13年前の反逆事件で死ぬのがアイオロスではなくサガ。スニオンに閉じ込められていたカノンはアイオロス+女神によって助け出されて改心。二人で聖域の双璧に。一方冥府へ落ちたサガは魔星の導きにより冥闘士化。ラダと出会いこっちはこっちで打倒聖域カップルに。
…という強引すぎるロスカノ VS ラダサガを生暖かく流せる方のみどうぞ(汗)
短めの話が時系列行ったりきたりで進みます。エピG・PSゲーム版の技なども出てきます。あと死にネタもあります(汗)
「カノンは強いだろう?」
漆黒に輝く冥衣を身にまとい、サガはラダマンティスに笑いかけた。
「嬉しそうに言うな。奴の采配のお陰で聖域の防御に隙がない」
翼竜は苦虫を噛み潰したような顔をしている。だがサガの表情をみて苦笑した。
「さすがお前の弟だ」
「アレはしぶといからな。搦め手も厭わぬゆえ、正道に偏るきらいのあるアイオロスの戦略の細部を、上手くフォローしている」
そう言いながら、サガはラダマンティスの首に腕を回した。
「ラダマンティス、今のお前ではまだカノンに敵うまいよ」
「だから嬉しそうに言うなと…オレの技量を見くびっているのか」
ラダマンティスは呆れたようにサガの腰へと手を回す。
「いいや、お前はわたしが見込んだ男だ。わたしが鍛えれば、カノンと相打つほどには戦えるようになるだろう」
それでも相打ちなのかとムっとしかけた翼竜の口をサガの唇が塞ぐ。
吐息が重なり、そして優しく離れる。
「聖域にはいくつか防御の浅いルートがある。そしてわたしは弟のクセを熟知している。撹乱用の雑兵を何名かもらえれば、十二宮までたどり着くのは容易いだろう。ただ、問題はその後だ」
サガは恋人の冥衣へ寄りかかりながら、薄く笑った。
「多少、荒っぽい手を使うことになるが、教皇を…アイオロスをおびき出す。頭を先に叩けばいい。司令塔がなければ、黄金聖闘士は連携が苦手だ」
「お前…」
じ、と元ジェミニの黄金聖闘士を軽く睨みつつ、ラダマンティスが言う。
「理屈をつけて、あのアイオロスとかいう教皇とやりあいたいだけだろう」
サガは、邪気なくみえる表情で首を傾げる。
「13年前は、聖闘士としてのわたしが全力での攻撃を己に封じた。それゆえの不覚を晴らしたいと思うのは、当然の願いだとは思わないか?」
当たり前のように話すサガを、ラダマンティスが抱き込む。
「時折、あの男に妬けるぞ」
「お前こそ、カノンばかり見ているではないか。おあいこだ」
二人は見つめあい、互いに笑うと、もう1度啄ばむだけのキスをした
2008/5/2
〜 2 〜
「俺にはどうしても信じられんのだ」
アイオロスが深く溜息をつきながらカノンに告げた。
二人は向かい合わせに椅子へと座り、難しい顔をしながら顔を突きあわせている。
「兄はオレよりも深い闇を飼っていた。オレの言葉をきっかけにして、それが表に出てきても不思議はない」
どこか翳りのある表情で、カノンも答える。
「しかし…お前の兄は、サガは、それでも女神に刃を振り下ろす事が出来なかった。俺が駆けつけた時だって、俺の拳をわざと受けて…」
アイオロスはそこまで言って、言葉を淀ませた。
「カノン、お前は俺が憎くはないのか。お前の兄を手にかけてしまった俺を」
らしくもなく視線を逸らして、ぼそりと呟くように問うアイオロスにカノンは苦笑した。
「お前も言ったろう。サガはわざとお前の拳を受けたのだと。あいつはお前の手を借りて自害したのだ。お前のせいではないさ」
それでも、カノンの声には深い苦悩の声が混ざる。
「それに、サガが冥闘士になったのはオレのせいかもしれん。オレの馬鹿な言動が、サガをあんな風に…」
改心した今、彼はかつてサガに囁き続けた悪への誘いを深く後悔していた。
しかし、それはもう取り返しの付かぬ過去だ。
「カノン…」
アイオロスは言葉を見つけられず、名を呟いたものの口を噤む。
サガとカノンの過去に何があったのかを、アイオロスは深く知るわけではない。ただ、ときおり語られる寝物語で断片的に聞いた限りでは、兄と弟のどちらも不器用ながら、互いを大切に想いあっていたように感じていた。
双子の間には他人に計り知れぬ絆があり、他人が安易にその関係を評して良いようにも思えない。
それゆえ、アイオロスはカノンが自ら語ってくれる以外を追求した事が無かった。
何も言わぬ代わりに、アイオロスは椅子から立ち上がるとカノンの側へと周り、慰めるように軽くチュっと額へキスを落とす。そのまま頭を抱え込むと、彼の腕の中でカノンは苦笑した。
「オレを責めないのか、アイオロス」
「お前のせいではないと思っているし、たとえそうだとしても責める意味がない。それにお前だって俺を責めないじゃないか?」
「…お前は甘い奴だよ」
その甘さという名の優しさが、自分を改心させたのだとカノンは思う。
アイオロスはカノンの髪を指で弄んでいる。
「なあ、カノン」
「なんだ?」
「俺にはやはり信じられん。サガは確かに闇を持っていたかもしれないが、光のごとき正義感も本物だった。そうでなければ、黄金聖衣に選ばれるはずが無い」
カノンは暫く黙ったあと、小さな声で呟いた。
「…サガのこと、そう言ってくれてありがとな」
女神に刃を向けた上に、冥闘士となったサガのことを良く言うものなど、聖域には殆どいない。
黄金聖闘士の誉れに泥を塗った反逆者として、その名を口に出す事も忌まれるほどだ。
その弟であるカノンへの風当たりも当然のことながら強かったが、戦場におけるカノンの働きが目覚しい事と、教皇アイオロスが彼を補佐として重用していること、そしてなにより逆賊のサガに閉じ込められていたという過去がカノンへの風当たりを弱めた。
幽閉の理由を知るものはアテナとアイオロスしかいない。そのため、人々は血を分けた弟を閉じ込めたサガを鬼のように評し、カノンへは同情の視線を向けたのだった。
『サガは神のような振る舞いで皆を騙した偽善者だった。全く最低な奴だったよ』…人々が手のひらを返したようにそう噂する時、カノンは怒りで全てをなぎ払いたくなる。
本当の事を話すと叫んだ彼を制止したのは、教皇の座を継いだアイオロスだった。
「礼を言われるといたたまれんぞ、カノン。聖戦を前に、聖域での混乱を防ぐため、お前に真実を伏せてくれと頼んだのは俺だ。お前の兄を必要以上に貶め、お前に負担を強いている俺を怒っても良いのだ」
その言葉を聞くと、今度はカノンが腕の中から顔をあげ、アイオロスの頬へと口づけた。
「教皇ってのも因果な仕事だな。だが、オレはお前に従う。お前は思ったとおりに聖域を治めろ。細部はフォローしてやる」
「…ありがとう。頼りにしているよ、補佐殿」
二人は顔を見合わせて笑い、そして覇気を取り戻した顔で聖域の布陣についての打ち合わせに入った。
2008/6/11
〜 3 〜
時の流れぬ常闇の底でまどろんでいたシオンは、突如眠りを妨げる声を感じた。
どろりと形なく溶けていた自我が、その声によって急速に人としての形に戻される。
(誰だ、うるさい…)
それが、死者としての眠りを妨げられたシオンの、最初の意識であった。
次にシオンがしたことは、声の主を睨むために目を開けることだった。
そしてそれをなす事により、冥界において存在せぬはずの肉体が、己に備わっている事実に気づく。
柩の中から身体を起こし傍らを見ると、瓦礫に腰をおろして座る長髪の青年がゆるりと振り向いた。
反逆者ジェミニ。黄金聖闘士でありながら、聖域の最高位・教皇シオンを手にかけた男。
己を殺した男がすぐ側にいる事で、シオンはこの場がスターヒルにおける惨劇の続きであるかのような錯覚に陥った。
(儂は死んだ筈ではないのか?)
