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◆転宮生2

 「おれがあいつであいつがおれで」…のような身体入れ替えネタです。

1.射手翼竜チェンジ4(ロスサガ&ラダカノ要素有)
2.山羊黒チェンジ5(シュラ黒シュラ要素有)
3.ロスリアチェンジ6(ロス絡みでリアサガ有)


射手翼竜チェンジ4


「いやあ、まさか身体が入れ替るとは思っていなかったな。ははは」
「何故そのように冷静気楽で居られるのか、真剣に聞きたいのだが…」

 冥界の重鎮であるラダマンティスは、聖域の英雄アイオロスの様子を見てがっくりとうな垂れた。
 傍から見ると、膝も手も付き落ち込んでいるのはアイオロスの方だったのだが。

「申し訳ない。精神だけ冥界に飛ばして、交渉役の君を聖域に転移させて迎えようとか横着したのがまずかったみたいだな。私は牡羊座や双子座ほど、次元を超えたテレポートは得意ではないんだよね」
「いや、お前のせいでは…まさかこんな事になるとは、普通思わないだろう…」

 交渉前に持ち上がったこの事態をどうパンドラ様に報告したものかと苦慮している翼竜を横に、アイオロスが突然大声をあげた。
「しまった!私とした事が大変な事を忘れていた!」
「ど、どうした射手座」
 しかし、その叫びによってラダマンティスもはっと気づいたのだった。このアイオロスは聖域の後継者と目されている次期教皇。卑怯な手段は嫌悪するところだが、このまま射手座を口車にでものせて冥界へ連れて行き、幽閉して自分がアイオロスとして聖域に潜り込めば──

「この後サガとデートだったのに!」
「…………」


 この状況でも私生活を忘れない射手座の余裕を、翼竜は本気で尊敬しかけた。
「無用な混乱を招く事は控えたいからなあ。ラダマンティス殿、今夜のところは入れ替って会うということで構わないだろうか」
 確かにラダマンティスも、地上に出たついでにカノンと久しぶりの食事が出来ればと約束をとりつけている。見越されていたことに多少の羞恥を覚えつつも、翼竜は仕方なく同意して、事後報告は人馬宮で…ということに相成ったのだった。

「念のため言っておくけれど、サガに手を出したらただではおかないよ」
「…お前は本当に大物だな」
 そんなこんなでパートナーチェンジ実行。

 その夜。

 見た目は射手座、中身はラダマンティスな彼がヨロヨロと人馬宮まで戻ってきた。その後を追うように、元気そうなアイオロスも帰宮してくる。
 ラダマンティスはアイオロスの顔を見るなり、噛み付く勢いで抗議した。
「あれは何だ!途中までは良かったが、いきなり黒くなるわ殺されかけるわ、一体どこがデートだというのだ!」
「へえ、黒サガに会えたんだ?運がいいね。外では滅多に会えないのに」
 GEを放たれかけたのに運が良いとは言われたくないラダマンティスだったが、憤慨しているラダマンティスへアイオロスも言い返した。
「君の方こそ、どうやってカノンを操縦しているんだい?奔放だし気まぐれだし突然怒り出すし、凄い振り回されたんだけど」
「そこがカノンの魅力だ。それに無闇にアレは怒ったりしない…一体何を言ったんだ」
「サガには敵わないけど、話してみたら案外カノンも可愛いところがあるねって」
「………………」
 ラダマンティスは頭を抱えて泣きたくなっていた。どうやったらそんなにカノンの地雷を的確に踏めるのだろうか。しかもそれを言ったのは自分だと思われているのだ。

 切れたラダマンティスはアイオロスの手を掴んで涙目で迫った。
「今から俺と双児宮に来い!俺達の事を、ちゃんとあいつらに説明させろ!!」
「ええ?今から行くのか?」
「たとえ夜中だろうが構うものか!」
「いや、そうでなくて…向こうから来てくれたようだよ」

 ラダマンティスが振り向くと、デートでの様子をいぶかしんだ双子座の二人が、人馬宮を尋ねてきて入り口から覗き込んでいるところだった。二人は心なしか顔を青くしているようだ。

