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◆リスタート Ending Version6 (牛師匠と子サガ弟子)
育成

 聖戦後、シオンはサガの蘇生についての裁定を知らせるため、黄金聖闘士を集めた。
 何事かと張り詰める空気の中、カノンも含めて11名のゴールドを前にシオンは次のように述べた。

「サガを生き返らせることに問題はないのだが、どうしても二重人格の矯正が出来なくてな。女神と相談の結果、黒い人格の発生時期まで年齢を遡らせて、教育しなおすことにした」

 黒サガが発生しても、黒サガごと正しい方向に育成すれば問題ないという事らしい。
 カノンは不満そうに顔を顰めた。
「オレが普通に蘇生されてるのに、何でサガがその処遇なんだよ」
「お主を蘇生したのは海神だ。アテナにはアテナのお考えがある」
 女神の決定とあらば異論を唱える事もできず、カノンはしぶしぶ口を閉ざした。
 シオンはゆっくりと黄金聖闘士たちを見回す。

「そこでだ。お主たちを集めたのは、サガの養育係を決めたいからなのだ」

 多少他人事だと思いながら聞いていた黄金聖闘士たちも、ここでざわめいた。シオンは続けた。
「記憶をなくし、幼い子供として蘇生されるとはいえ、黄金の素質を持つ子供を白銀以下に任せるわけにもゆかぬ。弟子を育てた実績からいうと、適任は童虎にカミュ、ムウにデスマスクあたりか?」
 それを聞いたアフロディーテは小声でぼそりと呟いた。
「その面子に任せてサガがまともに育つだろうか…」
 その面子呼ばわりされた数人は軽くアフロディーテを睨んだが、他の者はおおむね同意らしい。シャカなどは率直に「無理だな」と頷いている。
「老師やカミュならば問題ないのではないか?」
 ミロがフォローするものの、
「サガが今以上に脱ぎやすくなったり、踊りだすようになっても良いのか…」
 と、シュラに突っ込まれると何も言えなくなっていた。
 師匠経験者であるムウが遠慮がちにシオンに尋ねた。
「仮に私が引き受けたとして、黒い方のあの人が現れて実力で反発された場合、平和的な対処はいたしかねます」
 サガの実力はそれだけ凄まじく、幼子であろうとサガの側に恭順の意思が無ければまともに教育などは出来ぬだろうという当然の心配であったが、シオンはそれを一蹴した。
「安心せい。師匠となる者はサガの蘇生時に最初に引き合わせる」
「どういう事でしょうか」
「鳥のヒナの刷り込みと同じく、最初に見た人間を親と思い懐くよう蘇生するそうだ」
 それもアテナの決定らしい。
 とたんにアイオロスが手をあげ、カノンが反発した。
「はいはい!私がサガを育てます!」
「ちょっと待て、何で兄弟がいるのに他人を肉親と思わせるんだよ!それならオレがサガを育てる!」
 シュラも二人の後ろでどことなく立候補したさそうな顔をしている。
 シオンは内心ため息を付きながら断言した。
「貴様らは余計な私情が入りそうだから却下だ。サガの貞操も危ないようだし」
「ええっ、子供のうちは乱暴しませんよ!」
「将来の為に、今のうちから理想的な兄に育てたいと思うのが人情だろ!」
 アイオロスとカノンは、一瞬でシオンのうろたえるな攻撃により卓袱台返しされた。

「本当に貴様らには任せられんようだな!この二名以外で育成に向いていそうな者を多数決で採択する。それでよいか!」

 そんなわけで強権が発動され、黄金聖闘士の皆に適任者を推薦させてみると、圧倒的多数で推されたのはタウラスのアルデバランだった。
「微妙じゃの…」
 微妙なのだが、シオンにも文句のつけどころが見つからない。アイオロスやカノンですら『アルデバランなら…まあ…』という反応だ。その安心感と安定感が皆の推薦どころなのだろう。
 人の良い牡牛座が厄介ごとを押し付けられたという部分も無きにしも非ずだが、当のアルデバランは覚悟を決めたのか快く承諾した。