サガに胸を貫かれ息絶えたと思っていたのだが、九死に一生を得たのか。
(いや…あのダメージで助かるはずがない)
戦士としての冷静な判断が、その可能性を直ぐに否定する。
なによりサガの姿がその時とは異なっていた。
シオンは眉を顰めた。黄金聖闘士であったはずのサガが、今は闇色に煌く闘衣を纏っている。
「お主、魂を堕したか」
前聖戦を生き抜いたシオンは、その闘衣が冥衣と呼ばれる魔星の印であることを知っていた。
しかし、シオンの知るサガは、悪心に引きずられる事はあったとしても、他者に傅くことなど出来ぬ男だったはず。その相手がたとえ神であろうと。
(儂の死後に一体何があったのだ)
殺された後の聖域について、シオンは知る由も無い。
その疑問を読み取ったかのように、サガが口を開いた。
「わたしは死ぬことによって女神のくびきから解き放たれ、己の宿星を知る事が出来たのだ」
かつて殺害した教皇から刺すような視線を受けても、サガは動じることなく微笑みを向けた。闇の側にありながら、神のごとしと讃えられた彼の輝きはなんら損なわれていない。
戦天使もかくやと思われる美しさを持ち、それでいてどこか深淵をを感じさせる彼に、シオンはますます顔を顰めた。
「愚か者が。おおかた聖域の掌握を果たせず、誅殺されたのであろう」
「…確かにわたしは、貴方を死に追いやったあと直ぐに射手座に討たれた。女神も無事でいる」
低くおっとりとも聞こえる柔らかさで、シオンに告げる。彼はそう言いながらも、全く悔しそうには見えなかった。サガの言葉と表情は見事に乖離していた。
シオンは女神の無事を知り、まずは安堵した。それさえ知れば、この世に未練などない。
しかし、続くサガの言葉でシオンの思いは打ち砕かれることになる。
サガは瓦礫から立ち上がり、シオンへと近づいて柩の脇に膝をついた。
「貴方を起こしたのは、わたしと同じように、冥府での新たなる生を享受する選択を与えるため」
「何?」
「冥王軍へ与しませんか、シオン様」
途端、シオンのまなざしに激しい侮蔑と怒りの色が混ざる。
「…耳が穢れるわ。そのような下らぬ理由で儂を起こすとは」
己が聖域に叛意を見せるかもしれぬと思われた事は心外であり、最大の侮辱でもある。
「死したとて、聖闘士たる者が冥王に膝をつくことなどありえぬと知れ」
にべもない拒否の前でも、サガはその穏やかな語調を変えずに言葉を紡いだ。
「貴方もハーデス様にお会いになれば、あの方の素晴らしさを知ることが出来るだろう…それに、冥府側についた聖闘士はわたしだけではない」
ふっと瞬間、サガの視線がシオンと絡まる。走狗に似合わぬ瞳の真摯さがシオンをはっとさせた。
「わたしは貴方の言われるように愚かゆえ、死ぬまでハーデス様の偉大さを知る事はなかった。しかし、琴座のオルフェなどは生きながらにして恋人を追って冥府へと下り、そこでハーデス様の威光を知ったのちに、そのままこちらで暮らしている。貴方も彼に倣ってはいかがか」
「……!」
シオンは驚愕を抑えられずサガを見つめ返した。
裏切り者の戯言としか思えぬ言葉のなかに、重要な鍵が隠されているのが判ったからだ。
それも聖戦を左右するほどの。
サガほどの男が、意図せず情報を漏らしてしまったのだとは思えない。
罠かとも思う。しかし、サガはフイと視線をそらしてしまい、その瞳から真意を伺うことは出来なかった。
「それはまことか、サガ」
「嘘は申し上げません。…多少は心を動かされただろうか?」
シオンが黙ると、サガは更に言葉を続けた。
「聖域の細部まで知る前教皇の貴方が味方となって下されば、冥王軍としては大変有難いのだが。そう、何の引継ぎも受けていないアテナ軍の現教皇アイオロスよりは、よほど頼りとなるだろう」
今度こそシオンは慄いた。二百余年を聖域の長として君臨した教皇には、サガの言葉の裏に隠された意図がはっきりと読めたのだ。
だが、聖域の反逆者であり冥闘士であるサガを、信じてよいのかが判らない。
(いや、たとえ罠であれ、この誘いを受ける以外にない)
過去の栄光を捨て、冥府の犬となりさがる屈辱を受けても。
「協力をお約束いただければ、永遠の命と若さが貴方に与えられますよ、シオン様」
サガは再び神のような微笑を浮かばせ、甘くシオンを誘った。
勧誘の成功を報告するため、ジュデッカへ向かっていたサガは、ふと足を止めた。
「ラダマンティス、いるのだろう?」
言葉と同時に、廃墟の影が形をとり、翼竜の姿となって現われる。
「フン、気づいていたのか」
「お前に、鼠のような隠密行動は向いていないし、似合わん…おそらくシオンにも気づかれていたろう」
笑うサガを前にしてラダマンティスは不服そうだ。
「…お前等でなければ気づかれぬ自信がある」
サガの笑顔は先ほどシオンに見せた微笑とは異なり、情人にのみ見せる親しみの篭ったものだ。
「わたしを監視していたのだな」
「ああ」
「元聖闘士が前教皇と会うことに不安があったというわけか。そのような諜報は部下に任せれば良いものを。いつもは冥界の蝶を使うではないか」
「お前のことは、オレが直接確かめておきたかった」
無骨に告げるラダマンティスに対して、サガは悪戯っぽく顔を覗き込む。
「わたしを信用できないか?」
「全く出来ん。勝利の妨げとなりそうな不安要素は、少しでも潰しておくのがオレのやり方だ」
肩を竦めて言い放つ翼竜をみて、サガは噴出した。
「恋人であっても甘さを見せぬ、お前のそういう融通が利かぬほどの真面目さが好きだよ」
「お前はオレの側にあっても何を考えているのか判らん。先ほどのあれは何だ」
シオンとの会話を指しているのだろう。
サガの答えは簡潔だった。
「以前に話したアイオロスをおびき出す囮として、前教皇を使う」
「なんだと」
「パンドラ…様の許可はとってある。『適宜に使い捨てよ』とのお言葉だった。彼女は冥闘士を使うよりも、元聖闘士を手駒として冥王軍の兵力を温存することをお望みだ」
「今、呼び捨てにしかけなかったか。いやそれよりも、三巨頭を差し置いて勝手なことを」
「では、今許可を貰おうかな」
まるで悪気なくサガが言うので、ラダマンティスは溜息をついた。
「オレはお前を信じてよいのか」
「いいや」
サガはあっさりと首を振った。そう返されるとラダマンティスとしても大層困る。
「それでは許可をだせん」
「何故?シオンがこちらを裏切るような素振りをみせたら、かりそめの命は直ぐに消えるというのに」
「それはそうだが…」
「ラダマンティス」
ものを頼む立場であるというのに、サガはまるで自分の言い分が通るのが当然であるという態度でいる。ラダマンティスの前でだけ、時折サガはそういう姿勢を見せた。
