教皇の就任式は盛大に華々しく行われようとしていた。
神話の時代より続いてきたハーデスとの聖戦にも勝利をおさめ、女神もおられる聖域では、今も祝勝ムードが続いている。聖闘士たちの復活祝いも兼ねているので、お祭り状態になるのは仕方ないといえよう。
女神生誕後にありし者で、闘士や神官と名のつくもの達は残らず、雑兵から黄金聖闘士に至るまで蘇生が果たされた。突然の大所帯にも関わらず食料その他不自由することがなかったのは、グラード財団のバックアップあってのことだ。
手製の紙吹雪や花の舞う中、アイオロスは重厚な教皇服を身にまとい、野外式典場に足を踏み入れた。金糸の刺繍で縫い取られた濃紺の飾り帯が風ではためく。
目線の向こうには、式典場中央の数段高い位置に設けられた女神用の閲覧席。足下からそこに至るまで赤い絨毯が長く敷かれており、その道は今後アイオロスに約束された栄光の王道を示すかのようだ。
姿を見せた英雄アイオロスに、観衆からの大歓声が上がる。
元射手座の黄金聖闘士は、にこやかに片手を挙げて皆に応えた。
振り仰ぐ空はどこまでも青かった。
その微笑のまま、アイオロスはちらりと振り返って後ろを見る。
背後に慎ましやかに控えているのは、教皇補佐として任命されるはずのサガ。
アイオロスの視線に気づいたサガは、遠慮がちに、それでも誇らしげに教皇となる友の顔を見つめ返した。
ああ、とアイオロスは思う。
サガはきっと教皇となる私へ、残りの人生の全てを差し出すだろう。
女神を愛し、私へ忠誠を誓い、人々の為にいつでも躊躇なく命をかけるだろう。
惜しみない慈しみで全ての人を包むだろう。
銀糸で縫い取りをされた純白の法衣を着て、アイオロスの後に控えるサガは、
まるで教皇の花嫁のように見えた。
二人の先にあるのは、決して汚されることの無い真紅と正義のバージンロード。
ねえサガ。
天国の門は狭すぎて、二人で通ることは叶わないという。
ならば、君と手を取り合っていける先は地獄しかないのだろうね。
手を取るのは私ではなく教皇で、手を差し出すのは君ではなく教皇補佐だけれど。
アイオロスとサガという二人は、もう消えてしまうのだろうけれど、それでも二人で。
どこまでも二人で行こう。
輝かしいあの絶望の高みへと。
黄金の勇者は新しい聖域の教皇となるべく、祝福の歓声の中を歩き出した。
拍手用SSより移動。ロスが27歳で蘇ったバージョン短めSS。ジッドの狭き門と銀色夏生のコラボ(ありがち)。聖闘士としては最高の道行きですが、個人の幸せと微妙に両立していないので、私の中ではアンハッピーエンドです。