 修行地はブラジルではなく聖域でという条件のもと、サガはアルデバランに養育されることになったが、他の黄金聖闘士(特にカノンやアイオロスや年中組)もことあるごとに押しかけるので、師匠役は皆の持ち回りといった感だ。
 子サガがあまりにアルデバランに懐くのを見てカノンとアイオロスは悔しがったが、他の人間に懐くよりは平和だろうというのが皆の一致する意見だった。
 1年後、アルデバランの膝に寄りかかって眠る黒サガをみたとき、シオンは「もう大丈夫だろう」とサガへ再び双子座の聖衣を継承させる事を決定した。それは、贖罪のため海龍の職に専念したいというカノンの依願でもあった。

 二度目の継承式で黄金聖衣をまとったサガが、真っ先にアルデバランへ聖衣を見せに来ると、本人以上に喜んだアルデバランが号泣し、意外なほどの親馬鹿っぷりを見せたのは後々までの語り草となったのだった。


(−2007/4/22−)
こう書いたものの、実際にはどの黄金聖闘士も立派な師匠になれる印象です

牛師匠

 女神の計らいによって記憶を無くし、幼く蘇ったサガは、弟子としては優等生だった。

 識学においては一を聞いて十を知り、習った事を直ぐに応用できる聡明さを持っている。
 小宇宙の扱い方や戦闘センスに関しては、教えているアルデバランが舌を巻くほどの筋の良さだ。なにより素直で師匠の言う事に逆らわない。

 サガに唯一完璧でないところがあるとすれば、料理の腕くらいだった。弟子として師匠の身の回りの世話をするのも修行の一端だが、掃除洗濯に関してはそつないサガも、料理だけは何故か今ひとつなのだ。
 しかしアルデバランもそれに関しては五十歩百歩であったので大して気にならないし、時折カノンやデスマスクが美味しい差し入れを持ってきてくれるものだから何の不自由もない。随分楽な師匠役もあったものだと思いながら、アルデバランはサガをセブンセンシズの発動に導いた。

 そうして小宇宙が黄金レベルに達すると、サガはときおり人格変異を見せるようになった。
 初めのうち、サガはその内面を恥じたのか黒サガの存在を隠そうとしたが、アルデバランはその二面性を自分や皆が知っている事を告げて、隠匿の必要のないことを諭した。
 するとそのうち、黒サガも師匠が呼べば姿を見せるようになった。
 彼も白サガと同様に、戦うすべや聖域の論理をアルデバランから学ぶ姿勢を見せるのだが、こちらのサガへ聖闘士としての考え方を理解させるのは、多少骨が折れた。黒いサガは実力至上主義とでも言うところがあり、納得のゆかぬ相手であれば、神であろうと従う道理は無いという主張を持っていたからだ。
 ただ、昔と違い今は黒サガを抑えるに足るだけの成長した女神が聖域に在しており、黄金聖闘士たちも未だ幼い彼よりは戦闘経験も人生経験も勝っている。
 そしてなにより地上に対するハーデスの脅威が失われている。
 自分より力があると認める者に対しては黒サガも一目を置くため、以前のように自分の力だけを頼みに聖域を変えて冥界に備えようとまでは考えないようだった。

 師に女神のことを聞く黒髪のサガは、無邪気とさえいえた。
「アテナはアルデバランよりも強いのか?」
「強いぞ。なにせ常勝の戦女神だからな」
「それは一度手合わせをしてみたい」
「ハハハ、お前はフェニックスと同じで男女平等思考か。だがそれはまず黄金聖闘士の誰かに勝てるようになってからだ」
 ちょっと親馬鹿ぎみのところがあるタウラスは、ともすると女神へ対する黒サガの不敬発言を流し気味になるので、ムウなどが同席しているとため息交じりに二人へ注意するのが常だ。
 しかし、黒サガはムウや他の黄金聖闘士に叱られてもしれっとした顔でいるくせに、アルデバランに叱られるとそれなりにしょげるようで、それがまたアルデバランの親馬鹿を加速させるのだった。
 師弟が絆を深めていく一方で、ますます気が気でないアイオロスやカノン及び年中組が金牛宮に押しかける頻度が上がったわけだが、それを師匠目当てと勘違いした黒サガが対抗意識を燃やして彼らの目の前でアルデバランにべったりまとわり付くものだから、問題が余計ややこしくなったのは言うまでも無い。


(−2007/4/26−)
アルデバランとサガは割合と相性が良い気がします(^−^)