「…お前への気持ちと、アイオロスを倒したいという願いには、嘘はない」
「その言葉で妥協しろと?」
盛大な溜息を再度こぼし、それでも最後にはサガを許すだろう自分にラダマンティスは苦笑する。
「フン、パンドラ様の意向でもあるのなら、オレが覆せるわけもない。だが、ハーデス様を裏切るようなことがあれば、お前であっても容赦せんぞ」
「そうしてくれ」
サガは僅かに浮かばせた憂いの表情を隠し、ラダマンティスの手を引いた。
「お前は本当に何を考えているのか判らん」
翼竜はそうぼやくと誘う恋人の身体を抱きしめ、パンドラへの報告前にサガが己と暫しの寄り道をすることへの許可も下した。
2008/6/21
〜 4 〜
五老峰に座していた老師が魔星復活の兆しを報告して以降、聖域の守りは格段に強化されていた。
世界各地に散っていた黄金聖闘士も召集され、それぞれの宮に常駐している。
正規のジェミニとなって久しいカノンも例に洩れない。
双児宮を預かる黄金聖闘士として、聖域の軍を統括するアイオロスの補佐として、彼は己の守護宮だけでなく聖域の結界境への注意を常に怠らなかった。
その日、カノンは何らかの脅威を感じ取ったわけではない。空は天高く晴れ、のどかなほどの空気が聖闘士たちの気を緩めていた。異変があったとすれば、女神の結界がほんのわずか、聖域の片隅で揺れたという程度にすぎない。
だが、小さな異変であれ見過ごしてはならない…というのが、カノンの持論だ。正確には、カノンへ黄金聖闘士としての心構えを叩き込んだ、今は亡きサガの持論だが。
カノンが時をおかず足を運んだのは、白い墓石の立ち並ぶ嶺丘だった。
歴代の戦士たちが眠る静かな空間で、カノンは小宇宙を伸ばし、結界の確認をするとともに周囲の空間を探る。異次元や迷宮を操るカノンの空間把握能力は、シャカやムウに並ぶほど長けている。
「…?」
カノンは眉を顰めた。
現地で探査を行なうと違和感がはっきりする。感じる事の出来る結界の揺れと、予測される影響との差が小さすぎるのだ。それはあきらかに人為的な偽装だった。それも巧妙な。
カノンは瞬時に警戒態勢をとった。
「出て来い。侵入を隠そうとしたようだが、無駄な事だ」
そう言いながら小宇宙を溜める。相手が姿を現さずとも、カノンは構わず相手を探り出して攻撃を仕掛けるつもりでいた。聖域の中でも重要拠点とは言えぬ片隅の地域とはいえ、結界の弱い部分を的確に突いて来た敵を生かして返す気はない。
用心深く小宇宙の網を広げ、探査に引っかかった気配を捉えると、相手もこれ以上の潜伏は無駄と見たのか、姿を隠す事をやめた。
カノンは内心舌打ちした。現われた相手は思った以上に実力者のようだった。戦士としてのカノンの勘が、相手を只者ではないと判断する。だが、その判断とは別に、身体は先制攻撃をかける。戦場では瞬時であれ迷う余裕などない。
左脚による光速での蹴りは簡単に受け止められたが、それは敵の右背後へアナザーディメンションを展開するためのフェイントに過ぎない。しかし、相手は冥衣の翼を広げて異界が発動する前の空間を凪いだ。その動きから流れるように動作を繋げて右拳でカノンの顔面を狙ってくる。肉体移動では間に合わぬと判じたカノンは、瞬間移動で距離をとった。
冥闘士と対峙したのは初めてだが、敵は黄金聖闘士たる自分と同等の実力を持っている。
(スペクターの実力を甘く見ていたわけではないが、これは対冥王軍戦略を練り直さねばならないか)
相手の攻撃範囲を測りつつ、そのように思考をめぐらせていたカノンに対して、翼もつ冥闘士が思わぬ言葉を吐いた。
「なるほど、サガの弟だけあって、なかなか手強いな」
突然兄の名を出され、カノンの目が驚きで見開かれる。
「お前はサガを知っているのか」
「無論。お前の名も知っているぞ、カノン。栄えある冥闘士の弟が聖闘士などとは業腹だが」
何を言われたのか一瞬理解できず、戦士にあるまじきことに防御の空白が生まれる。相手はその隙を狙って距離をつめ、右肩へと拳を打ち込んできた。カノンの右腕から繰り出される攻撃を封じる狙いはあやまずに命中し、カノンは肩を抑えて更に距離をとる羽目になる。
カノンは精神系の技を操る戦士でもあり、相手の挑発があろうと滅多な事で気を逸らしたりすることなどない。しかし、サガの名前はカノンに対して、それだけの威力を持っていたのだ。
「お前は何者だ…何故サガとオレの名を知っている。しかも、死んだサガの事をまるで冥闘士のように言いやがって」
ひびが入ったと思われる肩甲骨の痛みを無視して、カノンは唸った。
対して相手は顔色も変えない。
「サガは『冥闘士のような』ではなく『冥闘士』だ。お前の名もサガから聞いたにすぎん。アレは双子の弟であるお前のことをよく話していたからな」
「馬鹿な…!」
今度こそカノンは驚愕で固まった。過去の聖戦の記録から、死者が冥闘士となる例があることも知っている。しかし、まさか己の兄であるサガが死後にまで女神に刃を向けることなど、考えもしなかったのだ。
「一方的に名を知られているのも気分が悪かろう。オレはワイバーンのラダマンティス」
絶句したままのカノンを、冥界の翼竜は哂った。
「サガは、お前の死を望んでいる」
「…嘘だ」
「お前が死ねば、冥府で共に暮らせると言って」
「嘘をつくな!サガがそんな事を言うはずがない!」
ラダマンティスの言葉を遮り、カノンは叫んだ。その叫びは敵に対する双子座のものではなく、ただサガの弟としての悲鳴だった。
冷静さを失い、激情から翼竜への攻撃を放とうとしたカノンを見て、ラダマンティスはほくそえんだ。戦いのさなか、頭に血をのぼらせるほど愚かな事はない。ジェミニに対してサガの名がここまで効くとは思ってもみなかったが、効果があると判れば利用しない手はなかった。聖闘士の実力をみてやろうと聖域に潜り込んでみたものの、現われたカノンの実力に内心舌を巻いていたのだが、これならば案外簡単に倒せるかもしれないと即時に計算する。
カノンの攻撃のエネルギーを利用したカウンターで息の根を止めようと身体を動かしかけた途端、しかしラダマンティスとカノンの間に割って入った影があった。ラダマンティスは攻撃の手を寸前で止め、警戒しつつ数メートルの後ろへと飛ぶ。
「ち…援軍か。時間を掛けすぎたな」
「アイオロス、邪魔すんな!」
二人の声は同時だった。
「一対一の戦闘を邪魔してすまない。だが、カノンをこんなところで失うわけにはいかないのでね」
涼やかに告げるその声は、射手座でもあり教皇でもある聖域の最高責任者だ。聖域隅での異変と、カノンの小宇宙の高まりを感じ取り、誰よりも早く駆けつけたのが彼だった。
