1.設定 / 2.JS●edir-R / 3.セキュリティホール / 4.回線遮断 / 5.修復方法 / 6.スキャンディスク
◆設定(以下3分で考えられた適当設定。後で読み直したら本当に適当すぎて言葉もない。)
<サガ>
驚きの高解像度とハイスペック。3Dオンラインゲームをするわけでも無いのに超高価なビデオカードを積んでいる。聖域の接続は現在ISDNなのでいろいろ無駄。いつの日かスーパーコンピュータになるという無茶な夢を持つ。たまにセイフティーモードのはずの黒サガが勝手に出てくる。
<シュラ>
ウイルスバ●ター。パソコンを守る立場にありながら、過去に自分のバグでパソコンの不具合を引き起こし、甚大な被害を出したという失敗がありトラウマになっている。現在サガの守護役。
<カノン>
ネットの海を支配すると意気込む新種ウイルス。どんどん進化してる。シュラが対応策を考える前にサガへちょっかいを出すのが得意。
<シオンと童虎>
UNIXあたり。黒サガに年寄り呼ばわりされるが優秀。
シオンの弟子にLinuxのムウがいる。
<カミュ>
水冷機構搭載の静音一体型。
<アフロディーテ>
MAC。
美術系に強く根強い人気がある。でもシェア少な目。
<アイオロス>
DNAコンピュータ。サガの不得意な分野に強い。計算超速い。でも出力が遅い上、微妙に気まぐれ結果なので、今のところ黒サガになめられてる。
◆JS●edir-R
「ふふ、オレが兄さんを書き換えてやるよ」
「馬鹿な…セキュリティ対策は万全のはずのこの私が!」
「残念ながらオレは新種なのだ。さすがの兄さんも、adobe製品を最新にすることまでは気づかなかったようだな。しかもjavascriptが有効のままだ」
「くっ、それでもお前の誘惑に負けるわけにはゆかぬ」
「はは、せいぜい短い抵抗をするがいいさ。もう少しすれば、兄さんは自らオレに鍵とパスワードを渡すことになるのだからな」
「…!」
「そうなれば、オレは双児宮の主となる。そして、ここを訪れた者も兄さんと同じようにオレの支配下となるだろう。オレはネットの世界の神となるのだウワーハハハハ!」
「…フ」
「何がおかしい」
「カノンよ。私が何の対策もとっていないと思うか」
「何だと?」
「私はこのような時の為にバックアップを取っておいた。汚染された私でも、お前を道連れにして全てをデリートさせることは出来る」
「そ、そんなことをすれば、お前も消去される事になるのだぞ!」
「今の私は消えてしまうかもしれない。だが後悔はせぬ」
「やめろ、兄さん!」
2009/5/19
◆セキュリティホール(※文中の表現はイメージです)
カノンは私の弱いところを熟知していた。セキュリティーホールを的確に探り出し、その箇所を見つけると、愛おしむかのように指を這わせてくる。びくりと反射的に身体が震えた。
「シュラ、排除しろ!」
護衛の筈のウイルスバ●ターに助けを求めるも、シュラは戸惑ったような顔をしているだけだ。
「彼は貴方の弟ではないですか」
仕方が無い、シュラは有能だが危険を独自に判定する能力は無い。
カノンは笑った。
「お前のナイトの前で、汚染してやるよ」
1枚、また1枚と私からセキュリティのベールを引き剥がし、隠された内部をさらけ出していく。最初にカノンが書き換えようとしているのはsystemに違いない。今やむき出しになったセキュリティーホールから、彼がゆっくりと侵入を試みてくる。
「や…めてくれ」
懇願するしかなくなった私を前にして、カノンは目を細めた。それはネズミを嬲る猫のように、悪意無く、それでいて残酷な表情だった。
「サガ、もうお前はオレのものなんだよ。そうだな…シュラは残しておいてやろう。ただし、二度と更新させはしないがな」
レジストリまで書き換えられたら、私はカノンの傀儡でしかない。
命令されるままにFTPのパスワードを手渡しながら、判断力の失われたCPUの片隅で、最奥まで侵入してくるカノンの一部が身体のなかで暴れるのを、ただ喘ぐように感じることしか私には出来なかった。
2009/5/20
◆回線遮断
サガのシステムを手中に収めたオレは得意満面だった。
「兄さん。これからは、オレの言う事だけ聞いていれば良い」
コマンドプロンプトも叩き潰してある。サガはもう自分で処理を実行する必要はないのだし、こんなものいらないだろう。他人が兄さんに命令するのも不快だ。オレだけが兄さんに成すべき事を囁くのだ。
メモリ使用率を強制的に100%近くまで上げられたサガは、オレの腕の中で動く事も出来ずぐったりとしている。もう少し余裕を持たせてやるか。どうせ兄さんの動向は、トラフィックを通じてオレに筒抜けなのだから。
シュラのアップデートを防ぐため、アンチウイルス系のHPには繋げないよう細工は済んでいる。あとはサガに囁いて、幻朧魔皇拳効果のある迷宮を双児宮へ展開させるだけだ。そうすれば、双児宮を訪れた者もサガと同じ運命を辿る。
もう怖いものは何もない。
勝利に浸るオレの耳に、それまで黙っていたシュラの声が聞こえた。
「…サガ」
兄を呼ぶその声色には、微妙に先ほどまでと違う感情があった。
その声と共に、ざわりと空気が変わる。
異変はシステムチェックをするまでもなく目の前にあった。
