1. ホーム…(タナサガ・ラダカノ要素有り双子話)
2. スウェーデン方式…(シュラ黒シュラ)
3. 命の祝福…(ロスサガ)
◆ホーム…(タナサガ・ラダカノ要素有り)
「お前さあ…そいつをあの二流神のところへ持っていくつもりか」
盛大な呆れの色を隠さぬまま、カノンはリビングにいるサガに声をかけた。
ミニツリーの飾り付けをしていたサガが、びくりと固まる。
「な、何故判ったのだ」
「何故もなにも…ツリー先端の星が銀色な上、金の星のオーナメントがあるかと思えば六芒星だしな…」
珍しくサガが異教の行事アイテムを買って来たかと思えば、こともあろうに冥界へそれを持ち込む気でいると判り、カノンは大仰に溜息をつく。
「タナトスにケンカ売るのか?それ使って」
「そんな訳がなかろう!」
「しかし、復活・異教神・聖誕祭・常緑樹・元太陽神崇拝…クリスマスのキーワードのどれをとっても死の神が嫌がりそうなものしかねえだろ」
「うっ…そ、それは少しだけ、私もそう思ったが…」
返答を返すサガはどこか歯切れが悪い。
「神仲間とはいえ、全然関係の無い神の誕生日アイテムなんざ、持ち込まれた方だって困るぞ」
「神同士、関係あるかもしれないだろう!」
「…お前、タナトスとハリストスが友達だと思うか」
「………思わん」
「そうだろ」
ションボリしたサガを尻目に、カノンはそのツリーを窓際へおいた。
「ま、ここ双児宮に置く分には問題ないんじゃねえの?」
「女神もハリストスと友達ではないと思うが…」
「まだ目指すところは近いさ」
カノンは笑って、『それに』と付け加える。
「聖夜に家族を放って冥府なんぞへ降りるなよ」
サガは目を丸くした。
「お前…ラダマンティスはどうするのだ」
「ここに呼びつける。前に話さなかったか?」
不思議そうに問うカノンの前で、サガは俯いた。
「ああ、聞いた…その…私が居ては邪魔だろう」
言ったとたんに、カノンの拳骨が振り下ろされる。
「サガ、お前もしかして、そのために無理矢理な予定を作ろうとしたな!」
「痛いぞ、カノン」
サガが涙目で頭を抑え、カノンは自分の予測が正しい事を知る。
「いちゃつくために呼ぶんじゃねえよ。オレにとってはお前と暮らす場所がホームだ。それを聖夜にあいつへ見せたかっただけで…全く」
カノンは先ほどとは異なる溜息を大きく零して、サガの髪をわしゃわしゃとかき回した。
(−2008/12/21−)
ハリストスはキリストのギリシア読みです
◆スウェーデン方式…(シュラ黒シュラ)
「昔、アフロディーテに聞いたことがある」
黒髪のサガが、優雅にソファーへ横たわったままシュラへ話しかけた。
ここは麿羯宮。守護者はシュラであるにもかかわらず、彼を差し置いてソファーを占有する黒サガは、すっかりこの部屋を私物化していた。
「あれの故郷スウェーデンでは、クリスマスにプレゼントを運んでくるのはサンタクロースでなく、雄山羊だったという」
シュラの方は、向かいの粗末な木椅子に腰掛けている。
「ああ、トール神の戦車を引く山羊に由来したとか…詳しくは知りませんが、俺も聞いたことがあります」
指を組んでいるシュラを見上げて、黒サガが目を細めた。
「私も、スウェーデン方式を希望する」
黒サガにしては、随分と直接的な言い回しだった。
しかし、ただでさえ真面目で無骨なシュラにはあまり通じていなかった。
「サンタであろうが山羊であろうが、プレゼントを貰えるのは子供だけですよ」
「……」
シュラの返答に暫し黒サガは黙ると、そのあと長い溜息を零してソファーの上で寝返りをうつ。そうするとシュラの側からは背中しか見えなくなった。
(何か間違ったろうか)
シュラは慌てて黒サガとの会話を脳内でリプレイした。
「すみません、貴方がそんなにも動物からのプレゼントを楽しみにしているとは思わず」
「………プレゼントなど別に必要ない」
背中しか見えないにも関わらず、黒サガがもう一度盛大な溜息をついたのが判った。今度の溜息には呆れの感情が多分に含まれていたような気がする。
シュラはますます焦った。
「山羊が好きだったんですか?なんならロドリオ村から借りてきましょうか」
「……………シュラよ、お前の星座は何だ」
「えっ?」
「クリスマスに私の元を訪れるのは、お前であれば良いのにと言ったのだ。この馬鹿山羊め!」
「ええええええええ?」
そこまで言われて、ようやく発言の意図に思い至るも、時すでに遅し。
「もうよい。山羊の代わりに相応のプレゼントを用意してもらおうか」
すっかり拗ねているらしき先輩ゴールドセイントを前にして、シュラはどうしてよいのか全く判らず途方にくれる事となった。
(−2008/12/23−)
◆命の祝福…(ロスサガ)
せっかく任務帰りに双児宮へ立ち寄ったというのに、サガが窓際に飾られたミニツリーを見て溜息なぞ付いているものだから、アイオロスは気になって話しかけた。
「どうしたのだサガ。何か気になる事でも?」
そのミニツリーはサガが飾り付けをしたそうで、みるからに冥界仕様だ。
例の二流神がらみかとアイオロスは妬きかけたのだが、サガはまるきり違う事を考えていた。
「クリスマスは、神が人として産まれて来た事を祝う日だという」
「そうだな」
「女神もまた赤子として降臨した」
「うん」
目の前でサガが唇を噛みしめる。
「私のした行為は、東方の三博士・メルキオールがヨセフを殺し、産まれたばかりの幼子をも殺害せんと目論んだ上、庇って逃げたマリアに追討の命を出したようなものだと思ってな…」
サガは真剣だったが、アイオロスは飲んでいたギリシア珈琲を思いっきり吹き零した。
「す、凄い喩えだね…しかも俺がマリアさま役…?」
「どうしてマリアはメルキオールを殺さなかったのだ」
「それは絶対ありえないぞ…ていうかその喩えはどうかな」
置いてあった布巾で珈琲を拭きとりつつ、アイオロスは苦笑する。
「マリアさまも神の導きで集った仲間を手にかけたくないだろうし、その事を除いたって、神の御子が産まれたその祝福を、血で汚したくないと思う」
「自分が死んでしまうのに?」
「自分が死んでしまってもだよ」
テーブルを拭き終わったアイオロスは、布巾を畳んで端へ置いた。
そして、サガへと顔を近づける。
「今宵は聖夜だ。オレにも祝福を授けてくれませんか、メルキオール様」
「マリアが博士と浮気して良いのか」
「…祝福は浮気の内に入りません。でも、やっぱ今の喩えは取り消す」
アイオロスは首を僅かにかしげ、目を細めた。
「『双子座のサガ』から『射手座の俺』に、愛の篭った祝福をくれ」
「…」
勝手な喩えに出された面々へ内心で謝りつつ、アイオロスは目を閉ざした。
サガは黙ったままじっと見つめていたが、両手を差し出してアイオロスの頭を掴み、その額へ乱暴な口づけを落とす。
泣きそうな顔をしている友人の顔を、アイオをスは目を瞑ったまま見ない振りをした。
(−2008/12/25−)