流石に分が悪いと見て、ラダマンティスは退避に入る。二対一であれ自分が引けをとるとは思っていない。だが、もともとこの侵入は、聖闘士の実力や聖域の地形を知るための単なる様子見であり、万が一にも三巨頭である自分がこのような戦略もない軽挙で倒されるわけにはいかないのだ。
ここは、双子座を負傷させたという思わぬ実績だけでよしとするべきだった。
「ふん、次に会うときにはその首を落とす。サガと同じ顔が聖衣を纏っているだけで気分が悪い」
「黙れこの野郎!」
言葉とともにラダマンティスは姿を消した。なおも追おうとするカノンに対して、近づいたアイオロスがぺしと軽く頬を叩く。
「カノン、ちょっと頭を冷やせ」
「アイオロス!」
「今のお前では追って行っても怪我を増やすだけだ。帰ってその傷をまずは治療する」
「しかし」
「教皇命令だ。何があったかは治療がてら聞かせてもらおう」
有無を言わさぬ迫力で命じられて、カノンは不承不承ながら黙った。先ほど受けたダメージは、自分の失態によるものだと判っているだけに言い返す言葉も無い。
けれども、サガの名を当たり前のように出したラダマンティスの言葉を思い返すと、躯中の血が沸騰する。
(サガがオレの死を望んでいるだと…)
それはスニオン岬に幽閉された過去をもつカノンの、大きなトラウマだった。
サガが本当は自分の事を疎んでいたのではないか、正義を隠れ蓑にして自分を殺そうとしたのではないかと、どうしても心の片隅で考えてしまうのだ。自分の過去の素行の悪さを思えば、それは有りえることだと思う。
そして、その可能性を思うとカノンの心は震えた。
サガの正義によって罰せられたのならば、自分は耐えられる。
しかし、サガがあのとき自分の死を望んでいたとしたら。
「カノン」
アイオロスの呼ぶ声でカノンは我に返った。
「カノン、あいつが何を言ったのかは知らんが、引きずられるな。お前が信ずるところを信じろ」
アイオロスの手が、カノンの怪我のない側の拳をぎゅっと握る。
体温とともに、アイオロスの雄大で暖かな小宇宙がカノンへと流れ込んでくる。それを感じ、カノンはゆっくりと深呼吸をした。
「…悪ぃ、世話をかけたな」
教皇に対する部下の言葉使いとはとても言えないものの、それはカノンの最大級の礼の言葉だった。
次にカノンは黄金聖闘士として、即座に教皇へ報告すべき事由のため口調を改めた。
「猊下、サガが冥闘士として敵にまわりました」
淡々と告げられる双子座の言葉に、新米教皇もまた驚愕で言葉を無くす。
それはカノンが初めてラダマンティスと出会い、サガの冥闘士化を知った日の出来事だった。
2008/7/4
〜 5 〜
教皇の間に座したアイオロスは、黙したまま斥候たちの報告に耳を傾けていた。
数刻前には三巨頭のうち二勢…ミーノスとアイアコスの拠点を突き止めたとの連絡が入っている。しかし、報告に違和感を覚えたアイオロスが、情報を最初に得たという者から話を聞こうとしたところ、聖戦中の緊急報告で伝達経路に混乱があるとはいえ、発見者の名前が特定出来ない。明らかに怪しい。
それでも、罠を覚悟でニ方面へ黄金聖闘士二名ずつと、白銀・青銅聖闘士数名をセットにして向かわせたところ、意外なことにその報告は紛れもない事実であり、体勢の整っていない冥界軍へ先制をかけることが出来たという。そうなると、万全を期して更に黄金聖闘士を1名ずつそれぞれへ向かわせるしかない。
その結果、聖域から離れた二箇所で集団交戦中という現状だ。
その後にもたらされたのが「聖域付近にタナトスらしき敵出現」という報だ。
これも罠、または囮情報である確率が高いとアイオロスは思うのだが、危険度を考えると黄金聖闘士クラスを差し向けるしかない。
そこで、前聖戦を通して冥界の神に詳しい老師〜今はミソペサミノスを解いた童虎〜へと情報確認の任を振った。ただし、あくまで真偽の調査だ。
戦闘となると、神に対して童虎一人では荷が重いため、タナトス本人であった場合には、もう二人ほど黄金聖闘士が割り振られる事になる。
そして、たった今もたらされた報告は次のようなものだ。
『黒い牡羊座の冥衣を纏った者が、聖域の西の森に侵入した』
アイオロスは眉を顰めた。
斥候の挙げた敵の特徴は、亡くなった前教皇シオンに酷似している。いや、死者を蘇らせるハーデス軍のこれまでのやり方を思えば、シオンそのものである可能性が高い。
生前のシオンの性格を思えば、死した後であれ寝返るような事があるとは思えないが、サガの例もあり、自由意志を奪われている可能性もある。
聖域の防衛システムを知り尽くしている元教皇が敵側についたとなると、かなりやっかいだ。早めに潰しておかなければならない。
さりとて、教皇というのは代々黄金聖闘士最強の実力者が任じられる地位であり、対等に闘えるのは同じ黄金聖闘士しかない。といって、女神の護りにも人員を割かねばならない現状では、これ以上黄金聖闘士を十二宮から離すのも危険だ。
「俺が出るしかないか」
アイオロスは呟いて肩をすくめた。
仮に本物の前教皇であった場合、現教皇の自分が対峙するのが礼儀であろうとも思う。
決意したあとのアイオロスの行動は早い。すぐさま指揮系統を一時的にカノンへと委譲し、自分は射手座の聖衣を呼び寄せて装着した。
指揮権を任せられたカノンは何か言いたそうな顔をしていたが、教皇の決定にいち聖闘士であるカノンが口を挟めるはずもない。そんなカノンを見て、アイオロスの方が恋人としての柔らかい表情を向けた。
「戻ったら慰労のキスの1つも頼むよ」
言い終わる前に、アイオロスへ教皇のマスクが投げつけられた。
「やれやれ、とんだ『死の神様』じゃのう」
童虎は、足元へぶざまに転がる冥界勢の雑兵を見下ろしながら、大儀そうに零した。アイオロスの命により調査に来たものの、それは冥闘士にタナトスの幻影を被せただけの偽者であった。
このような雑兵にタナトスの真似事をさせるなど、死の神の怒りを買うのではないかと思われるほどだが、偽装自体は良く出来ていて、童虎を欺くことは出来なくても斥候が騙されたのは無理もない。
しかし、そうなると敵の目的が気になる。
「この幻影のクセ、雑兵に残留する覚えのある小宇宙…これはサガの仕業か」
流石に童虎の洞察は早かった。
「サガめ、何を企んでおる」
まずは教皇宮へ報告をと思念を飛ばすと、カノンが応答に出た。
『何故お主がそこにいる。アイオロス…教皇はどうしたのじゃ?』
カノンが状況を説明すると、童虎は目を見開いた。
『それが目的であったか』
『どういうことですか』
口の悪いカノンも、童虎に対しては敬意を払う。