 サガが微妙に視線をそらして呟いた。
「いつもとお前の態度が違うので、心配になって来てみれば…」
 カノンの方は、昼間よりもさらに冷たい視線になっていた。
「まさかお前らがそういう仲だとはな」

 そう、傍から見ればアイオロスがラダマンティスの手を掴んで迫っているようにしか見えないのだった。それも真剣に涙目で。

「立ち聞きするつもりはなかったのだけれど、外まで聞こえてきてね…君たちの事を私たちに説明するとかなんとか…」
「いや、ちょっと待ってよサガ」
「ラダ、お前が二股するつもりならオレも堂々とサガと寝るから文句言うなよ」
「待ってくれカノン、誤解だ!しかもさりげなくブラコンのカミングアウトか!」
「何故私とロスとの事に翼竜殿が口を出すのだ」
「サガだけでなくラダに迫るとはいい度胸だなアイオロス!」

 無意味に大混乱。

 ラダマンティスとアイオロスの二人が地上最強の双子を説得するのには夜明けまでかかった上、交換デートした事を散々怒られたのは言うまでもなかった。

2007/4/18
山羊黒サガチェンジ5


 シュラは激しく困惑していた。
 人生でこれほど困惑したことは、かつてなかろうと思われた。
 紫龍との戦いでアイデンティティの変革を迫られた時とて、これほど困惑はしなかった。いや、あの時は道が見えた分、むしろ成すべきことはハッキリしていた。
「…どうしましょうか、サガ」
 もう思考を放棄して、目の前の黒サガに頼るしかない。
 弱りきったシュラに比べると、黒サガの方は全く困った様子がない。それどころか楽しんでいるようで、口元には笑みが浮かんでいる。
「暫くこのままでも構わぬ。身体が入れ替わる経験など早々なかろう」
 自分の姿で言い放った黒サガを見て、シュラはがっくりと肩を落とした。
 現在、シュラの次元斬りと黒サガの精神攪乱技の乱発によって、巻き起こされた時空のねじれが、互いの精神と身体の入れ違えを引き起こし、気づけば黒サガの身体にはシュラの精神が、シュラの身体には黒サガの精神が入り込んだという状況になっていた。
 もともと精神が乖離しやすい黒サガだからこそ起こった現象かもしれない。
 シュラは溜息をつきながらも、改めて今の身体を確認してみる。
 まず長い黒髪。短髪だったシュラにとって、この量の髪は結構重く、頭を動かすたびに靡くのが鬱陶しい。眺める分には大好きだったサガのこの髪も、いざ自分のものとなると勝手が違う。それでも、髪から洗髪剤のものとおぼしき香りが、ふわりと漂うのを感じて、シュラは赤面した。
 そして指。サガの爪は綺麗に整えられていた。指も鍛えられていながらしなやかだ。サガの身体は隅々まで完璧なのだなと実感する。
 なんだかいけない想像をしてしまいそうになり、シュラは身体の点検をやめ、小宇宙の確認に切り替えた。
 小宇宙を高めてみると、燃え上がったのはカプリコーンの小宇宙だ。他人の身体でもそこは変わらぬようで、とりあえずシュラは安心した。
 一方サガも小宇宙を高めていた。いつもシュラがするように右手にそれを集中させている。小宇宙が鋭さを増すにつれて、シュラはサガの意図に気が付く。
「サガ!暴発するのでやめてください!俺の身体であろうと貴方に聖剣は無理ですから!」
 シュラは焦って止めに入った。入ろうとした。
 しかし、シュラは着用する法衣の裾を踏んづけてつんのめった。
 流石にバランスを取って転ばずに済んだものの、黄金聖闘士にあるまじき失態だ。サガが小宇宙を止めて目を丸くしながらシュラへと視線を向ける。サガを止めるという目的は果たせたものの、シュラはいっそう赤面した。
 改めて足元を確認すると、法衣は地面を引きずるような長さである。
 いつもはサガが当たり前のように捌いているので気づかなかったが、これはかなり邪魔だ。階段を上るときなど裾を踏まぬ自信がない。
 ドレスを着た女性がスカートを慎ましく摘みあげて歩くように、シュラは法衣をたくし上げて歩かねばならなかった。
 シュラは思わず愚痴を零した。
「俺はこの格好で麿羯宮まで上がらなければいけないのですか」
 サガはシュラの足元をじっと見てから、顔へと視線を上げる。
「それほど歩きにくいか?」
「ええ、まあ…」
 そう応えると、サガは思わぬ行動にでた。
「服程度で歩行に支障が出るとは、修行が足りぬな」
 ひとこと言い放ち、シュラの身体を肩に担ぎ上げたのだ。
「サ、サガ!?降ろしてください!」
 抗議の声をあげるも、素直に聞き入れるような黒サガではない。
「暴れるな。歩きにくいのであれば、私が麿羯宮まで運んでやろう。それとも異次元経由で飛ばされるのが良いか」
淡々と告げ、もう上宮へ向けて歩き出している。
 シュラとしては異次元経由の方が100倍マシであったのだが、それをサガに伝えるタイミングを掴めぬままに事態は進行していく。
 結局シュラは先ほど以上に真っ赤になりながら、十二宮の公道を荷物のように運ばれる羽目になったのだった。


