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◆取り扱い注意2


 各神に従う闘士の身を守る鎧は、神代の時代に特殊な金属素材で作られたものだ。
 鎧でありながらそれ自体が意思を持ち、守る主を自ら選ぶ。
 纏う相手がそのレベルに見合わなければ真価を発揮せず、また実力があっても主に相応しくないと判断すれば、デスマスクの時のように見限り、身体から離れてしまう。破損すればその修復には輸血のごとく大量に闘士の血液を必要とする。
 意思があるといっても人の意思のあり方とはまた異なるが、闘衣は通常の防具とは一線をかくす『命あるプロテクター』なのだった。

 聖衣・鱗衣・冥衣の性質には、それぞれ各界の創造主である神の気質が表れている。
 たとえば一番長い歳月を経ている鱗衣は、海神のごとく大らかに資質を持つ相手を選ぶ。海神への忠誠心も勿論大事な要素だが、それもカノンに対してのように、海神が認めさえすれば甘目に判断する。
 聖衣は戦いの女神に属するだけあって、心身の強さと正義感を要求した。厳しい修行に耐えて居並ぶ候補者に勝ち抜き、かつ該当する星の守護を持つ者だけがその聖衣を纏う事を許されるのだ。
 それらに対して、冥衣を纏うには資質も修行も必要は無い。ただ冥衣に選ばれれば良い。冥衣が自分に最も適して相性の合うと思う人間を見出し、その相手を冥闘士へと変貌させる。人間側から見ると一番取得基準が厳しいとも言える。

 なんにせよ、神の闘士しか着用を許されぬ防具はとても希少なものだ。
 そんな三界の闘衣が戦闘の場以外で揃うという珍事が発生するのは双児宮くらいだろう。

 今、サガの部屋には三種類の闘衣が並んでいる。
 二つはジェミニの聖衣とジェミニの冥衣、三つ目はシードラゴンの鱗衣だ。
 海将軍としての任務の途中でサガに会いに来たカノンが、鱗衣を脱いで聖衣箱の横へ置いたものだから、反対側にやはり置かれている双子座の冥衣も加わって、その部屋は異様な磁場に包まれていた。

 闘衣は通常、音声による言葉を発しないので、以下意訳。


 双子座の聖衣はピリピリしていた。
 黄金聖闘士である筈のカノンが鱗衣を身につけて海将軍として活動していることも気に入らないが、その鱗衣を聖域…しかも自分の隣に寄越すことはないだろう。
 双子座聖衣の善部分の面は、悪面サイドの強烈な憤りに押されて引っ込んでしまっている。

 双子座聖衣(悪)は、自宮で他闘衣に遠慮する気など無かった。
「偽りの主であっても構わぬとは節操の無いことだな」
 さっそく海龍の鱗衣に鋭舌で毒づく。
 カノンはシードラゴンであると偽って海界を掌握していたという。ならば本来の海龍がいるはずで、その海龍を探せばいいものを、全てがバレた聖戦後までカノンの身を覆うとはどういうことだ。
 しかし、そんな聖衣の真直な不満を、シードラゴンの鱗衣は年上の余裕で軽く流した。
「海将軍の宿命は星で決まるわけではない。ポセイドン様が選んだ相手が正式な海闘士になる…つまり我が主カノンが正統なシードラゴンとなっても何の問題もない。節操のないのは、二人の主を持つお前の方ではないのか」
「なんだと」
 火花を散らす聖衣と鱗衣の横から、一番若い双子座の冥衣も口を挟む。
「その点で言えば、私は我が主であるサガ専用に作られている。お前達のように他の人間を覆うなど考えられん」
 黄金聖衣を模して作られた双子座の冥衣は、ハーデスを守るために作られた108の魔星とは異なる特殊な位置にあった。他のサープリスと違い、24時間限定で蘇生されたサガ達を尖兵として使役するためだけに新しく作られた冥衣であるので、限定冥衣がそれぞれの主である復活黄金聖闘士個人のみに執着を見せるのは当然といえば当然だった。
 双子座の冥衣は闇を含んだ笑顔(←イメージ)で優美に主張する。
「サガは私の為の人間だ。お前達にはカノンがいるゆえ問題なかろう」
「誰が貴様のための人間だ!サガもカノンも女神の聖闘士であって、貴様らのための道具ではない!」
 共鳴音とはまた別の、闘争的な音を聖衣が響かせる。鱗衣も負けてはいない。
「俺はカノンを道具だと思ったことなどないが。あの者の資質は海龍として相応しい。そもそもジェミニの聖衣よ、あれほどの資質を持つ者を二人も手に入れようなどと贅沢が過ぎるぞ」
「それは女神に言うがいい」
「闇を持つサガは冥界でこそ真価を発揮できるというものを」
「サガの持つ光は地上のものだ。両極な二面を支配するからこその双子座…冥衣ではサガの半面しか発揮できぬだろう」
「ほぉ、十二宮戦での聖衣殿は我が主を泣いて脅し、力を発揮させるどころかペガサスとの戦いを邪魔したと聞いているが」
「女神に背いた主を戒めるのは当然だ!」

 どの闘衣も理屈をつけてはいるものの、ようは単なる独占欲だった。
 突然双児宮に響き渡る不快な反発音に気づいたサガとカノンが、慌てて闘衣のもとへ飛んでくる。

 そんな闘衣達も、主の危機となれば途端に息を合わせて協力しあうのだが、普段は反発しあって迷惑な騒音発生器となるので、サガとカノンはそれぞれの闘衣がスネないよう公平に面倒をみなければならず、日々苦労するのだった。


(−2007/8/27−)

飼い猫三匹が、飼い主は自分のだとそれぞれ主張する勢いで。
そのうち、ほんと擬人化しそうです。
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