『サガによる陽動の目的が、アイオロスの誘い出しであるということじゃ。教皇宮の方が現場に近い。直ぐに後を追え!聖域の方はワシが指揮権を預かる』
『サガが…?』
兄の名が出たことによる動揺は一瞬だった。カノンは童虎に了承のいらえを返して小宇宙通信を切る。罠と判った以上、一刻も無駄には出来ない。現在カノンは右肩負傷の治療中であったが、黄金聖闘士レベルであれば、片腕でも充分に戦闘力を持つ。それに、カノンの利き腕は左だ。トップレベルにある敵とサシで戦闘するには確かに不利といえるが、アイオロスのサポートをする分には問題ない。
「ジェミニよ、今すぐ来い」
女神の結界によりテレポーテーションの出来ぬ十二宮を、光速で駆け下りるためカノンは即座に双子座の聖衣を喚んだ。
だが、聖衣が召喚に応じなかった。
「どうした、ジェミニ!」
怒鳴るも、聖衣は戸惑っているかのように反応が鈍い。
聖衣の置かれた双児宮へと飛ばした小宇宙で様子を探ったカノンは、そこに漂う覚えある小宇宙を感じ、その戸惑いの理由を理解する。
「これもサガの仕業か!」
元聖衣保持者であったサガの小宇宙が、ジェミニの聖衣に干渉しているのだった。そのため、聖衣がカノンの元へ飛ぶことなく、どうしたものか迷っているのだ。
常のカノンであれば、聖衣の迷いを前にして、サガの影であった過去への卑屈な思いを浮かばせたかもしれない。だが、今は良くも悪くも、そのような些事に悩む余裕などなかった。
「お前の今の主人はこのオレだ!オレに従え、ジェミニ!」
カノンは全霊で再度叫んだ。
「何故、ハーデス軍などに与されたのです、シオン様」
前教皇を目の前にして、アイオロスは呻いた。
かつてサガに殺された前教皇は、やや苛烈な性格ではあったものの、人格も高潔であり全ての聖闘士たちの尊敬を集めていた。アイオロスもその例に洩れない。
その問いかけにシオンは答えなかった。
代わりに帰って来たのは冷たい視線と宣戦布告の言葉だった。
「次期教皇と見込んだお主ではあるが、まだまだひよっ子。一瞬でカタをつけてやろう」
シオンの周囲に、何か透明な蝶が飛んでいるのに気づいたが、構う余力などない。
それほどシオンの小宇宙は凄まじかった。老いていたとはいえ、この人物をサガが倒せたということが信じられぬほどだ。
だが、そこで却ってやる気の増すアイオロスもまた只者ではない。
「引退した方には、ゆっくりお休みいただきます」
口元に笑みを浮かべ、全力で小宇宙を高めていく。現聖域の長として、負けてやる気は全くなかった。
射手座は中長距離型のファイターだ。翼を持つため跳躍時の滞空時間も長く、空中からの攻撃も得意としている。対人への武器の使用は禁じられているので、シオンへ弓引くわけにはいかないが、小宇宙を矢のごとく圧縮して放つ技の数々で代用出来る。
まずは距離をとり、自身に有利な体勢を整えるため後ろへ飛ぼうとするも、シオンの技が先に炸裂した。
「クリスタルウォール!」
「な…」
透明な壁がアイオロスの背後に現われ、移動路を塞いだ。先制されたからには攻撃が来るものとばかり前面へ防御壁を展開したアイオロスは、裏をかかれた形になる。
シオンは距離を詰めながら、間をおかず技を連続で放った。アイオロスと自分を中心に天地左右、四方を正方形の箱のようにクリスタルウォールで包み込む。その密閉空間を、更にシオンの強大な結界が覆う。
クリスタルウォールはあらゆるものを遮断する。使い方によっては敵の攻撃だけでなく、小宇宙や超能力、念話すらも弾くことが出来るのだ。
(しまった、閉じ込められたか)
狭い空間では、射手座の力を存分に発揮しにくい。
険しい顔になったアイオロスへ、シオンが厳しい言葉を向けた。
「やはりまだお主は未熟…いや、苦言を零す時間などないわ」
攻撃するつもりのなさそうな前教皇の様子に、アイオロスが怪訝な顔を向ける。
「シオン様…?」
「聞け、アイオロス。儂の行動は冥衣や死蝶を通じて冥界側に筒抜けだが、この空間でなら洩れる事がない。しかし、遮断出来るのはわずかな時間。その間に儂の教皇としての知識を全てお主に複写する」
そう言われてもアイオロスは簡単には警戒を解かない。
単純に他者の言葉を信ずるようでは教皇は務まらない。
「この状況で、私が貴方を信用出来るとお思いですか」
「この状況で、お主に拒否権など無い!」
傲慢ともいえる一喝で、初めてアイオロスは苦笑しながらも納得した。この乱暴さはアイオロスのよく知るシオンそのままだ。予知レベルとまで評される己の直観も、シオンの言葉が是であると告げている。
念話の応用で、シオンが意識をリンクさせてきた。
精神を繋いだ途端、溢れるように知識がダウンロードされてくる。
シオンは結界を張りつつアイオロスに精神を繋ぐという離れ業をやってのけながら、更に言葉でも語りかけた。
「一つ。今渡しておるのは、本来であれば時間をかけてお主に伝授する筈であった秘儀の数々。教皇にしか適わぬ女神の聖衣の封印解除をおぬしに任せる」
アテナの聖衣。その場所と封印解除法。
知識が注ぎ込まれるにつれ、その重要性にアイオロスは驚愕した。もしもこの事を知らぬまま神同士の激突になっていた場合、女神の敗北は免れなかったろう。
頭上ではシオンと共に空間に閉じ込められた死蝶が、出口を探して羽ばたいている。
アイオロスは指弾の衝撃波でそれを撃ち落した。
「シオン様、貴方はこの事を知らせるために冥界軍に…」
「二つ。今までは死界へ逃げた冥界軍を追う手段がなかったが、生きながらにして冥府へ降りる法がある」
返事をする時間すら惜しいのか、シオンはひたすら必要事項のみを語っていく。
「琴座のオルフェが存命のまま冥府へと降りておる。その法を得て冥界へと下り、可能であればエリシオンまで渡ってハーデスと双子神の肉体を直接叩け」
一気にそこまで言ったところで、ピシリとクリスタルウォールにひびの入る音がした。
それと同時に、シオンの顔色が蒼白になる。一瞬を置いて、口元から一筋の血が零れた。
「フン…かりそめの命もここまでか…」
「シオン様!?」
「気にするでない。儂が不穏な動きを見せれば、即座に命を取り上げられることになっておっただけだ…それゆえ結界で時間を稼いだが…」
言っている側から、クリスタルの箱が砕け、ガラスのように壁が剥がれ落ちていく。
「ア…オロスよ…の寄越した情報…無駄にするでないぞ」
「シオン様!」
最後の言葉は半分も音声になることはなく、完全には聞き取れない。
名を呼ぶアイオロスの目の前でシオンは塵と化し、砕けたクリスタルと共にきらきらと零れ散っていった。
