1.人馬づくし(サガ&シュラ&リア)
2.遠隔ジェミニ(ロス&サガ)
3.星矢誕(サガ&星矢ほか)
◆人馬づくし
獅子宮では、珍しくサガとシュラとアイオリアの三人が顔をつき合わせていた。
「意外と難しいものだな」
サガがが呟き、残りの二人も同意するように頷く。
「星座にちなんだ祝いをすると決めたのはいいが、半人半馬というのは非現実生物だからなあ」
と溜息をついたのはアイオリアで、
「食べ物に絡めることを諦めれば、他はそれなりに対処法があるのではないだろうか」
と返したのはシュラだ。
シュラとアイオリアは、それぞれの誕生日に山羊づくし・獅子づくしで祝われており、同じようにアイオロスをケンタウロス尽くしで祝おうと考えたのだった。
山羊はチーズや乳や肉、そして山羊毛といった関連お役立ち生活品がおおく、獅子とてシシ肉(猪だが)やライオン関連グッズ、マーライオン見物旅行とそれなりに誤魔化しようのある動物だ。
しかし、ケンタウロスの関連商品は意外と少ない。
「人と馬を切り離せばよいのではないか?」
ぼそりとサガが呟く。
「どういう意味だ、サガ」
「馬は馬として食わせて、人は人として食わせれば…」
尋ねたアイオリアへ説明を始めたサガの口を、問答無用でシュラが塞ぐ。
「貴方…いま統合しているだろう」
「しているが、それがどうした」
「誰を食わせるおつもりです」
「お前たち以外にあるまい。馬の上に人を乗せれば半人半馬だ。丁度良い」
「しかもほとんど黒サガ状態ですね!中身はともかく、アイオロスの肉体年齢は14歳だ!却下する!」
「年齢以外には突っ込まないのか。しかし、そうなると同じ理由でケンタウロスにちなむ酒類も却下だな。法令違反だ」
「レミーマルタンなど、シンボルマークがケンタウロスでぴったりなのですが…」
ぼそぼそ言い合っていた先輩黄金聖闘士の横から、アイオリアが口を挟む。
「ところどころシュラとサガが何を言っているのか良く判らんのだが…馬に人を乗せると言うのは乗馬体験をさせるということか?それなら兄さんは喜ぶかもしれない。身体を動かすのが好きだし」
純真なアイオリアのまじめな視線を受け、シュラと統合サガ(黒サガ率95%)は無言でそっと目を逸らした。
2010/12/1
◆遠隔ジェミニ
「えーと…」
自らの守護宮である人馬宮に遅い帰宅を果たしたアイオロスは、入り口の柱をくぐったところで立ち塞がっているジェミニを見て、どう反応したものか戸惑った。
ジェミニといっても、サガやカノンではない。中身のない抜け殻の双子座聖衣が人の形をとっているのだ。見るのは初めてだけれども、これは噂に聞く双子座聖衣の遠隔操作とやらだろう。
「サガ、だよね?」
そう尋ねたのは、こういう突飛な事をするのが、カノンではなくサガであろうという、失礼ながら正確な予測を立てたからである。案の定ジェミニは頷き、小さなカードを渡してきた。目を落すと流暢なサガの字で「誕生日おめでとう」と書かれている。
「……」
無言になったアイオロスの前で、帽子を脱ぐようにジェミニはヘッドパーツを取った。頭のない空洞の聖衣が、そのヘッドパーツの中に手を入れる。サガには申し訳ないけれども、まるでマジックショーの出張公演のようだとアイオロスは思った。異次元空間を操る双子座なら、タネや仕掛けなどなくとも、トランプやハトを出し放題だろう。
バケツにも似たヘッドパーツの中から、ジェミニはリボンで結ばれた小さな箱を取り出した。差し出してきたので、アイオロスはそれも受け取る。
(なかなかにシュールな光景だなあ)
無言のままのアイオロスの前で、ジェミニはまたヘッドパーツに手を入れた。今度は何が出てくるのだろうと待っていると、小さな花束が現れる。派手ではないが、食卓に飾るのにちょうど良いような、温かみのある白の花束だ。
アイオロスは先ほどから笑い出したいのを必死で堪えていた。
こんなことをしているサガの心情を考えると、笑うのが悪いので、一生懸命抑えているのだ。
おそらくサガは、合わせる顔がないだとか、皆が祝い終わった最後にひっそりと影ながら祝福できればいいのだとか、そんな風に考えているに違いない。
(真面目なサガが、公私を混同して聖衣を俺のお祝いのために使ってくれたというのは、その事だけでもプレゼントに値するよね)
しかし、笑い出したいほどおかしく、嬉しさを受け取ったアイオロスと違い、今頃サガはアイオロスを殺した晩を振り返りながら自分を卑下しているに違いないのだ。
花束を受け取りつつ、アイオロスはジェミニへにこりと笑った。
「なあ、その何でも出てくる異次元から、俺の1番ほしいものを出してくれるか?」
アイオロスの言葉を聞いて、ジェミニの動きが戸惑うように止まる。
