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◆転宮生1

 「おれがあいつであいつがおれで」…のような身体入れ替えネタです。

1.双子チェンジ1(ラダカノ要素有)
2.双子チェンジ2(カノサガ要素有)
3.ロスサガチェンジ


双子チェンジ1

 親書を運んできたついでに双児宮へと立ち寄ったラダマンティスは、自分を出迎えたカノンにかすかな違和感を覚えて首をかしげた。いつもの海龍と何が違うという訳ではないのだが、強いて言えば見た目の雰囲気がどこか柔らかい。それでいて、その鋭い意思を見せる視線は、間違いなく情人のもの。

 サガとカノンの判別には自信のあるラダマンティスだったが、何者かがそのように化けている可能性もある。海界には人の心を読み、その心にある者を完全に模写する能力に長けた戦士もいるという。
 ラダマンティスはちまちま考える事を放棄して、目の前の男にはっきりと聞くことにした。
「お前はカノンのようだが、イメチェンでもしているのか」
 カノンは驚いたように目を丸くして、がしがしと頭をかいた。
「お前は魂を見て相手を見分けられるから、逆に気づかないと思ったんだがなあ。流石というか…ま、入れよ」
 ラダマンティスは、有無を言わさず手を引っ張られて双児宮の居住区エリアに連れ込まれた。

 客間には既に紅茶を淹れたサガが待っていた。おそらく事前に翼竜の小宇宙を感知して用意していたのだろう。そつのないサガは、ラダマンティスが座ると同時にその前へとカップを置いた。
 こちらの双子の片割れにも微妙に違和感を覚える。いつもよりどことなく馴染みのある気配だ。
 その指先を見て、ラダマンティスはある事に気づき、呆れたように二人を交互に見た。
「お前たち…身体が逆なのか!」
「ご名答」
「よく判ったなラダ!」
 双子から同時に返事が帰ってきた。


「というわけで、ちょっとした事故で兄さんと身体が入れ替わってしまってな」
 カノンから説明を受けても、ラダマンティスの呆れた顔はそのままだった。
「相変わらず聖域では非常識な事ばかり起こる」
「お前は相変わらず堅いな。そんなわけで、サガの身体の間はお前にもイロイロ我慢させるが許せ」
 サガの身体を持つカノンが、にやっと笑ってラダの唇を人差し指でなぞる。その指はしなやかで、整えられた爪が綺麗に色づいていた。
 サガとカノンは同じ肉体スペックながら、基本的にサガの方が身体を丁寧に扱っている。先ほどラダマンティスが入れ替わりに気づいたのも、そういった細部の違いが目に付いたからだった。
「仕方がないな、お前の大事な兄上の身体では」
 ラダマンティスが苦笑する。サガの身体であっても中身がカノンなので、目の前の男の表情はカノンそのものだ。対して、サガの方はカノンの身体であっても、動きが優美だ。

 ふと、ラダマンティスは好奇心を起こし、カノンの大腿部の外側を軽くをなぞる。カノンはそれに気づくと、その手をぴしりと叩いた。
「てめえ、我慢させると言ったばかりだぞ!」
 だが、カノンのつれない反応を意にも解さず、ラダマンティスは納得したように頷いた。
「なるほど」
「何がなるほどだ」
「いや、やはり違うものだなと思って。見ていろ」
 ラダマンティスは反対側に座っていたサガの方を向くと、止める間もなくカノンにしたのと同じ箇所をスっとなで上げる。
「〜!!!!」
 サガがひくりと震えたのちに、声にならない叫びを上げて飛びさすった。冷静なサガにしては珍しく顔を赤くしている。
「お前たちは双子ゆえに敏感な箇所は同じようだが、開発されている分カノンの身体のほうが反応が良…」

「ギャラクシアンエクスプロージョン!」

 ラダマンティスが言い終わる前に返ってきたのは、双子双方からの必殺技だった。
 公人として来ているラダマンティスに配慮して威力が控えめだったため、簡単にそれへの防御壁は張れたのだが、カノンに散々クギを指される事になった。


2007/3/23
双子チェンジ2

 ラダマンティスが帰ったのち、サガが洗い場で後片付けをしていると、後ろからカノンが腰へと抱き付いてきた。手に持つティーカップを割らぬよう食器棚へとしまいこんでから、そちらへ振り向く。
「こら、離しなさいカノン」
 しかし、カノンはサガの叱責など意に介さぬようにくっ付いたままだ。
「うーん、サガの方が開発されてないってのは納得がいかねえ」
「昼間から何を馬鹿なことを言っているのだ!」
「慣れてるポイントが違うってだけだと思うんだよなあ」
 カノンが顔を寄せ、低い声で耳の裏側に囁く。サガは頬に朱を走らせて離れようとしたが、カノンは腰を離さなかった。
「ラダマンティスにサガの身体を触らせるわけにはいかないが、オレがオレの身体をどうしようが自由だよな?」
「どういう理屈なのだそれは!」
 カノンの意図に気づいてサガの表情に焦りの色が混じる。逃れようと身体をよじると、カノンはわき腹から広背筋へいたるラインを丁寧に指先でなぞり、その抵抗を笑った。
「無駄だぜ、兄さん。オレは自分の身体の弱いところくらい判ってる」
 サガは上ずる声を押し隠し、それでも目だけは強気にカノンを睨みつけた。
「お前は、自分の身体に欲情するのか!」
「ああ、するね」
 カノンはニヤリと笑った。
「サガのがオレの身体に入っていくのかと思うと、すげえゾクゾクする」
「こ、この変態!」
「弟にこうされて感じてる兄さんに言われたくないね」

