海龍の鱗衣を着たところを見たいそうだ」
「何だ、それは」
 目をぱちくりとさせているサガに、カノンはにこにこと続ける。
「むしろ、ポセイドン様的には、こちらが本題かな?」
「思いっきり公私混同だろう!そんな理由であれば断る!」
 眉間にしわを寄せて言い放った兄へ、カノンはワザとらしくがっかりした様相を見せた。
「そうか。では残念だが不穏分子の件はまたの機会にして、オレが冥界に行くからいい。そういえば冥界側の交渉相手は翼竜なんだが、滞在中はずっとアイツの城に泊めてくれるんだってさ」
 ラダマンティスの城に泊まるという内容を聞いた途端、サガは言葉を詰まらせた。かの冥界の重鎮が、弟に対して行き過ぎた熱いライバル心を燃やしていることは耳にしている。
 カノンを同じ屋根の下に送り出すのは、兄としてためらわれた。
「…私が行く」
「ありがとう兄さん。あ、交渉内容はもうほぼまとまってるので、適当に時間稼ぎをして調印してきてくれれば良いから」
 ケロリと言い放つ海将軍筆頭の言葉を聞いて、真面目に偽教皇を務めてきたサガは額に手を当てて嘆息した。
「そんないい加減なことで大丈夫なのか、海界は」
 カノンは兄に手を伸ばすと、その髪をクシャッと撫でる。
「ふふ、心配だったら海界へ来てくれ。いつでも指南役として迎える用意はある。でもまあ、冥界との交渉で海界に不利な事をしようとしても、鱗衣を着ている間は、海神の監視付だから無駄だぜ?」

海界による双子座の兄のスカウト計画は、懲りずにまだまだ続いていたのだった。


(−2007/2/20−)

オラクル…(海神と双子)※エピGネタ交じりです

 聖域から海底神殿へ戻ってきたカノンの機嫌が悪いらしいと海魔女に聞いたポセイドンは、与えてある海龍の部屋へと足を運んだ。
 部屋には厳重な鍵がかけられているが、神である彼の前では用をなさないし、その必要もない。シードラゴンは海神の僕なのだから。
 ジュリアンの姿を写した海神が部屋の前に立つと、鍵はひとりでに外れ扉が開かれた。
 ポセイドンはそのまま悠然と部屋の中へ足を踏み入れた。中ではカノンが主に礼を尽くすでもなく、寝台へうつ伏せに転がっている。部屋には僅かに酒の匂いが残っていた。

「どうした、シードラゴン。聖域で何ぞあったのか」
 人間を軽視する神が多いなか、配下に対して気を配るポセイドンやアテナのようなタイプは珍しい。
 もっともポセイドンは常に人間に優しいわけではなく、地上の民が罪深いと思えば、浄化の為に水の底へ沈めることも厭わないのだが。
 大抵の場合、彼が優しくあるのは自身の支配する海の民と海闘士に対してのみであった。
 カノンはその神の言葉にも敷布に顔を埋めたままだ。
 神前にありながら不敬であると神罰を落とされても仕方の無いところを、ポセイドンは気にも留めずにその寝台の横へ腰を下ろした。そのまま傲然とカノンを見下ろす。
「お前がそれほど落ち込むという事は、またジェミニと兄弟喧嘩でもしてきたか」
「…………」
 カノンがもぞもぞと動いた。どうやら図星らしい。
「いつもの事ではないか。よくぞまあ懲りずにつまらぬ事で、毎回意地を張り合うものだと思うが…」
 この双子は仲が良いくせに、下らないことで反発しあう。直ぐに仲直りをするので、そう気にも留めることもないと思うのだが、今回は珍しく海龍が消沈しているようだった。
「離れているから要らぬ誤解を産みやすくなるのだ。早く海界へ連れ込んでしまうが良い」
 双子を気に入っているポセイドンは、サガごと自分の配下へと抱きこんでしまう目算でいた。
 サガに限らず聖闘士全般に対して、アテナなどよりは自分に仕えた方が処遇も良かろうと本気で思っている。しかし、それをアテナの前で言うと角が立つので、サガの勧誘はカノンに任せているのだ。

 カノンはごろりと仰向けになると、ポセイドンを見た。キツい目元がやや赤らんでいるのをみると、大分酒を飲んでいるようだ。彼が酒に飲まれるのは珍しいことだった。
「ポセイドン様…オレもそう思うのだが、サガはオレより聖域が好きらしい」
 ぼそぼそと子供のように愚痴を零す。それでも流石に主へ敬称を付けることは忘れない。
「思えば昔からサガはオレの言う事なんて聞きはしなかった。アイツが好きなのはアテナだの聖域だの射手座の野郎で、オレのことはどうでも良いに違いないのだ」
 らしくないカノンの弱音に、ポセイドンは内心やれやれと笑った。ゆるりと手を伸ばして髪を撫でてやる。他の者がそのような事をすれば即座に手を払われるところだが、海神に対してカノンは逆らわない。
「カノンよ。お前は自分のサガへの影響力を、過小評価しているようだな」
 髪を梳きながらポセイドンは優しく諭した。
「お前の兄を甦生する時…あの小娘、いやアテナが一番苦労したのは何か知っておるか」
「いいえ、存じませんが」
「クロノスの絶対神託〜テレオスオラクル〜の言霊をサガから切り離すことだ」
 カノンにとっては初めて耳にする言葉だった。彼は真剣な目になると起き上がった。
「それは一体…?」
「お前のおらぬ聖域での話ゆえ、知らぬのも無理はない。地上を狙うクロノスによって、双子座は強制支配の宣託を受けた。神の言葉は世の摂理と同じ。それを受けたものはクロノスに逆らう事は出来ず、無理にその支配から逃れようとすれば呪いを受ける」
「…どのような呪いを」
「全ての人々に疎まれ誤解され、信じるものによって滅ぼされる。一度死んだ事により、呪いの初期化は出来たようだがな」
 カノンは低く唸った。その瞳にははっきりとクロノスへの憎しみが見て取れる。ポセイドンは宥めるようにカノンに視線を合せた。
「お前の兄はお前に似て強情らしい。精神力も並外れている。たとえ相手がクロノスであろうと、心から屈することはなかった。アレを支配することはとても難しい」
「ハ!アイツが誰かにかしずくなんて想像も出来ない。…女神以外には
 しぶしぶと言った感で最後に付け加えたのを、ポセイドンは静かに笑った。

「ふふ、だがそのサガですら、お前の囁きだけは拒む事が出来なかった」

 カノンがハッと表情を変えた。ポセイドンは笑っていたが、緩やかにその笑顔の種類を変えていた。
「本気で行うお前の誘惑を、アレは拒む事は出来ない。お前にはそういう力がある」
 深遠の淵を思わせる底の知れない微笑を浮かべ、そっと海龍に命じる。
「私のシードラゴンよ。お前の囁きで、あの男の忠誠を小娘から私へと変えておくれ」
 すっかり酔いの醒めた顔をしているカノンをその場へ残し、海神は何事もなかったかのようにその部屋を立ち去って行った。

 海神が姿を消したあと、カノンは寝台の上でぼそりと呟いた。
「オレとて、無条件に神の宣託に従うわけではないんだが…」
 だが、ポセイドンの言うとおりだとしたら。サガが己の言葉にだけは弱いのだとしたら。
 自分の言葉の力を試したいという誘惑には逆らえず、カノンは立ち上がった。
 すぐに聖域へ引き返す用意を始めながら、じっくりと考える。
 
 サガを永遠に自分の世界へと迎えるには、どんな囁きが相応しいだろうか、と。


(−2007/4/24−)
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