サガは少し離れた場所で、クリスタルの箱が壊れていくのを見守っていた。その瞳をしかと見開いたまま、ひとかけらも見逃さぬように、強く見据える。
「シオン様、申し訳ありません」
誰にも聞かれる事のない謝罪が、サガの唇から零れたのを知る者はいない。
シオンの結界が完全に崩落した後には、ただ一人立つアイオロスが残っていた。
サガに気づいたアイオロスが、同じだけ強く睨み返す。
先に口を開いたのはサガの方だった。
「シオンも役に立たんな。尖兵として幾ばくかの働きを期待していたものを」
「…サガ」
「もっとも、お前を倒すのはこのわたし。老兵に頼る事などなかったか」
シオンへの暴言を吐くサガへ、不思議と冷静に対することの出来る自分を、アイオロスはどこか客観的に感じていた。
「シオン様をここへ差し向けたのは君か。サガ、君は一体何を考えているんだ」
「お前と戦う事だけを」
対して、サガの言葉は切り返す刀のようだ。
挑発に乗り、シオンのカタキを討つという道もある。
しかし、アイオロスはその道を選ばなかった。
「そうか。だが、俺”達”を相手にするのは、分が悪いんじゃないかな」
顎をしゃくり、視線でサガの背後を示す。
振り返ったサガの視界に飛び込んできたのは、黄金聖衣を纏ったカノンの姿だった。
十二宮を駆け抜けたあと、カノンはアイオロスの小宇宙を頼りに、一気にこの場まで瞬間移動してきたのだ。
一瞬、子供のように目を丸くしたサガだったが、すぐに冷たい微笑を面に浮かばせる。
「成る程…そのようだ。勝算のない猛戦は愚か者のすること」
そして、その氷の笑みのまま、カノンの方を向く。
「わたしの聖衣が良く似合っているぞ、カノン」
「お前のじゃない。今は俺のだ、サガ」
きっぱりと返すカノンの瞳には、なんの迷いもない。
サガは暫し黙っていた。
その沈黙が、小宇宙の溜めであると気づいた時には既に遅く、サガは二人の間へ煙幕代わりの小規模ギャラクシアンエクスプロージョンを放つ。そして同時に、アナザーディメンションで強引に冥府への扉を開いた。
撤退と攻撃を同時に行なうという、シオンに負けず劣らずの力技だ。
アイオロスとカノンが、サガを挟み込むように防御壁を展開した時には、既にサガは冥界へと身を引いた後だった。
アイオロスにしてみれば、サガと死闘を始めるよりも、シオンからの情報を確実に聖域の女神へ届けることの方が重要な使命であり、三巨頭たちとの交戦の結果も気になる。今はサガの撤退が願ったりというところだ。というより、そのように会話で誘導した。
サガが簡単にそれに乗って引いたことは気になるが、無理に追う事はしない。
アイオロスは深呼吸をしたのち、カノンの方を向くとニコリと笑いかけた。
「カノン。待ちきれないで、俺にキスのお届け?」
折角無傷で済んだというのに、アイオロスはカノンからのギャラクシアンエクスプロージョンを食らう羽目になった。
2008/8/26
〜 6 〜
その時のわたしは、黒く濁った水の中を沈んでいくような感覚の中にあった。
意識(と呼んで良いのかわからないが)は混濁としており、彼我の区別は失われていた。
薄れゆく感覚のなか、己が死に向かっている事だけは理解していた。
女神に手をかけようとして果たせず、逆賊としてアイオロスに撃ちぬかれた心臓はとうに止まっている。
ゆるやかに拡散していく命が、闇に溶けていく心地よさ。
このままわたしは眠るのだ。
そう思っていたのに、何かがわたしへ話しかけた。
『お前はそれで満足か』
眠りの邪魔をしないで欲しいと思ったが、その声は強制的にわたしの魂のなかで響いた。
最初はわたしの闇を受け持つ半身の声かと思ったが、その声はこともあろうにハーデスを名乗った。
『混沌の子よ。お前はその生に納得しておるまい』
何を言っているのだろう。納得しようがしまいが、死は平等に訪れるものだろうに。
声を無視して眠ろうとした。だが、ハーデスは声と共にわたしの中へ入り込んできて、わたしの中をゆっくり暴いていった。
『可哀想なサガ。お前は私の眷属であるというのに、女神に名を縛られ、狂わされた』
ハーデスがわたしの中からわたしの名を呼ぶ。冥王の小宇宙が身のうちから波動となって広がる。
周囲の濁った水が、いつのまにか透きとおっていて、温かく感じられた。
多分、変わったのは周囲ではなく、わたしの感覚だ。ハーデスによって、穢れたものを美しいと思うように、捻じ曲げられたのだ。
『お前は大きな未練を持っている』
ほとんど優しいと言ってよいほどの神の嘲笑が、わたしを包む。
『その心残りと未練が、お前を永眠させはしないだろう。私が手を出さずとも』
だからどうしたというのだ。気づかせるな。
そう思っていたというのに、わたしの手は勝手に動いて、身に纏っていた黄金聖衣を剥ぎ落としていった。
その時まで、わたしは自分が聖衣を着たままでいることにも気づかなかった。
いや、わたしが聖衣を着ているはずがない。
死んだときだって、わたしは教皇の法衣を着ていたのだ。シオン様を殺して成り代わっていたのだから。
『それは死した後まで、お前が聖闘士などというものに縛られていた証し』
それを今、捨てさせてやったのだと声は言う。
『お前は認めていない。女神のことも、弟の処遇も、己の運命も。そしてなにより…』
最後まで言わず、声は笑った。対照的にわたしは唇を噛みしめる。
言われずともそれが何を指しているのか判る。わたしの一番の未練。聖衣以上にわたしを縛る生前の楔。
確かにわたしは乾いている。飢えている。納得なんてしていない。
しかし、それを望むのは許されない事なのだ。
『お前の未練、晴らせばよい』
ハーデスの声が優しく響く。
『その願い、許されぬと思うのは、聖闘士などというお前に植え付けられた女神の戒めのせいであろう。本来のお前であれば、なんら禁忌ではない望みであるというのに…むしろ、当然の願いであるというのに』
冥王の小宇宙がわたしを強く包んだ。
その小宇宙は黒く輝く鎧となって、聖衣の代わりにわたしを覆っていく。
これは、わたしの冥衣だ。
誰に教えられたわけでもないのに、わたしはそれが自分のものだと言う事を知っていた。
『思い出すが良い。お前は私が選んだ魔星のひとつ』
その声に頷いたのは、わたしがハーデスの言葉を受け入れたからではない。
ただ1つの未練である己の望みを、叶えてみようと思ってしまったからだ。
その為には聖闘士であることを捨て、冥王の僕として仮初の命も受け入れよう。
あらゆる虚言を駆使して、聖域も冥界の同胞も利用してやろう。
そのように望むわたしは、既に聖闘士であるはずがなく、魔星そのものではないだろうか?