教育成果

「聖域に侵入を試みようとしている集団がございます!」
 教皇宮のシオンのもとへ伝令が届いた。平時であれ、女神の膝元であるサンクチュアリでは雑兵たちが警備体制を敷いている。不穏な変化があれば、すぐに教皇は事態を確認できるようになっているのだ。
 もっとも、教皇レベルになると雑兵たちよりも先に、状況を自身で把握していることが多い。今回もシオンはとうに侵入者たちの存在に気づいていた。
「構わぬ、通してやれ」
 玉座に腰を下ろしたまま、鷹揚に伝令者へと命ずる。聖域では教皇の言葉が絶対であるゆえに反駁などは許されない。しかし、まだ新米の伝令者の表情には不思議そうな色が浮かんだ。
 それに気づいたシオンは、親切に説明してやる。
「小宇宙の大きさから言って、そやつらは雑魚だ。小者であるだけに、聖闘士に敵わぬと知ると離散して周辺住民を巻き込まぬとも限らん。面倒ゆえ十二宮の入り口まで誘い込んで、一気に叩かせよ…この程度の相手に黄金を動かすのは勿体無い気もするが、小者のフリをした陽動の可能性もあるゆえ万全を期す」

 納得した伝令者が下がったあと、シオンは金牛宮へと小宇宙を飛ばした。ムウはジャミールへと帰郷しているため、次宮の主であるアルデバランへ白羊宮まで降りて殲滅せよとの命を下す。敵のレベルがお粗末なので、教皇だけでなく黄金聖闘士や白銀聖闘士もすでに侵入者の存在に気づいていて、守りを固めつつも避難訓練のような気楽さだ。修行中の者などは白羊宮近くへ配置され、黄金聖闘士の戦い方を見学するよう勧められている。
 襲撃者が白羊宮の入り口に達する頃には、彼らが暗黒聖闘士崩れのさらに下っ端であるという素性も判明した。どうやら一味は一輝や暗黒四天王による統制が崩れた後の、デスクイーン島からの脱出組であるらしい。
 十二宮へ通すまでもなかったかとシオンは思ったが、そう思ったのはシオンだけではなかった。


 本来はムウの守る宮の前で、アルデバランは腕を組んで立ちはだかっていた。
 律儀な彼は、持ち場でない宮の中を汚す気は無く、入り口前で待っていたのだ。
 力のある者が彼の佇まいを見れば、その実力差だけで戦意を削がれるのだろうが、侵入者たちは暗黒聖闘士の中でもろくに聖闘士の修行をせずに逃げ出した一味で、かつての四天王たちとは能力も比較にならず、黄金聖闘士の強大さを把握することすら出来ないようだ。
 それでも圧倒的な小宇宙による威圧感は覚えるらしく、虚勢を張るように侵入者の雑魚Aが叫ぶ。
「これほど易々と侵入を許すとは、聖域も大したことは無いな!」
 招き入れられたという事すら判らぬ程度の腕で、よくもまあ聖域に侵入しようという愚を犯したものだと、周囲に密かに控える雑兵たちが失笑した。
 アルデバランはどうしたものかと考えた。このレベルの相手であれば、小宇宙で押さえつけるだけで手を出すまでもなく相手は動けなくなるだろう。人数も2〜30人ほどで組まれた徒党であり、彼らが逃がれる確率はゼロ%だ。
 一応、侵入の理由を聞いて義を諭してみるか…などと思っていると、突然その侵入者ご一行様が全員紙のように空へ吹っ飛んだ。そして天からぼたぼたと人形のごとく地面へ降ってくる。
 彼らはそのまま縫い付けられるように、地面に這いつくばってもがいていた。
 考え事をしていたとはいえ、黄金聖闘士のアルデバランの目にとまらぬほどの攻撃が出来るのは同じ黄金聖闘士仲間しかいない。そしてアルデバランにはこんな事をする人間にとても心当たりがある。
 振り返ってその相手の顔を見るまでも無く、背後から凛とした声が響いた。
「フン、雑魚の分際でアルデバランの相手をしようなどとは百年早い。この私が皆殺しにしてくれる!」
 アルデバランは遠い目になった。案の定黒サガだ。
 サガが黄金聖闘士として再認定された時点で立場としては同格だが、師匠だった身としては注意せざるをえない。
「サガ、自宮の守りはどうした。勝手に持ち場を離れて良いなどと教えた覚えはないぞ」
 しかし黒サガはそ知らぬ顔で答えた。
「ミロも聖戦のおりには宮から降りて迎え撃ったと言っていた。台詞もミロから教わったのだが」
 一体ミロは何を教えたのだ…とますますアルデバランの目が遠くなる。
「ミロの時は戦況を見ての判断だ。こたびのような三下相手に持ち場を空けることは許さん。それから、背景も判っておらぬのに、無闇に殺してはならんぞ」
「判っている。手加減はした」
 確かにサガが本気を出せば、さきほどの攻撃で一瞬にして全員が死んでいてもおかしくはない。地面に転がる侵入者たちがまだ意識を保ち、小宇宙で拘束された身体を動かそうと必死になっているところをみると、サガからすれば軽く撫でた程度なのは本当のようだ。
 黒サガは無様にもがく侵入者一味を見下ろすと、優雅に断言した。
「頭を地にこすりつけて、私を拝むがよい」
 アルデバランは頭を抱えたが、今度の台詞を誰に習ったか突っ込むのはやめておいた。
「とにかく双児宮へ戻れ。これはタウラスに下された職務。お前であろうと手出しはならん」
 黒サガは不満そうな顔をして、ぼそりと訴える。
「このような輩に師匠が手を下すまでもない。弟子が戦うのは道理だろう…それに、アルデバランが戦っているというのに、この私に上宮で待てというのか。こたびは雑魚の来襲であったから良いようなものの」
「サガ」
 厳しい声でアルデバランは諭す。
「お前は師匠の腕を信じられんのか。聖闘士たるもの私情に流されず、各自の守護宮を守るのが勤めと教えた筈だ」
 そういうタウラスも、過去に星矢たちが十二宮突破を試みたときに、己の疑惑を晴らすという私情のために青銅聖闘士を通したことがある。しかし、今はそれを伏せる。
 少ししょげたような顔をした黒サガの髪を、アルデバランはくしゃりと撫でた。黒サガは相変わらず聖衣のメットを被らないので、長い髪は常に黄金聖衣の背中に流れている。
「だが、お前の気持ちは師匠として嬉しいぞ」
 サガにはこのように諭したアルデバランだが、有事の際には背後を守るサガを戦わせたくないがゆえに、金牛宮を誰も通さぬ心意気でいた。たとえサガの方が強くなろうとも、アルデバランにとっては黒白どちらのサガも可愛い弟子なのだ。
 とたんに黒サガの顔が元通りの不遜な表情に戻ったのを見て、素直な反応だと内心喜んでいるアルデバランはやっぱり師匠バカであり、サガもまた弟子バカであった。

