「ワイバーン、その…君はうちの愚弟と、いつから付き合っているのかな」
場所は双児宮。
冥界から、俺の私的な客分として招いたラダマンティスを相手に、サガがいきなり突飛なことを言い出したので、飲んでいた紅茶を噴出しそうになった。
中身はイギリス育ちのラダマンティスが土産として持ってきたアールグレイ。手土産なんぞいらないと言ってあったのだが、妙にこの男は義理堅いところがあった
動揺を抑え、落とさないようにエインズレイのカップをテーブルへと置き、情人の反応を見る。
ラダマンティスは、兄の失礼な発言をまるで気にした様子もなく、にこやかに返した。
「知り合ったのは冥界でだが、カノンにはその後も公私共に世話になり感謝に堪えない」
「そうなのか、こちらこそ弟がいつもいらぬ世話になっているようで恐縮だ」
二人の微妙な応酬の中、俺はちょっとした感動を覚えていた。
サガは本来この手の話はまずしない。
弟のプライベートに踏み込まない節度を持っているせいもあるが、彼にとって恋愛関係は苦手分野であり、興味の対象外だからだ。というか、そもそも恋愛オンチだ。
なのに、どうみてもこの状況は、妬いているようにみえる。しかも俺に。
一体どこで地雷スイッチが入ったんだろ。地雷万歳。
内心の嬉しさが顔に出てニヤけないよう、手で口元を隠すように押さえていると、サガの矛先が今度は俺に向けられた。
「カノン、お前にも聞いておきたい。ワイバーンとはどこまでのお付き合いなのだ」
「どこまでって、…戦闘中に空の上まで付き合ったくらいだが」
「心中したというのは本当なのか」
「誰と誰がだ」
「お前とこの眉毛が」
「人の友達を眉毛とかいうな。失礼だぞ。心中などもしていない」
「友達から始めていると言う事か」
「他人から始めるとはあまり言わないな」
「では、もう他人ではない仲なのか」
ちょっと会話が噛み合わない上、黒い方が混じった気もするが、あの無菌培養がここまで成長したかと思うと、頑張って日々密かに
「そうだと言ったらどうする?」
もう一押ししておくかと、わざと見せ付けるようにラダマンティスに寄りかかる。ラダマンティスもこちらの意図を汲んだようで、俺の腰に手が回され強く引き寄せられた。
目の前で行き過ぎた友情を見せ付けられ、そろそろ対応可能範囲を超えるのか、サガが泣きそうに困った顔をしている。可愛いよなあ。泣けばいいのに。
「あ、兄として…応援はする…プラトニックなら…ギリシア的には問題ないものな」
プラトンの思想を無理やり間違えて解釈しようとしているサガ。
戦略や戦闘では、あれほど天才的な能力を発揮する兄が、どうして恋愛方面ではここまで馬鹿なのか不思議だが、馬鹿な子ほど可愛いもんだと思ってしまう俺もまた、兄バカなのだろう。
抱きしめてくるラダマンティスに身を預け、顔を向けると、絶妙なタイミングで唇を軽く奪われた。
『ガタン』
サガにはここが限界だったようだ。
音を立てて挨拶もそこそこに立ち上がると、邪魔をしてすまないと奥の自室へ逃げていった。
「あはははははっ」
サガの姿がみえなくなると、抑えきれず思わず腹を抱えて大笑いした。笑いすぎて涙まで出てくる。そんな俺を見て、ラダマンティスが呆れたように「悪趣味だな」と零す。
なおも笑っていると、俺の顎を捉えられ、強引に相手の方へ向けさせられた。
「兄弟仲が良いことは結構だが、俺はダシのままで終わるつもりもない。お前が兄を追うのなら、俺はそれごとお前を手に入れる。」
そうして今度は噛み付くように、激しい口付けが降りそそいだ。
オレはそっと翼竜の背に手をまわす。
幸せだった。
このままサガとラダマンティス、どちらに殺されても良いくらい、オレは幸せだった。
ああ、愛する者達よ、みんな壊れてしまえ。
A×BかつB×Cな関係があった場合、Cは大変複雑である気がするんですが。
自分を抱く男が、別の男には抱かれている。リバ萌え。
と言いつつ、この話での双子は肉体関係なし。