 だが、本当の災難が訪れるのは翌日以降であるという事を、まだシュラは気づいていない。

 この出来事は、それを目にした雑兵や神官たちによって「シュラ様が自宮へ黒サガ様を抱きかかえて運んでいた」という噂となり(しかも様々な憶測や尾ひれがオプションとして追加されていた)、それを耳にしたカノンやアイオロスが血相を変えて麿羯宮へ押しかけるという迷惑な後日談に発展していくのだった。

2009/2/24
担がれたサガ(中身シュラ)が下着を履いてない場合、風で法衣がめくれると大変ですね的コメントを頂き、脳内で盛り上がらせて頂きました。それは本当に大変です。

ロスリアチェンジ


 ひょんなことから身体の入替ってしまったアイオリアとアイオロスであったが、アイオロスはさして気にした風でもなく、仕事をしてくると言って、いつものように教皇宮へ出かけてしまった。行きがけの明るい挨拶からして、困惑よりも変化を楽しんでいるフシがうかがえる。近く教皇となる男だけあって、彼は些細なことでうろたえたりしない。そのような暇があるのならば、解決策について思考を巡らせるだろう。
 しかし、残されたアイオリアの方は兄ほど達観した性格ではない。洗面所の壁にかけられた粗末な鏡を覗き、そこにあるのが兄の風貌であることに動揺を隠せないでいる。兄の姿で、この後どのようにして過ごしたら良いのか、わからないのだ。
 兄の姿で雑兵たちの稽古をつけるのは、なんとなく遠慮からためらわれたし、村へ降りても事情を知らぬものは自分をアイオロスと見るわけで、時期教皇としての修練を受けていない己が祝詞を求められたりでもした日には、こなせぬことは無いが、嘘をついて兄の振りをすることは誠実ではないように思われた。

 アイオリアは真正直かつ不器用な男であったが、特に兄の姿で嘘を付くことは出来なかった。

 しばし悩んだあと、サガに会いに行こうと思ったのは、とくにさしたる理由があったわけではない。ただサガの驚く顔を見たら、次はシュラを驚かそう…程度の軽い思いつきだったのだ。サガが先であるのは、守護宮の位置的な近さによる。
 あとから思えばこの人選をした時点で、無意識になんらかの昏い想いが、心の奥底を地下水脈のように流れていたのかもしれないが、とにかく、アイオリアは無邪気に双児宮の居住区を訪ね、そしてサガは私室の扉を開けた。