わたしは己の冥衣の羽を広げた。冥衣は深淵の闇を吸い込んで一層輝きを増した。
冥衣の中で、いつの間にかわたしには肉体が備わっていた。
水の中だと思っていた空間にも足場が出来ている。ここはカイーナ城の近くだと思われた。
ハーデスの魂が目の前にふわりと浮かんでいる。
わたしは冥王に膝をつき、新たなる生を与えてくれた事へ感謝の念を述べた。
2008/8/29
〜 7 〜
「珍しいな。サガ、お前がオレを地上へ呼び出すなど」
「戦中の気晴らしに、外での逢瀬も時にはよかろう?」
地上の拠点であるハーデス城からそれほど遠くない町の安宿で、サガとラダマンティスの二人は向かい合って立っていた。
「気晴らしなどしている場合か。冥界軍の立て直しで大変なこの時期に」
「そう思っているのに、出向いてくれたのか」
サガは寝台へと腰を下ろした。スプリングの固そうなマットが、重みを受けてぎしりと音を立てた。
地上の、それも街中へ出るにあたり、当然だが二人とも冥衣を脱いできている。市井の一般人となんら変わりない姿であるものの、風格と眼光の鋭さだけは隠しようもない。
「出向いたのは、お前に話があったからだ」
ラダマンティスの声は静かな咆哮のようだった。三巨頭の地位に相応しい、他者を威圧する声。
しかし、サガはそれをさらりと受け止めた。受け止めるだけでなく微笑み返しさえした。
「最終決戦前のプロポーズとでも言うのならば、もう少し良い場所を指定すべきであったかな」
「茶化すのはやめろ」
ラダマンティスは立ったままサガを見下ろした。サガは腰掛けたまま後ろへ両手をつき、見上げて視線を絡める。
「女神軍との交戦により、ミーノスの軍とアイアコスの軍に甚大な被害がでた件は知っているな」
サガは無言で肯定し、先を促した。
「潜伏先が聖域側に漏れ、先手を打たれた…サガ、それについて何かいう事は無いか」
ラダマンティスの口調は、静かなだけに水面下での激流を思わせた。
「そうだな。お陰で三巨頭の勢力バランスが崩れ、お前が冥界で最も力を持つ将となった。喜ばしい事だ」
「サガ」
もう1度静かに、ラダマンティスが恋人の名を呼ぶ。
「お前が、潜伏地域の情報を女神軍に与えたのではないか」
疑いを突きつけられても、サガの表情は変わらなかった。
「なぜ、そう思う?」
「勘だ」
強い視線の前で、サガは小さく笑った。
「お前は、出会ったときから変わらないな。冠するワイバーンの名のとおり、荒ぶる吼竜のような猛将でありながら、些細な事象も見逃さない。しかし、真っ直ぐすぎて損をしている」
「茶化すのは止めろと言ったはずだ」
「茶化してなどいない」
サガは穏やかに言葉をつむいでいった。
「ラダマンティス。初めてカイーナ城に足を踏み入れた時、わたしはお前を倒して三巨頭の地位を手に入れてやろうと思っていた。冥界で動きやすいようにな」
その場面を脳裏に浮かべ、サガは懐かしそうに目を細める。
「しかし、お前ときたら真面目に執務をこなすあまり、書類や雑務で繁殺されていた。話も出来ぬ有様であったので仕方なく手伝ってやれば、いつの間にか『有能な部下が出来た』と喜ばれてしまい…なんというか、タイミングを逃した」
サガの身体から静かに、しかし潮が満ちるがごとく強大な小宇宙が立ち上っていく。
その意図を察して、ラダマンティスが怒りの声を上げた。
「聖域側に寝返るつもりか…いや、最初からこのつもりで俺に近づいたのか!」
対して、サガは穏やかな声のままだった。サガは少しだけ寂しそうな顔をした。
「わたしは戦士としてのお前を殺す。抵抗しても無駄な事だ、生身同士でならわたしに分がある」
「なるほど、闘衣を置いてくるようにしむければ、有利な戦闘を行なえる上、闘衣を通しての冥王の監視も誤魔化せるというわけか。聖闘士と言うのは頭のまわることだな」
「聖闘士、か」
サガは初めて苦笑した。
「わたしがそうであったなら、お前が弟と戦うことを止めはしなかったろう。もしくはわたし自身が戦ってお前を殺したろう。これからお前の誇りを奪おうとはしなかっただろう…けれども、わたしは冥闘士なのだ、ラダマンティス」
その手に小宇宙が集約していき、キラキラと輝きを増して行く。
「何故、わたしを怪しんだのに、誘われるままに此処へきたのだ」
ラダマンティスの瞳は、怒りのために金色へと変わっていた。
「お前を信じたからだ、サガ」
サガは憂いに満ちた瞳を見開いた。長い睫がわずかに瞬く。
「次はもう少し、信じる相手を選ぶことだ」
幻朧魔皇拳という呟きとともに、魔拳がラダマンティスの額を正確に撃ちぬく。冥衣を持たぬワイバーンは、それを防ぐ手立てなどない。その場へと崩れ落ちかけた身体を、サガが抱きとめて支えた。
「何もかも…わたしのことなど忘れて、地上で生きてくれ」
意識を失ったラダマンティスの身体を、サガは両腕で強く抱え込む。
元恋人の肩に頭をつけ、彼は静かに泣いた。
2008/9/3
〜 8 〜
冥界の奥深く、ジュディッカへ続く暗黒の荒野をアイオロスは駆けていた。
シオンから得た情報を元に、シャカを通じて阿頼耶識と呼ばれるエイトセンシズに辿りつくのは早かった。前聖戦を生き抜いた童虎からは、双子神の能力や嘆きの壁の存在を知る。冥界へ降りる手段さえ手に入れれば、そこでの諜報活動も可能であり、情報の詳細を得るのにそう苦労はしなかった。力を削る結界のある地上のハーデス城近隣よりも、むしろ冥界での戦闘は好都合であるほどだ。現在の冥界軍は統率に欠け、聖域の侵攻や諜報戦に対して妨害の布陣を敷くことすらまともに出来ていないのだ。
何故、健在の双子神が手を出してこないのかとアイオロスは危惧したが、童虎によると二神は人間の冥闘士など駒程度にしか捉えておらず、全滅しようがどうしようが最終的に自分達で対処するつもりなのであろうとのことだった。
双子神とハーデスがいるのは、嘆きの壁の向こう側だ。
最終決戦の地となるであろうエリシオンを目指し、黄金聖闘士たちは各自それぞれのルートで敵を殲滅しながら進んでいる。最短ながら最も敵の守りの厚いルートを攻略しているのは女神とシャカだ。カノンは童虎とともにその露払いを行い、アイオロスは女神に近い横道を抜けることで脇を固める。
時折冥闘士が彼の前に立ちはだかったが、三巨頭以外はアイオロスにとって雑魚とそう変わらない。
(このまま、パンドラのいる最深部の城へ抜けられるか)
そう脳裏で呟いたとき、今までとは桁違いの小宇宙が前方へ揺れるのを感じて、アイオロスは立ち止まった。