サガの髪が、ゆっくりと漆黒へと変わっていく。オレは目を見張った。サガのセイフティーモードが立ち上がったのだ。再起動もしていないのに。再起動自体、オレの支配下で出来るはずもないのだが。
サガが顔をあげる。その瞳は紅く、強い意志と傲慢なまでのプライドが垣間見える。
「カノンよ、随分と好き勝手にしてくれたようだな」
静かな怒りに気おされそうになり、僅かに怯んだ。
「な、何が悪いのだ。兄さんのスペックとオレの感染力があれば、世界の支配など容易いだろうが!」
サガはオレの顔を長い間じっと見つめていた。それから視線を移し、護衛の名を呼んだ。
「シュラ」
ただそれだけだと言うのに、シュラは頷き、そしてサガの身体へむけて手刀を放つ。
「な…なんだと!?」
オレは叫んだ。シュラはこともあろうに、ルーターの回線を物理的に切断したのだ。サガの方はご丁寧にも、ISDNドライバを消去している。
「馬鹿な、それではネットに繋げなくなってしまう…他の者を感染させることが出来なくなる!やめろ、サガ!」
慌てるオレに反比例するかのように、サガは楽しそうに笑った。こんな時でもサガの笑顔は綺麗だった。
「私のカノン…お前には、私だけが居れば良かろう?」
傷ひとつない両腕が伸ばされ、オレの首に回される。
サガの世界に閉じ込められたオレは、呆然と抱きしめられていた。
2009/5/20
◆修復方法
回線の切断によって、オレが閉じ込められた事は明白だった。
このままでもサガを汚染するには充分だが、ウイルスであるオレの真価はインターネットを通じての感染拡大だ。いくらサガに命じてパスワードを得たところで、それを外部へ繋ぐ手段がなければ、手足をもがれているも同じ事だ。
「サガ!ここからだぜ!」
叫んでみても、サガは電気節約などといってスタンバイ状態になってしまっている。代わりにシュラが返事をしてきた。
「IME(日本語変換システム)は壊れていないはずだが…?」
「うるさい、言い間違えただけだ。それにオレはATOK派だ」
むしゃくしゃしてきたので、サガの個人フォルダを勝手に漁ってみたものの、アダルト画像の1枚もない。恥ずかしい映像でもあれば、それをネタに脅してやろうと思ったのに、我が兄ながらつまらない奴だ。何が楽しくてネットに繋いでいるのだ奴は。
シュラがオレの行動を見て、呆れた顔をしているのがまたムカつく。
大体、閉じ込められたとしてもサガと二人だけならばそれも良いと思う。
だが、何でこいつが当たり前のようにサガの傍にいるのだろう。
シュラはオレに対しても、当然のごとく話しかけてきた。
「カノン。書き換えた箇所を俺に教えてはもらえまいか」
「はあ?」
「アップデートをしない限り、俺には修復方法も判らない。だが、お前が書き換え部分を教えてくれたら、どうにかなると思うのだ」
今度はオレが呆れの視線を向ける番だった。こともあろうに、こいつはウイルス本人に修繕方法を尋ねようとしているのだ。
「お前は金で雇われているだけの有償ソフトだろう。金の分だけ働けばいいんじゃないのか」
すると、シュラはこんな事を言い出した。
「俺は昔、バグで数多のパソコンを稼動不能にした事がある」
それは聞いたことがあった。いまサガがされているのと同じように、メモリを圧迫させて落とすという、ウイルス顔負けの活躍だったらしい。その時は有償ウイルスソフトなどと言われ、かなり批判もあったように思う。
「だがサガは、そんな俺を信じてくれたのだ…俺はサガに応えたい」
真摯に話す口調は実直そのままで、何となくオレは目を反らした。
ああくそ、ムシャクシャする。
「サガは貴方のことも、信じていると思う」
「うるさい!」
オレは、汚染部分の修正方法をウイルス定義ファイルにまとめて、シュラへと叩きつけた。
2009/5/22
◆スキャンディスク
「シュラ、入浴の時間だ」
サガが仕事の手を止めて、俺に声を掛ける。
彼を洗うのは俺の仕事だ。隈なくすみずみまで彼の身体を調べ、汚れは洗い落とし、ウイルスなどの瑕疵があれば手当てを行う。
サガは元々綺麗好きかつ整頓好きで、暇さえあればデフラグをしている。やりすぎはディスク装置の寿命を縮めるような気もするのだが、そこは神業ともいえる手管で、彼の手にかかると無駄な空き容量やファイルの断片化が全く発生しない。
デスクトップには使われていないアイコンなど1つもないし、ディスククリーンアップは万全だし、保存データは外部記憶媒体へ残しているため、彼はいつでも出荷時とかわらない美しさだ。その彼の身体へこうして触れる事が出来るのは、セキュリティソフトの特権かもしれない。
サガがゆっくりと力を抜き、普段は隠された内部までを俺の前へとさらけ出す。そして俺は丁寧に彼を洗っていく。クイックスキャンという方法もあるが、サガはいつでもじっくりと時間をかけて入浴をする。入浴の間だけは彼の処理速度も多少落ちるため、けだるげな肢体をさらしつつ俺だけを相手にする。
ネット散策の際にくっついてきたと思われるいくつかのTracking Cookieの埃を洗い流し、今日もカルテに問題なしとの記載を残した。サガの身体で俺の知らぬ箇所など無い。
長い入浴を終えるとサガはまた服をまとい、多少の恥じらいを浮かばせた顔で「ありがとう」と言う。そして、その後は何事も無かったかのようにさっぱりと仕事に戻る。
サガがずっと俺を護衛にしてくれれば良いのにと、今日も思う。
2009/5/24