 そのときのサガの顔は、一瞬ではあったが能面のようだった。
 事前に来訪者の小宇宙を読み取り、アイオリア用の笑顔で無防備に迎えたサガの目に、アイオロスの容姿がどのように映り、どういう効果を内面にもたらしたのか分からない。けれども、光速をも追うアイオリアの視力は、確かに僅かな間サガの髪の先が黒くなったのを見て取った。
 それは直ぐにかき消え、元通りの豪奢な銀の毛先がちらちらと揺れる。
 サガは己の変化を隠すように、はじめよりも一層穏やかな表情でアイオリアを迎えた。
「アイオリア、その姿は一体どうしたことだ」
「なんだ、直ぐに兄さんでないって判るのか?」
「小宇宙がお前のものだからな。それに、表情も違う」
「驚かそうと思ったのに、つまらん」
 むくれたアイオリアをみて、ようやくサガは形だけではない笑顔を浮かべる。
「入るといい。その姿の訳は中で聞こう」
 それでも、どこかまだその笑顔はぎこちないもののように、アイオリアには思えた。
 客用の椅子へ腰をおろすと、サガが冷えた檸檬水をグラスに注いで持ってきてくれた。蜂蜜を落してあり、いつものアイオリアの好みからすると少し甘いくらいであるが、その日はとても舌に馴染んだ。
「凄く美味いな、これ」
「アイオロスが好きだったものだ」
 ああ、とアイオリアは納得する。身体が好んでいるのだ、この味を。
 サガはアイオロスの向かいのソファーへ腰を下ろした。
「それで何故、そのようなことに?」
「その…俺の失敗で」
 冥界での任務を終え、現世での肉体へと戻る前に、アイオリアはつい人馬宮へと立ち寄ってしまった。そして兄に近づきすぎてしまったのだ。
 通常であれば、各自の魂と肉体には強固な繋がりがあり、それは簡単に反故となるものではない。しかし、黄金聖闘士たちは皆一度は死んで蘇生された身である。とくにアイオロスは死んでいた期間が長かった。うっかり兄の肉体へ嵌まり込んでしまったアイオリアと入れ替わりに、アイオロスの魂は押し出され、仕方なく近場に空いていたアイオリアの肉体を借りたのだった。

「またエイトセンシズを燃やして、魂を肉体から外し、元に戻れば良いのではないか?」
「そうなのだが、兄さんがもう出仕する時間で…」
「彼のことだ。それは言訳で、単に面白がっているのだろう」
「…やっぱり、サガもそう思うか」
 サガは何も言わなかったが、苦笑がなにより雄弁な返事となっていた。
 それきりアイオリアもまた黙って檸檬水を飲んだ。ひたすら飲んでいたので、直ぐにグラスは空になった。
(この飲み物は、きっといつか、兄さんに出されたのと同じものなのだ)
 グラスは、アイオリアの手の中でぬるく温度を変えていく。
(いま、サガが用意してくれたこれは、兄さんの身体に出されたものなのだろうか、俺の心に出されたものなのだろうか)
 アイオリアは深く考えることが苦手だった。過去の13年間のうちで考えすぎたのは最初の1年だけで、あとはもう何も考えないように過ごしてきた。そうしてそれは習性となってしまった。深く考えたとき、その考えは自分を傷つける。
「気に入ったのなら、代わりをもってこよう」
 中身の無くなったグラスを目にして、サガが立ち上がりかける。
「あ」
 思わずアイオリアはサガの手を掴んでそれを制した。
 サガの身体がハッキリとこわばった。
「…代わりなんて、いらない」
 そのまま強引に自分の方へ抱き寄せて、ぎゅっと胸の中に固定する。無理な体勢をとらされているというのに、サガは特に抵抗もしない。むしろアイオリアのほうが混乱していた。自分が何故そのようなことを口走ってしまったのか分からなかったのだ。
 ただ、サガの体温が心地よかった。こうするのは当たり前のことのようにも思われた。
(そうか、この身体がサガを好んでいるのだ)
 抱き込まれたままのサガが、何も言わずに見上げてくる。
 その瞳に魅入られるように、アイオリアは顔を近づける。
 兄の身体で嘘をつくことよりも、兄の身体で嘘をつかないことのほうが、本当はいけないことではないのか。胸の奥で小さく警告する声があった。けれどもアイオリアはその声に蓋をした。
 考えるのは苦手だった。


 唇が重なったとき、このまま引き返せないところまで行くのだろうなと、二人は予感した。

2009/8/5-8/7
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