 こんなお約束の会話が交わされている中、夜に黒サガとの約束があって呼び出されていたシュラは、見てみぬ振りをして帰ったほうがいいのか止めた方がいいのか、台所の外で真剣に困っていたのだった。

2007/3/24

ロスサガチェンジ

「ただいま、サガ」
 海界から双児宮へと戻ってきたカノンは、今日も出迎えた兄へ帰宅のキスをしようとして動きを止めた。海で鍛えた野生の勘か、セブンセンシズを越えた超本能によるものかは判らないが、とにかく何かがカノンの動きを阻止したのだ。
「あれ、おかえりのキスはくれないんだ?」
 目の前のサガが、太陽のように朗らかな笑顔を作る。嫌な予感がして、カノンは兄…に見える男に詰め寄った。
「お前は誰だ。オレのサガはそんな顔で笑ったりしない」
「君のじゃないと思うけど、確かにオレはサガではないよ」
「何だと!?」
 同じ顔をした二人が入り口付近で揉めていると、奥からアイオロスが顔を出した。
「おかえり、カノン。帰宅そうそう何を騒いでいるのだ」
 呆れたように小首をかしげるその仕草を見て、カノンの嫌な予感はさらに高まっていく。
「ま、まさか…」
 血の気が引いていくカノンへ、目の前の『サガ』が明らかに楽しんでいる顔でポンと肩を叩いた。
「いやあ、何かオレとサガの中身が入れ替わってしまってね」
 後ろから『アイオロス』も、カノンへの説明不足に気がついたように付け足してきた。
「ああ、稽古中に私のアナザーディメンションとロスの必殺技が融合反応を起こして、二人で次元の捩れに巻き込まれてしまったのだ。こちらの世界に戻る時に、身体が入れ替わってしまったようでな。一時的なものだと思うので、暫く様子を見ようと思う」
 話を聞いたカノンは、ぐらりと眩暈を起こしていた。

 アイオロスはすっかり面白がっていて、サガの姿でカノンにまとわり付いていた。
「いつもはサガに、お帰りのキスもおはようのキスもしているんだってな。今日はしてくれなくて残念だったなあ」
「…てめえ…いつもの意趣返しのつもりか…」
「やだなあ、この機会に仲良くなりたいなと思ってるだけだよ」
 サガの見ていないところではカノンに不敵な面構えを見せるところからして、アイオロスが本当に仲良くしたいと思っているかは微妙なところだ。
(くそ、サガの顔なのに、中身がこいつだと殴りたくなる!)
 カノンは内心切れそうになりながら、それでもサガの顔に手を上げる事は出来ないので我慢をしている状態だった。しかし、アイオロスはそんなカノンの内面にはおかまいなく、自制心を軽く振り切らせるような行動にでた。
「わかった、カノンが仲良くしてくれないのなら、サガと仲良くしてくるよ」
「なんだと!?」
「サガ〜、カノンが構ってくれないから遊んでくれ〜」
 言うや否や、アイオロスは呆れた視線でこちらを見ていたサガ(見かけはアイオロス)に近寄ると、両腕を広げてすりすりと抱きしめたのだ。
 状況の全くわかっていないサガが、何でも無いことのようにそれを受け入れ軽口で応える。
「何を子供のような事を。それにしても、その顔に抱きしめられるのは、同じ顔のカノンにこうされるのとはまた別の感覚で不思議なものだな」
「オレも自分の顔に迫るのは不思議な気分だよ。でも、どんな顔でもサガはサガだよね」

「頼むからサガの顔でお前の身体に迫るのは止めてくれ」

 横からカノンの半分泣きの入ったツッコミがあったが、アイオロスは軽く流した。
「なあなあ、サガ。どっかに鏡ない?サガって全身鏡持ってたよな」
「ああ、それなら私の部屋と風呂場にあるが…」
「ちょっと一緒に来てくれ、二人で姿を見比べっこしよう!」
「そうだな、私もお前の身体である自分というのを、鏡で見てみたい。この身体はずいぶん筋肉のつきかたが私と違っていて、身体を動かすのにまだ慣れん」
「オレはこの髪の長さに慣れないよ。この量の髪をどう洗っていいのかも良く判らないし…あ、どうせなら鏡ついでに一緒に風呂に入らないか?君に髪を洗うの、手伝って欲しいな」
「確かに、お前が私の髪を洗うとすごい事になりそうだ」
「代わりに、オレが君の身体を洗うってことでいいかな」

「いいわけないだろ」

 盛り上がっている二人の会話へ、カノンがまた強引に割り込む。
「風呂ならオレも一緒に入るからな」
「わあ、それは両手に花だな」
「てめえ、元の身体に戻ったら絶対殴る…」
 そんな訳で風呂場では、一見サガの身体からアイオロスの身体を守るという、カノンにとっては最大限に屈辱的な場面が展開されたのだった。


 サガの姿をしたアイオロスの破壊力は凄まじく、その後アイオリアやシュラや雑兵たちにまで甚大な被害を巻き起こした。皆に泣きつかれた女神が二人の精神を元の肉体へと入れ替えるまで、その騒ぎは続いた。


2007/3/24
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