サガなら多分、この場でいま突然どんなものを要求しても、能力と才能を駆使しまくり、その物品を用意しようとしてくれるだろう。贖罪の一環として。
待ち構えている様子のジェミニへ向かって、アイオロスはきっぱりと告げた。
「サガを出してくれ」
受け取った花束とリボン付きの箱を抱え、アイオロスはニコニコとジェミニの前で待っている。叶えないのは許さないよという意志は、その態度で伝わっているはずだ。
サガがどうやって現れるのか、アイオロスはワクワクしながら動きの止まったジェミニを見つめた。
2010/12/6
◆星矢誕
双児宮の朝は早い。朝食作成をカノンに任せ、サガはソファーで本日必要な書類の最終チェックを行っていた。台所からは食欲をそそるスープの匂いが漂ってくる。
ふとサガは来訪者の気配を察知して顔をあげた。
それと同時に、元気な星矢の声が響き渡る。
「おはよーございまーす!入っていいかな」
「星矢」
まとめていた書類をバサリとテーブルへ置き、サガは嬉しそうに立ち上がった。『星矢>書類』の図があきらかだ。
「今からアテナのところへ行くのか?随分と早いな」
「沙織さんに呼ばれたのはもっと後なんだけど、その前にみんなに挨拶していけたらなって思って、少し早めに来たんだよ」
ムウやアルデバランのところも、簡単だけど挨拶をしてきたんだと星矢は笑う。
「急いでいないのなら、朝食を取っていかないか?カノンが今用意をしているのだ」
「えっ、いいのか?」
「勿論だ。アテナの用意する祝い膳には遠く及ばないが」
「あれ、知ってたの?」
きょとんとする星矢に、サガは花のほころぶような笑顔を向けた。
「今日はお前の生まれた日…なれば、アテナがお前を呼ぶ理由は1つしかあるまい」
そう言うと星矢は照れたように頭をかいた。
「大々的な生誕祭とかは断ったんだけどさ、そうしたら、じゃあ仲間内でのささやかなお祝いをしましょうって、沙織さんが」
大富豪の後継者として育った沙織の『ささやか』が、貸切ガーデンパーティーレベルのものであることを、まだ二人は知らなかった。
「それより、サガがオレの誕生日を知ってることに驚いた」
「わたしは、自分が任命した聖闘士の誕生日はすべて覚えている」
「凄いなあ。あ、じゃあ別にオレが特別ってわけじゃないのか。残念」
ちら、と悪戯っぽくサガを見上げた星矢へ、サガは慌てて付け足した。
「いや、お前は特別だ」
「ほんと?」
「本当だ。その、何も用意はしておらぬが…」
サガはすっと腰を落とし、星矢に視線を合わせた。
「双子座のサガより、ペガサスの星矢へ祝福を送る」
「え、ちょっと、サガ」
どこか慌てた様子の星矢の額へ、サガのキスが届こうとした寸前、
ゴ、と大きな音がして、サガの頭にカノンの拳骨が落ちた。
周囲に気の回っていなかったサガは、珍しく避ける事も出来ず頭を抑えている。
「な、何をするのだカノン!」
サガが抗議の視線を向けると、カノンは冷たい視線でそっけなく言い放った。
「それはこちらの台詞だっての。よくみろ、そいつはリュムナデスだ」
「ええっ?」
思わずサガは声を上げた。星矢の方をみれば、そこには既に星矢の姿はなく、素の姿であるカーサが多引き気味に立っている。
「な、何故カーサガここに…?」
「オレが呼んだ。今日の出張はこいつと一緒なのでな」
サガは赤くなって押し黙った。いつもならば、これほどあっけなく騙されることなどないのだが、今日が星矢の誕生日であることと、海将軍が聖域にいるわけがないという先入観が重なり、不覚をとったようだ。
「し、しかし彼はペガサスの誕生会の事を知っていたぞ」
「あ、それはオレが話したからなんだ!」
横合いから聞こえた星矢の声に、今度こそサガは光速で振り向いた。
「せ、星矢?本物の?」
どういう状況なのか目を白黒させているサガに、星矢が近付いてくる。
「カーサとそこで一緒になってさ。カーサがオレに化けるっていうから隠れていたんだけど」
「わたしをからかうつもりだったのか」
「ごめん!でも嬉しくって」
星矢はすまなそうに両手を目の前で合わせ、サガに謝る。
「だって、カーサは相手の大事な人間にしか化けられないっていうから…それだけでも嬉しいのに、オレの誕生日をサガが覚えててくれたなんて」
謝りながらも本当に嬉しそうな星矢の様子に、サガは真っ赤になって視線を逸らしている。
「あー、オレたちは先に朝食食ってるからなー」
呆れた様子を隠さずカーサと共に食卓へ向かったカノンを尻目に、星矢は『さっきのお祝い、ちゃんと欲しいな』とサガにねだった。
2010/12/1
アイオロスのことも星矢のことも皆が大好きですよ!
彼らに平和な誕生日が訪れればいいのになあと思いながら書いた射手誕SSです。