「ああ、そう簡単に行かせてはくれないよな…サガ」
目の前に姿を見せたのは、煌く漆黒の冥衣をまとった元ジェミニの姿だった。
「この道を進めば、ジュディッカの神殿…嘆きの壁へと到る」
道の先を指し示しつつ、サガはゆっくりとアイオロスの真正面へと立ちはだかった。
「だが、わたしがそうさせはしない」
そう宣告するサガは笑っているようでもあり、冷たく仮面を被っているようでもあった。
「…君を倒さねば、前に進めないということなのか」
「そうだ。あの時はお前がわたしの邪魔をしたが、此度はわたしがお前の路に立ちはだかろう」
あの時。
それは女神を亡き者にしようとしたサガを、アイオロスが殺した13年前の晩のことであると思われた。
「何故だ。何故そうまでして君は戦うのだ。ハーデスなどに恭順する君じゃあないだろう。俺への恨みか」
「問答無用!」
いらえと同時に、手刀による一閃がアイオロス目掛けて走る。アイオロスはそれを躱しながらサガの足元を狙った。上へ飛んで逃れたサガをさらに光弾で撃つ。それは予測されていたのか、展開されたアナザーディメンションへ簡単に飲み込まれ、異次元の盾の後ろから放ったサガの攻撃・グランドブレイカーが、逆にアイオロスの足場を削る。
そこからあとは大技の応酬となった。連発されるギャラクシアンエクスプロージョンに対して、相殺のインフィニティ・ブレイクを放つ。凄まじいエネルギーの集約に、一帯の空間は歪んで其処ここに穴を開けた。
互いの奥義の爆風でサガの銀髪があおられ、広がりなびく。なびきながら黒く変わる。水晶めいていた蒼の瞳は血の紅へと染まる。
光速の攻防の中、アテナよりもよほど戦神のごとく力を振るうサガは、それでも美しくアイオロスの目を奪った。そして、かつて教皇の間でなされた戦いが、全く彼の実力ではなかったことを思い知らせた。あの時、もしもサガがこの力を発揮していたならば、教皇宮など簡単に吹き飛び、赤子であった女神の肉体もただではすまなかったろう。
爆風の吹き荒れるいま、サガはアイオロスの攻撃によるダメージを負いながらも、確かに歓喜で笑っていた。アイオロスは唇を噛みしめた。口の中で血の味がする。アイオロスもまたサガの手により深手を負っている。
永劫とも思える技の掛け合いの後、互いの小宇宙の全てが篭められた必殺技が、至近距離で同時に放たれた。凄まじい白光と熱量が二人を包み、周囲の水分を気化させながら空へ昇る。大地は抉れ、クレーターとなる。小さな太陽を連想させる技の衝突は、暫し冥界に似合わぬ光を撒き散らし、そして静寂を生んだ。
気を失い倒れていたアイオロスが目をあけると、そう遠くない場所にサガもまた伏しているのが見えた。
もっとよく見ようとして、額から流れこんだ埃まみれの己の血に邪魔をされる。
全身の骨が折れたかと思えるほどの痛みをおして、アイオロスは立ち上がった。超新星に匹敵する爆発の中心にいたにも関わらず、射手座の聖衣には傷一つ付いていない。拳で血を拭い、改めてサガを見やると、彼の冥衣の方は砕けていた。肩あてのパーツは完全に粉砕し、そこから覗く腕は不自然に曲がっている。サガの髪は、いつの間にかもとの色へと戻っていた。
彼も意識を取り戻したのか、うっすらと目が開かれる。交錯する視線のもと、サガは穏やかに目元を緩ませた。
『わたしの…負け だ』
気管支が潰れているのだろう。サガはもう声も出せなかった。口元からは血の筋が流れ、小宇宙によりその意思がアイオロスへと届けられる。
負けたといいながら、サガは嬉しそうだった。
『…やはり…お前を選んだ シオン様は…正しかったのだ……お前は、わたしにまさ』
勝る、と言いたかったのであろう小宇宙は途切れ、げほと血の塊が吐かれる。口元だけではない。背中からも足からも、おびただしい血が流れている。そしてなにより冥衣の消失によって、死者であったサガの命は再び消えようとしていた。
「サガ」
どう語りかけて良いのかアイオロスは少しためらい、己も小宇宙での会話に切り替えた。
サガの聴覚もすでに機能を果たしていない可能性があるからだ。
『何故、君が冥闘士などに』
どうみてもサガは、もう助かりそうになかった。彼が失われる前にその意思を確かめておきたくて、アイオロスは己の回復のための小宇宙をサガへと送る。だがサガは目を伏せ、その力をそっと返した。
『死に逝く者へ…小宇宙…を…分けるくらいであれば…次……闘いに…備えよ』
『サガ!』
念話ですら、サガはおぼつかなかった。
『わたしは…シオン様の…選…択……どうしても…納得いかな……お前と闘っても…いない…のに…』
少しでも念話を楽にさせようと、アイオロスは近づいてサガの隣へ屈み、頬へと手を触れる。肉体の接触を通すことにより、彼の小宇宙の消費を減らすことが出来る。
『どうしても…どう…しても……わたしはお前と…闘…たかった…お前に劣る…と…思えなかった…』
その言葉の意味に気づいたアイオロスが絶句する。
『サガ、まさか君は』
『そう…わたしは、命をかけて…お前、と 闘うために…聖…士である事を…捨てた…』
アイオロスの目の前で、徐々に冥衣が風化していく。それにつれてサガの姿も薄れ始める。
『お前との…勝負が…わたしのただ1つの願い……これで…ようやく…魂を乱されること無く…眠りにつけ…』
『サガ!』
瞳を閉ざしたサガへ、アイオロスがただ名を叫ぶ。
『 …カノン…を…わたしの…大切な弟を…頼…む 』
それがサガの最後の言葉だった。
波に流される砂の城のように、彼の輪郭がぼやけ消えていく。
アイオロスは拳を地面へとたたきつけた。
「違う、君は劣ってなどいなかった!これは闘衣の強度の差だ…!」
射手座の翼がひるがえる。
黄金聖衣は女神の血を与えられ、強化されていた。
嘆きの壁を破壊し、その際の衝撃を受けても各聖衣の持ち主が生き延びるだけの防御力を備え、そしてエリシオンへ続く神の道を越えるために。
現に、今の戦いのあとでも、射手座の聖衣は変わらず輝いている。
いや、聖衣はさらに輝きを増していた。サガとの戦いを経て高められた小宇宙が、射手座の聖衣を神聖衣へと変えていく。
光の翼を背負ったアイオロスの横には、いつの間にかカノンが立っていた。
カノンには、最後のサガの言葉は届いていたのか、いなかったのか。
「いこう、皆であの地獄の向こう側まで」
アイオロスがそう呟くと、カノンは黙って頷いた。
神を倒すために、エリシオンを目指して二人は並んで歩き始めた。
2008/9/9
END