 濃い目の師弟愛がくりひろげられる空間を邪魔しないように、というか誰も邪魔出来ず、控えていた雑兵や修行兵たちが動けぬ侵入者たちを縛り上げて引っ立てていく。
 戦闘見学のために白羊宮へ弟子を向かわせた各師匠たちは、あとで弟子達へ感想を聞いたものの、返ってきた反応が「台詞が格好良かった」「師匠もタウラス様を見習って欲しい」「黒サガ様にあのような態度を取れるアルデバラン様が羨ましい」等々であったため、ようするに聖闘士としての修養には何の役にも立たなかったのだなと溜息をついた。


(−2007/8/16−)
牛師匠ネタに頂いた皆様の拍手コメントを元に妄想大爆発!隣宮なので色々ドラマがある予感。
そして後日談
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カノン「シャカのせいでサガがまた変なことを覚えてきやがった!」
アイオロス「私を拝め、だっけ」
カノン「今のところ黄金連中には言わないから良いようなものの…」
アイオロス「そのあたりの上下関係の礼儀は一応わきまえてるんだ?」
カノン「しかし、サガファンの雑兵だの村民だのは、ホントに拝んでるんだぞ!」
アイオロス「うわあ、ファンクラブのようだね」
カノン「あいつら、サガが生き返った直後は罪人だの言ってたくせに(ぶつぶつ)」
アイオロス「サガの魅了の力というか、影響力は凄いから…いつの間にか人を惹きつけるんだよねえ。でもサガが聖域に馴染んでいるのは、君としても嬉しいだろう」
カノン「しかし、黒い方は調子に乗ると、どんどん尊大になる」
アイオロス「カノン。ここだけの話、尊大なサガも可愛いと思わないか?」
カノン「う…ま、まあな…」

アルデバラン「お前ら!サガを甘やかしてばかりいないで、ちゃんと叱れ!」
(2007/10/7)
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なんか真っ直ぐに育ちすぎて逆に問題が出そうな予感
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